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被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)の運用開始から 1年を迎えるにあたっての会長声明

2012年08月21日

被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)の運用開始から1年を迎えるにあたっての会長声明

1 はじめに

 東日本大震災の被災者が抱えるいわゆる二重ローン問題への対応策として,平成23年8月22日に「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「被災ローン減免制度」という)の運用が開始されてから,1年を迎えようとしている。

 被災ローン減免制度は,その運用開始当初においては,利用対象者の要件が過度に限定されていたり,被災者の手元に残せる財産の範囲が明確でない等の問題があり,二重ローン問題への対応策として十分なものとは言い難かったが,その後の運用変更によってこれらの問題点についても一定の改善がなされ,現在では,運用開始当初に比較すれば被災者にとって利用しやすい制度となってきた。

 当会としても,被災ローン減免制度の運用開始直後から,プロジェクトチームを立ち上げて同制度の運用改善に向けての様々な取り組みを行うとともに,当会の個々の会員においても,登録専門家として,あるいは代理人として,同制度の利用を通しての被災者救済活動に当たってきた。

 

2 被災ローン減免制度の周知の必要性

 しかしながら,被災ローン減免制度は,運用開始から1年が経過しようとしているにもかかわらず,申出件数は316件,成立件数はわずか55件(平成24年8月10日現在)にとどまり,その利用はいまだ低迷しているものと言わざるを得ない。

 このように,被災ローン減免制度の利用が低迷している最も大きな要因は,被災者に対する周知が不十分であること,特に,ローンを抱える被災者の多くがローンに関して最も接触を持つであろう金融機関による周知が不十分であることが挙げられる。

 当会が会員を対象に行った調査によると,当会会員が被災ローン減免制度の相談を受けている被災者のうち,金融機関に相談した者延べ38名の中で,金融機関から同制度について教示を受けた者は15名にとどまっている。

 金融庁のヒアリング結果においても,被災3県の金融機関の住宅ローンの債務者のうち,平成24年4月末現在で支払猶予を受けている債務者は931名であるのに対し,正式に条件変更契約を締結した債務者は5444名と6倍近くの人数となっており,被災ローン減免制度の利用ではなく,リスケジュールが着々と進行していることがうかがわれる(金融庁「東日本大震災以降に約定返済停止等を行っている債務者数及び債権額」平成24年8月版)。

 被災ローン減免制度により救済されるべき被災者が,その存在を知らないがために同制度を利用せず,その結果,本来であれば生活再建のための資金となるべき義援金や被災者生活再建支援金等がローンの支払いに充てられて減少していくことは,義援金等の給付の趣旨に反するものであるし,何より被災者の生活再建をはかるという同制度制定の趣旨を没却するものである。

 また,現在は弁済猶予を受けている被災者についても,それにより二重ローンが解消するものではなく,問題の先送りに過ぎないのであるから,速やかに同制度の利用を促すことが必要である。

 金融庁は,これらの問題を踏まえ,平成24年7月24日,「金融機関は,債務者の状況を一層きめ細かく把握し,当該債務者に対してガイドライン利用のメリットや効果等を丁寧に説明し,当該債務者の状況に応じて,ガイドラインの利用を積極的に勧めること」との通知を出している。

金融機関は,金融庁の上記通知を遵守し,すでにリスケジュールを行っている者や弁済猶予を受けている者も含めた全ての被災者に対し,被災ローン減免制度の積極的かつきめ細やかな周知を行い,同制度の利用を積極的に勧めるべきである。

そして,金融庁には,金融機関が上記通知を遵守するよう,今後も金融機関に対し適切な指導・監督を行うことが求められる。

 

3 防災集団移転促進事業における被災ローン減免制度の利用の必要性

 宮城県内の複数の自治体では,津波による被災を受けた地域を中心に,防災集団移転促進事業の計画が進行している。

 防災集団移転促進事業においては,自治体による土地の買取りが行われるが,その前提として,土地に設定されている担保権を抹消する必要があるものとされている。しかしながら,いまだ多額のローンが残存する担保権の抹消方法が現時点では明らかになっていない上,仮に担保権の抹消及び自治体による買取りが実現できたとしても,買取り代金をもってしても払い切れずに残存したローンがどのようになるのかも明らかではなく,ローンを抱える多くの被災者が不安定な立場に立たされている。

 しかしながら,自治体による土地の買取りに伴う担保権の処理,そして買取り代金をもってしても残存するローンの減免等の処理は,まさに被災ローン減免制度が生かされるべき場面である。

 各自治体においては,早急に,ローンが残存する担保権を抹消して防災集団移転促進事業に参加するためのスキームを構築するとともに,被災者に対し,被災ローン減免制度の存在を周知徹底し,同制度の利用可能性がある被災者に対しては,積極的に同制度の利用を促すことが求められる。

 

4 被災ローン減免制度の運用上の課題

(1)被災ローン減免制度の制定目的に沿った運用の必要性

 被災ローン減免制度の運用は,個人版私的整理ガイドライン運営委員会(以下「運営委員会」という)により担われている。運営委員会は,同制度による債務整理の的確かつ円滑な実施のために設けられた第三者機関であり,同制度の解釈や運用方針も,実務上,運営委員会により決定されている。

 ところが,従前の運用においては,運営委員会が,被災者の生活再建支援という同制度の制定目的に沿った運用を行っているといえるのか疑問を呈せざるを得ない場面が散見された。たとえば,ガイドライン適合性が認められると思われる弁済計画案であっても,運営委員会により,債権者の同意を得やすくするためとの理由から,被災者にとって不利益な方向での変更が求められたという事例が報告されている。このような運用が慣例化すれば,被災者の生活再建という同制度の制定目的を没却することになりかねない。

 最近になり,運営委員会においても上記のような問題について改善の方向性を示しつつあるが,運営委員会は,なお一層,被災者の生活再建という被災ローン減免制度の制定目的に沿った運用を行うよう努めるべきである。

(2)迅速な運用の必要性

 被災者が一日も早く生活再建を果たすためには,何より,スピード感のある解決が重要である。しかしながら,これまでの運用は,迅速さに欠けていたとの指摘をせざるを得ないものであった。

 被災者が運営委員会に対して申出書を提出しても,それが債権者に送付されるまで1か月以上かかることも決して珍しくはなかった。その結果,一時停止の開始が遅れ,それまでの間,被災者は債務の弁済の継続を余儀なくされるという弊害も発生している。

 また,被災者が弁済計画案を提出した後も,被災ローン減免制度が予定している弁済計画案提出期限内に債権者に弁済計画案が送付されずに期限の延長を余儀なくされる事例も見られた。

 以上の結果,被災ローン減免制度の申出書提出からかなりの期間が経過しているにもかかわらず,いまだに結論が出ず不安定な立場に立たされている被災者が少なくない。このことは,同制度の運用開始から1年が経過しようとしているにもかかわらず,成立件数はわずか55件にとどまっているという数字にも如実に表れている。

 この点,運営委員会も,最近になり提出書類の簡素化をはかるなど,迅速化に向けての一定の努力はしているものの,被災ローン減免制度を被災者にとってより利用しやすい制度とするためには,さらなる迅速化をはかることが不可欠である。

 そして,被災ローン減免制度は,被災者の生活再建のために被災地において運用されているものであるから,被災地の現場における判断を尊重することが,迅速な運用につながるはずである。運営委員会は,被災地の登録専門家の判断を尊重すること等により,なお一層迅速な運用を行うべきである。

(3)ガイドライン適合性が認められる弁済計画については債務整理が成立するとの実務慣行の確立の必要性

 被災ローン減免制度を被災者にとって利用しやすい制度にするためには,同制度を利用した場合の見通しが明確でなければならない。そのためには,ガイドライン適合性が認められる弁済計画案については債務整理が成立するという実務慣行を確立することが極めて重要である。

 そこで,運営委員会においては,ガイドライン適合性が認められる弁済計画案についてはすみやかに債権者に送付し,債権者に被災ローン減免制度の趣旨や弁済計画案のガイドライン適合性を十分に説明する等合意の成立に向けて努力することが求められる。

 また,金融機関においては,被災者の生活再建という被災ローン減免制度の制定目的を尊重し,ガイドライン適合性が認められる弁済計画案が提出された場合には,債務整理の成立に向けて誠実に協力する等適切な対応をとることが求められる。

 さらに,金融庁においては,上記のような実務慣行の確立のため,金融機関が適切な対応をとるよう,しかるべき指導・監督を行うことが求められる。

(4)被災地の意見が反映される体制の構築の必要性

 現在,運営委員会が被災ローン減免制度の運用方針を決定するに際して,被災地で同制度の具体的案件に関与している登録専門家等の弁護士の意見が反映される体制が十分に構築されていない。

 しかしながら,被災ローン減免制度は,被災地における被災者の生活再建を目的として運用されているものなのであるから,被災地の弁護士会との継続的かつ定期的な協議を行う等,現実に被災者の支援にあたり,被災地の実情も熟知している被災地の登録専門家の意見が十分に反映される体制の構築が求められる。

 

5 結語

 被災ローン減免制度を,二重ローンに苦しむ被災者の救済策として,真に実効性あるものとするためには,早急に上記の諸課題を克服していかなければならない。

 そこで,当会は,関係各機関に対し,以下のとおり求めるものである。

(1)金融機関に対しては,

  ① すでにリスケジュールを行っている者や弁済猶予を受けている者も含めた全ての被災者に対し,被災ローン減免制度の積極的かつきめ細やかな周知を行い,同制度の利用を積極的に勧めること

  ② 被災者が被災ローン減免制度を利用した場合においては,被災者の生活再建という同制度の制定目的を尊重し,ガイドライン適合性が認められる弁済計画案が提出された場合には債務整理の成立に向けて誠実に協力する等,適切な対応をとること

(2)金融庁に対しては,金融機関が上記(1)の対応等を確実に行うよう,適切な指導・監督を行うこと

(3)宮城県内の各自治体に対しては,ローンが残存する担保権を抹消して防災集団移転促進事業に参加するためのスキームを速やかに構築するとともに,被災者に対し被災ローン減免制度の存在を周知徹底し,同制度の利用可能性がある被災者に対しては同制度の利用を積極的に勧めること

(4)一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会に対しては,

  ① 被災ローン減免制度の制定目的である「被災者の生活再建」に沿った運用を行うこと

  ② 被災地の登録専門家の判断を尊重すること等により迅速な運用を行うこと

  ③ ガイドライン適合性が認められる弁済計画案についてはすみやかに債権者に送付し,合意の成立に向けて努力すること

  ④ 被災ローン減免制度の運用方針の決定にあたっては,被災地にて同制度の運用に関与している登録専門家等の意見が十分に反映される体制を構築すること

当会は,今後も,二重ローンに苦しむ被災者が一人でも多く救済されるよう,被災ローン減免制度の運用改善に尽力していく決意であることをここに改めて表明するものである。

2012年(平成24年)8月21日

仙台弁護士会 会長  髙  橋  春  男

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