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平成23年6月15日会長声明

2011年06月17日

布川事件再審無罪判決を受けての会長声明


 本年5月24日,水戸地方裁判所土浦支部は,1967(昭和42)年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件,いわゆる「布川事件」について,同事件の被告人とされた桜井昌司氏,杉山卓男氏に対し,再審無罪判決を言い渡した。
 両氏は,別件逮捕後の取調べで犯行を自白させられたものの,第一審公判開始以来一貫して無罪を叫び続け,1978(昭和53)年に無期懲役刑が確定した後も再審請求を続けてきた。当会は,長年にわたり無実を訴え続けてきた両氏と,両氏を支え続けてきたその家族,支援者,弁護団の皆様の努力に深く敬意を表する。
 本件では,目撃者証言と桜井氏,杉山氏の自白が有罪認定の根拠とされていたが,再審請求審において初めて開示された検察官手持ち証拠はこれら有罪認定根拠を揺るがすものであり,その取調べにより再審無罪判決が導かれている。このような経過からすると,検察官が手持ち証拠を開示しないのは,被告人・弁護人の反証を不当に妨害する証拠隠しと目しうるのであり,強く指弾されなければならないし,同時に,捜査機関が保有する証拠の全面開示を制度的に保障することが,公正な裁判の実現には必要不可欠であることはもはや明らかである。
 また,本件は,捜査段階においても,桜井氏・杉山氏らに対し,別件逮捕・勾留を利用した密室における長時間の取調べや虚偽自白の誘導・強要が行われており,そのような取調べの中で虚偽自白が生まれている。このような違法・不当な取調べから虚偽自白が導かれるのを防止するには,取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)が必要不可欠である。
 さらに,本件の確定審(第一審)においては,取調べの一部を録音したテープが両氏の自白の信用性を裏付ける証拠とされたが,このことは,部分的な録画・録音が自白の証拠能力や評価を誤らせる危険があり,取調べの可視化と呼ぶに値しないことを物語っている。
 最高検察庁は,大阪地検特捜部の郵便不正事件における捜査の問題点等を踏まえて,本年4月26日,「録音・録画の試行に関する運用要領」を発表した。しかし,その内容は,録音・録画の対象となる事件が極めて限定されていること,録音・録画の範囲が検察官の裁量にかかっていること等,従前から運用されている取調べの一部録音・録画と何ら変わりがない。また,布川事件をはじめ数々のえん罪事件の元となる虚偽自白を生み出した警察の取調べについては,依然として録音・録画を導入する動きは見られない。
 このように,えん罪の防止に向けた国の動きは極めて不十分なものと言わざるを得ない。国は,布川事件の再審無罪判決を踏まえ,取調べの一部録音・録画がえん罪の悲劇をもたらす危険なものであることを重く受け止めて,このような過ちを繰り返さないための方策を早急に実施すべきである。
 当会は,昨年10月16日,桜井氏,杉山氏をお迎えし,取調べの可視化等の実現を求めるシンポジウムを開催したが,上記再審無罪判決を受けて,改めて,えん罪を生まない刑事司法の実現を目指し刑事司法の改革に全力で取り組むことを表明するとともに,国に対し,取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)と捜査機関が保有する証拠の全面開示を早急に立法化するよう,強く求めるものである。

2011(平成23)年6月15日

仙 台 弁 護 士 会     

会 長   森  山   博

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