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地方消費者行政の一層の強化と国の財政支援の継続を求める意見書

2017年08月23日

2017年(平成29年)8月23日

内閣総理大臣 安倍晋三 様
内閣府特命担当大臣(食品及び食品安全) 江﨑鐵磨 様
消費者庁長官 岡村和美 様
財務大臣 麻生太郎 様

仙 台 弁 護 士 会

会 長 亀 田 紳一郎

第1 意見の趣旨
1 地方消費者行政推進交付金の継続
国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」に関する実施要領について、適用対象事業を2017年度(平成29年度)までの新規事業に限定している点を改正し、2018年度(平成30年度)以降の事業も対象として相当期間継続し、更に既存事業も適用対象に含めるべきである。
2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担
国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報の登録事務、重大事故情報の通知事務、違反業者への行政処分事務及び適格消費者団体・特定適格消費者団体の活動支援事務等、国の事務処理の性質を併せ持つ事項に関する予算の相当部分について、恒久的に財政負担するべきである。
3 地方自治体の消費者行政担当職員の増員と資質向上
国は、地方消費者行政における法執行、啓発・地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上等に向け、実効性ある施策を講じるべきである。

第2 意見の理由
1 地方消費者行政推進交付金の継続の必要性(意見の趣旨1)
(1)交付金の意義
国は、2008年度に、地方公共団体に対し、地方消費者行政の拡充・強化を支援するため、「地方消費者行政活性化基金」(以下、「基金」と言う。)を創設し、2014年度以降は「地方消費者行政推進交付金」(以下、「交付金」と言う。)に移行して、財政支援を行い、これまで基金と交付金を合せ延べ約528億円の予算措置がとられてきた。
宮城県の消費者行政も、上記基金及び交付金によって、現在まで財政面で支えられてきた。宮城県内市町村においても、2013年度末には1町を除く34市町村が市町村推進プログラムを策定し、交付金を活用している。例えば、これまで、交付金の活用により、県内の全市町村において消費生活相談窓口が設置され、また、消費生活相談員の増員、養成、レベルアップ等が行われたり、消費生活相談員に対するアドバイザー弁護士制度が創設されるなど、着実に宮城県全体の消費生活相談体制の強化・充実が図られてきた。
このように交付金はこれまで地方消費者行政の充実のため重要な役割を果たしてきたが、現在の地方消費者行政推進交付金交付要綱及びこれに関する地方消費者行政推進事業実施要領(以下、「実施要領」と言う。)においては、交付金の適用対象となる事業は「2017年度までに新たに実施される事業」に限定されている(申請できる事業は「新規事業」で、かつ2017年度が最終申請期限)。また、各事業ごとに交付金の活用期間(3年ないし最大11年)が定められているため、既存事業については、各活用期間満了により交付金の利用はできなくなる。例えば、宮城県では、県及び市町村相談員を対象とした時事に応じた講師を招聘しての研修会、消費者問題についてラジオ等情報媒体を活用したりイベント用啓発物等を作成、配布しての広報活動、県内の高校生や大学生等を対象とした消費生活法律授業の講師派遣事業等は、2009年度から上記基金及び交付金を活用して実施しているため、2017年度で活用期間が終了し、来年度以降は交付金の利用ができない。
(2)消費者被害の現状
全国の消費生活センターに寄せられる消費者被害やトラブルは、最近10年ほどは90万件前後で推移しており、過去30年に約10倍に増加したまま高止まりの状態にある。特に、高齢者の消費者被害・トラブルが急増し大きな割合を占めている。
この傾向は宮城県内においても同じであり、宮城県内の相談窓口で受け付けた相談件数は、ここ数年、合計2万件程度で推移しており、依然として多くの相談が寄せられている上、社会の高齢化・情報化、取引の複雑化等により、解決に困難を伴う相談や、高齢者の深刻な消費者被害が増加している。
そのため、相談体制の更なる拡充、消費生活相談員の増員が求められるところである。
(3)交付金終了による影響
しかし、上記のとおり交付金の適用対象事業は2017年度までに新たに実施する事業(新規事業)に限定され、既存事業については定められた活用期間が満了すれば交付金の利用ができなくなる。このような現在の実施要領等によれば、今後、交付金による相談体制の拡充は困難である。
それどころか、これまでの宮城県内の相談体制の充実は交付金に支えられてきたものであり、独自の財源により現状の相談体制を維持できるまでには至っておらず、消費者行政拡充の途上にあることからすれば、交付金が途絶えた場合には、相談員の減員や勤務時間の減少、相談窓口対応時間の減少、相談員に対するアドバイザー制度への影響等、相談体制が減退することは必至である。
交付金を利用できなくなることによる弊害は、相談体制の減退に止まらない。例えば、宮城県においては、現在、交付金の活用により、近年高齢者を中心に急増している特殊詐欺被害対策として、一般加入電話を設置している高齢者宅を中心に「警告メッセージ・録音機能付きの特殊電話撃退装置」を貸し出して設置する事業を行っている。このような今後ますます重要な課題となる高齢者の消費者被害防止対策などについても、交付金を利用した新規事業が行えなくなることによる影響が懸念される。
また、消費生活相談窓口によせられる情報は、法執行事務(行政指導・行政処分)の端緒にもなっている。相談業務機能が減退すれば、相談窓口に寄せられる情報も減少し、被害情報、被害件数、被害傾向等の情報の収集及び分析にも支障が生じる。その結果、適切な施策立案そのものも困難となる。
更に、宮城県は、市町村補助を通じて、宮城県内のNPO法人消費者市民ネットとうほくの設立支援も行ってきた。これにより、同法人は、2017年4月に内閣総理大臣による認定を受けて東北地域初の適格消費者団体となり、まさにこれから消費者全体の利益擁護のために重要な役割を担うことが期待されているところ、交付金が途絶えれば、交付金を利用した適格消費者団体の活動支援やこれを通じた消費者被害救済、啓発活動等も困難となる。
このように、交付金の利用が途絶えることにより宮城県の消費者行政が受ける影響は広範囲に及び、消費者保護のための各事業の減退は避けられない。そのため、宮城県においても、全国知事会を通して、または県単独で、必要な財源の確保、補助対象の拡充、交付金活用期限の延長等を求めている。
(4)全国の地方消費者行政の現状
このことは宮城県だけの問題ではなく、全国の地方公共団体においても同様である。2016年のうちに全国知事会等の地方公共団体関連4団体ならびに20都道府県が、地方消費者行政の拡充に向けた国の財政措置を要望する意見書を提出していることが、地方の実情を示している。また、地域の消費者被害を防止する高齢者見守りネットワークの構築や消費者安全確保地域協議会の設置などの取り組みは、ようやく動き始めたところであり、しかも市町村の取り組みには大きな格差がある。
(5)交付金継続の必要性
地方消費者行政の役割は、消費者の苦情・被害を相談窓口で把握し、専門的知見に基づいて適切かつ迅速な被害救済を図るとともに、その情報を迅速に集約して適切に分析し、被害の未然防止・拡大防止のために事業者規制や消費者啓発の施策を講じ、更に法制度の不備を改善する施策の立案・推進に結びつけることである。このような機能は、消費生活相談窓口体制の充実、必要な人員の配置等があって、初めて実現する。これまでの国の交付金による支援は一定の成果をあげてきているものの、地方消費者行政の拡充強化はまだ道半ばであり、しかも地域間格差が生じている。地方消費者行政の役割が十分に果たされるためにも、交付金の適用対象を2017年度までのものに限定せず、2018年度以降の事業についても交付金の対象とし、今後も相当期間継続すべきである。
(6)交付金の適用対象を「新規事業に限定しない」必要性
また、消費者被害予防のための啓発活動や相談体制の整備等は、短期的に効果を得たり測ったりできるものではなく、長期間安定して実施する必要性がある。ところが、現在の交付金はその利用要件として新規性を要求しているため、既存の事業がいかに重要であってもこれに利用することができないのであり、このことは安定的な事業実施の弊害となっている。そこで、交付金の実施要領について、適用対象を新規事業に限定している点を改正し、既存事業をも適用対象に含めるべきである。
あるいは、少なくとも、現在既に実施中の事業で平成29年度末で交付金活用期間が終了するもののうち、継続の必要性が高いものについて、3年から最大11年と限定されている交付金活用期間を伸長し、来年度以降も相当期間交付金を活用可能とすべきである。

2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担の必要性(意見の趣旨2)
地方財政法第10条は、「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては、国が、その経費の全部又は一部を負担する。」として全国的に影響する事項や地域間格差を解消し最低限の水準(ナショナルミニマム)を確保すべき事項を列挙している。
しかし、同条に列挙されている事項以外にも、地方消費者行政が行う事務には、自治事務とされながらも、以下のように国の消費者行政事務を地方で分担しているとも捉えられる性質のものがある。
① 消費生活相談情報の登録事務は、相談情報をPIO-NETに登録して全国で共有し、消費者被害の予防や法執行に活用することにつながるものであり、国の事務の一端を地方公共団体が担っているものと評価できる。また、消費者安全法に基づく重大事故情報の通知事務も、国の消費者被害情報の収集事務の一端を法令に基づき地方公共団体が分担しているものにほかならない。
② 都道府県が特定商取引法や景品表示法に基づき行政処分を執行することは、我が国における市場の公正を確保するものといえる。また、インターネット取引や電話勧誘販売等、地域的に限定されない消費者被害が増加しており、そのような場合には、地方公共団体による法執行により、全国的な被害予防につながるものといえる。
③ 各地域の適格消費者団体や特定適格消費者団体は、差止請求や被害回復により我が国の市場の公正を確保し、消費者の権利を擁護するものであり、国の役割の一部を担うものといえる。都道府県がそのような適格消費者団体等を支援することも、国の消費者行政事務の一端を担うものといえる。
このように、地方消費者行政が国の消費者行政事務を担っていることを踏まえ、そのような事務については、国が恒久的に財政負担すべきである。
また、消費者安全法第46条は、「国及び地方公共団体は、消費者安全の確保に関する施策を実施するために必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。」と定めているところ、上記各事務は消費者の安全確保に関わる事務であることからしても、国が財政上の措置を講じるべきである。
そこで、地方財政法10条を改正し、同条が定める地方公共団体が法令に基づき実施する事務のうち国がその経費全部ないし一部を負担すべきものに、上記①ないし③の事務を加えるべきである。
なお、立法にあたっては、生活困窮者自立支援法第9条及び地方財政法第10条34号が生活困窮者自立相談事業等に対する国の負担を定めていることも参考にすべきである。
 3 地方自治体の消費者行政担当職員の増員と資質向上の必要性(意見の趣旨3)
地方消費者行政には、消費生活相談、消費者被害情報の収集、違反事業者に対する行政処分のほか、消費者に対する啓発・教育、地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト、見守りネットワークのコーディネーターとしての役割も期待される。そのような役割を担うためには、専門的知識・経験を備えた地方消費者行政担当職員が適切に配置されることが必要である。また、法執行等の専門的知識を要する事務の支援のため、弁護士等の法律専門家の法的支援を受けられる体制も必要である。
しかし、その体制整備は未だ進んでおらず、地方公共団体の消費者行政のための自主財源の確保は厳しい状況にある。
そこで、国は、地方消費者行政担当職員の配置人数の増加や、研修の一層の充実等の専門的資質の向上、及び法律専門家による法的支援も含めて、財政的・人的支援を強化する施策を講じるべきである。

以上

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