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日本学術会議会員の任命拒否を撤回し,同会議が推薦した6名の候補者を同会議会員に任命することを求める会長声明

2020年10月22日

菅義偉内閣総理大臣(以下「菅首相」という。)は,2020年10月1日から任期が始まる日本学術会議の新会員について,同会議が推薦した候補者105名のうち6名の任命を拒否した。
 今回の任命拒否は,以下に述べるとおり,会員の任命について定めた日本学術会議法7条2項に反する違法なものであるとともに,学問の自由(憲法23条)を侵害するものであるから,菅首相は,今回の任命拒否をすみやかに撤回し,6名の候補者を会員として任命すべきである。

1 日本学術会議法7条2項に反する違法なものであること
  日本学術会議は「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて,科学者の総意の下に, わが国の平和的復興,人類社会の福祉に貢献し,世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし」て設立された組織であり(日本学術会議法前文),「わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発達を図り,行政,産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的と」し(2条),科学に関する重要事項の審議・実現及び科学に関する研究の連絡・能率向上の職務を「独立して」行うと定められている(3条)。   
「独立して」とは,日本学術会議が「内閣総理大臣の所轄とする」(1条2項)とされるとしても,同会議が政府から干渉やコントロールを受けずに,政府から独立した自律的な組織として職務を行うということである。
日本学術会議の会員の任命は,同会議が「優れた研究又は業績のある科学者のうちから会員の候補者を選考し,内閣府令で定めるところにより,内閣総理大臣に推薦するもの」とし(17条),「17条の規定による推薦に基づいて,内閣総理大臣が任命する」(7条2項)とされている。「優れた研究又は業績」という選考基準を満たしているかどうかを適切に判断することができるのは,日本学術会議であり,内閣総理大臣ではない。
また,内閣総理大臣は,日本学術会議の会員自身から病気その他やむを得ない事由により自発的な辞職の申し出を受けたときでさえも,辞職を承認するには日本学術会議の同意を要するとされており(25条),また,会員として「不適当な行為」がある場合すら,同会議の「申出に基づ」かなければ,退職させることができない(26条)とされ,任命権と表裏一体の関係にある辞職の承認権及び解任・解職権についても法律上著しく大きな制限が課されている。
日本学術会議法制定当初は,日本学術会議の会員は,全国の科学者により選挙されていたが,1983年(昭和58年),学会を基礎として選出された者を日本学術会議が会員候補者として内閣総理大臣に推薦し,その推薦に基づき内閣総理大臣が任命する方法とする法改正が行われた。法改正当時の政府は,国会の委員会において,内閣総理大臣による会員の任命行為(学術会議法7条2項)は,同会議の推薦に基づいて行われる形式的なものにすぎないとの解釈の下,内閣総理大臣は推薦された候補者を拒否せず,そのまま任命すると答弁したが(1983年5月12日参議院文教委員会における中曽根康弘内閣総理大臣及び政府委員答弁,同年11月24日参議院文教委員会における丹羽兵助総理府総務長官答弁),そのような国会答弁は今日まで変更されていない。
以上によれば,内閣総理大臣の任命権は形式的なものであり,内閣総理大臣は日本学術会議の推薦のとおりの会員を任命しなければならないというべきである。
菅首相は,今回の任命拒否の理由について「総合的,俯瞰的な活動を確保する観点から」であると説明しているが,日本学術会議法上そのような理由による任命拒否は認められていないことは上記の国会答弁からも明らかである。
したがって,菅首相による新会員候補者6名の任命拒否は,日本学術会議法の解釈を誤ったものであり,違法である。

2 学問の自由(憲法23条)を侵害すること
(1)今回の任命拒否が,拒否された会員候補者の学問研究内容ないし学問的知見の表明を理由とするものであるならば,それは各会員候補者の学問の自由(憲法23条)を侵害するものであることは明らかである。
(2)また, 日本国憲法が思想良心の自由(19条)や表現の自由(21条)とは別に23条で学問の自由を保障した条項を設けたのは,学問研究の成果が,しばしば社会の既成の価値観や時々の政府の政策を批判するものであり,そのために社会や政治権力の側から敵対的反応を招きがちであることにかんがみ,外部の政治的・経済的・社会的圧力に対する各学問研究の自律性・独立性を保護すべき必要性があるからである。
日本学術会議は,「わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発達を図り,行政,産業及び国民生活に科学を反映浸透させること」を目的とし,全ての学術分野の科学者を擁し,幅広い科学的知見を結集して,科学の向上発達のため,従来の考え方を批判して,新しいものを生み出そうとする学術の専門分野の研究組織であり,その目的を達成するためには,憲法23条によって自律性・独立性が保障されなければならない。それゆえ,日本学術会議法も,上記のとおり会員の人事について同会議の自律性・独立性を強く認めているのである。
今回の任命拒否は,政治権力による日本学術会議の人事への介入にほかならず,憲法23条によって保障された日本学術会議の自律性・独立性を侵害するものであり,違憲である。

 よって,当会は,菅首相に対し,今回の任命拒否をすみやかに撤回し,日本学術会議が推薦した6名の候補者を会員に任命するよう求める。

2020年(令和2年)10月22日

仙 台 弁 護 士 会     

会 長 十  河   弘

  

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