弁護士人口の急増を避けるため司法試験合格者数を年間1500人程度から適正な範囲にとどめること等を求める会長声明
1 2025年11月12日、2025年度司法試験の最終合格者(以下「司法試験合格者」という。)が1581人と発表された。
司法試験の年間合格者数は、2016年度以降、1500人程度で推移しており、弁護士人口は、2014年3月31日時点では3万5045人だったが、2024年3月31日時点では4万5808人と10年間で1万人以上も急増している。
日本弁護士連合会による将来予測(弁護士白書2024年版)では、司法試験合格者数を年間1500人で固定した場合、2046年に弁護士人口は6万3804人とピークに達し、2061年以降は5万7000人前後で推移していくとされている。2023年と2046年を比較すると、弁護士人口が23年間で約2万人も増加することになる。
2 他方、わが国の総人口は今後減少していくと予想されていることから、2023年時点の弁護士1人あたりの人口数が2769人(推計総人口1億2435万2000人に対し弁護士人口4万4916人)であるのに対し、2061年時点では弁護士1人あたりの人口数は1662人(推計総人口9524万9000人に対し推計弁護士人口5万7309人)と、現在の半分強になる見込みである。
なお、日弁連の将来予測と同じ基準で司法試験の合格者数を年間1000人で固定した場合でも2046年には、弁護士人口は5万4956人(弁護士1人あたりの人口数が1965人)になると予測されるのであって、弁護士人口は確実に増加することになる。
3 また、民事訴訟事件の新受件数(地方裁判所)は、2013年において約14万7400件であったのに対し、2023年では約13万5600件となっており、10年間で1万件ほど減少している。
労働審判事件は、2013年は3678件であったが、2023年は3473件であり、やや減少している。
刑事事件の事件総数(地方裁判所)も、2013年において約5万2000件であったのに対し、2023年では約4万4000件と、10年間で約8000件減少している。
家庭裁判所の家事事件総数は増加傾向にある。ただし、顕著に増加しているのは家事審判事件のうち別表第一審判事件(成年後見申立、相続放棄申立等)である(2013年の約71万4200件から2023年に約98万6100件)。
別表第二調停事件(婚姻費用分担、財産分与、親権、遺産分割等)は2013年に7万 4870件だったところ、2023年には7万9220件と10年で約4000件の増加にとどまる。
別表第二審判事件は、2013年に約2万件であったところ2023年に2万1400件と増加しているが、1400件程度の増加にとどまる。
一方、別表第二以外の調停事件(主に婚姻中の夫婦の事件)は、2013年は約6万4700件だったが、2023年には約4万7000件と10年で約1万7700件も減少している。
したがって、これまでの家事事件の増加をもって弁護士の法的需要の増加とは評価できない(なお、上記の事件数等の数値は日弁連「弁護士白書」2024年版による)。
今後、親族法等の改正法(共同親権の導入等)の施行により、今後家事事件の件数がさらに増加する可能性はあるが、同改正法施行によって弁護士数の急増を吸収できる程度の弁護士の法的需要が今後喚起されると即断することはできない。
また、裁判所が関わる典型的な紛争案件は減ったとしても非紛争案件及び裁判所が関わらない紛争案件は増えているとの指摘がある。しかし、非紛争案件や裁判所が関わらない紛争案件が増加し、新たな法的需要が喚起されうるとしても、そうした法的需要の増加が、裁判所が関わる法的需要の減少や人口減少に伴う法的需要の減少を補うに足りると判断すべき客観的かつ明確な根拠は見当たらない。
4 以上によれば、年間司法試験合格者数1500人程度を維持すれば、法的需要に見合わない弁護士の供給過多が生じるおそれがある。
そもそも、弁護士は、裁判を受ける権利を実質的に保障するために不可欠の存在であるとともに、時として国家権力と対峙せねばならない重い職責を担う。この意味で弁護士は、司法制度の一翼を担う、いわば社会的インフラである。したがって、弁護士には、持続的な活動を可能とするだけの強固な活動基盤が確保されていなければならない。あるべき弁護士人口、及びそれと密接な関連がある司法試験の合格者数は、現実の法的需要を踏まえ、弁護士の活動基盤の確保という要請との調和の上に設定されるべきである。
しかしながら、このまま年間司法試験合格者数1500人程度が維持されれば、司法試験の合格者数が法的需要に見合わない数で高止まりして弁護士が供給過多となり、市場原理の下で過当競争が行われる結果、過度の営利化など弊害が生じることが強く懸念される。また、弁護士の職務のうち、公益活動や社会的弱者のための活動には通常十分な対価が伴っておらず、営利化になじまないものも多いことから、弁護士数の増加による過当競争が生じれば、弁護士がそうした業務を持続的に行うことができなくなるという事態となりかねない。そのような事態は、上述した社会的インフラである弁護士の活動基盤の確保という要請に反する事態であり看過できない。
5 ところで、近時は弁護士の大都市偏在の傾向が顕著になっており、小規模弁護士会への新規登録者が減少している。我が国全体の法的需要が持続的に充足されるためには、各弁護士会が継続的に新人弁護士を受け入れて当該地域に根差した法曹が供給され続けなければならず、弁護士の大都市偏在により各弁護士会の活動に支障が生じているとすれば何らかの対策が必要である。
しかし、弁護士の大都市偏在は、司法試験合格者数が過少であることではなく、就職場所として地方都市よりも大都市の方が選好されていることに起因すると考えられる。弁護士の地域的な適正配置は、各地域において弁護士の採用プロセスないし就労環境の改善等の諸施策を講じ、当該地域の弁護士会への入会者を確保することにより実現することが適切である。
6 2001年6月に司法制度改革審議会意見書が公表されてから約25年が経過した今日、弁護士の供給過多の問題以外にも、弁護士数が急増しているのに対して判事補や検事の採用人数は抑制されたままであること、上述のとおり弁護士の大都市偏在の傾向が顕著になっており小規模弁護士会等への新規登録者数が減少していること、これに加えて国選弁護・法テラス民事法律扶助等の報酬の低廉さも相まってリーガルサービスの維持が困難となりつつあることなど、法曹養成に関連して解決しなければならない課題は存在する。司法試験合格者数の減員により、これらの課題が解決するものではなく、個々の問題ごとに適切な対応が必要であるが、さりとて、毎年1500人もの司法試験合格者数を維持することによる弊害を放置することはできない。
7 よって、当会は、国に対し、弁護士人口の急増を避け緩やかな増加にとどめるために、司法試験合格者数を年間1500人程度から更に減員することを求めるとともに、弁護士の供給過多の問題も含め、司法制度が適切に機能し続けるよう不断の現状分析と必要な対策を行っていくことを求める。
以上
2026年(令和8年)3月12日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 千 葉 晃 平
















