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平成22年9月24日会長声明

2010年09月24日

えん罪防止のための適正な捜査手続等の確立を改めて求める会長声明
         -厚労省元局長事件における証拠隠滅容疑事件を受けて-

 

 2010年9月10日に大阪地裁が厚労省元局長に対して無罪判決を言い渡した事件について、同月21日、大阪地検特捜部の主任検事が、証拠として押収したフロッピーディスクを改ざんしたという証拠隠滅容疑で、最高検察庁によって逮捕されるという前代未聞の事態が進行している。
 この事件は、元局長が、当時の部下らと共謀して虚偽の公的証明書を発行したとして起訴されたが、検察官作成にかかる元部下らの供述調書の信用性がないとして証拠採用されず、無罪判決が言い渡され、確定したものである。
 この無罪判決によって、検察官が自ら描いたストーリーに沿って関係者の供述を歪めていたことが明らかとなったが、今回、それにとどまらず、元局長の無罪を示していた客観証拠までも改ざんしていたことが明らかとなった。
  証拠に基づき適正な捜査と公訴提起を行うべき検察官による証拠の改ざん行為は、刑事裁判の根幹を覆すものであり、言語道断である。
 しかも、報道によれば、公判中に上層部も改ざんの事実を把握していたというのであり、それが事実であれば、大阪地検は組織的に証拠改ざんの事実を弁護人・被告人に秘して公判を有利に維持しようとしたこととなり、刑事司法に対する信頼を失墜させる事態である。
 当会は、かかる重大な事態を引き起こした検察庁に断固抗議し、再発防止に向けて、第三者を参加させた検証組織による徹底した真相究明を求める。

 

 さらに、本件の真相究明は当然のことであるが、これを突発的な一検察官、一地方検察庁の問題として矮小化することは許されない。我が国の刑事司法において、警察官・検察官の描いたストーリーにあわせて、強引な誘導やときには脅迫によって虚偽の内容の供述調書を作成したり、証拠捏造や無罪の証拠を隠すなど、意図的に証拠を操作してでも有罪に持ち込もうとする違法不当な捜査手法が維持されてきたことは、数々のえん罪事件において証明されているところである。今回の事態は、かかる前近代的な捜査手法の問題点を典型的な形で示したものにほかならないのである。
 
 これまで、日弁連及び全国の弁護士会は、このような違法不当な捜査の温床となってきた密室での取調べを是正すべく、取調べの全面録画・録音の重要性を再三にわたって訴え続けてきており、当会も2009年7月31日、決してえん罪がくりかえされてはならないという決意のもと、「えん罪防止のための適正な捜査手続等の確立を求める決議」を採択し、関係諸機関に送付している。
 また、日弁連及び全国の弁護士会は、えん罪防止のために捜査機関が有している全証拠の開示の重要性も訴えてきたところであるが、本件のような証拠の改ざんを検証するとともに、改ざん防止に向けた事前抑止力を確保するためにも、一層その必要性が明らかとなった。 

 
 今回の事態によって失墜した刑事司法に対する国民の信頼を回復し、えん罪を防止するためには、取調べの全面録画・録音及び捜査機関が有している全証拠の開示を法制化することが不可欠である。
 一人として無実の人間が有罪とされてはならないという近代刑事裁判の原則を現実のものとするために、国に課せられた責務は重大かつ急務である。
  当会は、刑事司法の根幹を揺るがす重大な事態を引き起こした検察庁に断固抗議し、第三者を参加させた検証組織による徹底した真相究明を求めるとともに、国に対し、取調べの全面録画・録音及び捜査機関が有している全証拠の開示を早急に立法するよう強く求めるものである。
 

                                                                  以 上

2010(平成22)年9月24日

仙 台 弁 護 士 会        
会 長  新 里 宏 二

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