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栃木県女児殺害事件の第一審判決を受けて,改めて取調べの全面可視化を求める会長声明

2016年04月28日

2005(平成17)年に栃木県今市市(現:日光市)にて小学1年生の女児が殺害された事件(以下「本件」という)の裁判において,2016(平成28)年4月8日,宇都宮地方裁判所は被告人に対し有罪判決を下した。

本件は,裁判所が判決において「客観的事実のみから被告人の犯人性を認定することはできない」と明言したほど客観的証拠が乏しく,そのため捜査段階で作成された被告人の自白調書が重要な証拠となった。被告人は,自白調書は取調官からの強要・誘導により作成されたものであり,任意性及び信用性がないことを主張していたが,取調べの一部録画映像が法廷で再生された結果、裁判所は自白調書の任意性及び信用性を認め,被告人を有罪と認定した。本件で,最初に被告人が女児殺害への関与を認めたとされるのは別件の商標法違反での起訴後勾留されているときであったが,その時点では取調べは録音・録画されておらず,裁判に提出された自白調書及び取調べの一部録音・録画映像は,その後に殺人罪で逮捕勾留された段階での取調べにおいて作成及び録音・録画されたものであった。結果的に,本件においては取調べの一部録画映像が有罪認定に大きく寄与したといえる。裁判員が判決後の会見で「録音・録画で判断が決まった」「録音・録画がなければ判断は違っていた」等と発言していたことも報道されている。

本件及びその判決は,現在参議院で審議されている「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という)の,いわゆる取調べの一部可視化の重大な問題点を浮き彫りにしている。

すなわち,本法案は,裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件について逮捕・勾留されている被疑者に対する取調べの録音・録画を義務づけているが,上記事件以外の取調べでは録音・録画を義務づけていない。本件では,被告人が女児殺害への関与を認めたのは録音・録画が義務付けられていない商標法違反の事件での起訴後勾留中においてなされたものであったため,本法案によっても当該取調べが録音・録画される保障は全くなく,どのような取調べ状況の中で自白をするに至ったのかを客観的に検証することができない。

そもそも,取調べの可視化(録音・録画)は,捜査機関による暴力・強要や誘導といった不当な取調べを防止し,取調べの適正を確保することにより,虚偽自白の強要・誘導,ひいてはえん罪を防止することを目的としている。しかし,可視化の対象事件を限定してしまうと,本件のように対象事件以外の事件での逮捕・勾留中の取調べの適正を検証することができず,結果として過去のえん罪事件と同様に密室での取調べによる虚偽自白が生まれる基盤を十分に残すものとなってしまう。本法案は,このような虚偽自白やえん罪の温床を制度として認めてしまいかねないものになっている。

また,本法案は,上記の可視化対象事件であっても逮捕・勾留されていない被疑者に対する任意の取調べについては録音・録画を義務づけていないし,取調べの録音・録画が義務づけられている場合であっても,捜査機関の判断により録音・録画をしなくてもよいとする例外を広範に認めている。そのため,本法案は,可視化対象事件であっても捜査機関の都合で録音・録画をする取調べを選択できるようにするものと言え,結果として捜査機関にとって都合の良い取調べ場面のみ録音・録画され,裁判に利用されるという事態が生じかねない。これが取調べの可視化の目的と相容れないことは明らかである。

当会は,2013(平成25)年11月14日付け「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書」においても上記のような一部可視化の危険性を指摘していたが,本件の判決を受け,また本法案が衆議院を通過し現在参議院で審議されている状況を踏まえ,改めて一部可視化の危険性を指摘するとともに,本法案に反対し,全事件における取調べの全過程の可視化を義務付けるよう求める。

 

2016年(平成28年)4月28日

                   仙 台 弁 護 士 会

会長 小野寺 友 宏

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