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東日本大震災から10年を迎えての震災復興支援に関する会長声明

2021年03月11日

東日本大震災から10年を迎えての震災復興支援に関する会長声明

 

2021年(令和3年)3月11日

仙 台 弁 護 士 会

会 長 十 河  弘

 
1 はじめに
東日本大震災から満10年を迎えた。当会は発災直後から,「人間の復興」の視座の下,被災者に寄り添いながら総力を挙げて震災復興支援に取り組んできた。
当会では,電話相談や被災地での相談活動等を行い,これにより,被災者に対し,被災者生活再建支援金等の被災者支援のための諸制度に係る情報を提供し,当面の震災対応の手法や復旧・復興の道筋を示すことができた。また,震災ADR(裁判外紛争解決手続)を通じて被災者の抱える問題を解決してきた。
住まい・生業の再建や,二重ローン,災害援護貸付等については制度上の問題を指摘し,その改善を求める意見表明を行う等して,現実の制度改善にも繋げてきた。また,原発問題や災害弔慰金不支給問題等についても,各手続に関与する等し,被災者の支援を継続してきた。
そして,在宅被災者(避難所に居場所を確保できず,やむを得ず被災した自宅に戻って避難生活を余儀なくされた方々)の問題に取り組み,在宅被災者の自宅を訪問する戸別訪問型法律相談を実施し,在宅被災者支援を行い,この支援を踏まえて,「災害ケースマネジメント」(被災者一人ひとりの個別状況に合わせた必要な支援を実施するために,被災自治体が被災者台帳を作成・活用する等し,また,被災者一人ひとりの個別の被災の影響を把握し,それに合わせた支援策をパッケージし,各種専門家と連携して,支援を実施していく仕組み)の構築を訴えてきた。
しかしながら,東日本大震災から10年が経過した現在においても,復興から取り残された被災者の方々がいることは否定できない。「人間の復興」という視座からは,これまでの当会の活動を振り返って問題点を明らかにするとともに,一日も早く取り残された被災者の方々が日常生活に戻ることができるよう,今後も支援を継続することが重要である。
そこで,本年は,この10年間における当会の取り組みを報告しつつ,残された課題と今後の対応等について指摘する。
 
2 法律相談を通じた被災者支援の課題
  当会は,発災直後から,災害対策本部を中心に,一日も早く被災者支援を行うという観点から,法律相談体制の整備等必要な対応を検討し,関係諸機関と連携し可能な限り早期に無料法律相談を実施する等して被災者支援を行った。
具体的には,速やかに被災者無料電話相談を開始し,被災者の抱える問題の把握と対応に努めた(なお,この電話相談には3月の開始から10月の終了まで9300件あまりの相談が寄せられた。)。さらに,この電話相談と並行し,現場での被災者支援の重要性から,避難所・仮設住宅での無料出張相談・現地調査を開始し,日本弁護士連合会,他弁護士会,日本司法支援センター(法テラス),他士業と連携し,長期間にわたり現地相談会等を実施してきた。これらの電話相談・現地相談会等を通じて,避難所の運営上の問題,避難所における備蓄物資不足,借上げ仮設の被災者に対し行政サービスが十分に行き届いていないという問題,避難所や仮設住宅における被災者のコミュニティの問題,高齢者・障がい者に対する福祉的支援の必要性等が課題として浮かび上がった。
  当会においては,電話相談・現地相談等で明らかになった被災者が抱える問題について,当会における対応を検討し,各種会長声明・提言・申入れ等により法令や制度の運用の改善等を訴え,関係機関等への働きかけを行うなどしてきた。
  以上のように,当会は弁護士・弁護士会としてできうる限りの法律相談等の支援活動を行ってきたものであるが,発災から10年となる現在も,被災者が抱える問題が全て解決されたとはいえず,継続的支援を要する法的課題も少なからず存する状況である。
当会は,今後も,継続して被災者が法律相談を受けられる体制を構築し,引き続き支援を行う所存である。
 
3 震災ADRによる迅速な紛争解決
  当会では,発災の翌月には,紛争解決制度としていわゆる震災ADRの運営を開始した。発災直後から,被災者には震災に起因した解決すべき難題が山積してストレスが重くのしかかっており,一日でも早く紛争を解決し,生活再建に力を入れたいという切実なニーズがある状況の中で,震災ADRは,被災者の紛争解決の受け皿となった。
  震災ADRにおいては,手続の煩雑さで被災者が申立を躊躇することがないよう,申立の方法・紛争内容の記載を簡素化し,費用面についても経済的負担を軽減し,さらには現地ADRを実施するなど,手続的な労力・負担感の軽減を図った。
  結果として,運用開始から終了までの3年間に520件あまりの申立があり,震災ADRは多くの紛争解決に寄与してきた。
  以上のように,震災ADRは,弁護士会ADRの有する利点(申立のしやすさ,迅速性・機動性・現場主義,手続や解決方法の柔軟性,法律専門性に裏打ちされた公正で柔軟な解決,他士業の専門家の協力,当事者の関係性の改善を模索等)が遺憾なく発揮され,法律相談とともにいわば車の両輪となって,多数の紛争を迅速に「相談から解決へ」と導いてきた。
 
4 住まいの再建に関する各種提言等
東日本大震災によって多くの被災者が突如として生活の基盤である住宅や地域のコミュニティを失った。この失われた生活基盤の復旧・復興は極めて困難な課題であるが,当会は,前記の現地調査・相談等の結果に基づき,会長声明等を通じ,各支援制度等の不備を指摘し,柔軟な運用を自治体に求める等,被災者の生活再建に向けた支援・提言等を行ってきた。
具体的には,復興計画の策定の場面においては,関係各機関や専門家との連携を図りながら被災者の権利・利益が保障され,被災者間の合意形成がなされるような支援が必要であることを訴えてきた。
また,当会は,7で後述する在宅被災者戸別訪問調査等を踏まえ,被災者生活再建支援法による基礎支援金,加算支援金の給付等の支援のみでは住まいの再建が十分果たせていない被災者が数多く存在することを指摘し,同法の対象となる被災家屋の損壊判定基準,手法等について被害の実情に即した支援を受けられるよう法制度の改善を求めた。
さらに,当会は,住宅の応急修理制度の上限額や,被災者生活再建支援制度による給付金額が低廉であり,生活再建の機能を十分に果たしていないという問題,災害救助法の応急修理制度を利用した場合の仮設住宅への入居や被災者生活再建支援制度の加算支援金を受領した場合に災害公営住宅への入居ができなくなる等の制度運用上の問題,災害公営住宅の入居要件や家賃に関する問題,被災者生活再建支援法に基づく支援に格差が生じている実態や受給手続における申請主義の弊害,震災により失われたコミュニティの再建問題とこれに伴う災害公営住宅における孤独死の問題等を指摘してきた。
加えて,当会は,被災地における復興事業において,既存の法制度の枠組みや行政機能により,事業ごとの縦割りの弊害が生じており,その影響で柔軟かつ迅速な復旧・復興活動が十分になされているとはいえず,被災者の生活再建が遅々として進まないことを指摘してきた。他方,被災者側には,再建費用捻出困難の問題,修繕の可否の判断が困難であるという問題,被災者家族間の生活設計の調整の問題,災害危険区域指定を受けた地域の復興のビジョンの評価と実現可能性等の問題があり,現状の災害法制による復興事業では,復興に相当な時間を要する結果となった。
そのため,今後の課題として,既存の災害法制を再度検証し,災害時における特例を設ける等,復興に向けた効率的な運用が可能となる制度作りが重要であることを指摘したい。
 
5 まちづくりにおける課題と提言
前記のとおり,当会は,復興計画において,被災者の権利・利益が保障され,被災者間の合意形成がなされるよう支援を行う必要があると訴えてきた。
この点,住民の意向を反映した復興事業計画が実施された地区では,被災者の復興に対する納得・満足感が高く,コミュニティが維持ないし形成される等復興が図られているものの,そうではない地区も少なからず存在しているのが実情である。
このような状況が生じたのは,造成宅地や災害公営住宅の完了までに時間を要し,その間に被災者の事情が変化してしまったことが一因ではあるが,そもそも造成宅地や災害公営住宅の事業計画に被災者の意向を十分に反映できなかったことが大きな要因である。
まちづくりのための各種復興事業は,被災者の生活再建のための手段として実施されることからすれば,被災者の生活再建のために計画され,実施されなければならない。
そのためには,7で後述するとおり,災害ケースマネジメント等の手法により,少なくとも被災者の生活再建の方針を定めるべきであるとともに,復興事業の計画に被災者の意向を反映することが必要である。
 
6 生業の再建の課題と提言
沿岸地域を中心とする東日本大震災の被災事業主の中には,生業と生活が一体化していた者が多数いた。そのような被災事業主が,生活の基盤を確保・再建するためには,住まいの再建のみならず,生業の再建も必要不可欠である。
そのための支援制度及びその運用の充実は,発災当初から望まれ,当会も訴えてきたところであり,株式会社東日本大震災事業者再生支援機構による事業再生支援制度や個人事業主を含む個人債務者の私的整理に関するガイドライン(いわゆる被災ローン減免制度)等が制度化されている。
また,このような事業主を既存債務の負担から減免する制度と共に,新たな事業資金を給付支援するものとして,いわゆるグループ補助金も制度化されている。しかしながら,グループ補助金は,自己負担分につき,資金調達の問題が生じる。この自己負担分を補うものとして,いわゆる高度化スキーム貸付制度があるものの,既存顧客や販路の喪失等の影響で,高度化スキーム貸付資金を含む震災後の借入れにつき,返還が困難となるケースが顕在化しつつある。
そもそも,グループ補助金等の現状の支援制度は,自己負担分のあるものが多く,かかる負担や手続の煩雑さ等から,事実上,制度利用者も制限される。自己負担分が無く,多くの被災者から利用されている被災者生活再建支援法に基づく支援金制度は,住宅被災を基準としている。しかし,住宅が損壊せずとも事業設備等の物的損壊や既存顧客・販路喪失等で事業ができなくなれば,生業と生活が一体化した被災者等の生活再建は困難である。
そこで,住宅損壊だけでなく生業を含めた生活基盤に著しい被害を受けた場合でも,その生業再建ひいては生活再建を図ることができるよう,被災者生活再建支援法の改正を含め,総合的な生業の再建支援制度の構築をすることが望まれる。
 
7 在宅被災者問題と災害ケースマネジメント
(1)在宅被災者の問題と克服すべき課題
東日本大震災においては,災害法制等に基づく復興支援の網から抜け落ちてしまった在宅被災者が多数存在した。
当会は,在宅被災者の戸別訪問型相談を実施し,在宅被災者が抱える生活上の問題点を調査し,当会と業務委託契約を締結した石巻市との間では調査結果を共有して,個々の被災者の生活再建方法を協議するとともに,在宅被災者の現状やその救済の必要性と課題解決の方向性を伝えるために各種シンポジウムを開催するなどした。
上記調査を通じ,在宅被災者の多くが年金受給者等低所得者で,十分な金融資産を有しておらず,他方で,災害時に利用できる修理費用補填制度では,自宅の修理費用がまったく足りないという低廉な支援金額の問題,支援制度に関する十分な情報を得られていなかったという申請主義の弊害問題,応急修理制度や加算支援金を利用すると,その後仮設住宅や災害公営住宅に入居できなくなるといういわゆる単線型問題などが明らかとなった。
当会は,会長声明等を通じて,上記問題を克服すべく,応急修理費用や加算支援金の増額,アウトリーチ型の法律相談事業の法制化並びに弁護士等専門家が関与する災害ケースマネジメント事業の法制化,応急修理制度や加算支援金を利用しても仮設住宅や災害公営住宅に入居できるようにする運用改善を求める提言等を行ってきた。
これら提言により,東日本大震災以降に発生した大規模災害においては,在宅被災者の認識が広まり,在宅被災者の存在を前提とした復興支援活動が行われた地域もある。さらに,2018年(平成30年)10月頃からは総務省行政評価局による在宅被災者に関する実態調査が行われ,2020年(令和2年)3月31日には,同調査の結果を踏まえた勧告が公表されている。この勧告の内容の中でもアウトリーチ型の支援や,地方公共団体と支援団体とが連携した形での被災者支援が行われるべきことが提案されるに至っている。
また,例えば石巻市においては,石巻市津波浸水区域被災住宅小規模修補補助金を創設する等して低廉な支援金を補てんする制度が創設されたほか,在宅被災者の事情によっては災害公営住宅の入居を認める運用とする等,単線型問題を解消するような柔軟な対応が取られるようになっている。
他方で,応急修理制度については,現在は若干の増額がなされたものの修理費用として不十分な状態にあり,加算支援金についても,被災家屋の修繕のための費用としては,到底十分な金額とは言えない状況にあり,被災者の生活再建支援のための増額措置は採られていない。また,単線型問題解消のための運用改善も未だなされていない状況にある。
これら残された課題について,当会は,引き続き粘り強く改善を訴え実現に奔走する所存である。
(2)災害ケースマネジメント法制化の重要性
震災後の被災者が抱える課題は,複合的・重層的であり,その解決には多岐にわたる専門知識が必要とされる。そのため,複合的・重層的な課題は,各種専門家や自治体等に共有されることによって解決に結びついていく。
また,被災者に対する様々な支援制度はあるものの,これらの支援制度は申請主義を前提とした制度設計となっているため,支援制度を知らず課題を抱えたまま適切な支援を受けられない被災者が多数存在する。
そこで,被災者に対する法的支援としては,本来,制度利用が可能な被災者に対して,地方公共団体側から積極的に制度利用について情報提供を行うアウトリーチ型の活動が必要である。
各種専門家との連携やアウトリーチ型の活動等の要請を一挙に解決しうる方策として,当会は,「災害ケースマネジメント」の重要性を指摘し,その制度の構築を目指してきた。
当会は,引き続き災害ケースマネジメントが速やかに法制化されることを求めていくとともに,その実現に向けた具体的な取組みを今後さらに継続していく所存である。
 
8 二重ローン問題の克服と課題
当会が発災直後から実施してきた相談事業において寄せられた大きな課題の一つはいわゆる二重ローン問題であった。津波や地震等で住宅ローンがある住家を喪失したにもかかわらず,既存の住宅ローンの支払いを余儀なくされ,さらには再建のために新たな住宅ローンを組まざるを得ないという問題である。
当会は,住家の喪失に関し,まったく帰責事由のない被災者が二重のローンに苦しむ事態は何としても克服すべきであるとして,速やかに検討に着手し,国等に働きかけを行った。その結果,いわゆる被災ローン減免制度(個人債務者の私的整理に関するガイドライン)の構築を実現するに至り,多くの二重ローンに苦しむ被災者の支援にあたった。
さらに,当会は,上記制度はあくまで私的整理に過ぎないことから,災害発生後に二重ローン問題に速やかに適用される法制度創設の必要性を訴え,提言を行った。具体的には,被災者たる個人債務者に対する債権の買取等の業務を通じて,被災者の生活及び事業の再建を支援することを目的とする機構の設立を求めるものである。
上記提言後,個人債務者の私的整理に関するガイドラインを基に,大規模災害時に一般に適用される制度として,2016年(平成28年)4月1日より自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「自然災害ガイドライン」という。)の新たな運用が始まった。しかし,当会が提言した上記機構については未だに設立をみない。
この点について,東日本大震災で被災し,被災地域で事業の再生を図ろうとする事業者に対しては,上記提言と同様に,金融機関等が有する被災事業者に対する債権の買取り等を通じて債務の負担を軽減しつつ,その再生の支援を目的とする株式会社東日本大震災事業者再生支援機構が設立され,実績を積み上げている。
被災事業者だけでなく,二重ローンを抱える個人の被災者にとっても,金融機関等が有する債権の買取り等を通じて債務負担を軽減する必要性は変わらないのであるから,同様の仕組みを構築することが被災者の生活再建にとって極めて有用である。
当会は引き続き,この機構の設立を求めていくものである。
 
9 災害援護資金貸付に関する課題と提言
東日本大震災において,いわゆる災害援護資金貸付は,県内の低所得世帯を中心に多くの被災者から利用され,発災直後の生活再建の促進に寄与した。しかし,その一方で,同貸付については,既に6年間の据置期間が終了して償還が始まっており,それに伴い被災者の生活再建を阻害するような様々な課題が現実化している。
すなわち,被災した借受人の中には,住まいの再建すら十分に果たせていない被災者や,高齢の被災者が多数存在するところ,償還の開始により,経済的に困窮して自己破産等に至るケースが増加している。また,借受人が死亡した場合,法令上,償還の「免除をすることができる」とされているにもかかわらず,現状の運用では償還免除せず,借受人の相続人が相続放棄しない限り,借受人の相続人に対し,償還請求がなされている。
これらの課題克服にあたり,当会は,借受人の窮状を救済すべく,2021年(令和3年)2月10日,貸付金の償還期限の延長,借受人死亡の場合は,相続放棄を要件とせず,被相続人の経済状態,相続人との関係性等によっては直ちに免除すること,経済的困窮者一般に償還免除をすべきことなどの法令改正・運用改善を求める提言を行った。
さらには,前記自然災害ガイドラインに基づく債務整理において,債務減免の対象となる債権者に災害援護資金貸付が含まれないという見解が国から示されているという問題が指摘されている。今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて債務の弁済が困難となった方の中には,東日本大震災において災害援護資金貸付を受けた方が少なからずおられるところ,上記問題が克服されない限り,生活再建を図ることは困難である。
そこで,当会は,上記提言と同日,災害援護資金貸付について,自然災害ガイドラインに基づく償還免除をできるよう法令改正ないし運用の改善等を求める提言を行った。
 
10 原発問題
(1)原発事故被害の回復は未だ途上にあること
福島第一原子力発電所の事故(以下,「原発事故」という。)による放射能汚染とその住民に対する長期的な避難の強要は,広範囲にわたる多数の住民の生活基盤を不可逆的に奪った。
原発事故による被害の内実は,住居移転の自由(憲法22条1項),財産権(憲法29条),平和的生存権(憲法前文,13条,25条)等,広範な憲法上の基本的人権の侵害を伴い,個人の尊厳(憲法13条)を著しく損なうものである。
原発事故から10年を経過する現在においても,避難者数は約4万2千人に上る。国が避難指示を出した地域における人口比災害関連死者数は,他の被災地と比較でも高い水準で推移しており,現在に至っても災害関連死の認定申請が絶えない。
これらの広範かつ深刻な被害の回復は,未だ途上にある。
2018年(平成30年)以降,原子力損害紛争解決センターにおける集団申立事例では,東京電力による和解拒否を理由に打ち切られる事例が頻発し,未だ被害回復に至っていない。
全国に提訴された集団訴訟では,いずれも原子力紛争審査会が策定した中間指針を上回る賠償額を認容したものの,いずれも控訴審・上告審において係争中である。
他方において,いわゆる原賠時効特例法により,原発事故に関する損害賠償請求権の消滅時効が10年間とされたものの,本日で原発事故から10年を迎えることとなる。
被害回復が未了のまま,被害者が被った広範な損害が切り捨てられるような事態は断じて許されない。
東京電力ホールディングス株式会社では,消滅時効を理由に一律に賠償を拒まないことを表明しているものの,消滅時効を援用しないとも明言していない。当会では,同社による被害者対応の動向を注視しつつ,今後も被害救済に必要な提言等を行う所存である。
(2)原子力発電からの撤退
   当会では,将来発生する地震・津波の規模を完全に想定することはできず,仮に想定できてもそのすべての事態について万全の対策を講じることは困難であるとの観点から,2012年(平成24年)2月27日に原子力発電からの撤退を求める決議を採択した。
全国で係争中の集団訴訟では,原発事故の国の責任についての司法判断が分かれたままである。かように広範かつ深刻な被害をもたらす原発事故を,本当に防ぐことができなかったかという視点での検証が今後も求められる。
一方で,2020年(令和2年)11月18日,宮城県知事は,女川原子力発電所2号機について,東日本大震災の被災原発としても,過酷事故を起こした福島第一原子力発電所と同じ「沸騰水型炉」としても,全国で初めて再稼働の同意に及んだ。当会は,同月20日に,あらためて原子力発電からの撤退を求める会長声明を発出し,宮城県知事に対し遺憾の意を表明するに至った。被災経験を共有する地元自治体に対し,原子力発電の危険性について警鐘を鳴らさざるを得ない状況に陥っている。
(3)原発事故被害者の救済に向けた決意
当会は,原発事故の原因や広範な被害について十分な検証を経ることなく,風化しかねない現状に対して強い懸念を有するとともに,原発事故の全ての被害者が救済されるまで,力を尽くす所存である。
 
11 災害弔慰金不支給問題の課題と提言
いわゆる災害弔慰金は,災害によって大切な家族を失った遺族に対し,自治体が弔意を示すとともに,遺族の生活再建を支援するという趣旨を有するものであって,被災者の支援にとって非常に重要な側面を有する制度である。
東日本大震災において災害弔慰金が支給される場合としては,津波に巻き込まれて亡くなる等,災害と死亡との間に直接的な因果関係がある直接死のみならず,避難生活を余儀なくされたこと等による生活環境の変化や,甚大な被害を目の当たりとしたことによる精神的なショック等に起因して,震災後しばらくしてから亡くなられたという,いわゆる災害関連死がある。
もっとも,直接死と災害関連死の線引きは曖昧である上,各自治体の審査会が災害関連死に該当するか否かを判断する基準,換言すれば,災害と死亡との間に法律上の相当因果関係が認められるか否かの審査基準が一義的ではなく,本来であれば災害関連死と判断されるべきなのに災害弔慰金が支給されない事案も少なからず存したという問題がある。
この点,災害関連死該当性の問題は,弔慰金の支給という金銭的な問題を超えて,遺族が災害による故人の死を納得して受け入れられるかという,人間の復興にとって非常に重要な側面を有する問題であることからすれば,災害関連死該当性は広く認められるべきである。現に,東日本大震災においては,亡くなった被災者が置かれた過酷な環境や健康状態の変化等について,診療記録等により丁寧に事実を認定し,東日本大震災と死亡との間に相当因果関係があることを認めた裁判例も複数存する。
以上を踏まえ,当会としては,今後の災害に備え,上記裁判例を十分に精査して理解を深め,制度の趣旨に沿った災害弔慰金の支給が広くなされるよう努める所存である。
 
12 最後に
当会の支援活動の過程で,災害救助法,公営住宅法,土地区画整理法,災害対策基本法,防災集団移転促進事業法,災害弔慰金法,被災者生活再建支援法,被災マンション法等,既存の災害法制に関わる諸課題が明らかとなるとともに,阪神・淡路大震災等で解決が求められていた二重ローン問題の対応が急務となり,法律専門家の団体として,法制度の改正や構築に向けた役割を果たす必要に迫られた。これら課題の一部は,災害救助法や公営住宅法や被災者生活再建支援法上の運用が改善され,被災ローン減免制度等の制度として結実し,被災マンション法が改正される等,将来に向けての法整備・運用改善につなげることができたが,仮設住宅の入居要件(連帯保証人の付保)や災害公営住宅の家賃設定に係る課題,災害援護資金貸付制度に係る諸課題,災害弔慰金事案の整理と防災対策への活用,罹災判定制度の運用や被災者生活再建支援金の増額等,解決すべき課題が将来に残されたままである。
他方,復興段階における当会の活動の過程で明らかとなったものとして,国・県・市町村間や自治体の部署間の連絡・調整不足及び縦割り行政の影響で,復興事業の進捗が遅滞する事態が見受けられる等,公助の機能が十分機能しなかったことが指摘できる。また,被災地自治体の被災者に対する情報開示が不十分だったために被災者や被災地域の復興が遅滞する等,被災者・被災地における自助・共助機能が十分に発揮できなかったことも指摘できる。これは,多数の自治体職員が犠牲になり,また,東日本大震災の被災地が抱える課題と需要が,災害対策基本法に基づく従前の震災対応(知見・経験)をはるかに超えたものだったこと等の事情がその背景として存在するものの,災害対策基本法を中心とした災害法令上の国・自治体・被災者・支援者等の役割にかかる課題が一挙に顕在化したものと言わざるを得ない。
当会は,以上に述べた法令上の不備,実務運用上の不備,情報開示の不備等の把握に努め,適時に意見や提言を発出するとともに,粘り強く被災者支援活動を継続してきた。中でも,在宅被災者を対象とする災害ケースマネジメントの手法による支援活動や各種法律相談活動は,制度上・運用上の不備を把握するうえで極めて有用であった。
当会は,今後も,「人間の復興」を視座として,東日本大震災の被災者の支援活動を継続するとともに,被災地弁護士会の責任として各地で発生が懸念される災害に対応すべく,この10年間の活動で得た知見・経験を基に,全力を尽くす所存である。

以 上

 

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