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平成21年7月31日決議

2009年08月07日

えん罪防止のための適正な捜査手続等の確立を求める決議

  本年5月21日から裁判員制度が施行されるとともに,被疑者国選対象事件が長期3年を超える懲役・禁錮を法定刑とする事件に拡大された。被疑者国選対象事件の拡大及び裁判員制度は,これまで多くのえん罪を生み出してきた捜査手続等を大きく改善する契機となり得るものであり,当会がこれまで求めてきた刑事手続上の諸提言が実現に向け動き出すことが期待されている。当会は,このような時機において,これまでの提言を総括するとともに,改めて関係機関に対する要求事項を掲げ,本決議の表明に及ぶものである。

 

    多くのえん罪は,安易に「代用監獄」が勾留場所とされる中,長時間にわたる密室での取調べの過程で作出された虚偽自白が原因となり発生している。「代用監獄」は,本来は法務省所管の拘置所に収容されるべき勾留決定後の被疑者・被告人(以下「被疑者ら」という)を引き続き警察の留置施設に収容する日本独自のシステムであり,被疑者らに対する深夜にまで及ぶ長時間取調べが,弁護人の立会を排除し密室でなされるため,被疑者らは国家権力を背景に持つ取調官の圧力に屈し,虚偽の自白が作られる構造となっている。
  これまでの例を見ても,いわゆる死刑再審4事件(免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)は,いずれも「代用監獄」を利用して作出された虚偽の自白がえん罪の原因となっている。また,近年も,警察が被告人の自白獲得を目的として「代用監獄」を利用し,被告人の同房者に対する虚偽の犯行告白を作り上げた引野口事件や,密室の中で複数の取調官に責められ虚偽の自白をさせられた足利事件等,違法捜査事例は後を絶たない。
  現在の捜査手続では,被疑者らが後日取調べの過程で自白を強要されたことなどを立証しようとしても,取調べの全過程が録画・録音がなされていないため,その立証は著しく困難であり,上記の各事件においては,裁判所が虚偽の自白を追認しえん罪を生じさせるという結果となっている。
    このような「代用監獄」の存置及び密室での検証不能な取調べは,国連拷問禁止委員会や国連自由権規約委員会から強く非難されるとともに,その廃止及び取調べの全過程の可視化が求められている。そこで,虚偽自白作出の原因を除去しえん罪を防止するためには,まず,「代用監獄」の廃止と取調べ全過程の録画・録音が実現されなければならない。

 

   また,「代用監獄」の廃止によって,被疑者らとの接見の機会が妨げられるような事態が生じることは決して許されてはならないのであり,「代用監獄」の廃止ととともに,本来の勾留施設である拘置所において接見の機会が十分保障されるような態勢の拡充が図られなければならない。

 

    さらに,えん罪を生み出す捜査の問題として,捜査機関が鑑定を行う際に鑑定に用いた資料を保存せず,後の検証を不可能にする運用が行われている点も見過ごせない。このような運用により,誤った鑑定結果が,再検証によって正されないまま事実認定の証拠とされ誤判を招く結果につながるとともに,捜査機関が鑑定結果の適否に配慮することなく,その結果に沿った自白を強要しやすい状況が生じている。

 

  そして,以上の捜査・勾留の実態の問題を適切にコントロールできない裁判所・裁判官の問題も重要である。すなわち,2007年5月に国連拷問禁止委員会から,日本の勾留状発付率が異常に高く警察の留置施設における未決拘禁に対する裁判所による効果的な司法的コントロール及び審査が欠如していることが指摘されている。このほかにも,安易な勾留延長決定や接見禁止決定,保釈保証金の高額化,否認事件における保釈不許可の傾向等,裁判所・裁判官が被疑者らの長期間にわたる不当な身体拘束を認め外部との接触を遮断しているとの指摘がなされており,裁判所による司法コントロールについては数多くの問題が存在している。
   また,裁判上の証拠能力判断の場面においても,被疑者らの不利益供述調書の任意性は検察官が立証しなければならないところ,裁判所がこの立証責任を不当に緩和したり,鑑定資料が全量消費され保存されていない鑑定の証拠能力を安易に認めてしまう傾向も見られる。
 以上の諸問題は,一般市民には必ずしも十分認識されておらず,裁判員裁判が施行された今日では,裁判員に証拠の評価を誤らせえん罪を生み出す過程に加担させることにもなりかねないことを踏まえ,速やかに解消されなければならない。

 

  当会は,昨年7月16日に「取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)を求める会長声明」を発表し,本年7月11日に開催したシンポジウムにおいて,上記問題点を検証し,あるべき刑事司法について議論した。当会は,その成果を踏まえ,引き続き被疑者らの権利擁護,えん罪防止のために尽力することを宣言するとともに,適正な捜査手続の確立を目指すために早急に実現すべきものして,下記の各事項を関係各機関に要求するものである。

 
                                                 記

 
1 政府,国会に対し,
(1)被疑者らの勾留・保釈に関し,以下の内容の法律を制定すること。
  ① 「代用監獄」制度を廃止し,捜査と拘禁の分離を徹底するとともに,拘置所における接見の機会を十分に保障するための態勢を拡充すること。
  ② 勾留質問への弁護人立会権を保障すること。
  ③ 起訴前保釈を創設し,権利保釈除外事由を厳格化すること。
(2)被疑者らの取調べに関し,以下の内容の法律を制定すること。
  ① 取調べの全過程の録画・録音を義務付け,これに従わない場合に供述調書の証拠能力を否定する法的効果を定めること。
    ② 弁護人の立会権を保障すること。
    ③ 被疑者らに対する取調べ時間について厳格な時間制限を付し,これに従わない場合の制裁措置を定めること。
(3)再鑑定の機会を保障するために捜査機関に対し,鑑定資料の保存を義務付け,これに従わない場合に当該鑑定結果の証拠能力を否定する法的効果を法律で定めること。
2 裁判所・裁判官に対し,
(1)勾留の要件審査を,憲法,国際人権(自由権)規約,拷問等禁止条約,及び刑事訴訟法の趣旨に従って厳格に行うこと。
(2)否認事件や第1回公判前というだけで安易に保釈請求を却下せず,また保釈保証金を低額化すること。
(3)被疑者らの不利益供述調書の証拠能力について,取調べ全過程の録画・録音がなされていない限り,その証拠能力を否定するなどの厳格な判断を行うこと。
(4)鑑定資料が保存されていない鑑定について,証拠能力を否定するなどの厳格な判断を行うこと。

 

以上の通り,決議する。              

              

 2009(平成21)年7月31日
                                仙 台 弁 護 士 会
                                                              会 長  我  妻    崇

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