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発達障害のある被告人による実姉刺殺事件判決に関する会長声明

2012年08月22日

発達障害のある被告人による実姉刺殺事件判決に関する会長声明

 大阪地方裁判所は、本年7月30日、発達障害がある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、被告人に対し、検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。同判決は、アスペルガー症候群という精神障害が認められる被告人に対し、動機の形成過程にその障害が影響しており、被告人が未だ十分な反省に至っていないことには同症候群の影響があると認定した上で、「いかに精神障害の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば・・・被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される」ことや「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない」こと等を理由として、「被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」として、有期懲役刑の上限にあたる量刑での判決を言い渡した。
脳機能障害が原因とされるアスペルガー症候群の特性は、他人の心情をくんだり、自分の内面を表現したりするのが苦手で、対人関係の構築が難しい場合が多いとされるが、この障害があることが反社会的行動に直接結びつくわけではない。それにも関わらず上記判決は、アスペルガー症候群について十分な医学的検討を加えることなく、障害の存在を社会的に危険視した認定を行っており、発達障害に対する正しい理解を欠いているばかりか、障害に対する社会的偏見を助長させかねない危険性を有している。
また、刑事施設における発達障害に対する治療・改善体制や矯正プログラムの現状は十分なものとはいえないことから、長期収容によって被告人の発達障害が改善され、内省を深めることはほとんど期待できない。むしろ、発達障害者に対する受け皿については、発達障害者支援法に基づく支援策等により社会的な整備が進んでいるのであり、上記判決はこのような現状の正確な理解を欠いている。
以上のような現状認識の誤りに止まらず、上記判決は、社会的な受け皿が十分ではないという障害者本人の責に帰すことができない事情や障害による再犯のおそれ等を理由として、被告人の刑を加重するという判断を行っている。このような判決の考え方は、刑法の大原則である責任主義を真っ向から否定し、障害者を社会から隔離する社会防衛的な発想であり、到底許されるものではない。
さらに、本件においては、審理や評議にあたり、裁判員が当該障害の特性を正しく理解できるように、十分な対応がとられたのかという疑問を禁じ得ない。裁判員裁判において、本件のような障害を有する者の審理を行うにあたっては鑑定手続等により量刑判断に必要な医学的・社会福祉的情報が提供され、評議では裁判長から刑法上の理念や原則の説明が適切に行われなければならない。上記判決においては「被告人は未だ十分な反省に至っていない」と断じているが、深く反省していても、それをうまく表現できないアスペルガー症候群の特性を慎重に検討した上で、責任主義の原則を踏まえた審理がなされたのか大いに疑問が残る。
当会は、本判決が発達障害者に対する理解を欠いて行った不当な判断に対し問題点を指摘するとともに、このような判決により、発達障害者に対する社会的偏見や、社会防衛のための不当な収容が助長されかねないことに重大な懸念を表明する。

2012年(平成24年)8月22日

                      仙台弁護士会
会長 髙 橋 春 男

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