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平成20年6月18日意見書

2008年06月18日

地方消費者行政の抜本的拡充のため法制度の整備等を求める意見書採択のお願い

仙台弁護士会

会 長  荒   中

 

第1 件名

 地方消費者行政の抜本的拡充、及び、必要な法制度の整備等を求める意見書を政府等に提出することを求める件

 

第2 依頼の趣旨(要旨)

 消費者行政一元化の推進をはかるため、宮城県議会は、内閣、国会及び関係省庁に対し、以下の事項を求める意見書を採択されたい。

1 消費者の苦情相談が地方自治体の消費生活相談窓口で適切に助言・あっせん等により解決されるよう、消費生活センターの設置・業務・機能等を法的に位置づけるとともに、消費者被害情報の集約体制を強化し、国と地方のネットワーク構築すること等、必要な法制度の整備をすること

2 地方消費者行政の体制・人員・予算を抜本的に拡充強化するための財政措置をとること

 

第3 依頼の理由

1 消費者被害多発の現状

 近年、食品の安全・表示分野における輸入冷凍餃子への毒物混入事件、こんにゃくゼリーによる窒息死事故や一連の食品偽装表示事件、製品の安全分野におけるガス湯沸かし器一酸化炭素中毒事故、シュレッダーによる指切断事故、取引分野における大和都市管財事件、英会話教室NOVA事件、多重債務被害、クレジット被害、投資詐欺商法、架空請求・振り込め詐欺など、多くの分野での消費者被害が次々と発生ないし顕在化した。

 そして、これら被害を救済・予防できない消費者行政の仕組みや体制の問題性が指摘されている。

2 「消費者行政一元化」政策における地方消費者行政の位置づけ

 このような中、政府は、消費者・生活者重視への政策転換、消費者行政の一元化・強化の方針を打ち出し、「消費者行政推進会議」(以下、「推進会議」という)を設置して具体的方策について積極的検討を進めた。公明党はこれに同調し、民主党は消費者権利擁護官制度の制定を求め、共産党、社民党も、消費者行政の一元化に向けて賛意を示していると聞く。

 推進会議は、本年6月13日「消費者行政推進会議取りまとめ」(以下、「取りまとめ」という)において、強い権限を持った「消費者庁の創設」等を提言し、秋の臨時国会で「消費者庁設置法案」等の骨格法が制定される見通しとなっている。

 この間の議論検討を通じて、真に消費者利益が守られる消費者行政を実現するためには、消費者に身近な地方の消費生活相談窓口の役割が重要であることが強く認識される一方で、現実の地方消費者行政は、大幅な予算減・人員減などにより疲弊し、機能不全を起こしている現状も明らかになった。その結果、以下のとおり、いくつもの報告・提言において、「地方消費者行政の充実強化」が、消費者の目線に立った「消費者行政一元化」を実現するため必須の課題として位置づけられるに至っている。 

(1)推進会議取りまとめ

 推進会議取りまとめは、強い権限を持ち、「消費者を主役とする政府の舵取り役」となる新組織として消費者庁(仮称)を来年度に創設すること、これを実効あらしめるためには地方消費者行政を飛躍的に充実させる必要があるとして、地方消費者行政の重要性を明示した。

 すなわち、取りまとめは、消費者が頼れる分かりやすい一元的な相談窓口の設置を重要な柱として掲げ、地方の消費生活センターを法的に位置付け、地方消費生活センターと国民生活センターが連携して全国ネットワークとする構想を示した。そして、「霞ヶ関に立派な新組織ができるだけでは何の意味もなく、地域の現場で消費者、国民本位の行政が行われることにつながるような制度設計」を行うこと、そのために「新組織の創設とあわせて、地方分権を基本としつつ、地方の消費者行政の強化を図ること」が必要であると述べ、地方消費者行政部門の予算が大幅に削減され弱体化している現状を踏まえ、地方の消費行政をこの1.2年の間に飛躍的に充実させるためには、特に当面、思い切った取組が必要であること、そのためには、地方自治体自らが消費者行政部門に予算、人員の重点配分をする努力が不可欠であると同時に、国において相当の財源確保に努めるべきである旨提言している。

(2)国民生活審議会総合企画部会報告

 本年3月27日の国民生活審議会総合企画部会報告においても、都道府県及び市町村における消費生活センターの相談体制の充実・強化、センターにおける助言やあっせんの拡充を図るため、人材・予算の確保、専門性等を発揮できるような環境整備を行うことなど、地方消費者行政を強化すべきことが提言されている。

(3)自民党消費者問題調査会のとりまとめ

 自民党消費者問題調査会は、本年3月19日のとりまとめにおいて、「産業育成官庁から独立し、消費者・生活者目線で他省庁に司令を出す『消費者庁』の新設(強い監督権限)」と並んで、「地方消費者行政の充実」「相談窓口の一元化」を重要な課題とした。

(4)民主党の消費者権利擁護官構想

 民主党は、内閣の外に強力な勧告権限を有する消費者権利擁護官法案を策定中であるが、同構想もまた、国民生活センター及び地方の消費生活センターを消費者権利擁護官の元において情報集約することを想定しており、地方の相談窓口を拡充・強化することが消費者行政を強化する基盤であるという認識において共通するものであり、政府・自民、公明各党の「消費者庁」と両立する見解であるとされている。

 

3 消費者被害の増大と地方消費者行政の縮小

(1)消費者被害相談件数の増大

 全国548箇所の消費生活センター寄せられる苦情相談件数は、1995(平成7)年度が274,076件であったものが、98(平成10)年度には415,347件、2002(平成14)年度には873,663件、06(平成18)年度には1,097,117件と大幅に増大している。03年度から05年度に架空請求事案により相談件数が突出して激増した時期を除外しても、06年度の相談件数は95年に比べ約4倍に増大している。

(2)地方消費者行政予算・人員の大幅減少の推移

 ところが、地方消費者行政予算の推移を見ると、ピーク時の1995(平成7)年度が約199億円(都道府県・政令指定都市・市区町村合計)であったものが、98(平成10)年度には163億円、2002(平成14)年度には144億円、2006(平成18)年度には116億円、07(平成19)年度には108億円と大幅に減少している。つまり、07年度の予算は1995年度に比べ約54%(約46%減)と半減しているのである。

 中でも、都道府県については、95年度127億円から07年46億円(うち11億円は東京都予算であり、35億円が他の府県合計)と約36%(約64%減)となり、予算減少が極めて大きい。

 地方自治体の消費者行政担当職員数(事務職員・相談員・技術職員)をみても、ピーク時の02(平成14)年度の13,664人(うち事務職員10,397人)から07(平成19)年度は10,212人(うち事務職員6,572人)となり、担当職員数合計で75%、事務職員数では約63%にまで削減されている。商品テストを扱う技術系職員は97(平成9)年度227人から07年度101人と44%半減以下となっている。

 地方自治体の財政難が指摘されているが、一般会計予算は、ピーク時の01(平成13)年度が89兆3071億円であったものが、07(平成19)年度には83兆1261億円と、約93%(約7%の減少)になり、一般行政部門の公務員数は、02年度を100%とすると07年度は91%(約9%の減少)となっている。

 これらと比較すると、地方自治体の財政難に伴なう予算減少幅に比べ、消費者行政予算の減少幅(全国予算54%・都道府県予算36%、事務職員63%、技術職員半減以下)が、異常に大きいことは明らかである。

 

4 地方消費者行政充実の必要性

(1)消費者行政の役割・消費生活相談の機能

 消費者行政の役割は、消費者の苦情・被害を相談窓口で把握し、専門的知見に基づいて適切かつ迅速な被害救済を図るとともに、その情報を迅速に集約して適切に分析し、被害の未然防止・拡大防止のために事業者規制や消費者啓発の施策を講じ、さらに法制度の不備を改善する政策の立案・推進に結びつけることである。

 消費者が消費者行政に関わる入り口は、消費生活センター等相談窓口における相談であり、消費生活相談には、以下ア、イの2つの機能がある。

ア 個別救済機能

 相談した消費者個人のトラブルを解決する機能。消費者への助言、あっせん解決。事業者に契約解除させて返金させる、商品を修理させたり交換させる、損害賠償させるなど。

イ 制度改善機能 「相談のセンサー機能」

 原因を究明し苦情の再発を防止する、事業者規制行政のアンテナというべき機能である。例えば、製品の苦情では事業者に欠陥商品のリコール、設計の改善、表示の改善をさせる。取引の苦情では、販売方法や契約条項を改善させる。違法行為があれば監督官庁に通報して必要な処分を下してもらう。一事業者の問題に止まらないときは監督官庁に、法令改正や業界指導の改善を要望するなど制度改善を求める。

 また、苦情相談をPIO−NET(全国消費生活情報ネットワークシステムの略称:国民生活センターにホストコンピューターを置き、全国約400のセンターに端末機を設置する苦情集約システム。平成18年度は約111万件の苦情相談が蓄積された)に入力して蓄積し、全国的な苦情の発生状況の把握、消費者に対する情報の発信、立法や行政における施策立案の基礎資料とする。

(2)地方消費者行政の機能不全の現状とその充実強化の必要性

 上記消費生活相談の機能を見れば明らかなとおり、消費者行政は、消費者から多くの相談が寄せられ、情報が収集されることにより機能するのであり、消費者行政は、地域住民が直接接する地方の相談窓口など地方消費者行政が充実してこそ初めて実現するものである。

 ところが、地方消費者行政は、上記のとおり地方自治体の財政削減などにより縮小・後退を続けてきたのであり、地方消費者行政が疲弊し、十分な相談体制がとれない、あっせん率低下、被害救済委員会が機能していない、被害情報集約による事業者規制権限の行使や被害予防などの制度改善機能、消費者啓発も十分行えないなど、機能不全に陥っている実態が明らかとなった。

 宮城県においても、あっせん解決率が2007(平成19)年度2.3%と低い水準に推移し、行政処分は過去に1件(指示)のみであることなどに照らし、全国と同様の疲弊した実情にあると判断される。

 消費者行政一元化の推進を真に消費者の利益に結びつけるためには、この傾向を抜本的に改め、地方消費者行政の強化・拡充を行うことが不可欠である。

(3)「多重債務問題改善プログラム」等における地方相談窓口の重要性

 貸金業法改正に伴い、多重債務問題の解決に向けて、金融庁と地方自治体の協力体制の下で「多重債務問題改善プログラム」が実施され、成果を上げている。同プログラムの実施において地方の相談窓口が十分な役割を担うためにも、地方消費者行政における予算・人員の拡充強化が是非とも必要である。

 

5 地方消費者行政の疲弊の原因と必要な対策

(1)地方消費者行政予算・人員の異常な削減は、事前規制の緩和に伴なう事後規制の強化が叫ばれているわが国の政策の基本方針に反し、消費者行政が余りにも軽視されてきたという実情を如実に現している。

 消費者基本法19条は、地方自治体は、消費生活に関する苦情相談が専門的知見に基づいて適切かつ迅速に処理されるよう、苦情のあっせん処理に努めるべきものと定めている。

 国自体が「生産者重視から消費者・生活者重視」へと政策転換を行おうとしている現在、消費者のための消費者行政実現のため、地方自治体が担うべき役割が抜本的に見直される必要がある。

(2)予算・人員の異常な削減については、地方財政が窮迫する中、以下のような要因の下で、予算を削りやすい分野となっていた消費者行政に皺がよせられていることが指摘できる。すなわち、

 他の行政分野では、例えば学校の教員や消防署員の定員を法制化したり、一定の事業を法的に位置づけるなどの法的措置があるのに対し、消費者行政分野では、地方自治体にすべてを任せるだけで消費生活センターの事業内容や職員定員の確保に関する法制度の手当ても財政措置もほとんどなされていない。

 また、地方消費者行政は、国庫交付金等が徐々に廃止され、現在は自治体単独事業化している。

 予算編成上、法律上義務づけられた事業や国庫補助事業の予算が優先、温存されやすいのに比べ、自治体単独事業はそのような防波堤もなく、その結果、地方自治体全体の財政対策として、消費者行政分野が集中的に削減されてきたのが実情である。

(3)地方自治体において、消費者行政の重要性を見直し、体制・人員・予算を抜本的に拡充強化することを検討すべきであることはもちろんであるが、国においても、国民生活の安心・安全を確保するために必要な共通事項について、消費者行政に関する事業の実施や人員の確保について法制化するなど、必要な法整備及び財政的措置をとることが、早急に検討されるべきである。

 

6 結び

 推進会議の最終とりまとめにおいて、上記のような消費者行政の充実強化策が提言されたが、これを具体化・実現するための法律の立案制定や予算措置には、まだ多くの抵抗や困難が伴うことが予想される。地方消費者行政の建て直し・強化は急務であり、これを早期に実現するためには、地方消費者行政の担い手である地方自治体から国に対して、積極的に法制度整備や予算措置を求める意見を出すことが必要である。

 以上の理由により、貴議会に対し、依頼の趣旨記載の意見書を採択されるよう要請するものである。

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