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新型インフルエンザ等対策特別措置法等への罰則新設に反対する会長声明

2021年01月28日

 菅義偉内閣は、本年1月22日、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)対策として、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。
 この改正法案では、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症法」という。)に刑事罰、新型インフルエンザ等対策特別措置法に行政罰をそれぞれ新設しているが、以下に述べるとおりこれら罰則の新設には問題が大きい。

1 感染症法改正案では、①感染症患者が正当な理由なく入院措置に応じない場合や入院先から逃げた場合には「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」を科す(改正案72条1号)、②感染症患者等が保健所等による積極的疫学調査(法15条)について、行動歴などの質問に対して正当な理由なく答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は正当な理由がなく調査を拒み、妨げ若しくは忌避した場合には「50万円以下の罰金」を科す(改正案77条3号)という刑事罰が新設されている。
 感染症法は、前文において、「我が国においては、過去にハンセン病や後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め」、「感染症患者の人権を尊重」することを宣言し、感染症のまん延防止のための調査や入院等の措置は、「感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要な最小限度のものでなければならない」と定めている(22条の2)。かかる感染症法の理念からすると、刑事罰の新設については、差別や偏見を助長するおそれもあるため、より慎重な検討が求められる。
 しかるに、刑事罰がないために入院拒否や入院先からの逃走した患者が相当数おり、それにより感染がまん延しているといった事実や、刑事罰がないために積極的疫学調査が阻害されているといった事実の説明は政府からなされていない。したがって、刑事罰をもって規制しなければならないほどの立法事実の存在自体が疑わしい。
 一般社団法人日本医学会連合等の声明が指摘しているように、刑事罰をおそれて、検査を受けなかったり検査結果を隠すようになれば、感染状況を把握できなくなり、かえって感染の抑止を阻害する結果になりかねない。このように刑事罰の新設は、感染症のまん延防止という目的の達成のために効果的なものとは言い難く、国民の自主的な協力による感染症対策を始めとする公衆衛生施策に逆行するおそれがある。
 本日の報道によれば、上記刑事罰を削除し、行政罰の過料とすることを与野党で合意したとのことであるが、行政罰であっても罰則による強制という側面は変わらず、立法事実や効果への疑問は同様である。
 国は、罰則ではなく、様々な事情を抱えている感染症患者等が入院や積極的疫学調査に自主的に協力できる環境整備(所得保障や医療介護サービス等の無償提供等)の充実を図るべきである。

 2 新型インフルエンザ等対策特別措置法では、①まん延防止等重点措置(緊急事態宣言前の措置)の期間において、対象地域の都道府県知事は営業時間短縮等の「要請」や「命令」ができるものとし、「命令」に違反した事業者に対し「30万円以下の過料」(改正案80条)、立入検査や報告を拒否した事業者に対し「20万円以下の過料」(改正案81条)を科す、②緊急事態宣言下での都道府県知事の営業時間短縮や利用制限等の「命令」に違反した事業者に対し「50万円以下の過料」(改正案79条)、立入検査や報告を拒否した事業者に対し「20万円以下の過料」(改正案81条)を科すという行政罰が新設されている。
しかし、「まん延防止等重点措置」の発動要件及び重点措置の下で都道府県知事が「命令」できる措置の内容が不明確であり、かつ、政令に委任されているため、濫用の危険がある。したがって、このような「命令」違反に対して過料を科すことは、適正手続保障(憲法31条)の観点から問題が大きい。
 また、新型コロナの拡大により経営環境や雇用環境が極めて悪化している状況下において、十分な補償がなされることが不明確なまま行政罰を新設することは、それによる利益と失われる利益(営業の自由)の均衡が著しく失してしまうおそれがある。
さらに、緊急事態宣言下での「命令」違反に対する罰則についても、罰則を新設しなければならないほどの立法事実が存在するかは明らかでない。

3 以上のとおり、罰則の新設は、立法事実の存在についての疑問のほか、感染のまん延防止という公衆衛生の目的との関係において、十分な効果があるか疑問があり、また罰則によって制限される移動の自由やプライバシー権、営業の自由等の基本的人権との均衡を失するおそれがあるため、人権侵害の危険性が高い。
 新型コロナの感染拡大で最も深刻な被害を受けているのは経済力、発言力のない方々であり、本人に起因しない被害は社会全体として受け止めるべきであるところ、罰則の新設はこれに逆行して、一部の事業者や感染症患者やその家族にその負担を強いることになりかねない。
 よって、当会は、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案における罰則新設について反対する。
2021年(令和3年)1月28日

仙 台 弁 護 士 会

 会 長 十 河  弘

   

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