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東日本大震災から7年を迎えての震災復興支援に関する会長声明

2018年03月07日


1 はじめに
東日本大震災の発生から7年を迎えたが,現在でもなお多くの被災者が仮設住宅や修繕が不十分な住宅での生活を余儀なくされている(平成30年1月31日現在,宮城県全体で,応急仮設住宅で3744名,民間借上住宅で4069名の合計7813名,在宅被災者については実数は不明だが相当数に上る)。
当会は,平成27年11月から平成29年11月まで,石巻市内等の在宅被災者への戸別訪問相談を563件実施した。訪問相談を通じて,在宅被災者が抱える生活上の問題点を調査し,当会と業務委託契約を締結した石巻市との間では調査結果を共有して,個々の被災者の生活再建方法を協議してきた。協議を続ける中で,個々の被災者ごとに抱える問題点が千差万別であり,被災者の個別事情に応じた支援や行政・福祉機関の連携が必要であること(「災害ケースマネジメント」の必要性),震災から7年がたった今でも修繕が不十分な自宅での生活を余儀なくされる被災者が多数存在し,現行の法制度や運用では救済に限界があること,生業を失った事業者の再建に十分な支援が行き届いていないことが浮き彫りになったほか,津波浸水地区に所有者不明の土地が多数存在するために復興が進まない現状も明らかになった。
本年から本格化する災害援護資金貸付の返済問題も新たに浮上しており,震災から7年を迎えた今,被災者支援に関する現行法制や行政上の運用の問題点を改めて検証する時期に来ている。

2 災害ケースマネジメントの法制度化
震災後の被災者が抱える課題は,一度の相談で一挙に解決するものは多くなく,むしろ複合的・重層的な課題であることが通常であり,その解決には多岐にわたる専門知識が必要とされる。例えば,建物・土地の応急危険度判定の理解と判定結果を踏まえての土地・家屋の管理・居住の手法や,災害救助法に基づく応急修理制度の利用の是非の判断,被災者生活再建支援金(特に加算支援金)の利用等を踏まえての住居や生活の再建計画等々,各種専門的知識を必要とする課題について,被災者は長期にわたり継続して専門家に相談し助言をうけ,その後家族とも協議し再び専門家の助言を受けるなどの経過を辿って方向性を決定するものが多い。
そして,そこでの相談結果は各種士業や平時の社会福祉政策を担う専門家,自治体の復興事業等に引き継がれていくことによって現実の解決に結びついていくものということができ,それらの支援策をパッケージで提供できる手法として「災害ケースマネジメント」(被災者一人ひとりの個別状況に合わせた必要な支援を実施するために,被災自治体が被災者台帳を作成・活用する等し,また,被災者一人ひとりの個別の被災の影響を把握し,それに合わせた支援策をパッケージし,各種専門家と連携して,支援を実施していく仕組み)の制度構築が必要となる。
また,被災者の中には高齢・疾病・障害等のため法律相談所や法律事務所に出向くこと自体が困難な方が多く存在するほか,被災自治体に情報提供を求めてもきめ細かく対応してもらえず解決の意欲が削がれている方や,復旧・復興が遅々として進まないことについて行政に不信・不満を抱く方も多数存在し,被災者が法律相談所等に赴くきっかけをつかめず,課題の解決に向けて行動を起こせていないという現実も存在する。
そこで,そのような被災者に対する法的支援として弁護士が個別に訪問相談を行ういわゆるアウトリーチ型法律相談が必要であり,これを災害ケースマネジメントに組み込んだ上で,被災者個々の避難生活状況の把握や復興に向けての個別の課題の整理をすることが必要となる。
以上のような必要性に対応するためには,アウトリーチ型法律相談が組み込まれた「災害ケースマネジメント」を法制度化し併せてその予算付けの根拠も定めておくなどの立法措置が不可欠といえる。かかる立法措置は,例えば生活困窮者自立支援法における生活困窮者自立相談支援事業等を,激甚法(激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律)第3条第1項の対象事業として組み入れておくなどによって対応可能ということができる。
よって,当会は,以上のような制度構築による災害ケースマネジメントが速やかに法制度化されることを提案するとともに,その実現に向けた具体的な取り組みを今後とも継続していく所存である。

3 住まいの再建の課題
住まいの再建は,人的復興の中核をなすものと言っても過言ではない。
もっとも,住まいの再建に関する現在の法制度は,被災者の生活再建にとって必ずしも十分に機能しておらず,次のような問題が生じている。
第一に,住宅の応急修理制度や被災者生活再建支援制度による給付金額が低廉であり,生活再建の機能を十分に果たしていないという問題である。
これについては,各制度の給付金額の引上げに加え,被災者生活再建支援制度の適用要件として,住家被害判定の結果のみならず,個別の被害状況ごとに支援を適用すること,その対象を世帯とするのではなく,被災者一人ひとりとすること,家賃補助等給付内容の大幅な拡充を行う等の抜本的な制度の改善がなされるべきである。
第二に,災害救助法の応急修理制度を利用した場合の仮設住宅への入居や,被災者生活再建支援制度の加算支援金を受領した場合の災害公営住宅への入居ができなくなる等の制度運用上の問題である。
これについては,当会で実施した在宅被災者戸別訪問型法律相談の結果を踏まえ,当会と石巻市で協議した結果,同市においてはいずれについても個別事情により運用を改善する方針を打ち出しており,当会としてはこのような運用改善が全国的に行われるよう提言していく所存である。
第三に,近時では,災害公営住宅の家賃に関する問題が生じている。
まず,災害公営住宅の入居者の半数近くが家賃の支払いについて「苦しい」と回答し,金銭面を理由に医療機関の受診を控えたことがある世帯が2割を超える等の事情が近時の新聞報道で明らかとなっており,この点は,日常生活への影響も看過できない問題である。
加えて,災害公営住宅の家賃においては特別低減措置があり,世帯収入に応じ家賃が減免され,入居から5年間は家賃が据え置かれるものの,6年目以降は段階的に家賃が引き上げられ,11年目以降は本来の家賃を支払うことになる。一部の自治体では据置期間の延長措置をとるなどの施策が報じられているところであり,すべての自治体においても同様の施策がとられることが望まれる。
そもそも,被災者の中には,震災により職を失い,現在も安定した収入が得られていない方も少なくないことからすれば,世帯の収入に応じてさらに家賃を減額するなどの制度見直しが検討されるべきである。

4 加算支援金申請期限延長と受給を促す周知徹底
平成30年4月には,被災者生活再建支援金(基礎支援金,加算支援金)の申請期限を迎えるが,在宅被災者戸別訪問相談の中で,自宅補修による再建方法を選択したにもかかわらず加算支援金を受給できることを知らない被災者や,申請したくとも申請方法がわからない被災者が少なからず存在することが判明したところである。
宮城県においては,被災者の実情にかんがみて,加算支援金の申請期限を一部市町村に限らずに再延長することのほか,被災者からの申請を待たずに,支援金未受給世帯へ受給を促す周知を徹底する等の柔軟な対応が求められる。

5 災害援護資金貸付の課題
東日本大震災における宮城県内の災害援護資金の利用件数は約2万4000件,総額405億円にのぼる。災害援護資金は,震災直後の生活再建の促進に寄与したことから,この点は評価される。
しかし,6年の据置期間が終了し,災害援護資金を利用した被災者(借受人)のもとに自治体からの返済に関する通知が届き始めているところ,当会で実施した災害援護資金貸付に関する電話相談には多数の相談が寄せられ,償還に苦慮する借受人が多数いることが浮き彫りになった。すなわち,生活基盤に甚大な被害を受けたまま,未だ生活の再建が果たせず,約定通り償還をすることが困難であるとの借受人からの相談が相当数寄せられている。この点,法令上償還免除の要件について,「支払期日到来から10年経過後において,なお無資力又はこれに近い状態にあり,かつ,償還金を支払うことができる見込みがない」とされているが,その前提として,支払期日到来から10年を経過するまでの間,少額償還が認められるのか不明であるし,また,具体的にいかなる場合に償還猶予や償還免除が認められるのか,その判断基準も不明確である。一方で阪神淡路大震災での災害援護資金において,国は償還免除対象者を生活保護者や自己破産者に限った運用をしており,東日本大震災においても,同様の厳格な運用が予想される。さらに,法令上「借受人の死亡」の場合,「免除をすることができる」とされているにもかかわらず,その相続人が返済を求められているとの相談も多数寄せられている。そのような借受人死亡の場合,相続人が相続放棄をしない限り,償還免除を認めないといった厳格な運用があることも報告されている。そもそも,償還に関する通知書などには,償還免除に関する記載がなされていないことから,多くの借受人や相続人は償還が免除される場合があることすら知らない。
そのため,国は,災害援護資金貸付の償還猶予,償還免除の柔軟な運用及び必要な法改正をすべきである。具体的には,まず,個別具体的に資力状況を審査して,約定どおり償還できない被災者に対しては,償還猶予や少額償還を認めるなどの柔軟な運用がなされるべきである。また,償還免除の判断時期について,現在「支払期日到来から10年経過後」と規定されているが,借受人の資力状態に鑑みて,より早期に償還免除を認める運用とすべきである。さらに,償還免除の対象を生活保護受給者や自己破産者だけに限るのでなく,少なくとも生活保護受給者に準ずるような低所得者についても償還免除を認める運用にすべきである。加えて,借受人が死亡した場合において,借受人ないしその相続人の資力状態等の個別事情によっては,相続放棄をしなくても償還免除を認める運用にすべきである。
そして,被災自治体は,借受人に対し,償還に関する通知書に償還免除要件を記載するなどし,積極的に災害援護資金貸付金の償還が免除される場合があること,償還が困難な場合には,被災自治体の担当窓口に相談することなどを周知すべきである。
他方,県や政令指定都市は,国に対し,災害援護資金貸付金の原資のうち3分の2の償還義務を負っており,将来財政が圧迫されることが懸念される。被災自治体の財政的圧迫については,未償還額の自治体による立て替え措置を廃止し,現実に借受人から償還があった場合のみ,国や県への償還を行うように改正するとともに,償還金の回収等のための債権管理コストについては,国が補助するような制度に法改正されるべきである。
当会は,被災者の意思を最大限尊重し,被災者一人ひとりの「人間の復興」という基本的な理念のもと,今後も,災害援護資金貸付の償還で困窮する被災者に対する相談,支援に積極的に取り組むとともに,国に償還義務を負っている自治体とも協力し,災害援護資金貸付の償還に悩む被災者相談窓口を設置し,相談を行っていくなど,被災者の実情に応じた償還方法や償還免除の運用や法改正を実現するために尽力する所存である。

6 生業支援
東日本大震災においては,沿岸地域を中心に多くの事業主が,生業に多大な被害を受けた。これらの事業主の多くは,生業と生活が一体化した被災者である。被災者が,その生活の基盤を確保・再建するためには,生業の再建が必要不可欠である。のみならず,被災地域の復興のためにも,被災事業主の生業の再建が必要不可欠である。そのための更なる充実した支援制度及びその運用が望まれる。
しかし,現状の支援制度は,給付型の制度であっても自己負担部分のあるものが多い。仮に,支援制度を利用できた場合であっても,その後に(労務費・材料費の高騰等で)事業費の増大が生じた場合や被災地域の復興の遅れなどから震災前の商圏が十分に回復せず収益があげられなかった場合,等に事業継続のための資金が必要となる。ところが,現状の支援制度は,そのような事業継続の要請には十分に応えるものとは言い難い。また,給付型制度の多くで要求される事業計画書などの申請書類の作成やグループ補助金で要求されるグループ形成などは必ずしも容易ではなく,事実上,制度の利用者が制限されている。さらに,複雑・多様な各種支援制度の内容・利用手続き・利用期限などの情報も十分に周知されているとは言い難い。
これらの事情に照らすと,現状の支援制度及びその運用は,被災事業主の復旧・復興に十分なものとは言い難い。
そこで,当会としては,被災事業主が復旧・復興し,事業を継続・発展できるよう引き続き法律相談に応じるとともに,新たな支援制度や制度の運用改善等の提言を検討する所存である。

7 原発問題
原発事故の被害者の復興格差はより深刻である。被害の個別化が進む現状において,深刻な被害の切り捨てがされないように注視する必要がある。
昨年4月7日の会長声明において指摘した同年3月17日の前橋地方裁判所判決に続き,同年10月10日の福島地方裁判所判決においても,国の責任を認める司法判断が示された。
司法判断において加害者と指摘された国が,被害者それぞれの選択を尊重した責任を果たしているといえるかが改めて問われる局面を迎えている。
また,上記の判決に加え,平成30年2月7日の東京地方裁判所判決でも,生活基盤そのものが不可逆的に侵害されている深刻な被害状況に照らし,原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針による賠償のみでは不十分であると判断している。
現在,被害者に行われている賠償が,被害者の実態に照らして十分な水準に至っているかについては,補償の打ち切りを含め,なお検討を要する重要な課題である。
当会では,今後の司法判断や原子力損害賠償紛争解決センター(いわゆる原発ADR)における運用実態なども含め,被害者を取り巻く状況を引き続き注視しつつ,必要な提言等を今後も継続して行う所存である。

8 以上の課題・問題に照らし,現在でもなお多くの被災者が現実的な問題に直面し,不安を抱えているという現状を踏まえ,東日本大震災から7年を迎え,当会は,引き続き「人間の復興」という基本的な視点に基づき,より一層充実した相談体制の構築,情報提供の充実を図り,被災者の一人ひとりに向き合い,その不安を解消し,被災者一人ひとりの生活基盤の確保・充実のための法的支援や被災事業者の復興に向けた支援活動に邁進する所存であることをここに宣言する。

2018年(平成30年)3月7日

仙 台 弁 護 士 会

会 長 亀 田 紳一郎

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