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平成23年6月2日「東日本大震災により被災した中小・零細事業者を対象とする救済策に関する提言」

2011年06月03日

東日本大震災により被災した中小・零細事業者を対象とする救済策に関する提言

 

2011年(平成23年)6月2日

 

 

 

仙台弁護士会          

会 長  森  山    博

第1 提言の趣旨

当会は,政府に対し,自然人・法人を問わず,東日本大震災により被災した中小・零細事業者を対象として、

(1) 金融機関等が保有する被災した事業者に対する債権を,国が債権買取機構を設立して買い上げた上で被災の程度に応じてその全部または一部について債務免除する等の方法で,被災した事業者を既存債務の負担から解放するための救済措置 

(2) 被災した事業者に対し,事業再建支援金を給付するための特別立法(事業者事業再建支援法の立法)を行う等の方法で,中小・零細事業者の事業再建を直接的に支援する救済措置
を速やかに講じる等被災した中小・零細事業者の事業再建,自立復興のための施策を早期に実現するよう提言する。

第2 提言の理由

1 東日本大震災で被災した地域(以下「被災地」という。)には極めて多数の中小・零細事業者が存在し,これら中小・零細事業者によって,被災地で暮らす多くの被災者の生活の糧を生み出す「雇用」が創出されていた。
しかし,東日本大震災により,極めて多くの中小・零細事業者が甚大な被害を受けており,これら事業者の多くは経済的支援なくして自主的に再建を図ることが極めて困難な状況にある。 

2 そして,被災者の多くは,これら中小・零細事業者のもとで雇用されていたことから,中小・零細事業者の倒産や廃業は,被災者から労働の場を消失させ,被災者の生活再建を困難ならしめている。
岩手・宮城・福島の3県で震災後に職を失い,失業手当を受け取る手続きを行った者は,約10万6000人に上るとの厚生労働省の発表からみても,事態は極めて深刻である。

3 憲法第25条第1項は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定して国民の生存権を保障し,また,憲法第27条第1項は「すべて国民は,勤労の権利を有し,義務を負う。」と規定して,国民の勤労の権利を保障している。
震災直後においては,生存権の保障の基礎として,国民の生命・身体を守るため国が生活に必要な食糧等の物資を提供したり,生活再建のための資金を一定額支給することが緊急性の高い必要不可欠な支援であるといえるが,それで必要にして十分ということではない。今後は,被災者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために,また,自己実現の場として「勤労」していくためにも,被災者に勤労の場を確保するための「雇用」を創出するのに必要な環境整備を行っていくことが,国に課された重要な責務である。
そして,東日本大震災による被災地においては,被災した中小・零細事業者が事業を再建することにより多数の「雇用」が創出されていく環境を整えていくことが,復旧・復興のために極めて重要である。

4 現在,被災地に留まり,被災地で生活し,被災地の復興を実現しようと考えている被災者であっても,長期的には,雇用がなければ被災地に留まり生活していくことはできないのであり,被災した中小・零細事業者が事業を再建し「雇用」が創出されなければ,被災地から被災者(特に今後の被災地の復興を支えていく若者)が流出してしまい,被災地の復興を実現するどころか,被災地の衰退を招く結果になることは容易に想像できるところである。
また,被災地によっては,多数の被災者が近隣各県に分散避難している地域もあるが,雇用がなければ被災地に戻って生活していくこともできない。
以上のとおり,被災地の中小・零細事業者の事業再建なくして,被災者たる国民の健康で文化的な最低限度の生活の確保はあり得ず,また,真の意味での被災者の生活再建・被災地の復興はあり得ない。

5 被災地には,大企業への部品供給を行っていた中小・零細事業者も数多く,東日本大震災では,被災地の経済活動のみならず,日本全国の経済活動ひいては世界の経済活動にも甚大な影響が生じている。
被災地の中小・零細事業者を救済することは被災地の復旧・復興のみならず,日本経済の復興にもつながるものである。

6 政府もこれらの諸事情を十分に認識しているからこそ,各種融資制度を充実させ,また,金融機関に対して既存債務の条件変更に柔軟に対応するよう要請する等の事業再建支援策を講じている。
しかし,被災地の壊滅的な被災状況に鑑みれば,政府が現時点で講じている支援策だけでは,事業者が被災地で事業を再建しようというモチベーションを持つことは極めて困難であり,被災した事業者の事業再建・自立復興は極めて難しいと言わざるを得ない。すなわち,政府が設けた各種融資制度を利用しても,いずれは既存の債務の返済と新たな融資分の返済を二重に負担しなければならなくなるのであるから,一時的に急場をしのぐことはできても,長期的な視野に立って見れば,壊滅的な被災状況にある事業者の事業再建は困難である。
そこで,被災した事業者を既存債務の負担から解放するための救済措置を講じることが強く求められるところである。
また,被災地の壊滅的な被災状況に鑑みれば,既存債務の負担から解放しただけでは,中小・零細事業者の自主的な再建は困難であるから,被災した事業者の被害の程度に応じて,政府が,より直接的な支援を施していくべきである。

7 よって,当会は,政府に対し,被災者の生活再建,被災地の復旧・復興ひいては日本経済の復興のために,自然人・法人を問わず,東日本大震災により被災した中小・零細事業者を対象として,

(1) 金融機関等が保有する被災した事業者に対する債権(リース債権を含む)を,国が債権買取機構を設立して買い上げた上で被災の程度に応じてその全部または一部について債務免除する等の方法で,被災した事業者を既存債務の負担から解放するための救済措置 

(2) 被災者の生活再建を目的とした支援金の支給を定める被災者生活再建支援法と同様に,被災した事業者の事業再建のために,被害の程度に応じて被災した事業者に対し事業再建支援金を給付するための特別立法(事業者事業再建支援法の立法)を行うなどし,中小・零細事業者の事業再建を直接的に支援する救済措置

を速やかに講じる等,被災した中小・零細事業者の事業再建,自立復興のための施策を早期に実現するよう提言する。

以上

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