2017年(平成29年)2月13日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 小野寺 友 宏
第1 要請の趣旨
1 宮城県地方税滞納整理機構(以下「滞納整理機構」という。)に対し、以下のことを要請する。
(1)滞納者の置かれている事情、家計の状況等につき、収入額を把握するだけではなく、具体的な支出の額、使途等を十分に聴取した上で、滞納者の生活を破壊しない範囲での徴収を図ること。
(2)滞納整理機構は、職員に対して研修を実施して職員の多重債務問題への認識を深め、職員は多重債務に陥っている滞納者に対して適切な対応方法を教示し、多重債務状態の解消に向けた支援に取り組むこと。
2 宮城県知事及び滞納整理機構に参加している市町村長に対し、以下のことを要請する。
(1)滞納整理機構の徴収姿勢についての適切な監督を行うこと。
(2)滞納税の徴収に当たっては、滞納者の生活再建という視点を重視して行うこと。
第2 要請の理由
1 滞納整理機構に対する要請
(1)はじめに
滞納整理機構は、短期的かつ集中的に個人住民税を含む市町村税の滞納整理を実施し、その過程で市町村の税務職員の徴収技術の向上を図ることを目的として、平成21年に設置された。その組織は、宮城県と23市町村を構成員とする任意組織である。
滞納整理機構は、平成27年度には23市町村から引き受けた滞納税額7億8809万円のうち、51.6%に当たる4億0642万円を回収しており、それ以前も引受額のおおむね50%程度の回収を行っている。これは、滞納税の回収率の全国平均が20%程度とされていることからすると、高い水準といってよい。
しかし、そのような高い水準の回収率が達成される一方で、「一括での納付を強く求められた」、「支払いが困難な金額での分割払いしか認めてもらえなかった」、「民間金融機関から貸付を受けて納付するよう求められた」という相談が、当会の会員に対して寄せられている。これは、滞納整理機構の徴収姿勢に問題があることを裏付けるものである。
そこで、滞納整理機構に対し、以下の点の改善を求めるものである。
(2)支払い能力を考慮しない納付の指示
税金を納付すべきことは義務であり、その徴収を図ることの必要性があることは当然である。
しかし、そのように支払うべき税金を滞納する中には「支払わない」のではなく、収入の減少等から「支払えない」状況に陥っている者も少なくない。地方税に関していえば、住民税は前年の所得を基に税額が算出をされるものであるし、固定資産税は所得に関わらず課税をされ、国民健康保険料も無収入であっても発生するものであるから、「支払えない」という事態が生じることは想定できる。
そのような「支払えない」状態にある者に対しては、その者の実情に応じた徴収を行う必要がある。具体的には、家計の状況を十分に聴取した上で、それに応じた月々の納付可能額を算出し、その範囲での分割を認めるというようなことである。
滞納整理機構においても、滞納者が相談に来た場合には、月々の収支を記載させるなどして家計収支の把握を行っているようではあったが、自動車税のように毎月発生するものではない支出や、車検費用など積立を要する支出についての聴取については不十分であった。
また、当会の会員が委任を受け、滞納整理機構との交渉を行っている事案の中には、障害を持つ家族がおり生活が苦しい旨を滞納者が説明したにもかかわらず、1か月あたり月10万円の支払いを約束せざるを得ず、その金額を払うようになってからは光熱水費の支払いを滞納することになってしまったという事案も存在する。
このような事案を見るに、滞納整理機構において生活状況の十分な聞き取りを行い、生活を破壊しない範囲での徴収を行っていると評価することはできない。
滞納整理機構は、支払いが困難な分割払いを求めても結局は再び滞納を生じさせるだけであって、滞納税の解消に資するものではないことを認識すべきである。
(3)多重債務問題への認識の不足
滞納整理機構の発行している機関紙「納めLINE」(平成23年度第3号)には、滞納整理機構の職員による「サラ金やローンを一生懸命返すのになぜ税金は納めないのでしょうか」、「納税は何よりも優先されるべきだと思うのです」、「一日も早く普通の生活をして頂くため、場合によっては厳しい処分も行わなければなりません」といった発言が掲載されており、現在も滞納整理機構からは特段この姿勢を改める旨の発言はない。
このような滞納整理機構の態度は、多重債務問題の深刻さに対する認識が不十分であることをうかがわせるものである。また、このような認識の不十分さにより、滞納整理機構の職員が滞納者に対し、民間の機関の生活再建資金貸付制度を利用してでも滞納税を一括弁済するよう求める事案が多数存在している。このような行為は、地方自治体から民間への債務の押しつけであって、望ましいものではない。
「サラ金やローン」によって多重債務に陥っている者については、そのことを非難するのではなく適切な方法での債務整理につなげるべきである。それによって、滞納者が多重債務から解放され生活が改善するだけではなく、それによって生じた資力を滞納税の支払いに回すことができるようになるからである。
滞納整理機構は、多重債務問題についての研修等を行い、職員の意識の向上を図るとともに、債務整理の相談機関との連携を強めるべきである。
2 宮城県知事及び滞納整理機構に参加している市町村長に対する要請
(1)滞納整理機構に対する監督
滞納整理機構による滞納税の徴収姿勢については、上記のような問題がある。
滞納整理機構は、上記のとおり、県と23市町村による任意組織であり、それぞれの自治体が職員を派遣するなどしている組織である。そこで、派遣された職員を監督する立場にある県知事及び各市町村長としては、問題の解消に向けて適切に監督を行うべきである。
(2)生活を破壊しない徴収の取り組み
滞納税の徴収の重要性は認めるところであるが、その徴収に当たっては、滞納整理機構が行っているものとは異なったアプローチが考えられるところであり、具体的には滋賀県野洲市の取り組みが参考になる。同市は、地方税等の滞納を生活困窮のサインと考え、納税相談に来た滞納者を生活困窮者自立支援法に基づく相談事業につなげ、そこから同法に基づく就労支援や家計相談支援といった事業、各種福祉施策や債務整理を行う弁護士等へつなぎ、生活再建を図っていく取り組みを行っている。
こういった取り組みは滞納税の徴収という観点からは迂遠なようにも見えるが、滞納者の生活を破壊せず、むしろその生活の再建が図られるので、将来にわたって税の徴収に持続可能性がある方策であると考えられる。
宮城県及び滞納整理機構に参加する市町村としても、滞納者も住民であり、その生活の再建こそが税の徴収のための第一歩と考え、生活を破壊しない形での滞納税の徴収に取り組むよう求める。
以 上