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集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに同閣議決定に基づく法整備に強く反対する決議

2015年02月21日

集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに同閣議決定に基づく法整備に強く反対する決議

      集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに同閣議決定に基づく法整備に強く反対する決議

 政府は,2014年7月1日,「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題して,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定を行い,今後,集団的自衛権の行使等を実現させるための法整備を進めていくとの方針を示している。
本閣議決定が推し進めようとする集団的自衛権の行使容認は,これまでの政府解釈において憲法上許されないとされていたものである。また,海外での国際的活動やグレーゾーン事態(武力攻撃に至らない侵害が発生した場合)における自衛隊の活動及び武器使用の範囲の拡大は,従来の自衛権発動の要件や海外での自衛隊の活動における制約を不当に緩和するものである。
本閣議決定は,日本が武力攻撃をされていないにもかかわらず,戦争に参加することを許容し,自衛隊による地理的な限定のない実質的な「武力の行使」を可能とするものであり,今後,本閣議決定に基づく法整備が推し進められると,戦争をしない平和国家としての日本の国の在り方が根底から変わることとなる。
日本国憲法は,前文で平和的生存権を確認し,第9条第1項において,国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し,更に,同条第2項において,戦力不保持,交戦権否認を定めるなど,徹底した恒久平和主義を採用している。本閣議決定が許容する集団的自衛権の行使等は憲法第9条等に定める恒久平和主義に違反するものである。
また,本閣議決定は,憲法第96条に定める憲法改正手続を潜脱して実質的な憲法改正を行おうとするものであり,主権が国民に存することとした国民主権や国家権力を憲法による制約の下に置くこととした立憲主義に反するものである。
よって,当会は,集団的自衛権の行使等を容認する本閣議決定に強く抗議し,本閣議決定の撤回を求めるとともに,同閣議決定に基づく法整備に強く反対するものである。
以上のとおり決議する。
2015年(平成27年)2月21日

仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生

                              提 案 理 由

第1 集団的自衛権行使容認に至る政府の動き
2012年12月の第46回衆議院議員総選挙で自由民主党(以下「自民党」という。)が政権与党に復帰し,安倍晋三氏が再び首相に指名されたことを契機に,集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進められた。
安倍首相は,就任直後の2013年1月,「集団的自衛権行使の(憲法解釈)見直しは安倍政権の大きな方針の一つ」と述べ,同年2月には,首相の私的諮問機関であり,2008年6月に集団的自衛権の行使容認等を提言する第1次報告書を作成した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下「安保法制懇」という。)を約5年ぶりに再開させた。安倍首相は,当初,憲法改正要件(第96条)の緩和にも意欲を見せていたが,国民の強い反対を受けたためこれを断念し,以後,解釈変更による集団的自衛権の行使容認に注力するようになった。
2013年8月には,政府の憲法解釈において重要な役割を果たしてきた内閣法制局について,次長から長官に内部昇格するという従来の慣行を破り,内閣法制局での勤務経験がない者を内閣法制局長官に登用した。その上で,2014年5月15日,安保法制懇が報告書を提出したことを受けて安倍首相は記者会見を行い,同報告書の「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき,限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という考え方について今後さらに研究を進め,憲法解釈の変更が必要と判断されれば閣議決定を行う旨表明した。
その後,自民党と公明党による与党協議が行われたが,集団的自衛権の行使容認に反対する世論も大きい中,国会での議論を行うこともなく,ついに2014年7月1日,政府は,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定(「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」。以下「本閣議決定」という。)を行った。
第2 本閣議決定の内容
1 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認
本閣議決定は,「現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果,①我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において,②これを排除し,我が国の存立を全うし,国民を守るために他の適当な手段がないときに,③必要最小限度の実力を行使することは,従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として,憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った」とし(①②③の数字は引用者が挿入。この3つの要件を,以下「新3要件」という。),「憲法上許容される上記の『武力の行使』は,国際法上は,集団的自衛権が根拠となる場合がある」とした。
このように,本閣議決定は,「我が国に対する武力攻撃が発生した場合」ではない場合にも,他国に対する武力攻撃を実力をもって阻止することが憲法上許容される場合があるとするものであり,これまでの政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するものである。
2 国際的活動における後方支援活動と武器使用の拡大
⑴ 自衛隊が後方支援活動を行うことができる地域の拡大
本閣議決定は,国連安保理決議に基づき武力行使を行う他国軍隊に対して日本が支援活動を行うことが必要な場合があるとの認識の下,「従来の『後方地域』や『非戦闘地域』といった自衛隊が活動する範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組ではなく,他国が『現に戦闘行為を行っている現場』ではない場所で実施する補給,輸送などの我が国の支援活動については,当該他国の『武力の行使と一体化』するものではないという認識を基本と」するとして,「(ア)・・・他国軍隊が『現に戦闘行為を行っている現場』では支援活動は実施しない。(イ)・・・支援活動を実施している場所が『現に戦闘行為を行っている現場』となる場合には,直ちに支援活動を休止又は中断する」という考え方に立って,「必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進める」とした。
これはつまり,「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ支援活動を実施できるとするもので,これまで「後方地域」や「非戦闘地域」という概念により限定してきた,自衛隊が支援活動等を行うことができるとされる地域を,大幅に拡大するものである。
⑵ 国際的な平和協力活動等に伴う武器使用の拡大
これまで政府は,国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」について,これを「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には,憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあるとして,自衛官の武器使用権限はいわゆる自己保存型と武器等防護に限定してきた。
ところが,本閣議決定は,PKO参加5原則の枠組みの下で,受入れ同意をしている紛争当事者以外の「国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられるなどとして,国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や,「任務遂行のための武器使用」をできるようにするとともに,武器使用を伴う在外邦人救出などの警察的な活動もできるように法整備を進めるとした。
このように,本閣議決定は,自衛隊の国際的な活動等に伴う武器使用を拡大するものである。
3 武力攻撃に至らない侵害における自衛隊による武器使用等の容認
また,本閣議決定は,「純然たる平時でも有事でもない事態」ないし「武力攻撃に至らない侵害」(いわゆる「グレーゾーン事態」)について,警察機関と自衛隊がより緊密に協力し,切れ目のない十分な対応態勢を整備することが重要であるとの認識の下,離島の周辺地域等において外部からの武力攻撃に至らない侵害が発生した場合を挙げて,自衛隊の治安出動や海上警備行動の発令について,状況に応じた早期の下令や手続の迅速化のための方策を具体的に検討すると述べる。
さらに,自衛隊と米軍部隊が連携して行う平素からの活動に際して,米軍部隊に対して武力攻撃に至らない侵害が発生した場合を想定し,日本の防衛に資する活動に現に従事している米軍部隊について,自衛隊法第95条の考え方を参考に,その武器等の防護のために自衛隊が武器の使用ができるよう,法整備をするとした。
日本の防衛法制は,武力攻撃事態及びその予測事態を有事と,それ以外を平時と位置付けており,「グレーゾーン事態」といわれている事態も,防衛法制上は平時であり,本来,警察や海上保安庁が対応すべき場面である。本閣議決定は,このような場面においても自衛隊を積極的に活用し,米軍部隊の武器等防護のためにも武器使用を認めようとするものである。
第3 集団的自衛権に関する従来の政府解釈
1 集団的自衛権行使の否定
政府は,従来,憲法第9条が戦争放棄(第1項),戦力の不保持と交戦権の否認(第2項)を規定していることを前提として,憲法第9条の下で自衛権の発動が許容されるのは,①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること,②この攻撃を排除するため,他の適当な手段がないこと,③自衛権行使の方法が,必要最小限の実力行使にとどまること,の三要件を満たす場合に限られるとしてきた。
そして,このような解釈の下,政府は,集団的自衛権について,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」と定義した上で,「我が国が,国際法上,このような集団的自衛権を有していることは主権国家である以上,当然であるが,憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は,我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており,集団的自衛権を行使することは,その範囲を超えるものであって,憲法上許されない」(1981年5月29日の政府答弁書)との見解を一貫して貫いてきた(1954年6月3日衆議院外務委員会外務省条約局長答弁,1972年10月14日参議院決算委員会政府提出資料等)。その理由は,集団的自衛権の行使が上記三要件のうち①を満たさないからであり(2008年1月26日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁),岸信介首相,中曽根康弘首相ら歴代の首相も,集団的自衛権の行使は憲法上許されない旨明言してきた。
2004年6月18日の政府答弁書においても,集団的自衛権について,「国民の生命等が危険に直面している状況下で実力を行使する場合とは異なり,憲法の中に我が国として実力を行使することが許されるとする根拠を見いだし難」いとして,その行使は憲法上許されないとされた。
このように,政府は従来,集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの見解を繰り返し表明し,過去数十年にわたる国会等での議論において確認されてきたのである。
2 自衛隊用の後方支援活動及び国際平和協力活動における武器使用の限定
⑴ 後方支援活動について
これまで政府は,自衛隊のいわゆる後方支援活動に関し,補給,輸送協力等それ自体は直接武力行使を行わない活動であっても,他国による武力の行使と一体となるような行動としてこれを行うことは憲法第9条との関係で許されないとし(1999年1月22日参議院本会議内閣総理大臣答弁),他国の武力行使と一体化するかどうかは地理的関係その他の事情によって判断されるとしてきた(1997年2月13日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁)。そして,この観点から,自衛隊が支援活動等を行うことができる地域について,「後方地域」や「非戦闘地域」という概念(「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海・・・及びその上空の範囲」)を設け,活動をその地域に限定してきたのである。
イラク戦争に際しては,「非戦闘地域」であるとしてサマーワに陸上自衛隊が派遣されたが,それでも繰り返し砲撃を受ける等の危険にさらされたのであり,これまでの武力行使の一体化論や「後方地域」「非戦闘地域」という概念でさえも,日本の海外での武力行使の防止にとって問題が多く,憲法上疑義のある限定であった。
⑵ 国際的な平和協力活動における武器使用について
また,政府は従来,国際的な平和協力活動における「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」について,「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には,憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあるとして,自衛官の武器使用権限をいわゆる自己保存型と武器等防護に限定してきた。
3 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に関する政府見解
政府は,従来,憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認めることができるのかどうかについて,「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり,それを明確にしたいということであれば,憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」と答弁し(1983年2月22日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁),また,集団的自衛権に関する憲法解釈の変更があり得るのかどうかについても,「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり,「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは,政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし,ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある,憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」(1996年2月27日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁),「憲法は我が国の法秩序の根幹であり,特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので,その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年5月8日政府答弁書)などと答弁して,憲法解釈の見直しに慎重かつ否定的な姿勢を貫いてきた。
第4 本閣議決定は日本国憲法第9条に違反する
1 日本国憲法の基本原理としての恒久平和主義
国民主権,基本的人権の尊重,恒久平和主義等を基本原理とする日本国憲法が,戦後日本の民主主義と人権の発展,そして平和のために果たした役割は極めて大きい。
日本国憲法は,第二次世界大戦の痛切な反省を踏まえて,前文において,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにする」との決意及び「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しよう」との決意を明らかにした上で,「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免れ,平和のうちに生存する権利を有することを確認」している。その上で,憲法第9条は,国連憲章の国際紛争の平和解決原則をさらに発展させ,国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使を国際紛争を解決する手段としては永久に放棄し(憲法第9条第1項),陸海空軍その他の戦力を保持せず,国の交戦権を否認する(憲法第9条第2項)旨規定し,徹底した恒久平和主義を基本原理としている。平和なくして基本的人権が尊重・擁護されることはなく,戦争は最大の人権侵害であることに照らせば,この基本原理は,恒久平和への指針として世界に誇り得る先駆的意義を有しているものである。
2 集団的自衛権の行使は日本国憲法第9条に違反し許されない
本閣議決定が容認しようとする集団的自衛権の行使は,日本が他国間の戦争に加わっていくことを意味するものであり,戦争放棄,戦力不保持,交戦権の否認を定めた憲法第9条に違反することは明らかである。
本閣議決定は「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」等の文言で集団的自衛権の行使を限定するものとされているが,これらの文言は極めて幅の広い抽象的な不確定概念であり,時の政府の判断によって恣意的な解釈がされる危険性が極めて大きい。個別的自衛権発動の第1要件である「急迫不正の侵害」の存否判断とは異なり,「明白な危険」の有無は判断者の主観が入る余地が大きく,具体的判断要素として挙げられている点も,政府が武力行使をするかどうかを判断する場合に,当然に検討するであろう要素や状況であり,これらによって判断基準が客観的に明瞭になったとは言えない。
また,「我が国の存立が脅かされる」ことと「国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」こととの関係については,国家と国民という表裏一体のものの両面であり,後者は我が国の存立が脅かされるということの実質を国民に着目して記述したものであり,加重要件ではないとされている(国会集中審議における政府答弁)。したがって,この要件は,政府の説明によれば,「我が国の存立が脅かされる」かどうかということに帰着し,「国民の権利」云々の修辞は特段限定する意味を持たないことになる。この要件は,全体として余りにも曖昧で抽象的であり,武力の行使の範囲を明確に限定したものとは到底言えない。
実際,国会集中審議等で明らかにされた,本閣議決定における集団的自衛権の行使事例は,極めて幅広いものである。例えば,政府が与党に示した15事例のうちの集団的自衛権に係る8事例の全てが,新3要件に当てはまれば許容されるという(政府想定問答問10)。中でも,例えばホルムズ海峡に撒かれた機雷の除去について,安倍首相は国会集中審議において,同海峡は我が国が輸入する原油の8割が通過しており,同海峡を経由した石油供給が回復しなければ,我が国の国民生活に死活的な影響が生じ,我が国の存立が脅かされる事態が生じ得るなどと述べ,内閣官房一問一答(問24・25・27)もその機雷除去の重要性を強調している。
これまでの政府の憲法第9条の解釈においては,海外での武力の行使は行わないとの原則の下,自衛隊による実力の行使は,我が国を防衛するための受動的なものであり,原則として我が国の領土・領海・領空とその周辺の公海・公空に限られるとされてきた。それは,集団的自衛権の行使の禁止とも重なり,また,国連の集団安全保障や周辺事態に際して武力を行使する他国の「後方支援」において,「他国の武力行使との一体化」を禁止し,PKO活動における武器使用を自己保存型と武器等防護に制限し,駆け付け警護や任務遂行のための武器使用を認めてこなかったことにも現れている。ところが,他国に対する武力攻撃に対する集団的自衛権の行使にあっては,最初から,日本が武力を行使する場所は日本の領域外であり,それが公海・公空であっても日本周辺とは限らない。本閣議決定に基づく集団的自衛権の行使を含む「自衛の措置」は,ホルムズ海峡のような「地球の裏側」をも含み,地理的限定のない世界的規模での自衛隊の出動を予定するものと言わざるを得ない。
日本が集団的自衛権を行使すると,日本が他国間の戦争において中立国から交戦国になるとともに,国際法上,日本国内全ての自衛隊の基地や施設が軍事目標となり,軍事目標に対する攻撃に伴う民間への被害も生じ得る。
このように,本閣議決定は,憲法前文が定める平和的生存権の保障並びに第9条が定める戦争放棄,戦力不保持及び交戦権否認等の恒久平和主義の基本原理に背馳し,これに違反するものである。
3 国際的活動における後方支援活動及び武器使用の拡大並びに武力攻撃に至らない侵害における自衛隊による武器使用等の容認も日本国憲法第9条に違反する
さらに,本閣議決定は,集団的自衛権の行使容認ばかりでなく,国際協力活動の名の下に自衛隊の武器使用権限と後方支援活動を拡大することまで含めようとしている点も看過できない。武力攻撃に至らない侵害への自衛隊による対処を拡大しようとしている点も問題である。
⑴ 国際的活動における後方支援活動について
前記第2・2・⑴のとおり,本閣議決定は,従来の最低限とも言える制約すら取り外し,他国が「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ,自衛隊が補給,輸送等の支援活動を行うことができるようにしようとするものである。
本閣議決定は,他国の武力行使との一体化論それ自体は前提とするといいながら,他国が「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ支援活動を行っても当該他国の武力行使と一体化するものではないと「認識」するという。しかし,これは客観的根拠に乏しい決め付けでしかない。
「現に戦闘行為を行っている現場」に近接した場所で,戦闘行為を行う他国の軍隊に補給・輸送等の支援活動を行うことは,当該他国と戦闘行為を行っている相手国からすれば,すぐ近くで直接補給等を行っている日本も敵国そのものに見えて当然であり,当該他国の武力行使と一体化していると言わざるを得ない。そのような状況において,自衛隊が相手国の攻撃の対象になり,自衛隊がこれに応戦することで,交戦状態に突き進むことも危惧される。
本閣議決定は,武力の行使を行う他国の支援活動について,「現に戦闘行為を行っている現場」でない場所にまで地域を広く拡大することにより,これまで政府が採ってきた「他国の武力行使との一体化の禁止」を実質的に放棄するものと言わざるを得ない。本閣議決定が予定する自衛隊の後方支援活動は,海外における武力の行使として,憲法第9条に反すると言うべきである。
⑵ 自衛隊の国際的な活動に伴う武器使用について
前記第2・2・⑵のとおり,本閣議決定は,自衛隊の国際的な活動等に伴う武器使用を拡大しようとするものであるが,武器使用については,「警察比例の原則に類似した厳格な比例原則が働く」とも述べている。
しかし,もともと駆け付け警護は,襲われた武装集団等を排除して対象者を援護,救助しようとするものであり,任務遂行のための妨害排除は,妨害する武装集団等を排除しようとするものであるから,いずれも相手を凌駕するだけの武器使用を必要とすることになる。そこでは,自衛隊による実質的な「武力の行使」が行われ,相手も自己防衛を超えた武力の行使をされていると受け止めることによって,相互に交戦状態に発展することが危惧される。それは,邦人救出の場合でも同様である。
「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」について,「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には「武力の行使」に該当するおそれがあるとして,自衛権の武器使用権限を自己保存型と武器等防護に限定してきた従来の政府解釈は,憲法第9条の規範としての海外における武力行使の禁止の一環をなすものである。本閣議決定は,紛争当事者の受入れ同意や領域国政府の同意が及ぶ範囲には「国家又は国家に準ずる組織」が存在していないと考えられるなどと述べるが,これは従来の政府解釈の前提を大きく変えるものであり,客観的根拠に乏しい決め付けである。
本閣議決定が自衛隊の国際的な活動等に伴う武器使用等を拡大しようとしている点も,憲法第9条に反すると言うべきである。
⑶ 武力攻撃に至らない侵害における自衛隊による武器使用等の容認について
前記第2・3のとおり,日本の防衛法制は,武力攻撃事態及びその予測事態を有事と,それ以外は平時と位置付けており,「グレーゾーン事態」といわれている事態も,防衛法制上は平時である。本来は警察,海上保安庁の役割の場面で自衛隊を積極的に活用しようとすることは,一歩間違うと武力紛争に発展する危険性をはらむもので,国際紛争解決のための武力行使を禁止した憲法に反するおそれがある。
「グレーゾーン事態」はあくまで平時であるから,治安の維持回復のための実力行使と言えども,防衛力を行使するということは,極めて慎重になされなければならない。防衛力を行使することで,「グレーゾーン事態」の背景にある国との間で不測の武力紛争へと発展しかねないおそれがあり,また,現場での判断により文民統制が徹底されないおそれもある。「グレーゾーン事態」における「命令発出手続の迅速化」は,国際紛争を解決するために武力を行使しないという憲法第9条に反するおそれがある。
また,本閣議決定では日米の共同演習などを想定していると思われるが,米軍部隊に武力攻撃には至らない侵害が発生した場合に,自衛隊が米軍部隊のために武器を使用できるとすると,日本が深刻な武力紛争に巻き込まれるおそれがあるさらには,集団的自衛権の行使へと発展することも想定され,その場合,憲法第9条に違反することになる。
第5 本閣議決定は日本国憲法の基本理念である立憲主義に反する
1 日本国憲法の基本理念としての立憲主義
近代立憲主義は,個人の自由・権利(個人の尊重)を確保するため,憲法によって国家権力を制限することを目的とする近代憲法の基本理念であり,日本国憲法の基本理念である。
すなわち,日本国憲法は,「すべて国民は,個人として尊重される」(第13条)とし,基本的人権の永久・不可侵性を確認するとともに(第97条),「天皇及び摂政及び国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員は,この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と,国家権力の行使を担う公務員に憲法尊重擁護義務を課している(第99条)。また,前文では,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し,ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法を確定する」として,立憲主義に基づく平和主義を明らかにしている。
この立憲主義の内容として重要なのが,国家権力の中でも暴走して個人の自由や権利を侵害する危険性の大きい実力組織の抑制である。そこで,日本国憲法は,憲法前文及び第9条によって実力組織が暴走しないための明確な歯止めを設けた。政府も,この憲法の下で,集団的自衛権の行使や海外における武力の行使は許されないとの解釈を長年一貫して積み上げてきた。こうして,恒久平和主義の現実的枠組みが形成され,憲法秩序の安定性が保持されてきた。それはまた,戦後の歴史を通じて積み重ねられてきた国民的議論の結果でもある。
2 本閣議決定は立憲主義に反する
このような憲法規範の内容を,憲法改正の手続もとらずに,一内閣の憲法解釈の変更や法律の制定・改正によって実質的に改変し,憲法による歯止めを緩和させることは,憲法を遵守すべき立場にある国務大臣や国会議員によってなし得ることではない。それは,国民の自由・権利そして平和を,権力に縛りをかける憲法によって守ろうとする立憲主義に,真っ向から違反するものである。
第6 本閣議決定は日本国憲法の基本原理である国民主権に反する
1 日本国憲法の基本原理としての国民主権
日本国憲法は,国民主権の原理に立脚する(憲法前文,第1条)。そして国民主権の原理は,国民の憲法制定権力の思想に由来し,この権力は,近代立憲主義憲法が制定されたとき,憲法改正権となる。
日本国憲法は,その憲法改正権の行使について,第96条で,各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,国民投票でその過半数の賛成を必要とすることを規定した。ここに,憲法制定・改正に関する国民主権の内容が定められているのである。
したがって,本来憲法の改正をしなければできないことを,閣議決定や法律の制定・改正によって行おうとすることは,憲法第96条を潜脱し,国民主権を侵害するものとしても許されない。
2 本閣議決定が国民主権に反すること
本閣議決定は,日本国憲法の下で許容される余地のない集団的自衛権の行使を,法律の制定・改正によって行おうとするものであり,憲法第96条を潜脱し,国民主権に反するものである。
しかも,特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)によって,    政府が自衛権発動の要件等に関わる情報を特定秘密に指定して秘匿すると,自衛権発動等の要件が厳しいものであるかどうか以前の問題として,国民はもとより国会議員すら客観的な判断材料を持たないことになる。このように国民が十分な情報を知らされないまま,日本が武力の行使等に至るならば,政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう主権が国民に存することとした日本国憲法の立憲主義と国民主権に反することになる。
第7 本閣議決定に基づく法整備も憲法に違反し許されないこと
本閣議決定は,「今後の国内法整備の進め方」として,実際に自衛隊が活動を実施できるようにするためには,根拠となる国内法が必要となるとの認識の下,政府として,あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法案の作成作業を開始することとし,準備ができ次第国会に提出する,としている。
そこでは,整備の対象となる具体的な法令名は挙げられていないが,自衛隊法や武力攻撃事態法のほか,防衛省設置法,国家安全保障会議設置法,周辺事態法,周辺事態船舶検査法,武力攻撃事態国民保護法,武力攻撃事態特定公共施設利用法,国連平和維持活動協力法及び海賊行為対処法など,十数件の法律の改正等が想定される。
また,本閣議決定が触れる安保理決議に基づいて武力行使を行う他国軍隊に対する支援活動については,これまでのテロ特措法やイラク特措法等の時限的個別立法ではなく,これを随時可能とする自衛隊海外派遣の恒久的一般法の制定も検討されていると報道されており,「武力攻撃に至らない侵害」への対応についても,自衛隊法の改正のほか,領海警備法(仮称)のような新規立法の可能性もある。
本閣議決定を実施するためのこれらの法律の制定ないし改正も,日本国憲法に違反するものであるから許されない。国会の多数によっても,憲法に違反する法律の制定が許されないことはもちろんである。
第8 結論
当会は,政府が憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認を示唆して以降,それが憲法に違反し許されないことを会長声明で表明するとともに,街頭活動及び講演会等で市民に訴え,集団的自衛権の行使容認に強く反対してきた。
しかし,政府は本閣議決定を強行し,本年の通常国会において本閣議決定を実施するための法律の制定ないし改正を進めていく姿勢を示している。
よって,当会は,集団的自衛権の行使等を容認する本閣議決定に強く抗議し,その撤回を求めるとともに,本閣議決定に基づく法整備に強く反対するものである。

以 上

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