被災者に対する各種受給権の差押禁止債権化を求める提言
2011年(平成23年)6月15日
仙台弁護士会
会長 森 山 博
第1 提言の趣旨
被災者生活再建支援法に基づく支援金受給権,災害弔慰金の支給等に関する法律に基づく弔慰金,災害障害見舞金及び災害援護資金の各受給権,市町村から支給される義援金の受給権については,いずれも立法により差押えを禁止する条項を設けるべきである。
第2 提言の理由
1 被災者生活再建支援法は,被災世帯となった世帯の世帯主に対し、被災者生活再建支援金を支給することを定める(同法3条)。
しかし,この被災者生活再建支援金を受給する権利について差押えを禁止する規定は存在しない。
被災者生活再建支援法は,「自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者に対し、・・・被災者生活再建支援金を支給するための措置を定めることにより、その生活の再建を支援し、もって住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資すること」を目的として制定されたものである(同法1条)。また、受給主体を純粋な個人ではなく「被災世帯となった世帯の世帯主」と規定している(同法3条1項)。その立法目的からすれば,本受給権は,社会保障的な性格を強く帯びているといえることから,保護金品を受ける権利(生活保護法58条)と同様に,法改正により差押えを禁止するべきである。
2 災害弔慰金の支給等に関する法律に基づく弔慰金も,弔慰金が死者を弔い遺族を慰めるために支給する金銭であることから,社会通念上,差押えが許容されるべきでない。同法に基づく災害障害見舞金及び災害援護資金も,支給目的が被災者の生活保障・生活再建という社会保障的性格を強く帯びていることが明らかであるから,上記各受給権については法改正により差押えを禁止するべきである。
3 市町村から支給される義援金は,私法上の贈与契約に基づいて支給されるものであるが,贈与の目的は,結局のところ被災者の生活保障・生活再建にあること,過去の大規模災害においても義援金は被災者の生活保障・生活再建に不可欠な役割を果たしてきたといえることから,立法により義援金受給権の差押えを禁止するべきである。
4 以上のような差押禁止条項が存在しなくても,これらの各種受給権は,社会保障的な目的による一身専属的な権利であり性質上当然に差押えが禁止されていると解することも可能である。しかし,法律により明文化されないと,これらの受給権の差押えが申し立てられた場合に執行裁判所が判断に迷う可能性がある。また,これらの受給権を有する者が破産した場合,受給権が破産財団を構成するか否かについて解釈上疑義が生じうる。さらに、被災者が差押えの可否をめぐる法的紛争に巻き込まれ、生活再建が円滑に進められなくなるおそれもある。
5 よって,被災者生活再建支援法に基づく支援金受給権,災害弔慰金の支給等に関する法律に基づく弔慰金,災害障害見舞金及び災害援護資金の各受給権,市町村から支給される義援金の受給権については,これらの金員が被災者の手元に確実に渡るよう,立法により差押えを禁止する条項を設けることを求めるものである。
以 上