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災害援護資金貸付に関する償還金の支払猶予や免除の交渉を民事法律扶助の対象とすることを求める意見書

2023年05月18日

災害援護資金貸付に関する償還金の支払猶予や免除の交渉を民事法律扶助の対象とすることを求める意見書

2023年(令和5年)5月18日

日本司法支援センター
理事長 丸  島  俊  介 殿

仙 台 弁 護 士 会

会 長  野  呂    圭

第1 意見の趣旨
 市町村を貸主とした災害援護資金貸付に関する償還金の支払猶予や免除の交渉につき、これを民事法律扶助の対象としない運用を改め、民事法律扶助の対象とすることを求める。
 
第2 意見の理由
1 災害援護資金貸付の実態
未曾有の大災害であった東日本大震災の発生後、被災者には生活再建のために、被災者生活再建支援金や義援金などの給付がなされた。しかし、失ったものがあまりに大きい大災害であったことから、これらだけでは復旧復興のために不足する世帯が多数存在した。
このような給付型の資金では生活再建が果たせない者に対して、災害弔慰金の支給等に関する法律10条に基づく災害援護資金貸付が行われた。災害援護資金貸付は、法的には、市町村から被災者に対する貸金であり、公債権(地方自治法第231条の3第1項)ではなく、単なる私債権として位置づけられる。
東日本大震災の被災者に対する災害援護資金貸付は、貸付から6年間は償還が据え置かれ、貸付から13年以内に償還を完了することになっている。2021年9月末時点での貸付状況は、宮城県全体で貸付件数2万4004件、貸付総額409億円、うち仙台市においては貸付件数1万5137件、貸付総額233億6000万円とのことであり 、少なからぬ県民が、市町村から災害援護資金貸付を受けている状況にある。
 
 2 償還の困難さ(代理援助の必要性が大きいこと)
しかし、災害援護資金貸付は、世帯収入が低い世帯を対象とした貸付であったことから、その償還に困難を来す世帯が後を絶たず、市町村もその対応に苦慮しているのが現状である。
このような、償還ができない被災者は、借入をした市町村に対し、償還金の支払猶予(災害弔慰金法13条、同法施行令12条)を求めて、交渉を行う必要がある。しかし、現在仙台市などで行われている運用では、原則として当初定められていた償還額の半額以上の償還(一部支払猶予)を前提としているため、償還額の半額を償還することすら困難な被災者については、個別具体的状況を詳しく説明して償還の全部猶予を求めていく必要がある。この手続は、一般的な貸金における任意整理とほぼ同じ作業となる。
さらに、償還未済額の全部又は一部の免除を定める災害弔慰金法14条は、免除できる場合の例として貸付を受けた者の死亡を挙げているところ、津波被災地は高齢化が進んでいる地域であったことから、貸付を受けた被災者が死亡するなる例も増えている。このような場合に、災害援護資金貸付の償還義務を免除するか否かは、貸付をした市町村の裁量に委ねられていることが当会と内閣府との協議(2022年6月2日)において確認されている(なお、当会の2021年12月23日付け「災害援護資金貸付の免除に関する意見書」も参照。)。
そこで、死亡した借主の相続人は市町村との間で免除を求めた交渉をしていくこととなる。
このような、災害援護資金貸付の償還金の支払猶予及び免除に関しては、弁護士の助力の必要性は極めて高い。実際に、裁判前において、弁護士が代理人として市町村と交渉した結果、和解が成立した事例もある。
一方、償還を十分にできない世帯については、現在、貸金請求の支払督促が申し立てられつつあり、当会が市町村からの聞き取ったところによると、2022年中の支払督促申立件数は仙台市124件、富谷市2件、東松島市1件と、無視できない件数となっている。実際、当会の災害援護資金貸付に関する相談窓口の担当弁護士にも、支払督促に関する相談が数件寄せられており、償還ができなければ裁判手続がとられるという流れが確立しつつあると言える。なお、当然のことながら異議申立により通常訴訟に移行した後の事件名は「貸金請求事件」とされている。
このような裁判手続になる前に、償還金の支払猶予や免除の交渉をしておくことは、被災者の迅速かつ効率的な権利実現のためには極めて重要な手続となっている。
そして、災害援護資金貸付を受けた被災者は、経済的に困窮したからこそ貸付を受け、困窮しているからこそ償還金の支払猶予の手続を望んでいるのであるから、そのような被災者が償還金の支払猶予を求めて交渉することを弁護士に依頼する場合には、その多くが日本司法支援センター(以下、「法テラス」という。)の民事法律扶助(代理援助)を必要とするであろうことは当然に想定される。
 
3 業務方法書8条1項3号により民事法律扶助(代理援助)の対象になること
民事法律扶助事業は、総合法律支援法30条1項2号から4号までの業務及びこれらに附帯する業務がその対象であるが、総合法律支援法34条を受けて制定された業務方法書8条1項3号において、「裁判前代理援助」として「民事裁判等手続に先立つ和解の交渉で、これにより迅速かつ効率的な権利実現が期待できるなど案件の内容や申込者の事情などにより弁護士・司法書士等による継続的な代理が特に必要と認められるもの」が援助対象とされている。
前記2で述べたとおり、災害援護資金貸付の償還が進まない案件については、支払督促という裁判手続がとられる傾向が顕著になっており、これに先立つ和解交渉をすることこそが、迅速かつ効率的な権利実現に資するものである。そして、このような交渉は、任意整理と同様の交渉となる以上、弁護士・司法書士による継続的な代理によってなし得るのであるから、援助の必要性も高い。
したがって、災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除に関する交渉については、業務方法書8条1項3号に該当する。
 
4 法テラス本部の見解の誤り
これに対して、法テラス本部は、現在、「災害援護資金貸付に関する猶予申請は、行政への申請手続に該当するので、民事法律扶助の対象とならない。」との見解を示し、また、内部基準である「民事法律扶助業務必携」を持ち出し災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除の交渉に関する代理業務について、民事法律扶助の適用を拒絶している。
しかし、上記見解は、前記3で述べた災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除に関する交渉の実質を正確に理解しないものであり、誤っている。
また、災害援護資金貸付は、償還金の支払猶予や免除の審査基準が公にされておらず(行政手続法5条参照)、標準処理期間も定められていない(同法6条参照)ことを踏まえると、支払猶予や免除は市町村長の「処分」(同法2条2号)とは認められず、それ故、支払猶予や免除を求める行為も「処分」を求める「申請」(同条3号)には該当しない。したがって、この点においても法テラス本部の見解は誤っている。なお、法テラス本部は、「必携」に「行政庁に対する各種の申請行為(労災手続や生活保護等の公的給付申請、精神保健福祉法による退院請求、就学指定校変更申請等)」との記載があり、災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除の交渉(ないしはその申入れ)もこれらと同じである旨主張するようであるが、上述したことからも明らかなとおり、「必携」で例示されている申請行為と災害援護資金貸付の償還に係る交渉は異質のものであるから、「必携」を持ち出してこれを否定する法テラスの見解は失当である。
さらに、法テラス本部は、「行政への手続について民事法律扶助を認めてしまうと、行政書士に援助を認めなければならないという問題が生じてしまう」との考えを持っているとのことであるが、これは法テラス本部が災害援護資金貸付に関する交渉の性質を、示談交渉(任意整理)ではなく「ただ申請すれば認められるもの」と誤解していることに基づくものであり、的を射た懸念ではない。すなわち、行政書士は、官公署に提出する書類の作成業務を行い、代理することもできるものの(行政書士法1条の2第1項、1条の3第1項1号)、弁護士法72条に該当する事案において、書類作成をしたり、代理人となったりするなどの法律事務を行うことはできない(行政書士法1条の2第2項、1条の3第1項本文)。そして、弁護士法72条における法律事件については、少なくとも、近い将来において法的紛議が生じることがほぼ不可避の案件についてはこれに該当するものとされているところ(最高裁平成22年7月20日決定、刑集第64巻5号193頁)、災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除の交渉は、償還が開始し、かつ、償還ができていない状況ないしは少なくとも近い将来において償還ができなくなる状況にある場合になされるものであるから、弁護士法72条の「法律事件」に該当することは明らかである。したがって、災害援護資金貸付に係る支払猶予や免除に関しては、行政書士が書面作成をしたり、代理業務を行ったりすることができないのであるから、上記法テラス本部の見解は、弁護士法及び行政書士法の解釈を考慮しない誤ったものである。
以上のとおり、法テラス本部の上記見解は誤っているため、是正されなければならない。
 
5 総括
総合法律支援法2条は、「総合法律支援の実施及び体制の整備は、(中略)あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して行われるものとする。」と定めているのであるから、災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除に関する交渉を民事法律扶助の対象外とすることは、法テラスがその職責を放棄するものと言わざるを得ない。
よって、当会は、法テラスに対し、市町村を貸主とした災害援護資金貸付に係る償還金の支払猶予や免除の交渉を民事法律扶助(代理援助)の対象とする運用を行うよう求める。

以 上

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