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自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの策定を受けての会長声明

2016年01月28日

平成27月12月に、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「新ガイドライン」と言う)が策定・公表された。これは、平成23年3月に発生した東日本大震災以降にも、地震や暴風・豪雨等による様々な自然災害が発生していることを踏まえ、このような自然災害により、住宅ローンや事業性ローンなどを抱えている被災者が、既往債務を抱えたままでは再スタートが困難になるという事態を将来的にも回避するために、債務の全部または一部を免除すること等を内容とする準則を定め、もって被災者の生活・事業の再建を支援し、ひいては被災地の復興・活性化等に資することを目的としたものである。

当会は、平成26年11月に「二重ローン問題対策に関する立法措置を求める意見書」(以下「意見書」と言う)を採択し、国に対し自然災害により発生する個人の二重ローン問題に対応するための立法措置を求めてきた。新ガイドラインは、東日本大震災における「被災ローン減免制度(個人債務者の私的整理に関するガイドライン)」(以下「現行ガイドライン」と言う)を通じて得られた経験等を踏まえ策定された金融機関等関係団体の自主的な準則であり、法的拘束力を伴う制度ではないが、将来の自然災害に備えた永続的な被災債務者救済のルールが定められたことは、恒久的な被災者救済制度の第一歩としてまずは評価できる。

しかし、現行ガイドラインにおいては、支払不能要件(「東日本大震災の影響を受けたことによって、既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること」との要件)を厳格に解釈する運用がなされたために、その利用を断念せざるを得なかった被災者が相当数存在した等の問題が指摘されていたところ、現行ガイドラインの文言は、上記支払不能要件を含め多くが新ガイドラインにも引き継がれており、問題点が改善されないまま運用がなされるおそれは払拭されていない。

また、新ガイドラインが今後自然災害に適用される場面が生じた場合、現在の運用基準で定められていない事項についてどのような対応がなされるかは、対象債権者等がどれだけ柔軟な運用をするかによって大きく異なる結果となる。特に、新ガイドラインにおいては、現行ガイドラインにおける運営委員会のような手続きを運営する組織が置かれておらず、ガイドラインに基づく手続が実施されるためには、手続きの開始にあたり、債権者の中で最も多額の債権を有する債権者の同意が必要とされていること、債務整理の成立を私的合意ではなく簡易裁判所の特定調停手続きで行うこととされており、大詰めの調整を裁判所が担う場面も生じる可能性があること等に鑑みれば、新ガイドラインに関係する当事者や機関が、「法的拘束力はないものの、(中略)利害関係人によって、自発的に尊重され遵守されることが期待される」という文言に則り、同制度の趣旨を踏まえて被災者の生活・事業の再建を意識した運用・関与を行わなければ、制度の目的を達することはできない。
さらに、利用件数が伸びなかった現行ガイドラインを教訓に、新ガイドラインを災害発生直後から広く市民に周知する方策を検討することや、調停利用時等には被災者の費用負担を減免すること等、実際の運用の場面では、被災者の積極的な利用が図られるように制度が具体化される必要がある。

以上のような課題を踏まえて、東日本大震災における被災地の単位弁護士会である当会は、新ガイドラインの実施に伴い、その運用を継続的に検証し、必要に応じて運用基準のさらなる改善を求めるとともに、関係当事者・機関の運用に問題が見受けられた場合には、積極的に意見表明や要請を行う等の活動を実施し、新ガイドラインが被災者救済のために十分に機能する制度となるよう尽力する所存である。

また、新ガイドラインが策定されたとしても、より救済の範囲を広げ、迅速に、被災者本位にて、自然災害により発生する個人の二重ローン問題を解消するためには、債権買取機構の設立等を含む立法措置が必要であることには何ら変わりはないことから、国に対し速やかに上記意見書で提言した立法措置を講じるよう求める。

平成28(2016)年1月28日

仙 台 弁 護 士 会
会長 岩 渕 健 彦

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