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平成17年8月24日意見書

2005年08月24日

金融庁事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の改正に対する意見書

仙台弁護士会会長  松 坂 英 明

 

                          意見の趣旨

 

 今般予定されている金融庁事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正にあたっては、現在公表されている改正案について、「貸金業者に取引履歴の開示義務があり、正当な理由に基づく開示請求を拒否した場合には行政処分の対象になり得ることを明確化する」との改正の趣旨には賛成であるが、以下の点の修正を求める。

 

(1)貸金業規制法第13条第2項の規定に該当する恐れが大きい行為の例示(3−2−2(6))の中に、「顧客等から貸金業者に対する過払金返還請求を目的とする取引履歴の開示請求に対し、開示を拒否しまたは虚偽の開示を行うこと」を明示すること。

 

(2)本人等の「十分かつ適切」な確認方法として、本人確認法に依拠した確認方法を例示した部分を削除し、

  ① 本人による開示請求の場合は、氏名及び顧客会員番号又は生年月日、住所を記載した取引履歴開示請求書で本人確認は足りることを例示し、さらに、本人確認の手続きが、開示請求者の負担とならないよう貸金業者に注意を喚起すること。

  ② 弁護士、司法書士という資格者による開示請求の場合は、これまでの実務どおり、所属会を明記し、依頼者の氏名及び顧客会員番号又は生年月日、住所を記載した受任通知で足りるとすること。

 

(3)貸金業者が開示にあたって手数料を徴収することが債務者に過重な負担を課すものであって許されないことを明確にすること。

 

                          意見の理由

 

1 金融庁は、本年8月12日、金融庁事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正について、別紙のとおりの改正案をまとめ、9月2日まで意見照会している。

 

2 取引履歴開示義務の明示には賛成である。

 本年7月19日、最高裁判所は、貸金業者が「貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う」、との判断を示した(最高裁判所第三小法廷平成17年7月19日判決)。このたび、速やかにガイドラインを改正して貸金業者の取引履歴開示義務を明確化することは、まことに時宜に適った措置である。

 

3 取引履歴開示請求の「正当事由」に「過払金の返還請求」も加えるべきである。上記の最高裁判決は、債務者が債務内容を正確に把握出来ない場合には、「弁済計画を立てることが困難になったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る」ことなどに鑑みて、取引履歴開示義務が存在するとの結論を導いている。

 そうである以上、一部改正(案)のうち、事務ガイドライン3−2−2にいう取引履歴開示請求の「正当な理由」として「弁済計画の策定、債務整理」だけを例示し、「過払金の返還請求」について殊更に言及を避けているのは、不適切である。「過払金の返還請求」も、取引履歴開示請求の正当理由のうちに含まれることを明記すべきである。

 

4 本人確認法上の本人確認手続を取引履歴開示に持ち込むことは、債務者に過度の負担を課す重大な誤りである。

 今回の貸金業ガイドライン改正案は、取引履歴開示請求に際しての本人確認について、いわゆる本人確認法(金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律)所定の本人確認方法を「十分かつ適切」な本人確認方法として例示していることには、以下に述べるとおり重大な問題がある。

(1)そもそも、本人確認法は、テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために金融機関の預金口座が不正利用されることを防止するために(同法1条)、極めて厳格な本人確認の手続を定めた法律であって、上記犯罪行為とは全く無関係の取引履歴開示請求について、かような厳格な本人確認を求めることには、何らの法的根拠もない。

(2)加えて、本人確認法に基づく厳格な本人確認を要求することは、従来の取引履歴開示の実務では用いられてこなかった厳格な手続を要求するものであって、債務者に過度の負担を課すことになる。

 すなわち、従来の取引履歴開示の実務において、特に弁護士が代理人として関与する場合については、貸金業規制法21条1項6号所定の「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知」(いわゆる受任通知書)が、債務者の代理人であることの十分かつ適切な確認資料であるとされてきた。実際、多くの貸金業者は、個人情報保護法が施行された現在においても、受任通知書の送付をもって代理権確認の方法とすることを、従前通り異議なく認めているのである。

 こうした現状に鑑みるなら、本人確認のために免許証等本人確認書類の原本または実印を押印した委任状と印鑑証明書の「提示」を要求する今回の貸金業ガイドライン改正案の内容が、債務者に対して従来より著しく煩瑣な手続を要求するものであって、これが債務者にとって過度の負担であることは明らかである。

(3)したがって、今回の貸金業ガイドライン改正案において、本人等の「十分かつ適切」な確認方法として、本人確認法に依拠した確認方法を例示した部分については、全面的に削除されるべきである。

   その上で、取引履歴の開示を求めることは顧客の権利であることをふまえ、①本人よる開示請求の場合は、現在の実務を前提に、氏名及び顧客会員番号又は生年月日、住所を記載した取引履歴開示請求書で本人確認は十分であることを例示し、かえって、本人確認手続きに伴う負担が顧客等(弁済済みの者も含む)による、開示請求権の行使を妨げることがないよう貸金業者に注意喚起すべきである。②弁護士、司法書士による場合は、現行実務で、確立している、受任通知(依頼者の氏名及び顧客会員番号又は生年月日、住所で依頼者を特定すること)で足るものとすべきである(代理人資格の確認のため、所属会の明記は必要である)。

   最高裁判決が出され、実体的に取引履歴の開示義務を貸金業者が負うことになった時期に、実務で形成された取引履歴開示の慣行を特段のトラブルのないのに、手続き規定を加重して最高裁で認められた開示請求権を制限することを認めることは出来ない。

 

5 手数料の徴収は許されないこと

 また、一部の貸金業者の中には、取引履歴の開示にあたって、個人情報保護法を根拠に、手数料を要求するものがある。

 しかしながら、既に述べたとおり、信義則に基づく取引履歴開示請求は個人情報保護法25条1項に基づく開示請求とは関係ないのであるから、個人情報保護法30条1項を根拠に手数料を請求する貸金業者の主張は誤りである。上記最高裁判決も認定するとおり、「貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり、貸金業者に特段の負担は生じない」にもかかわらず、貸金業者が手数料を要求することは、個人情報保護法を口実として取引履歴開示請求に不当な制限を加えようとするものであって、到底許される行為ではない。

 本ガイドライン改正に当たっては、このような不当な要求を拒否する条項を盛り込むべきである。

 

6 まとめ

 よって、当会は、金融庁の事務ガイドライン改正案が、貸金業者に取引履歴の開示義務を認めたことは十分評価するとしても、過大な本人確認書面の要求など、多重債務者救済の実務に大きな混乱を生じさせ、その救済を大きく損なうことから、適正かつ迅速な取引履歴開示が促進され、債務者の権利が確保されるよう本意見書を提出するものである。

 以 上

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