殺人罪等に問われた犯行時18歳7か月の少年に対する裁判員裁判事件において,仙台地方裁判所は,2010年(平成22年)11月25日に死刑を言い渡した。その後,控訴審(仙台高等裁判所)でも結論が維持され,本年6月,最高裁判所は弁護側の上告を棄却し,死刑判決が確定するに至った。この事件は,裁判員裁判で初めて少年に対して死刑を言い渡したということで社会の注目を集め,少年に対する死刑適用の是非や手続保障,審理のあり方について考える契機となった。
死刑制度は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を有しているのであり,また,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものである。
このような死刑制度自体の問題を踏まえると,死刑適用の問題,とりわけ犯行時少年に対する死刑の適用については極力慎重な判断が求められる。すなわち,1994年(平成6年)に我が国でも発効した子どもの権利条約第37条が18歳未満の子どもに対して死刑を科すことを禁止し,少年法第51条も同様の定めをしている。これは,18歳未満で重大な事件を起こした少年の場合,成育過程においていくつものハンディを抱えていることが多く,精神的に未成熟であることから,あらためて成長と更生の機会を与え,自らの行為の重大性に向き合わせようとする趣旨である。そして,これらの法の趣旨は,子どもの権利条約の前文に引用されている少年司法運営のための国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)が少年の年齢を区別することなく,「少年とは,各国の法律制度の下において,犯罪について成人とは違った仕方で取り扱われている児童又は若者をいう」(第2条2(a))とした上で,「死刑は少年が行ったいかなる犯罪についても科してはならない」(第17条2)と規定していることをも併せ考慮すれば,犯行時18歳・19歳のいわゆる年長少年についても尊重されるべきであり,その更生可能性の評価・判断は成人の場合以上に慎重を期して行われる必要がある。
以上に鑑みれば,犯行時18歳以上の少年に対する死刑選択が争点となりうる事件については,捜査段階からの十二分な適正手続の保障はもとより審理のあり方についても慎重な検討が求められる。しかし,現在までこれらの点に関する議論の進展が見られない。
よって,当会は,国に対し,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,犯行時18歳以上の少年に対する死刑選択が争点となりうる事件の捜査段階からの手続保障及び審理のあり方について検討することを求めるとともに,犯行時18歳以上の少年に死刑を科すことを許容することの是非についてより一層の国民的議論を深めるための諸施策の実施を求める。
2016年(平成28年)7月21日
仙 台 弁 護 士 会
会長 小野寺 友 宏