平成17年9月21日 憲法改正国民投票法案に関する会長声明
仙台弁護士会は、日本国憲法の平和主義、国民主権、基本的人権保障などの原則を尊重する立場から、これらの諸原則に反する疑いのある法案や政府の行為に対し、批判や反対の意見を表明してきた。
近時、政府与党は、国会での憲法改正国民投票法案成立を目指している。法案の内容は、2004年12月3日、国民投票法等に関する与党協議会の実務者会議において、2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えて日本国憲法国民投票法案骨子(案)(以下「法案骨子」という。)を策定し、この「法案骨子」を基に法案化するとのことである。
しかしながら、この「法案骨子」には、国民主権、基本的人権の保障という憲法の基本原則からして、以下の重大な問題がある。
1 「法案骨子」は、憲法の複数の条項について改正案が発議された場合に、全部につき一括して投票しなければならないのか、あるいは条項ごとに個別に投票できるのかについて明らかにしていない。
この点については、国民主権の原理に則り、条項ごと又は問題点ごとに個別の賛否の意思を問う発議方法及び投票方法がとられるべきである。
2 「法案骨子」は、国民投票運動について、広範な制限禁止規定を定め、不明確な構成要件により刑罰を科すものとなっている。その主なものを挙げると、① 公務員の運動の制限、②教育者の運動の制限、③外国人の運動の制限、④国民投票の予想結果の公表の禁止、⑤新聞・雑誌の虚偽報道の禁止、⑥新聞・雑誌の不法利用の禁止、⑦放送事業者の虚偽報道の禁止等である。
しかし、国民投票にあたっては、表現の自由が最大限保障されるべきであり、国民投票運動は基本的に自由でなければならない。上記のような規制が広範かつ不明確な構成要件のまま設けられるならば、憲法改正国民投票という主権者が最も強く関与すべき事項について、主権者に十分な情報が伝わらず、また、国民の間で自由な意見交換がなされないまま国民投票が実施されることになるおそれがある。「法案骨子」の制限禁止規定は、表現の自由、報道の自由及び国民の知る権利を著しく制限するものであるといわなければならない。
3 「法案骨子」は、国民投票の期日については、国会の発議から30日以降90日以内の内閣が定める日としている。
しかし、国民が的確な判断をするために必要かつ十分な期間が確保されなければならず、この期間はあまりにも短い。
4 「法案骨子」は、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の2分の1を越えた場合に国民投票の承認があったものとする。また、国民投票が有効に成立するための投票率に関する規定を設けていない。
しかし、少なくとも改正に賛成する者が、全投票総数の過半数を超えたときに、改正についての国民の同意があったとされるべきであり、国民投票が有効となる最低投票率に関する規定も設けるべきである。
5 「法案骨子」は、国民投票無効訴訟についてさだめているものの、提訴期間を投票結果の告示の日から起算して30日以内とし、一審の管轄裁判所を東京高等裁判所に限定している。
しかし、この提訴期間は憲法改正という極めて重要な事項に関するものとしては短すぎるし、管轄の限定も国民の裁判を受ける権利を制限するものであって不倒である。
6 「法案骨子」は、軽微な選挙違反により公民権停止者の投票権を認めず、「衆議院及び参議院の選挙権を有する者は国民投票の投票権を有するものとする」としている。また、18歳以上の未成年者についても、これを認めないとしている。
しかし、公民権停止中の者に対して憲法改正の投票権を否定する理由に乏しく、また、18歳以上の未成年者については十分な議論がなされるべきである。
いうまでもなく、憲法改正国民投票は、主権者である国民が、国の最高法規である憲法のあり方について意思を表明するという国民の基本的な権利の行使にかかわる国政上の重大な問題である。よって、国政参加のどの機会に増して、国民には自由な議論の時間と方法が保障されることが必要であるし、投票結果には国民の意思が正確に十分に反映される手続が保障されるべきである。
しかるに、「法案骨子」は、上記のとおり、民主的な手続的保障への配慮を欠いているといわざるを得ず、このまま拙速に進めば、国民の基本的人権を侵害したまま、国民の意思が正確に反映されないまま、国の最高法規たる憲法が改正されてしまう危険がある。このような「法案骨子」に基づく憲法改正国民投票法案が国会に提出されることは到底容認することができない。
よって、仙台弁護士会は、国民主権、基本的人権尊重などの基本原則を尊重する立場から、「法案骨子」に基づく憲法改正国民投票法案が国会に提出されることに強く反対するとともに、広く国民の間で、真に国民主権に根ざした憲法改正国民投票法案のあり方について十分な議論がなされることを求めて、活動していくものである。
以 上
2005年(平成17年)9月21日
仙台弁護士会
会長 松 坂 英 明