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平成21年12月16日会長声明

2009年12月22日

葛飾ビラ配布事件に関する会長声明

 

 最高裁第二小法廷(今井功裁判長、中川了滋裁判官、古田佑紀裁判官、竹内行夫裁判官)は、2009年11月30日、政党のビラを配布するために分譲マンションの共用部分に立入った者が住居侵入罪に問われた事件の上告審で、罰金5万円の刑を言い渡した原審判決を支持し、上告を棄却した。
 最高裁第二小法廷は、政治ビラの戸別配布を刑法で処罰することについて、2008年4月11日にも、表現の自由を保障する憲法21条1項に違反しないとの判断を示しており、本判決は、その判断を再度確認する形になった。
 最高裁が、政治ビラの戸別配布に対する刑事処罰を二度までも合憲としたことで、今後、捜査機関がビラ配布に対する規制を一層強化していくことが懸念される。

 最高裁は、1960年の東京都公安条例事件判決以降、表現の自由を民主的政治過程の維持のために必要欠くべからざる基本的人権と位置づけ、その重要性を一貫して承認している。本判決もその重要性を明言していながら、他人の権利を不当に害することは許されないとした上で、本件行為は、本件マンション管理組合の意思に反して立ち入ったことをもって、管理権を侵害し、私生活の平穏を侵害したと断じて、住居侵入罪で処罰することが憲法21条1項に違反するものではないと判示する。

 しかしながら、ビラの配布は、財力のない者やマス・メディアによって報道されない者にとって効果的な表現手段であることに加え、戸別の配布は、送り手が伝えたいと望む特定の受け手に対し確実に情報を伝達することが出来る点で、路上等での配布に比べ格段に効果的な表現手段である。したがって、ビラの戸別配布は、市民が表現の自由を行使するにあたり貴重な手段であり、代替する手段を容易には見いだせないという意味でも厳格に尊重されなければならない表現活動である。
 また、ビラの戸別配布は、民主的政治過程において、国民が主義主張を受領するところの問題である。そこでは、受け手が、まずはどのような内容のビラかを見たうえで、さらに内容を読むのか廃棄するのかを判断を行っている。もとより私生活の平穏は重要な保護法益であるが、本判決のようにマンション管理組合の意思を抽象的にとらえてビラ配布のためのマンション共用部分への立ち入りを管理権の侵害や私生活の平穏の侵害と直ちに結論付けて刑罰をもってのぞむことは、受け手が表現内容を見て判断する機会を不当に奪う危険が高まることになり、情報を享受する権利が民主的政治過程に位置づけられる重大な権利であるという性質を軽視しているのではないかという懸念が払拭できない。

 日本における政治ビラの戸別配布に対する規制の強化は、国際社会から厳しい目が向けられている。国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月、「政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に懸念を有する」旨を表明し、日本政府に対して、「表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである」と勧告を行った。
 さらに、国内においても、日本弁護士連合会は、2009年11月6日、人権擁護大会において、民主主義社会における市民の表現行為の重要性に鑑み、市民の表現の自由及び知る権利を最大限に保障するため、関係各機関に対し、市民の政治的表現行為に対する不合理な規制を行わないことを求める提言を行った。また、当会も、人権擁護大会に先立ち、2009年10月3日、憲法学者や立川反戦ビラ事件の当事者らを招いて人権擁護大会プレシンポジウムを開催し、政治ビラの戸別配布に対する規制について批判的な検討を行った。そこでは、表現の自由の優越的地位の意義が確認され、当事者の生の声により刑罰による表現活動に対する規制の危険性が指摘された。
 
 当会は、最高裁に対し、表現の自由が民主的政治過程の維持のために必要欠くべからざる基本的人権であることをふまえ、表現の自由の重要性を貫徹し、憲法の番人としての責務を全うすることを強く求める。

 

2009(平成21)年12月16日

 仙 台 弁 護 士 会
 会 長  我 妻   崇

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