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自然災害債務整理ガイドライン新型コロナ特則の適用開始から1年を迎えての会長声明

2021年12月01日

1 はじめに
  新型コロナウイルス感染症の影響により債務の支払いが困難となった個人債務者の債務整理の準則を定めた「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下「コロナ特則」という。)の適用が開始されてから1年を迎えた。
  コロナ特則は,自然災害の影響により債務の支払いが困難となった個人債務者の債務整理の準則である「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「自然災害ガイドライン」という。)を,新型コロナウイルス感染症の影響による場合にも適用することを定めたものである。新型コロナウイルス感染症の影響は,債務者にとって不可抗力とも言える帰責性がない事象である点で,自然災害の場合と共通するものである。コロナ特則は,新型コロナウイルス感染症のそのような特性を踏まえ,自然災害ガイドラインと同様に,同感染症の影響により債務の弁済が困難となった個人債務者の生活及び事業の再建を支援することを目的として策定されたものである。
当会は,現在まで,77件について登録支援専門家を委嘱してコロナ特則を利用する個人債務者の支援にあたり,6件については債務整理の成立に至っている。全国的にも,コロナ特則の登録支援専門家委嘱件数はすでに1400件を超えており,また各地で債務整理の成立事例も報告されており,コロナ禍に苦しむ個人債務者の生活及び事業の再建に一定程度寄与しているものといえる。
  しかしながら,その運用開始から1年を経過する中で,以下に指摘するような様々な課題も生じており,必ずしもコロナ特則策定の目的が十分に果たされているとは言い難い実情にある。このままでは,コロナ特則の存在意義自体を問われる結果にもなりかねないことから,以下のような課題が早急に克服されることが必要である。

2 対象債務の基準日の拡張の必要性
  コロナ特則では,その対象債務について,2020年2月1日以前に負担していた既往債務,及び,2020年2月2日から2020年10月30日までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上げ等の減少に対応することを目的として貸付等を受けたものとされている(以下,2020年10月30日を,便宜上「基準日」という。)。すなわち,基準日以降に負担した債務は,本特則に基づく対象債務には含まれないことになる。
  しかしながら,基準日以降も新型コロナウイルス感染症の拡大は続き,今後もその収束の見通しは全く予測できない深刻な状況にある。
  現に,コロナ特則の利用者の中には,基準日以降も新型コロナウイルス感染症の影響により貸付を受けている債務者が相当数いるが,そのような債務者については,基準日以降の債務についても対象債務の範囲に含めてその債務整理を行わなければ,生活及び事業の根本的な再建を図ることは困難であり,中には,基準日以降の債務の存在が原因となり,コロナ特則による債務整理を断念したとの事例も報告されている。
他方で,一部の債権者においては,基準日以降の貸付分も含めて債務免除する内容の調停条項に同意する事例も出てきているが,コロナ禍の長期化という実情を踏まえた柔軟な対応として,高く評価されるべきものであり,このような対応が広く行われることが望ましい。
  新型コロナウイルス感染症の影響が長期化している状況のもとにおいて,コロナ禍に苦しむ個人債務者の生活及び事業の再建をはかるためには,基準日の拡張等の適切な措置がすみやかに図られるべきである。

3 公的債権の債務免除を可能とする制度整備の必要性
  コロナ特則を含む自然災害ガイドラインの利用者の中には,災害援護資金貸付等の自治体から貸付や,自治体による損失補償付き制度融資を受けているものも少なくない。
  たとえば,宮城県では,東日本大震災の災害援護資金貸付を受けている被災者が多数存在しているところ,災害援護資金貸付については,コロナ特則に基づく債務免除を行う根拠規定がないこと等を理由に,結果として対象債権者に含めることが困難な状況となっている。この点について,当会は2021年2月10日付け「要請書」において所要の法令の改正ないし運用の改善等を求めていたところであるが,現在に至るまで改善はなされていない。東日本大震災に加え,コロナ禍という,いわば二重の被災に苦しむ個人債務者の救済のためにも,早急な改善が必要である。
  また,債務者の中には,自治体の損失補償特約が付されている制度融資を受けているものも少なくないが,債権放棄を行うにあたっての根拠となる条例の不備等が原因となり,当該制度融資についてコロナ特則に基づく債務免除を受けることができないという事例も報告されている。しかしながら,比較的多額となる制度融資について債務免除が受けられないとなれば,個人債務者の生活及び事業の再建に大きな支障となることは明らかである。
  したがって,災害援護資金貸付等の公的貸付金や自治体等の損失補償付き制度融資等も本特則に基づく債務免除が可能となるように,所要の法令の整備や運用の改善等がなされるべきである。

4 ガイドライン尊重の実務慣行確立の必要性
  コロナ特則を含む自然災害ガイドラインは,法的拘束力を持たず,また,全債権者の同意により成立する私的整理の準則である以上,実効性をもって運用される前提として,ガイドラインに関わる全ての関係者が,ガイドラインの趣旨・目的や制度内容について十分に認識を共有し,ガイドラインを尊重する実務慣行が確立されることが不可欠である。
  しかしながら,一部の対象債権者において,必ずしも本特則の趣旨・目的や制度内容に整合しないと思われる対応がなされていることにより,債務整理に支障が生じたり,場合によっては債務整理を断念せざるを得ない状態となっているとの事例が複数報告されている。このような傾向は,自然災害の場合に比して,コロナ特則においてより顕著に見受けられる。
  コロナ特則が真にコロナ禍に苦しむ個人債務者の生活及び事業の再建の支援に資するものとするためには,ガイドラインを尊重する実務慣行が確立されることが急務である。そのためには,対象債権者を監督する金融庁ほか関係監督機関等においても,ガイドラインの趣旨・目的や制度内容に整合しない対応がなされたような場合には,当該対象債権者に対する指導等の適切な措置をより積極的に行うことが求められる。
  なお,コロナ特則に限らず自然災害ガイドライン全般について,将来的には,登録支援専門家と対象債権者の見解が相違したり,あるいは対象債権者が必ずしも自然災害ガイドラインに沿った対応等をとらなかったりしたような場合に,その調整等を図る機関等を設立することも検討されるべきである。

5 結語
  コロナ禍という帰責性のない事情により債務の弁済が困難となった個人債務者について,その生活及び事業の再建を支援することを目的とするコロナ特則が,その目的を実効性をもって果たしていくためには,前記のような諸課題についてすみやかに改善がなされることが必要である。
  当会は,今後も,コロナ禍により債務の弁済に苦しむ個人債務者の生活及び事業の再建が適切に図られるよう,その運用に尽力していく決意であることをここに表明するものである。

2021年(令和3年)12月1日     

仙 台 弁 護 士 会    

会 長  鈴 木   覚

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