映画「ザ・コーヴ」上映妨害に抗議する会長声明
和歌山県におけるイルカ漁を批判的に描いたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」について、上映を予定していた映画館が相次いで上映を中止するという事態が発生した。
上映中止の理由については、映画を「反日的」と糾弾する団体が上映中止を求める抗議活動を予告したため、観客や近隣に迷惑がかかることを懸念した映画館が上映を自粛したものと報じられている。実際、上映した映画館に対して上映中止を求める大音量の街宣活動が繰り返され、映画館周辺における街宣行為を禁じる仮処分命令が発せられるという事態も起こった。
その後、不当な抗議行動に対する世論の批判が高まったこともあり、抗議活動に屈することなく上映を実施する映画館が多数存在するに至ってはいるが、実力をもって表現行為を封じようとする不当な抗議行動が行われたことは、到底看過することはできない。
映画「ザ・コーヴ」の製作の手法や内容を巡って様々な批判や意見が出されていることは事実である。しかし、自分と異なる考えや意見にも耳を傾け、その表現の機会を保障するのが民主主義の基本的考え方である。今回のように、一部の団体の不当な圧力によって映画の上映が中止されることになれば、多様な意見や価値観に触れる機会を妨げられ、個人の自己実現が困難になるとともに、政治的意思形成の根本的基盤が失われ、ひいては民主主義が危殆に瀕することにもなる。
よって、当会は、実力をもって表現行為を封じようとする不当な圧力に対して抗議し、また、映画館や公共施設に対し、表現の自由の重要な担い手として、今後とも、不当な圧力に屈することなく、上映の機会を提供するよう努力されることを期待する。
2010(平成22)年8月25日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 新 里 宏 二