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平成23年6月15日「東日本大震災の被災者が抱える既存債務からの解放を求める緊急提言」

2011年06月17日

東日本大震災の被災者が抱える既存債務からの解放を求める緊急提言

平成23年6月15日

仙台弁護士会

会  長   森  山     博

第1 提言の趣旨
国は、東日本大震災で被災した市民や中小・零細事業者が有する住宅、自動車及びリース物件等が滅失または毀損した場合、これら滅失・毀損物との牽連性が明白な債務(既存債務)から被災者を解放するため、既存債務を買い取りその債務を免除するなどの方法により一刻も早く、被災者を既存債務から解放し、その生活再建を円滑なものにすべきである。

第2 提言の理由
1 東日本大震災における被災者の状況
(1) 未曾有の大災害となった今般の東日本大震災においては、地震、津波により、消費者や中小・零細事業者といった経済基盤の脆弱な者たちの多くが被災者となり、その有する居住建物、自動車及び事業用資産など、無数の財産が一瞬のうちに失われた。
しかし、被災者らは、自己の資産を失った一方で、住宅ローン債務や自動車ローン債務、リース関連債務(以下、「既存債務」という。)については相変わらず負担し続けねばならない現状にある。
(2) 当会が行っている被災者らに対する法律相談においても、「(東日本大震災)当日に引渡しを受けたばかりの新築住宅が津波で流失し、多額の住宅ローンだけが残った」という悲惨な事例をはじめとして、「津波で家を失って賃貸住宅に入ったが、既存の住宅ローン債務に加えて賃料の負担が生じ、生活が成り立たない。」とか、「津波で所有自動車が流されて、移動手段がなくなってしまい、生活に困っている。都会と違って交通網が発達しておらず、自動車がなければとても生活ができない。しかし、既存の自動車のローンがあるため、新たな自動車を購入することもできない。」、「津波で一切を無くし、箸一本から買わなければならないのに、これまでのローンも負担していかなければならないのか。」、「事業用資産が流されたのに融資制度しかなく、既存のローンを抱えながら、どうしていけばよいか分からない。」など極めて深刻な事例が相次いでおり、その多くが既存債務による生活再建の阻害を訴えるものである。
(3) こうした状況のなか、金融機関のなかには債務の返済猶予を行っているところもあるが、あくまで各金融機関の自主的な判断に委ねられており、なかには1ヶ月しか猶予を認めないという金融機関も存在する。
こうした金融機関の自主的な判断に委ねたまま、既存債務問題に手をこまねき、何らの救済手段も講じられないまま、今後、その債権の回収が再開されれば、被災者をとりまく状況はさらに悪化し、被災者の生活の破綻はいうに及ばず、場合によっては自殺に至るケースまで続出することが容易に予想される。

2 被災者の既存ローン債務からの解放の必要性と許容性
(1) 上記のとおり、既存債務だけが残った被災者においては、その既存債務の処理ができなければ、二重ローンの状態となるどころか、そもそもその返済を心配して新たに融資を受けることをあきらめ、あるいは新たな融資を申し込んでもその融資を断られ、早晩破綻に瀕することは必至である。
したがって、被災者が生活再建を果たし、復興を遂げるためには、一刻も早く、一度破壊された生活の安定が再度取り戻されなければならない。
(2) 他方、既存債務は、担保物件の滅失や被災者の支払能力の欠如などにより従前どおりの価値があるとはいえず、このまま既存債務問題を放置しても、被災者を苦しめるのみで、債権者の利益にはつながらない。
かえって、被災者が一刻も早く生活の再建を図ることによってこそ、その支払能力や担保力を高めることができ、債権者ひいては社会一般の利益につながることになる。
したがって、これ以上、既存債務問題についての看過・放置は許されず、政策的な観点から早急にその解決が図られなければならない。
(3) そして、その解決に際しては、被災地の実情が十分に配慮されなければならない。
1つは、公共交通機関の整備が未発達である東北地方では、自動車が必要不可欠であるという点である。とりわけ、津波による甚大な被害を受けた沿岸部では、もともと少なかった鉄道網すらも破壊されており、日常生活においても、事業活動においても、自動車がなければ生活・事業がまったく成り立たない状態にある。
そして、もう1つは、被災地である東北地方の労働者の多くは、地元の中小・零細事業者において雇用されてきたという点である。こうした地元の中小・零細事業者の再生がなければ、地元住民の雇用をも失われたままとなり、復興など到底達成できない。
(4)    したがって、東北地方の復興にあたっては、住宅ローン債務だけでなく、自動車や事業用資産の購入によって生じたローンやリース関連債務等被災物との牽連性が明白な債務から被災者を解放させることが必要不可欠となる。

3 既存債務からの解放の手段について
この点、自己破産手続や個人民事再生手続を利用することで既存債務からの解放を図れば足りるとの意見もありうる。しかし、自己破産手続きにおいては限られた財産しか被災者の手元に残すことができない。特に前述のとおり被災地では生活や事業再生に自動車が必要不可欠であるにもかかわらず、それも手放さざるを得ない場合も少なくなく、その場合の生活の再生は極めて困難となる。個人民事再生手続きも継続的な収入と債務弁済が必要であるばかりか、事業者でない限り、自動車ローンを継続的に支払うことができず、結局は、自動車を手元に残せないことになり、十分な救済手段とはなり得ない。そもそも、このような法的整理をした場合には信用情報が毀損されてしまい、生活再建に必要な資金需要を満たすための新たな借り入れができない結果になることから、被災者の復旧・復興についての重大な障害となる。
したがって、被災者を既存債務から解放するにあたっては、新たなスキームを創出する必要がある。
また、被災者の既存債務について、国等が買い取る形でその負担から解放させるにあたって、被災者のみが債務から解放される結果となり、しかもそれが国費をもって充てられることに国民の理解が得られないとの意見もありうる。しかし、そもそも対象とされる債権は、担保物件の滅失や被災者の支払能力の欠如などにより従前どおりの価値があるとはいえない。また、そもそも今般の大震災は、その被災者の数でもその被害の規模でも未曾有のものであるうえ、被災者にはまったく責任のない天災によるものであるから、その負担を被災者のみでなく国民全体のものとすることが望ましいというべきである。そして、その生活再建においては、仮に既存債務から解放されたとしても、それはいわばマイナスからゼロになったにすぎず、被災により失った家財道具、それこそ箸一本から再調達する必要があるなど、なお容易でない苦難を伴うものであり、必ずしも被災者のみが優遇されるという関係にはない。さらに、被災者・被災地の復旧・復興が遅れることは、日本経済の回復を鈍化させるものでもあり、それを回避するという点でも、被災者の経済的立ち直りを図らせることに国費を投じることは理にかなっている。
以上から、被災者を一刻も早く既存債務から解放するために、たとえば、国等が当該既存債務を買い取りその債務の免除をするなどの方法を構築することが急務である。

4 結語
よって、国は、被災者が抱える既存債務について、住宅ローン債務のみならず、自動車のローン債務やリース債務もその対象に含めて、当該既存債務を買い取りその債務を免除するという制度を構築するなどの方法によって、一刻も早く、被災者を既存債務から解放し、その生活再建を円滑なものにすべきである。

以 上

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