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仙台高等裁判所の旧優生保護法国家賠償請求訴訟判決を受けて、国に対し、全ての被害者に対する謝罪と速やかな被害回復措置を求める会長声明

2023年06月05日

仙台高等裁判所の旧優生保護法国家賠償請求訴訟判決を受けて、国に対し、
全ての被害者に対する謝罪と速やかな被害回復措置を求める会長声明

 仙台高等裁判所第1民事部(石栗正子裁判長、鈴木綱平裁判官、竹下慶裁判官)は、2023年6月1日、旧優生保護法に基づく優生手術を強制された被害者に対し、除斥期間を適用して被害者の請求を棄却した原審を維持する判決を下した。
 もっとも同判決は、原審と同様に不良な子孫の出生防止を目的に優生手術を強制した旧優生保護法は憲法違反であること、優生手術による被害者の権利侵害の程度は極めて甚大であり、そのために被害者には国に対する損害賠償請求権が発生したことを認めるものであり、旧優生保護法が戦後最大級の人権侵害を生んだ違憲な法律であるという司法判断は既に確立しているといえる。
 本件は、2018年1月30日、15歳の時に優生手術を強制された宮城県在住の60代の女性が全国で初めて国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟を仙台地方裁判所に提起し、その後の同種事件の先駆けとなった事件の控訴審判決であり、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下、「一時金支給法」という)が制定される契機となった事件でもある。
 1948年に制定された旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを「目的」とする優生思想に基づくものであった。同法が1996年に母体保護法に改正されるまでの間、不妊手術約2万5000件、人工妊娠中絶約5万9000件、合計約8万4000件にも達する優生手術が強制的に行われ、かつ、手術対象者への優生思想に基づく差別や偏見により、多くの被害者の尊厳を奪った。
 2019年5月28日、全国初の判決となった本件の一審の仙台地方裁判所判決は、旧優生保護法が憲法違反であることを認めたものの、除斥期間を理由に被害者の請求を棄却した。
 しかし、その後、同種訴訟において、2022年2月22日に大阪高等裁判所が、同年3月11日に東京高等裁判所が、いずれも国に損害賠償を命ずる判決を言い渡し、その後も、2023年1月23日に熊本地方裁判所が、同年2月24日に静岡地方裁判所が、同年3月6日に仙台地方裁判所が、同月16日に札幌高等裁判所が、同月23日には大阪高等裁判所が、それぞれ国に損害賠償を命じる判決を下している。
 これらの判決の積み重ねによって、優生手術により尊厳を奪われた被害者に対し、除斥期間を適用することは著しく正義・公平の理念に反するという司法の判断は大方固まったというべきである。また、これらの判決が、一時金支給法で定められた一時金の額を大幅に上回る賠償額が認めていることからすれば、同法による補償が不十分であることも明らかである。
 それにもかかわらず、本判決が、甚大かつ過酷な被害実態を認定しながら、除斥期間の適用について2022年2月以降の全国各地の高等裁判所・地方裁判所が示した一連の判断の流れと逆行する結論を導いたことは、国が被害者の人権と尊厳を蹂躙し、かつ優生思想に基づく差別や偏見を放置して被害者の権利行使を抑制し続けてきた事実から目を背け、「人権救済の砦」として被害者を救済すべき司法の責任を放棄したものと言わざるを得ない。
 被害者の多くは高齢であり、現に、全国における同種訴訟の原告の中には亡くなられた方が複数出ている。旧優生保護法に基づく優生手術が重大な人権侵害であることはもはや自明の事実である以上、除斥期間を適用して国の損害賠償責任を否定した本判決にかかわらず、すべての被害者に対し、一刻も早い全面的解決が図られるべきである。
 よって、当会は、これまでも繰り返し早期の全面的被害回復を求めてきたが、本判決を受けて、改めて、国に対し、被害者に対する謝罪と速やかな被害の全面的回復を行うことを求める。そして、一時金支給法を抜本的に見直すなどし、全ての被害者に対して十分な被害回復の措置を行き渡らせることを強く求めるものである。

2023年(令和5年)6月5日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  野  呂   圭

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