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平成23年4月14日緊急提言

2011年04月14日

東日本大震災被災地復興支援に関する第1次緊急提言

2011(平成23)年4月14日

 

仙台弁護士会会長  森 山  博

 

はじめに

2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災は,国内観測史上最大であるマグニチュード9.0の巨大地震と巨大津波により,平穏に暮らしていた多くの人々の尊い命を一瞬にして奪い,家を押し流し,生活再建の手がかりとなるべき生業の基盤を壊滅させた。警察庁の発表によれば,この大震災による被害は,死者1万3,219人,行方不明者1万4,274人,負傷者4,742人,全壊家屋5万2,781戸,半壊家屋1万1,908戸にも及んでおり(4月12日午前10時現在),加えて,全国各地の避難所において,約14万人の被災者が避難所生活を余儀なくされている。福島第一原子力発電所の事故がさらに深刻化すれば,被災状況はさらに複雑かつ重大なものとなる可能性がある。

この歴史上類を見ない大災害による甚大な被害から人々を救済し,被災した人々とその人々が生きてきた地域社会を復旧,復興させ,発展させていくことは国家の当然の責務であり,国の強いリーダーシップと積極的な財政措置が不可欠である。

しかしながら,被災者と被災地の復興は,あくまで,被災した人々の目線に立ち,被災した人々の意思を最大限尊重した,被災者一人一人が立ち直るための「人間の復興」でなければならず,国が復興支援策を押しつけるようなことがあってはならない。

当会は,甚大な被害を受けた被災地の一つである宮城県の弁護士会として,被災した人々に寄り添いその復興を支援するため,3月15日付会長声明において復興支援に全力を尽くす旨宣言し,無料電話相談及び宮城県内の避難所等を中心とする無料の面接相談会を実施してきた。今,被災地では,大切な人を失い,住む家を失い,生活の糧を失った数え切れない人々が,今後の生活の見通しを立てられない不安の中で,日々蓄積する心身の疲労に耐えながら,復興への足がかりとなる正確な情報を求め,具体的な救助及び支援策を強く待ち望んでいる。

こうした被災者の現状に照らし,当会は,基本的人権の擁護という弁護士の責務を全うするため,被災した人々に常に寄り添い,被災者一人一人の「人間の復興」を最大限支援することをここに宣言するとともに,無料電話相談や避難所面接相談の結果を踏まえ,現段階において必要と考えられる復興支援策を提言する。国におかれては,関係省庁及び各自治体との連携により被災者及び被災地の現状を正確に把握し,復興支援活動の財源に対する各自治体の不安を除去して既存の関係法令を最大限活用した機動的かつ効果的な復興支援策を一日も早く実現するとともに,既存の関係法令や各種制度の不備についてはこれを改善する立法措置ないし予算措置を速やかに講ずるよう要望する。この提言は,被災地である宮城県の弁護士会として,現時点における緊急対応事項をとりまとめたものであり,今後生じるであろう問題点等については,状況の推移に応じてあらためて提言する予定である。

なお,福島第一原子力発電所の事故は極めて深刻な被害を及ぼしており,当会としても憂慮するものであるが,今回の提言は,宮城県における被災状況に基づく緊急の提言であるため,ここでは触れないこととする。

第1 被災者救助に関する緊急の課題について

1 当面の生活資金に窮する被災者への迅速な支援

(1) 現金支給による被災者支援

災害救助法23条2項は,「救助は,都道府県知事が必要があると認めた場合においては,前項の規定にかかわらず,救助を要する者(略)に対し,金銭を支給してこれをなすことができる。」としており,法律上,現金支給による救助が可能であるが,実際の運用においては,現物支給による救助のみが行われている。
しかし,現物支給による救助のみに限定した現在の運用では,被災地における機動的かつ迅速な災害救助を実現できているとは到底言い難い。

そこで,法23条2項の運用を法文どおりに改めて現金支給を原則とし,より機動的で迅速な災害救助を実現するべきである。

(2) 緊急小口資金貸付の手続きの簡易化

避難所での相談で多かったのは,当面の生活資金に事欠くとの相談である。震災によって職場が津波によって流され,給与が支払われず,蓄えもないといった悩みを多くの被災者が抱えており,このような被災者の救助策として緊急小口資金貸付がある。

しかし,緊急小口資金貸付については,宮城県内でも現段階で未だ受付体制の整っていない自治体がある上,申請を受け付けている自治体にあっても,審査や支給手続き等に時間を要し,生活資金を緊急に融資するという制度目的を達成できていない。

そこで,緊急小口資金貸付については,審査の撤廃や支給手続きの簡素化を図り,その制度目的を達成できるようにするべきである。

(3) 義援金の早急な第一次配分

義援金の配分については,迅速性,透明性,公平性が要求されることから,この3つの要請を等しく充たした配分方法を模索するのが本来である。

ただし,当面の生活費にすら困窮する者も少なくないという現状があるため,少なくとも第一次配分については迅速性を重視するべきである。

避難所生活者に関する支援

(1) 応急仮設住宅の早急な建設

避難所における被災者の悩みとして多いのは,避難所においてはプライバシーがないことである。特に女性からは,着替える場所がない,乳幼児を抱える母親らからは,気兼ねや我慢をしなければならないことが多い,などの声が上がっている。このようなプライバシーのない避難所生活の長期化は,被災者の心身に著しい負担を強いている。

避難所生活者のプライバシーを保護し,震災前の居住環境を再生するためには,応急仮設住宅を早期に建設するのが本来であるが,現在,応急仮設住宅建設用資材の調達が滞り建設が遅れているなどの情報もある。応急仮設住宅の早期建設,早期入居がかなわない場合には,避難所内において,パーティーションの設置や女性用更衣室を設けたり,乳幼児がいる世帯を同じ部屋に集めるなどの対策を早急に講じ,避難所生活者のプライバシー保護を図るべきである。

また,応急仮設住宅は,生活の本拠としてはあくまで当面のものに過ぎないものであるから,できる限り,その被災者が復興を遂げようとする地域内あるいはその近郊に建設されることが望ましい。地域全体が甚大な被害を受けた場合には,応急仮設住宅の建設用地を確保するのが難しい場合もあるが,その場合でも,できる限り近郊に建設し,コミュニティを維持できるよう計画的に入居させる必要がある。応急仮設住宅への入居が,従前の居住地で復興しようとする被災者の意欲をそぐ結果となることのないよう十分留意するべきである。

(2) 避難所における衛生確保,疾病蔓延防止のための措置の実施

今回の震災においては,大地震と巨大津波から辛くも逃れたものの,避難所において十分な医療上の措置を受けられずに亡くなる被災者が少なくない。特に,宮城県内でも甚大な被害を受けた自治体においては,電気,ガス,水道といったライフラインが長期にわたって停止した避難所や医療施設があり,震災から1ヶ月以上経った現在においても,病人や高齢者の生命の危険は未だに払拭されているとは言い難い。また,今後の余震の状況によっては,さらに事態が悪化する危険性すらある。

そこで,避難所にいる病者や高齢者に対する医療上の措置を十分ならしめるため,避難所のライフライン確保や,十分な数の医師と看護師の確保,医薬品や医療機器の援助等,避難所に避難する病者,高齢者の生命と健康を守るためのあらゆる措置を早急に高じるべきである。

また,宮城県内の避難所の中には,ノロウィルス感染が流行しているとの情報や,下痢などの症状を訴える避難者が目立つところもあり,多数の避難者が長期間避難所生活を送っていることや水不足などの事情により,避難所内の衛生環境が相当に劣悪となっている可能性がある。

そこで,避難所の衛生環境についての定期的な検査・検証や,診療にあたる医師との綿密な連絡などにより避難所の状況を的確に把握した上,飲料水等の十分な確保はもちろん,消毒用アルコールでの手洗いを徹底するなど,避難所内の衛生環境を維持,改善するための出来る限りの方策をとるべきである。

(3) 外国人,高齢者,障害者に対する支援

外国人,高齢者,障がい者などがいる避難所においては,トイレなどの避難所設備の利用や,他の避難者やボランティアとのコミュニケーションにおいてこれらの者の生活に支障がないよう,また不当な差別のないよう,特段の配慮をもって対応すべきである。

3 障害物の撤去に関する支援

(1) 瓦礫等の迅速な解体,撤去

災害救助法23条1項10号及び政令は,被災地の住民の日常生活に著しい支障をきたす障害物等の除去について定めているが,宮城県では,いまだに瓦礫の撤去が一向に進まない自治体がある。

本来,瓦礫の撤去は災害後10日以内とされているものである。東日本大震災が広域での甚大な被害を及ぼしたことに鑑みると,瓦礫撤去を10日以内に実施できなかったこともやむを得ない。しかし現在では,震災からはや1ヶ月以上も経過しているのであるから,これ以上の瓦礫の残置は被災地の人々の復興にとって大きな妨げになるものとして許されず,早急に撤去するべきである。

(2) アスベスト等の有害物質

宮城県内においては,地震や津波により多数の建物が全半壊した。特に沿岸部においては,地震後の巨大津波があらゆる建造物や設備等を損壊したことで,流出した危険な化学物質や大気中に放出されたアスベスト等による健康被害の危険性が指摘されている。殊に,今回の震災による瓦礫は莫大な量であり,全てを解体,撤去するには数年かかることが見込まれている。そのため,半壊した自宅に戻る被災者や,遺体捜索や思い出の品を探す被災者,解体撤去作業に従事する民間労働者,遺体捜索や復旧作業のために瓦礫付近で任務に当たる自衛隊員,消防職員,警察職員らに,将来,有害物質による健康被害が及ぶ危険性がある。

新潟県中越地震の際には,「平成16年新潟県中越地震により被害の生じた建築物等に係る解体工事を実施する上でのアスベストの取扱について」(国総建第220号平成16年10月26日)が地震発生の3日後に国土交通省から通知された。しかし,今回の地震においては,アスベストの曝露による健康被害の危険性についての一般市民への周知や建築物解体工事等におけるアスベストの適正な取扱いについての周知がいまだになされておらず,アスベストについての危険防止措置が十分であるとは言い難い。

そこで,被災者や被災地での復旧作業に携わる関係者に対し,有害な化学物質やアスベストなどが及ぼす健康被害の危険性や,瓦礫の解体作業におけるアスベスト等の有害物質の取扱いについて改めて周知,徹底させるべきである。

第2 被災者の早期復旧,復興に関する支援

1 住居損壊や地盤崩壊に対する支援

(1) 生活再建支援法の改正と弾力的運用

生活再建支援法に基づく支援金は,数少ない「支給」の支援策であり,被災者の経済的支援としては極めて有用な制度である。しかし,その支給額をみると,基礎支援金が最大で100万円,加算支援金が最大で200万円となっており,生活再建資金としては十分な額とはいえないのが実情である。

そこで,今回の被害が甚大であることに鑑み,支援金の額を大きく増額するべきである。

また,たとえば,津波で1階部分が浸水にした家屋の損壊の程度についても,海水流入が住居としての機能を著しく損なうことを十分に考慮し,津波被害の実情にあった柔軟かつ妥当な認定がされるべきである。

(2) 造成土地の崩壊,崩落等に対する生活再建支援金制度の適用

宮城県内では,宅地造成した地区において,法面や擁壁が崩壊,崩落したとの相談が多発している。このような場合,建物自体は損壊していなくとも,住宅に居住するに当たって修理が必要である点に変わりはなく,保護の必要性に何ら差はないはずであるから,生活再建支援法の適用対象を拡大し,支援金給付の対象とするべきである。

(3) 国による補助額の大幅な増額

また,多額の支給によって財源たる基金(9条)の破綻を防止するため,2分の1とされている国による補助額(18条)を大幅に増額すべきである。

2 生活保護者及び生活困窮者に対する支援

(1) 生活保護受給決定手続きにおける特例措置

生活保護者及び生活困窮者のための生活保護に関する要件や手続きについては,既に被災者の被災状況を考慮した各種特例措置の策定や柔軟な運用がなされている部分もあるが,甚大な被害を受けた各自治体によっては,国からの情報を十分に把握し運用できずに混乱を来す状況も見受けられた。

そこで,各種特例措置については再度通知等で周知徹底を図るほか,被災自治体が人員不足等により事務手続きに十分対応できない状況にあるときは,人的援助を実施し被災自治体の機能を回復させるなどの措置を直ちに講じるべきである。

(2) 東北地方の実情を考慮した保護要件の見直し等

東北地方においては,鉄道やバス網が他の地方のように発展していない地域も多いため,自動車は通勤,買い物などの日常生活にとって不可欠ともいうべきものである。そのため,自動車を保有するために生活保護を受給できないとなると,生活保護受給による生活の立て直しはできなくなる。かといって生活保護を受給するために自動車の保有を断念すれば,選択しうる就業先が限定されて就職難に陥り自立が遠のくという悪循環に陥る結果となる。

そこで,生活保護受給者にも車両保有を認めるよう,定型的に保護要件を見直すべきである。

(3)  義援金,再建支援金及び災害弔慰金の取扱いについての周知

生活保護を受給している被災者の中には,生活再建支援金や災害弔慰金などを受給すると生活保護が受けられなくなるのではないかと誤解し,支援金や弔慰金の受給を躊躇している人もしばしば見受けられる。

義援金,再建支援金及び災害弔慰金は,その性質上,収入認定されるべきものではないのであるから,被災者が権利行使の機会を失わないようケースワーカーを通じてアドバイスをするなど周知徹底を図るべきである。

第3 被災した就学児童等に対する支援

遠方に避難した子どもの転編入学を柔軟に認めることとし,一緒に避難してきた家族と子どもが離れ離れにされることのないよう十分に配慮すべきである。
また,今回の震災で両親を失った子どもの把握が遅れたことは,子どもの権利の保障上,大いに問題である。子の心身の保護のためにも,また子の財産の保護の観点からも,未成年後見人の選任手続や各種支援が円滑に実施されるよう専門家間の連携と充実した支援体制を構築するべきである。

第4 被災者のための法的援助に関する支援

各専門家間の連携

震災からの復興に際し生じる様々な問題は弁護士のみの力によって解決できるものは少なく,むしろ,他の専門家との緊密な連携をとりながら一体となって解決していかなければならないものが多い。

当会は,宮城県災害復興支援士業連絡会の一員として,他の専門家と一体となって復興支援活動にあたっているところである。

行政においても,被災者,被災地の地方公共団体と三者間で充実した意見交換と情報の交流を図り,各専門家の知識と技術を活かした復興支援を実現するための信頼関係と充実した連携の構築を図るべきである。

2 日弁連,日本司法支援センター等との連携

被災地では,現在,法律相談の膨大なニーズが一層顕在化しつつある。当会としても,被災者の不安を和らげ,復興への見通しを持てるよう,また,事件が必要なく紛争化することのないよう,今後もできる限り多く法律相談(巡回相談,出張相談)を実施する予定である。
ついては,当会は,弁護士の実施する法律相談が場所的にも経済的にも被災者にとってより一層利用しやすいものとするため,日弁連,各弁連,各都道府県の弁護士会,日本司法支援センター及び地方自治体に対し,法律相談体制の確立について相互に連携し協力するよう求める。

第5 地方公共団体と国との関係,財源等

地方公共団体と国との関係の確認

現在,国において復興庁の創設が検討されている。今回の大震災からの復興のためには,国が強いリーダーシップを発揮する必要がある。しかし,災害復興の本質が「人間の復興」である以上,被災者と被災地の復興についてはあくまで被災者自身が決定すべき事柄であって,国は,被災者及び被災地の自治体を主として財政面から支援する立場に立つべきである。

加えて,今回の震災では,被災により役場の必死の努力でもいかんともしがたい膨大な事務があり,かつ職員も昼夜働き続けることにより疲弊している。その結果,役場としての機能が低下し,住民に対する生活・復興支援を停滞させている自治体もある。そのような自治体に対しては,国及び他の被災していない自治体から,積極的に人的支援等を行うなどその機能回復を図る措置をとるべきである。

2 復興交付金の創設

国が,被災者と被災地のための支援の役割を担う以上,災害復興に必要な財政支援は,国が決定権を持つ補助金の方式によるのではその趣旨にそぐわない。被災地の自治体にとって自由な使途が可能である復興交付金を設け,財政的制約により自治体が必要かつ有効な復興支援策の実施を躊躇せざるを得ないといった事態が生じないようにするべきである。

3 復興基金の早期創設等

これまでの災害例に習い,復興基金を早期に創設すべきである。
この復興基金は,これまでの例では県単位で創設されてきたものである。しかし,今回の大震災は,被災地域が広く東日本全体に広がり,被災者の数も極めて多数であるので,広く基金による復興のための手当てを機動的に実施できるよう,複数の都道府県で共同の復興基金を置くことなども検討すべきである。

 

以 上

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