遠隔操作による脅迫メール事件に関する会長声明
報道によれば,インターネット上に表示されたURLをクリックすると,リンク先に仕込まれたコンピューターウイルスが発動し,自動的に犯行予告の脅迫メールを送りつけるという事件により,少なくとも現在,4名が誤認逮捕された事実が明らかになっている。
その4名のうち2名については虚偽の自白調書が作成され,さらにその2名の内1名については逮捕当時大学に在学中であり,犯行を頑なに否認したものの,警察の強硬な取調べにより最終的には動機まで含めた虚偽の自白をし,家庭裁判所にて保護観察処分を受けたとのことである。
この保護観察処分は誤認逮捕が発覚したため現在は取り消されているが,上記大学生は大学を自主退学し,社会的には勿論のこと,精神的にも経済的にも,まさしく取り返しのつかない損失を受けた。また,その他の誤認逮捕された者についても,逮捕されたという事実及び被疑者を犯人であると断定するかのような当初の報道により,大きな不利益を受けたことは明らかである。
虚偽自白の直接的な原因として,警察など捜査機関の強硬な取調べがあったことが指摘されている。被疑者には憲法上黙秘権が保障されているところであり,取調べが自白を強要する場であってはならない。
ところが,報道によれば,警察は,メール発信元のIPアドレスが被疑者のパソコンのものであったということのみをもって被疑者の犯人性に疑いがないと早々に決めつけ,「早く自白すれば処分が軽くなる」等と述べて自白を強要し,被疑者の弁解には耳を貸さず,また脅迫メールの文字数の割にそれが非常に短時間で送信されていること等の不自然さには全く着目せず,かえって,一心不乱に打ち込んだ旨の自白をさせており,結果として,犯行動機や反省の弁まで恣意的に作り上げたかたちでの虚偽自白調書が作成された。これは捜査機関の見込みに沿った調書を無理矢理に被疑者名義で作成させたということであり,証拠の偽造・捏造に他ならない。
また,この問題は警察だけの問題ではない。検察官は,公益の代表者として無罪(嫌疑不十分)とする方向の事実及び証拠を適切に検討する必要があるはずで,検察官が本件においてその検討を怠ったことは厳しく非難されるべきである。
取調べにおける自白の強要の問題については,従前から足利事件等の冤罪事件において問題となっており,当会としてもその問題性を指摘し,早くから取調べの全過程の録画を含む捜査手法の適正化を訴えてきたところである。
本件において深刻なのは,そのような冤罪事件の教訓が多数あったにも関わらず,警察及び検察が,客観的証拠や被疑者の弁解を丹念に検討することを怠ったままでひたすら自白を強要するような捜査手法の問題を全く改善することなく,無辜の市民を逮捕し,虚偽の自白を強要して陥れたということである。
当会は,警察及び検察に対し,今回のような事態が発生したことを重く受け止め,直ちに取調べの全過程の録画,録音,弁護人立会権の保障をはじめとする捜査手法の適正化に着手するよう求める。
2012(平成24)年11月22日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 髙 橋 春 男