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袴田事件再審開始決定を受けて被疑者・被告人の権利を実質化する法制度の確立を求める会長声明

2014年04月24日

2014年(平成26年)3月27日,静岡地方裁判所は,1966年(昭和41年)に静岡県清水市において発生した袴田事件(被害者4名の強盗殺人放火事件)について,袴田巌元死刑囚に対する再審の開始を決定した。

この決定は,袴田元死刑囚が犯行当時に身に着けていたとされ,有罪認定の重要な証拠となった5点の衣類が,捜査機関によってねつ造された疑いがあることを明確に指摘している。また,自白調書も証明力が弱いとして排斥し,無罪の蓋然性が相当程度あることを論じた上,袴田元死刑囚に対するこれ以上の拘置を「耐え難いほど正義に反する」として再審を開始し刑の執行停止をなすものであり,当会としては,この決定を画期的なものとして高く評価するものである。

袴田元死刑囚は,逮捕当時から無実を主張し続けていた。しかし,代用監獄である警察署に留置され,酷暑の中,1日平均12時間,長い時で16時間にもおよぶ連日の取調べを受け,排便も取調室内で行わされるという,拷問に等しい仕打ちを受けた。このようにして作成された45通の自白調書のうち1通は裁判所によって採用されてしまった。また,捜査機関は,事件発生後1年2か月が経過してから,被害者の血痕が付着した5点の衣類を新たに味噌工場のタンクの中から発見したとした上で,これを犯行当時の着衣であるとして証拠提出した。そのような証拠関係のもとに,袴田元死刑囚は,1968年(昭和43年)に静岡地方裁判所にて死刑判決を受け,その後1980年(昭和55年)に最高裁判所に上告を棄却された。袴田元死刑囚は,今回の再審開始決定によって釈放されるまで,逮捕から47年以上にわたり身体拘束を受けてきたことになる。また,5点の衣類が味噌工場のタンクに1年以上放置されていたという捜査機関の主張と矛盾するカラー写真等,証拠のねつ造があったことを窺わせる重要な証拠が再審弁護人に開示されたのは2008年(平成20年)に行われた第二次再審請求の際のことであり,遅きに失したと言わざるを得ない。

この袴田事件は,捜査における自白の偏重と,自白採取のための密室における違法・不当な取調べ,代用監獄制度,捜査機関による証拠のねつ造・隠ぺいなど,日本の刑事司法の負の側面,特に捜査機関の違法捜査の問題が集約されたかのような事件であり,その結果,取り返しのつかない人権侵害が生じている。

法曹関係者は,このような人権侵害を二度と起こさないようにするため,捜査機関に対する厳しい監視と抑制を可能とし,被疑者・被告人の権利の保障を実質化する法制度を確立させるべく最大限の努力をする必要がある。

この点,当会は2013年(平成25年)11月14日『法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書』において,被疑者・被告人の権利の保障を実質化するため,取調受忍義務の否定と弁護人立会権の保障を明文化し,取調べの全過程の例外なき録画録音制度を法制化すべきであることを述べており,それより以前の2012年(平成24年)2月23日「全面的証拠開示制度の創設を求める決議」においても,悲惨なえん罪の発生を繰り返さないために全面的証拠開示制度を創設すべきであることを述べている。他方で,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会「作業分科会における検討結果(制度設計に関するたたき台)」は,取調べの可視化については対象事件の範囲を絞り,例外的に録画しないこともできるという限定的な可視化に留め,また全面的証拠開示制度は採用しないという内容となっており,同検討結果の枠内で本年6月にも答申案の取りまとめがなされる可能性がある状況である。

しかし,袴田事件において袴田元死刑囚が受けた人権侵害を見てもわかる通り,被疑者・被告人の権利保障の実質化のためには,まずは取調受忍義務の否定と弁護人立会権の保障を明文化し,取調べの全過程の例外なき可視化及び全面的証拠開示制度の創設を行うことが必須である。

当会は,袴田事件再審開始決定を受けて,今後同様の人権侵害が発生しないように全力を尽くす所存であることを表明するとともに,上記特別部会に対しては,性急に答申案を取りまとめるのではなく,袴田事件の検証等を十分に行った上で,被疑者・被告人の権利の保障の実質化という出発点に立ち戻っての議論をやり直すことを強く求めるものである。

 

2014年(平成26年)4月24日

 

                          仙   台 弁 護 士  会

                          会 長  齋 藤 拓 生

 

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