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通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する18弁護士会会長共同声明

2015年03月17日

2015年3月13日

 

通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する18弁護士会会長共同声明

 

 

埼玉弁護士会  会長 大倉   浩

千葉県弁護士会 会長 蒲田 孝代

栃木県弁護士会 会長 田中  真

静岡県弁護士会    会長 小長谷 保

兵庫県弁護士会 会長 武本夕香子

滋賀弁護士会  会長 近藤 公人

岐阜県弁護士会 会長 仲松 正人

金沢弁護士会  会長 飯森 和彦

岡山弁護士会  会長 佐々木浩史

鳥取県弁護士会     会長 佐野  泰弘

熊本県弁護士会     会長 内田  光也

沖縄弁護士会  会長 島袋 秀勝

仙台弁護士会  会長 齋藤 拓生

福島県弁護士会 会長 笠間 善裕

山形県弁護士会 会長 峯田 典明

岩手弁護士会  会長 桝田 裕之

青森県弁護士会 会長 源新  明

愛媛弁護士会  会長 田口 光伸

 

2014(平成26)年9月18日,法制審議会は,「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を採択し,法務大臣に答申した(以下,本答申という)が,その内容として,従来,通信傍受法の対象犯罪が暴力団関連犯罪の①銃器犯罪,②薬物犯罪,③集団密航,④組織的殺人の4類型に限定されていたものを,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などを含む一般犯罪にまで大幅に拡大することを提言している。また,これまで市民のプライバシーを侵害する危険のある通信傍受法が抑制的に運用される歯止めとなっていた通信事業者の常時立会制度も撤廃されることとされる。

このたび本答申に基づく通信傍受法の改正法案が国会に上程されたが,私たちは,以下の理由から,本答申に基づく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。

 

重大な犯罪に限定されず

通信傍受法施行前に検証許可状により実施された電話傍受の適法性につき判断した最高裁判所平成11年12月16日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを電話傍受の適法性の要素としていたが,詐欺,恐喝,窃盗については,いずれも財産犯であり,必ずしも「重大な犯罪」とはいいがたい。

詐欺罪にも様々な詐欺がありうるのであって,組織的な詐欺グループである振り込め詐欺以外にも広く通信傍受が実施されるおそれがあり,漫然と詐欺罪を対象犯罪とすることは許されない。振り込め詐欺や窃盗団等を想定するのであれば,実体法として,それらを捕捉し得る新たな構成要件を創設した上で対象犯罪にするべきである。しかも,組織犯罪処罰法には組織的詐欺罪(同法3条13号)や組織的恐喝罪(同14号)が規定されているのであるから,それを対象犯罪に追加することで対象犯罪を必要最小限度に限定することも可能である。

また,本答申の基礎とされた「新時代の刑事司法制度特別部会」がまとめた「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」は,「通信傍受は,犯罪を解明するに当たっての極めて有効な手法となり得ることから,対象犯罪を拡大して,振り込め詐欺や組織窃盗など,通信傍受の必要性・有用性が高い犯罪をも含むものとすることについて,具体的な検討を行う」としている。

これは,前記最高裁決定が指摘する犯罪の「重大性」を前提とせず,対象犯罪拡大を検討したものであるが,捜査機関にとっての「必要性」「有用性」を基準とすれば,その拡大には歯止めがない結果となる。日本弁護士連合会が反対している共謀罪や特定秘密保護法違反などにも,捜査機関にとって犯罪の共謀を立証するのに「必要かつ有用」として,通信傍受の適用の拡大が企図される危険も大きい。

 

 

常時立会制度の撤廃は捜査権の濫用を招く

通信傍受法が定める通信事業者による常時立会は,傍受記録の改ざんの防止と通信傍受の濫用的な実施を防止するという2つの機能を果たしていた。傍受対象通信を通信事業者等の施設において暗号化した上で送信し,これを捜査機関の施設において自動記録等の機能を有する専用装置で受信して復号化することにより,傍受を実施するという答申が提言する技術的措置は,通信傍受記録の改ざんの防止という点は確保できるかもしれないが,無関係通信の傍受など通信傍受の濫用的な実施を防止するという点が確保されるとは考えられない。

従来の通信傍受法の運用において,この常時立会という手続があることで,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性の要件が実務的に担保されてきたものである。しかし,答申のような手続の合理化・効率化がなされれば,捜査機関は令状さえ取得すれば簡単に傍受が可能となるので,安易に傍受捜査に依存することになることは必至であり,補充性要件による規制が実質的に緩和されることとなり,濫用の危険は増加する。

 

盗聴社会の到来を許さない

ここで通信傍受法の対象犯罪の拡大に歯止めをかけなければ,過去再三廃案とされたにもかかわらず,未だ法案提出がなされようとしている「共謀罪」とあわせて,盗聴社会の到来を招く危険がある。

捜査機関による通信傍受の拡大は,単に刑事司法の領域に止まる問題ではなく,国家による市民社会の監視につながり,市民社会そのものの存立を脅かす問題である。

よって,私たちは,本答申にもとづく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。

 

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