被災ローン減免制度における国家公務員共済に対する債務の取り扱いに関する要請書
要 請 書
財務省 財務大臣 城島光力 殿
平成24年12月13日
仙台弁護士会 会長 髙 橋 春 男
第1 要請の趣旨
当会は、以下の各事項を要請する。
1 国家公務員共済組合法施行規則14条を改正し、「東日本大震災の影響によって返済が困難となった債務者から、個人債務者の私的整理に関するガイドラインに基づき債務整理の申出があった場合には、当該ガイドラインの手続に従い、当該債務者に係る債権について、債権の全部又は一部の放棄その他の適切な措置を講ずること」を定めること。
2 上記1の改正がなされるまでの間、個人債務者の私的整理に関するガイドラインに従った債務の減免が、国家公務員共済組合法施行規則14条の「やむを得ない理由」に当たること及びその減免を承認することを、所管する共済組合(日本郵政共済組合を含む。)に通知すること。
第2 要請の理由
1 個人債務者の私的整理に関するガイドライン(以下「被災ローン減免制度」という。)は、東日本大震災の影響で債務を弁済できなくなった個人を対象に債務整理を行い、生活再建を促すための制度である。そして、被災者の中には、国家公務員共済組合等(日本郵政共済組合を含む。以下同じ。)に対する債務を負っている者もいる。
ところが、一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会(以下「運営委員会」という。)は、国家公務員共済組合等が被災ローン減免制度による債務の減免に応じることは現実的に困難であるという理由で、国家公務員共済組合等を、被災ローン減免制度による債務の減免の対象債権者から外すように債務者に求める運用している。これは、国家公務員共済組合法施行規則(昭和33年10月11日大蔵省令第54号、以下「本件規則」という。)14条が、「組合の債権は、その全部若しくは一部を放棄し、又はその効力を変更することができない。ただし、・・・、その他やむを得ない理由がある場合において財務大臣の承認を受けたときは、この限りでない。」と規定している点に原因がある。つまり、本件規則14条は、「やむを得ない理由がある場合において財務大臣の承認を受けたとき」には国家公務員共済組合が債権放棄をできる旨を定めているが、被災ローン減免制度に従った債務の減免が「やむを得ない理由」に当たるか否か及び財務大臣の承認がなされるか否かが不明確であるため、運営委員会は、国家公務員共済組合等を被災ローン減免制度の対象債権者に加えることに否定的なのである。
2 しかし、以下の通り、国家公務員共済組合等も、被災ローン減免制度による債務の減免に応じるべきであり、財務省は、本件規則を改正して、国家公務員共済組合等が被災ローン減免制度による債務の減免に応じることを明示するべきである。
(1)国家公務員共済組合は組合員間の互助を目的する共済組合であり、国家公務員共済組合法1条も、「国家公務員の・・・、災害、・・又はその被扶養者の・・・災害に関して適切な給付を行うため、相互救済を目的とする共済組合の制度を設け、・・・、もって国家公務員・・の生活の安定と福祉の向上に寄与する」ことが同法の目的であると規定している。被災ローン減免制度に従った債務の減免をすることは、災害にあたり相互救済をして被災者たる国家公務員の生活の安定を図るという同法の目的に合致している。
なお、被災ローン減免制度による弁済計画は、破産手続による回収の見込みと同様又はそれ以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的に合理性があるものでもあり、被災ローン減免制度に従った債務の減免は国家公務員共済組合等にとって経済的にも合理的なものでもある。
(2)また、民間金融機関は、被災者救済という被災ローン減免制度の趣旨に賛同し、被災ローン減免制度による債務の減免に応じている。それにもかかわらず規則上不明確なことを理由に、運営委員会が、国家公務員共済組合等を被災ローン減免制度の対象債権者に加えることに否定的な態度を示している事態は、債権者平等の観点でも問題のある事態である。
(3)そもそも、財務省の大臣官房政策金融課長は、被災ローン減免制度の策定を行った「個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会」にオブザーバー参加しており、財務省は被災ローン減免制度の策定に関与していた。
また、運営委員会作成のQ&Aには、「住宅貸付を行う共済組合」も被災ローン減免制度の対象債権者に含まれると記載されており、そもそも被災ローン減免制度は、国家公務員共済組合等を対象債権者にすることを予定していた。
さらに,被災ローン減免制度は,政府が平成23年6月に取りまとめた「二重債務問題への対応方針」を受けて策定されたものであるうえ,平成23年8月19日には被災ローン減免制度の運用に復興予備費10億7000万円を使用することが閣議決定されており、政府も被災ローン減免制度の運用を推進している立場でもある。
これらからすれば、国家公務員共済組合等が被災ローン減免制度による債務の減免に応じるということが本件規則で明示されてしかるべきであり、規則上不明確なことを理由に運営委員会が、国家公務員共済組合等を被災ローン減免制度の対象債権者に加えることに否定的な態度を示している事態を積極的に解消すべきである。
(4)国土交通省及び財務省が所管している独立行政法人住宅金融支援機構(以下「住宅金融支援機構」という。)は、住宅金融支援機構の債権について被災ローン減免制度を適用させるために、主務大臣たる国土交通大臣及び財務大臣の認可を受けた上で、平成23年12月26日にその業務方法書を改正し、「機構は、東日本大震災の影響によって返済が困難となった債務者から、個人債務者の私的整理に関するガイドラインに基づき債務整理の申出があった場合には、当該ガイドラインの手続に従い、当該債務者に係る債権について、弁済の請求の中止その他の適切な措置を講ずるものとする。」という条項を追加した(独立行政法人住宅金融支援機構業務方法書第36条1項)。
同じ財務省が所管している住宅金融支援機構の例にならい、本件規則についても、国家公務員共済組合が被災ローン減免制度による債務の減免に応じることを明示する改正がなされるべきである。
3 このように、本件規則の改正は早急になされるべきであるが、仮に改正までに一定の時間がかかるというのであれば、財務大臣は、本件規則の改正がなされるまでの間は、被災ローン減免制度に従った債務の減免が、本件規則14条の「やむを得ない理由」に当たること及びその減免を承認することを、所管する共済組合に明らかにすることにより、被災者救済を図るべきである。
以 上