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過剰貸付による消費者被害を防止するための対策を求める意見書

2024年12月19日

過剰貸付による消費者被害を防止するための対策を求める意見書

金融庁長官 井 藤 英 樹 殿
指定信用情報機関 株式会社シー・アイ・シー 御中
指定信用情報機関 株式会社日本信用情報機構 御中
日本貸金業協会会長 倉 中 伸 殿

2024年(令和6年)12月18日

仙 台 弁 護 士 会 会 長

藤 田 祐 子

第1 意見の趣旨
1 金融庁は、過剰貸付による消費者被害を防止するべく、指定信用情報機関及び貸金業者に対し、監督権限を適切に行使するよう求める。
2 指定信用情報機関は、信用情報登録や更新をリアルタイムで行い、貸金業者がオンライン上で常に最新の信用情報にアクセスできるようにする等、信用情報を迅速かつ精緻に把握するよう求める。
3 日本貸金業協会は、貸金業者に対し、以下の各措置を取ることを周知徹底するよう求める。
⑴ 返済能力調査及び過剰貸付禁止の順守を徹底すること
⑵ 顧客に係る信用情報を即時に指定信用情報機関に提供すること
⑶ 新規契約、審査及び貸付等の諸手続を通じて、遠隔操作アプリを利用して同時に複数業者から借り入れさせる消費者被害があることを顧客に教示すること

第2 意見の理由
1 借金を要求される手法による消費者被害の急増
返済しきれないほどの借金を抱えてしまう多重債務問題は現在もなお深刻な社会問題である。近時は、SNSを利用した消費者被害の手法として、借金するよう指示して強引に契約を迫る手口が、20代の若者を中心に急増している。特に、遠隔操作アプリを用いて複数の貸金業者から次々に高額な借入れをさせる副業や投資被害が深刻であり、令和6年2月27日、5月16日には国民生活センターによって注意喚起がなされている。
上記手口は、指定信用情報機関制度の間隙を縫い、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)の各種規制を潜脱することを意図してなされているものと把握される。そのため、このような消費者被害を防止するためには、指定情信用報機関制度の精緻化及び貸金業者における貸金業法の各種規定の順守徹底が必要不可欠である。
2 貸金業法の関係規定
⑴ 返済能力の調査
貸金業者には、貸金業者による過剰貸付の抑制を図る観点から、貸付契約を締結しようとする場合において、顧客等の返済能力に関する事項を調査する義務が課されている(貸金業法13条1項)。
また、同調査の実効性を確保する観点から、貸金業者は、原則として個人である顧客等と貸付けの契約を締結しようとする場合には、返済能力の調査に際し、指定信用情報機関が保有する信用情報を使用しなければならない(同条2項)。なお、貸金業者は、個人の顧客を相手方とする貸付けに係る契約を締結したときは、遅滞なく、当該貸付けに係る契約に関する個人信用情報を指定信用情報機関に提供しなければならない(41条の35第2項)。
さらに、個人顧客に対する貸付けについては、指定信用情報機関への信用情報の照会に加え、返済能力調査をより精緻に行う観点から、①当該貸付けの金額が当該貸金業者の既存の貸付けの残高と合算して50万円を超える貸付けに係る契約、②当該貸付けの金額が当該貸金業者の既存の貸付けの残高と指定信用情報機関から提供を受けた他の貸金業者の貸付けの残高と合算して100万円を超える貸付けに係る契約の場合には、源泉徴収票等、顧客の資力に関する客観的な資料を徴求することを義務付けている(13条3項)。
⑵ 過剰貸付禁止及び総量規制
顧客の返済能力を精緻に把握することを前提に、貸金業者による顧客の返済能力を超える貸付け(過剰貸付)が禁止される(同法13条の2)。そして、顧客の返済能力を超えるか否かの判断基準の1つとして、個人顧客の年間の給与及びこれに類する定期的な収入の金額を合算した額(年収等)の3分の1を超える貸付けが原則として禁止される(総量規制。同条2項)。
⑶ 指定信用情報機関制度の位置づけと重要性
多重債務問題の解決のためには、顧客のリスクをより精緻に把握することが必要であり、そのためには、すべての貸付情報が信用情報機関に登録され、貸金業者が貸付けを行う際にそれが利用可能でなければならない。
こうした点を踏まえ、2006年(平成18年)改正貸金業法は、貸金業者が顧客のリスクを精緻に把握し、また、顧客の返済能力を超える貸付けを抑止し、もって過剰貸付規制の実効性を担保するとともに、貸金業者の与信審査の精度を上げるべく、指定信用情報機関制度を創設することにより、貸金業者が顧客の総借入残高を把握できる仕組みを整備した。
⑷ 小括
以上、指定信用情報機関制度の創設の経緯に鑑みれば、指定信用情報機関が保有する信用情報は、過剰貸付禁止及び総量規制等を実効あらしめるものでなければならない。指定信用情報機関による顧客の総借入残高等の把握の仕組みが不十分であれば、顧客の返済能力を超える貸付けが十分に抑止できない結果となる。
さらに、貸金業者において、十分かつ慎重な顧客の返済能力調査を前提に、過剰貸付禁止及び総量規制の趣旨に沿った貸付けがなされなければならない。
3 指定信用情報機関の機能不全と過剰貸付禁止及び総量規制の潜脱
⑴ 指定信用情報機関2社における貸金業法に基づく個人信用情報の登録や更新のタイミングは、いずれも新規契約および内容変更のあった時から最大で翌日までとされている。
⑵ ところが、上記1に代表される近時の消費者被害においては、業者は消費者に同日中に次々と複数の貸金業者からの限度額の借り入れをさせるため、指定信用情報機関への信用情報の反映がなされぬまま、高額の借り入れを余儀なくされる。新規契約及び登録時から信用情報反映時までの間隙を縫った手口であり、貸金業法における返済能力の調査、過剰貸付禁止及び総量規制が容易に潜脱されている現状がある。
4 貸金業者による返済能力調査の形骸化及び過剰貸付の実態
⑴ 貸金業者においても、大手貸金業者はスマートフォンを用いたメール・インターネットによる申し込みに応じ、電磁的方法による返済能力調査を行っている。とりわけ50万円以下の貸付けに対しては、顧客の収入等の自己申告に応じて、審査時間が極めて短く、安易な貸付けがなされているのが現状であると考えられる。
⑵ 安易かつ拙速な貸付判断がなされる結果、上述のとおり、指定信用情報機関への信用情報の反映がなされる前である場合、形式的に指定信用情報機関への照会を行っても信用情報が反映されず、他の貸金業者との関係での総量規制にも意を払われることなく、複数の貸金業者による高額な貸付けがなされ、もって消費者被害の一因となっている。
⑶ このように、貸金業者による返済能力調査の形骸化及び過剰貸付の実態は、多重債務問題をより深刻化させていると言わざるを得ない。
5 結論
以上から、当会は以下の各措置を取ることを求めるものである。
⑴ 金融庁は、過剰貸付による消費者被害を防止するべく、指定信用情報機関及び貸金業者に対し、監督権限を適切に行使するよう求める。
⑵ 指定信用情報機関は、貸金業法13条2項の趣旨を踏まえ、同規定の実効性をより確保すべく、信用情報を迅速かつ精緻に把握するよう求める。
もとより個人情報の適正な取り扱いは大前提であるが、個人信用情報の登録や更新が新規契約および内容変更のあった時から最大で翌日までという現行の運用は、複数の貸金業者から次々に高額な借入れをさせる消費者被害を未然に防止するためには到底十分ではなく、貸金業法の諸規定が容易に潜脱されている主たる原因の一つとなっている。
したがって、信用情報を迅速かつ精緻に把握する運用への改定を行うべきである。具体的には、個人信用情報の登録や更新をリアルタイムで行い、貸金業者はオンライン上で常に最新の信用情報にアクセスできるといった形の改定が考えられる。
これに対しては、技術上の制約や負担も生じるという事情があるとの指摘も考えられる。しかしながら、上記仕組みを構築するのは、改正貸金業法において指定信用情報機関が整備された経緯に鑑みれば当然の責務である。過剰貸付禁止及び総量規制等の実効化という指定信用情報機関制度の趣旨目的の重要性が優先されるべきことは明らかである。技術上の制約や負担を理由にこの要請が後退することは、貸金業法の趣旨目的に照らしても許されない。
⑶ 日本貸金業協会は、貸金業者に対し、以下の各措置を取ることを周知徹底するよう求める。
第一に、貸金業者は、貸金業法13条及び13条の2の趣旨を踏まえ、返済能力調査及び過剰貸付禁止の徹底をするべきである。特に、現状のように、電磁的方法をもって50万円以下の借り入れを簡易かつ拙速に行うのでは、総量規制の趣旨は全うされないばかりか、複数の貸金業者から次々に高額な借入れをさせる消費者被害を防止できない。したがって、慎重な返済能力調査を行い、即時の貸付けを差し控える等、返済能力調査及び過剰貸付禁止の徹底をするべきである。
第二に、貸金業者は、貸金業法41条の35第2項の趣旨を踏まえ、指定信用情報機関制度を実効あらしめるために、顧客に係る信用情報を即時に指定信用情報機関に提供するべきである。
第三に、貸金業者は、新規契約、審査及び貸付等の諸手続を通じて、本意見書で指摘したように、遠隔操作アプリを利用して同時に複数業者から借り入れさせる消費者被害があることを顧客に教示するべきである。

以上

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