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東日本大震災から5年を迎えての震災復興支援に関する会長声明

2016年03月11日

1 はじめに

東日本大震災の発生から5年を迎え,国の策定した集中復興期間も終わろうとしている。しかしながら,現在でもなお多くの被災者が仮設住宅等での生活を余儀なくされ(平成28年2月29日現在,宮城県全体で,応急仮設住宅で2万3132名,民間借上住宅で2万0327名の合計4万3459名),また,被災事業者の事業再建も道半ばという状況である等,未だに多くの問題が山積している。

当会は,震災発生直後から,被災者の意思を最大限尊重し,被災者一人一人が立ち直るための「人間の復興」という基本的な視点のもと,法律相談,震災ADR,各種提言等の,被災者一人一人の生活再建のための支援活動を行ってきた。それに加え,今年度においては,様々な事情から被災した自宅での生活を余儀なくされている,いわゆる在宅被災者等への訪問調査を実施し,支援の手が行き届いておらず生活の再建が困難な状況に陥っている被災者の実態を把握した。これら当会のこれまでの活動により,震災の発生から5年を経た今もなお,以下のような問題・課題等があることが明らかとなっている。

2 住まいの再建

  住まいの再建は,被災者の生活再建の根幹をなすものであり,被災者支援にとって極めて重要な課題である。

この点,当会が実施した在宅被災者等への訪問調査等から,現行の被災者生活再建支援法による支援(住宅を再築する場合の加算支援金の上限200万円。修理する場合の加算支援金の上限100万円。)等では,住まいの再建が十分果たせていない被災者が数多く存在する現状が明らかとなった。そのため,少なくとも,加算支援金の上限額を400万円に引き上げる等の制度改善が必要である。

また,同法の対象となる家屋の損壊判定基準及びその判定手法には不十分・不適切な面が多く,被害の実情に即した支援が受けられない被災者も少なからず存在する。そのため,被災家屋の損壊判定の基準,手法等の改善も必要である。

さらに,住宅再建を断念し,災害公営住宅への入居を希望する被災者について,税金の滞納のないことや連帯保証人の確保等の厳格な入居要件が課されているため,入居を果たせないケースがある。この点について当会は,災害公営住宅の入居要件の適正化を求める会長声明を昨年3月に発しているが,今なお一部の自治体では同様の問題が継続している。

加えて,被災者生活再建支援制度等を利用して住居を一部修繕してしまったために災害公営住宅に入居できなくなる等,住まいの再建に対する被災者の意向の変化に十分対応できない法令の解釈・運用も問題である。

その他,仮設住宅の供与期間が終了するに伴い,やむを得ない事情から住まいの確保ができない被災者が不当に仮設住宅から退去を迫られる事態にならないよう適切に配慮することも必要である。

当会は,上記の各問題の改善を求めていくほか,一部自治体がすでに検討している被災者支援のための家賃補助制度等生活再建支援を目的とする新たな法制度の構築の必要性についても調査・検討を継続し,提言等の活動を行う所存である。

3 生業の再建

被災者が,その生活基盤を確保し,生活を再建するためには,住まいの再建のみならず,生業の再建も不可欠である。また,街や地域の形成にとっては,住まいのみならず生業も不可欠な構成要素であって,その意味において生業の再建は個人の問題にとどまるものではなく,公共性を有する問題でもある。

東日本大震災においては,沿岸部を中心に多くの小規模事業主が,住まいのみならず,生業にも甚大な被害を受けた。かかる事業主は,生活と生業が密接な関係にあり,生業の再建がなされなければ,生活の再建も困難である。これらの事業主の中には,現行の中小企業に対するいわゆるグループ補助金等の制度だけでは救済されない事業者がおり,生業の支援としては不十分と言わざるを得ない。

当会は,事業者毎の補助金の交付等給付型の生業支援に関する新しい制度等の提言を検討すると共に,引き続き本課題の改善に取り組む所存である。

4 災害ケアマネージメントと被災者生活再建支援員制度の創設~被災者生活再建支援法の改正

多様で複雑な支援制度等の情報を,様々な境遇におかれた被災者全てに行き渡らせるような仕組みが十分とは言えず,そのため,被災者がそれら支援制度を十分に活用できず,生活再建の重大な障害となっているケースがある。

そこで,被災者台帳を活用して,住宅被害のみならず生活の糧となる生業・仕事等の生活基盤の毀損も含めた被害を個別に把握した上で,被災者一人一人に必要な情報提供を行い,さらにそれぞれの被害状況に応じた支援メニューを作成した上で支援をしていくというシステム(災害ケアマネージメント)が必要である。そして,これを実現するため,被災者に対する情報周知や支援制度にかかる相談等を担当する被災者生活再建支援員制度の創設を内容とする被災者生活再建支援法の改正等が検討されるべきである。

なお,被災者生活再建支援法の改正においては,前述した加算支援金の上限額の引き上げのほか,同法の適用対象となる自然災害の適用地域について,市町村等の行政区画を基準としている現行の規定を見直し,同一の自然災害を受けた被災者に対し,等しく法が適用されるよう改正されることも併せて検討されるべきである。

当会は,これらの問題点についてさらに調査・検討を進め,必要な提言をしていく所存である。

5 生活保護・セーフティーネットの整備等による生活の再建

法律相談や在宅被災者の訪問調査を通じ,被災により生業を失ったため収入の糧がない,高齢者・障がい者を抱えている,震災による精神的ダメージにより将来の展望を抱けず生活再建が進まない,等の問題を抱えている被災者が数多く存在していることが浮き彫りとなった。

これら問題のうち,収入面では,生活保護制度により生活再建を図る方法が考えられるところ,在宅被災者の場合,自宅あるいは自動車を所有しているため,生活保護の審査が通らないことが懸念され,申請自体に至らない案件,あるいは申請しても窓口で断られる案件が散見される。しかし,これらの場合においても,具体的な事情により,生活保護費を受給できる場合があり,被災者の生活実態に照らした柔軟な運用を行う等,生活保護制度の利用による生活再建を後押しするような運用改善が必要である。

また,高齢者・障がい者を抱える世帯や精神的ダメージを抱えた被災者については,社会福祉制度による支援が不十分であり,問題を心の内に抱えたまま外部に発信できず,極めて弱い立場に置かれている。このような被災者に対しては,行政等外部からのアウトリーチの方法により実態把握,相談を行い,各福祉制度につなげる支援体制の構築が必要である。具体的には,前述のような被災者生活再建支援員制度の創設による被災者生活再建支援員による支援のほかに,社会福祉士,精神保健福祉士等の専門家を被災者宅に派遣し,被災者一人一人の実情を調査し,支援を行うことが必要である。

さらに,震災により生活基盤を失い,高齢者・障がい者を抱えるいわゆる災害弱者と呼ばれる被災者については,被災者支援に特化した独自のセーフティーネットとして,生活保護制度に代わる,より要件を緩和した給付型の生活支援制度の創設等についても検討がなされるべきである。

6 医療費免除の打ち切りへの対応

これまで,東日本大震災で被災した国民健康保険加入者,具体的には,住民税の非課税世帯のうち,震災により自宅が全壊又は大規模半壊した世帯及び家計を支えていた家族が死亡又は行方不明になった世帯を対象に,医療費窓口負担の免除措置がとられてきた。

しかしながら,国は,平成28年3月末をもって,同免除措置に関する市町村への財政支援を打ち切る方針を明らかにした。今後も免除措置を継続するためには,国が負担する8割を除く残り2割の医療費窓口負担分を手当てする必要があるところ,宮城県は財源の問題から特段援助を行わず,各市町村の判断に委ねる方針を示している。そして,各市町村も,一部の自治体では免除措置継続の方針を打ち出しているものの,相当数の自治体では,財源不足を理由に,免除措置を終了させる方針を示している。そのため,このままでは,平成28年4月以降はこれまで免除措置を受けていた世帯でも自己負担が生じる可能性が高い。

しかしながら,医療費免除の対象となっている被災者の中には,住宅確保もままならず,また,高齢で収入や資産に乏しい被災者や適切な医療を受ける必要性の高い被災者も多い。このような被災者に医療費の負担まで強いることになれば,宮城県保険医協会が行った免除対象者への調査等からも予想されるように,免除措置の打ち切りにより,診療の受け控えが生じ,被災者の健康被害が拡大することが懸念される。岩手県や宮城県内の一部市町村は財源を捻出して,医療費免除措置を継続する方針を明らかにしており,同一の災害に遭った被災者であるにもかかわらず,被災者間で健康格差等を生じさせることは極めて問題である。医療費免除はその重要性に鑑み,復興予算から優先的に確保されるべきものであり,前項で述べたセーフティーネットの整備がされないまま医療費免除が打ち切られるべきではない。

当会は,医療費免除措置の継続の重要性に鑑み,国や自治体に対し,免除措置の継続あるいは復活を求めて行く所存である。

7 原発問題

福島第一原子力発電所の事故による甚大な被害は,福島県からの避難者はもとより,宮城県内の業者に対する風評被害等も含め,現在も収束していない。深刻化,個別化している原発被害に対応すべく,当会では,被害者向けの研修会,個別相談会等において,被害者への適切な情報提供に努めてきた。

しかしながら,現在行われている被害者に対する損害賠償は画一的かつ形式的なものであり,被害者の実態に即した被害回復が尽くされているものとは言い難い。営業損害をはじめとする継続的賠償については,東京電力や国が,一方的に終期を設定して賠償を終わらせようとしている。また,避難区域外から避難した「自主避難者」への住宅無償提供を,福島県が平成28年度末で打ち切る等,今後,避難生活を取り巻く生活環境がより一層厳しくなることも懸念されるところである。

当会は,今後も被害者に寄り添い,適切な情報提供の体制を整えるとともに,被害者の適切な被害回復に向けた提言等の取り組みを継続していく所存である。

8 災害弔慰金問題

災害弔慰金,殊に震災関連死該当性の問題は,弔慰金の支給という金銭的な問題を超えて,遺族が故人の死を納得して受け入れられるかという,人的復興にとって非常に重要な側面を有する問題である。しかるに,弔慰金の申請時には震災関連性が否定されたものの,その後の裁判において,震災関連死と認められた例も複数ある。そのため,被災者及び遺族が申請を見送っている事案や申請を拒否された事案の中には,本来であれば震災関連死が認められるべき事案が存在することが懸念されるところである。

当会は,災害弔慰金の趣旨に沿った支給が広くなされるよう,今後も相談等を通じ支援に努める所存である。

9 相続関係不明地等の問題

震災後の復興事業について,相続関係が不明で地権者が特定できない等により事業が遅れる問題が引き続き指摘されている。

当会としては,新たな法制度の策定も視野に入れた検討を引き続き進めていく所存である。

10 まとめ

いまなお被災者は,様々な現実的な問題に直面し,多くの不安を抱えている。

東日本大震災から5年を迎え,当会は,引き続き「人間の復興」という基本的な視点に基づき,より一層充実した相談体制の構築,情報提供の充実を図り,被災者の一人一人に向き合い,その不安を解消し,被災者一人一人の生活基盤の確保・充実のための法的支援や被災事業者の復興に向けた支援活動に邁進する所存であることをここに宣言する。

 

平成28(2016)年3月11日

仙 台 弁 護 士 会

会 長 岩 渕 健 彦

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