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平成23年7月1日「災害救助法の積極的活用等を求める提言」

2011年07月04日

災害救助法の積極的活用等を求める提言

2011年(平成23年)7月1日

仙台弁護士会

会 長   森  山    博

第1 提言の趣旨
被災地の自治体は,
1(1) 災害救助法第23条1項2号を積極的に活用し,避難所生活者への炊き出しを積極的に行うなど,被災者の精神面にも配慮した食事や食料の救助を継続的に実施するべきである。
(2) 特別基準について厚生労働大臣と協議し,応急仮設住宅入居者及び在宅避難者に対しても,具体的な救助の必要性に応じて,無償の食材の提供,炊き出し,その他の方法による食品の給与及び飲料水の供給を行うべきである。
(3) (1)及び(2)の措置を実施するにあたり,食事衛生確保のための方策を十分に講ずるべきである。
 
2 災害救助法第23条1項3号を積極的に活用すべく,特別基準について厚生労働大臣と協議し,がれきやヘドロの粉じんによる健康被害の危険がある被災地の被災者に対し,同号の「生活必需品」として,防じんマスクを支給するべきである。
 
3 災害救助法第23条1項7号を積極的に活用すべく,特別基準について厚生労働大臣と協議し,被災した中小零細事業者に対し,生業に必要な資金を給与するべきである。
 
国は,被災地の自治体が上記1乃至3の各措置を実施することができるよう,特別基準の運用や財政的支援を含めた全面的な支援策を講ずるべきである。
 
第2 提言の理由
1 現在の被災者の状況
既に,東日本大震災の発生から100日余りが経過した。しかしながら,全国の避難者数は,現在も約12万5,000人に上っており(避難所,親族・知人宅,公営住宅,仮設住宅等への入居者を含む),宮城県においても県内335箇所の避難所に避難者が約1万7,500人,他県への避難所生活者が約6,500人,合計約2万4,000人の被災者が避難所生活を余儀なくされており,被災地は,災害救助の段階をいまだ遠く脱していない。
このような災害救助段階における問題点や各種支援策については,当会においても,4月14日付け第1次緊急提言にて既に指摘し提言したところであるが,その後も,被災地域が極めて広域にわたることや,救助すべき自治体そのものが被災により多大な被害を被ったことにより,避難者の救助が順調に進められてきたとは言い難く,被災者支援に携わる関係者は,多くの避難者が,今もなお,生きるために不可欠な救助を必要とする状況にあることを改めて認識する必要がある。このような認識に立つならば,災害救助段階における災害救助法の果たすべき役割を,なお一層,最大限に発揮させる必要がある。そこで,当会は,以下の理由により,提言の趣旨記載のとおり提言するものである。
 
2 避難所・仮設住宅入居者・在宅避難者の食事について
(1)避難所生活者の食事の問題
避難者の食事については,これまでその量や質の問題が指摘されてきた。4月下旬には,宮城県内のおよそ9割の避難所で食事が低栄養であるとする宮城県の調査結果が明らかとなった。その後,保健所の職員や栄養士が避難所を巡回し栄養指導や栄養補助食品の支給を実施するなどの対応策がとられ,相当の改善が見られたとされているが,食事の内容が主にパンや弁当である避難所も少なくないこと,厚生労働省が目標として設定するエネルギー摂取量に達していないこと,ビタミンCが未だ目標の50%弱にとどまっていることなど,避難所生活者に支給される食事の低栄養は未だに十分に改善されていない状況にある。
栄養補助食品の支給も確かに低栄養状態の改善そのものには効果があるであろうが,そもそも食事をすることは人の本質的欲求であり,パンや弁当など満足感を得にくい食事が被災者の精神面に大きく作用することは我々の経験上も明らかである。このことに加え,避難者が既に100日以上の長期間の避難生活を余儀なくされ,精神的に著しく疲弊していることや,栄養補助食品等による栄養補給はあくまで補完的な意味にとどまることを踏まえるならば,食事の給与の方法についても工夫が必要である。
よって,被災地の自治体は,災害救助法第23条1項2号を積極的に活用し,単に栄養バランスだけに着目するのではなく,避難所生活者への炊き出しを積極的に行うなど,被災者の精神面にも配慮した食事や食料の救助を継続的に実施するべきである。
(2)仮設住宅避難者の食事の問題
災害救助法の運用に関する厚生労働省策定の一般基準によれば,仮設住宅入居者は,いわば自立の準備段階にある被災者と位置づけられ,食品の給与は受けられないとされ,光熱費も自己負担とされている。
しかし,被災地では,避難所生活の長期化,個人事業主の店舗の喪失,津波被害等による賃金労働者の勤務先廃業,各種支援金・給付金支給の大幅な遅延,緊急の生活資金が適切な時期に十分に支給されていないこと,地域復興のかたちが予測できず生計維持の手段を決められないことなどの理由により,仮に避難所生活を脱して仮設住宅に入居したとしても,その後の自立の目途が立たない避難者が存在している。また,仮設住宅への入居を希望していても入居後の自立に対する不安のために入居を躊躇する避難者が少なくない。そのため,仮設住宅に入居した避難者についても,食品や飲料水の供給などの食事に関する救助の必要性が指摘されている。
本来,災害救助法第23条1項は,同項1号で「収容施設(応急仮設住宅を含む)の供与」を定め,同項2号で「炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給」を定めるのみであり,「収容施設」のうち応急仮設住宅の供与においては同項2号の食品等の給与を禁止するという定めはしていないのであるから,仮設住宅における食品の給与及び飲料水の供給は条文上も可能である。
したがって,仮設住宅入居者に対して災害救助法第23条1項2号の救助を行いえないとする根拠はない。むしろ,食料や飲料水の確保が避難者の生命に関わることに鑑みれば,具体的な救助の必要性に応じて食品の給与や飲料水の供給を積極的に行うことが求められるというべきである。
なお,仮設住宅への入居が自立の準備段階にあることを理由に食料を支給するべきでないとの観点もありうるが,東日本大震災のように甚大な被害が広域にわたる大災害にあっては,被災地のライフラインや公共交通機関といった自立の条件をまず復旧させてから被災者の自立を促すのが順序というべきであるから,この観点を過度に重視するべきではない。むしろ,これを過度に重視するとかえって救助を現に必要としている被災者の過酷な現状を看過し,必要な救助が実施されないことにもなりかねない。
よって,被災地の自治体は,災害救助法第23条1項2号を更に積極的に活用すべく,特別基準について厚生労働大臣と協議し,応急仮設住宅の供与を受けた避難者に対し,具体的な救助の必要性に応じて,無償の食材の提供,炊き出し,その他の方法による食品の給与及び飲料水の供給を行うべきである。
(3)在宅避難者の食事の問題
津波の被害が大きかった沿岸部のうち地域全体が被災しライフラインや公共交通機関が未だ復旧せず食料や飲料水の確保に支障が生じている地域においては,避難所閉鎖後に応急仮設住宅に入居するのではなく,自宅に戻って自宅の2階部分で寝泊まりしている在宅避難者も少なくない。このいわゆる在宅避難者は,生活の自立の条件となる食料や飲料水の調達が困難である点で,避難所生活者や応急仮設住宅入居者と同じであり,三者を区別する合理的理由はないはずである。
それ故,被災地の自治体においては,このような在宅避難者の生活の実情をできる限り把握するよう努めるとともに,災害救助法第23条1項2号を積極的に活用すべく,特別基準について厚生労働大臣と協議し,在宅避難者に対しても,具体的な救助の必要性に応じて,無償の食材の提供,炊き出し,その他の方法による食品の給与及び飲料水の供給を行うべきである。
(4)食事の衛生の問題
被害の甚大な沿岸部では,大量の腐敗水産物から強烈な悪臭が立ちこめ,食中毒の原因となる大腸菌を媒介する蝿や,蚊が大量に発生している地域もある。これまでも,殺虫剤の散布や一部の避難所での大型冷蔵庫の設置などの衛生確保策が実施されているが,梅雨入り後から夏にかけて湿気と気温が上昇していくことから,今後も,被災地における集団食中毒等の発生がないよう一層注意する必要がある。
そこで,避難所生活者,仮設住宅入居者及び在宅避難者に対する食事や食料等の供給にあたっては,食中毒等防止措置の徹底など,各関係法規に基づく食事衛生確保のための措置をより一層推進する必要があることを併せて指摘しておく。
(5)小括
以上より,被災地の自治体は,災害救助法第23条1項2号を積極的に活用し,避難所生活者に対し,被災者の精神面にも配慮した食事や食料の救助を継続的に実施するべきであるとともに,特別基準について厚生労働大臣と協議し,応急仮設住宅入居者及び在宅避難者に対しても,具体的な救助の必要性に応じて,無償の食材の提供,炊き出し,その他の方法による食品の給与及び飲料水の供給を行うべきである。また,これらの措置を実施するにあたり,食事衛生確保のための方策を十分に講ずるべきである。
 
3 がれき・ヘドロの撤去・除去作業に伴う健康被害の防止について
(1)がれき・ヘドロの撤去ないし除去に伴う衛生環境の悪化の問題
東日本大震災により,被災地には大量のがれきやヘドロが山積し,その処理が喫緊の課題となっているところ,これらの廃棄物には,アスベストに代表される毒物や劇物などの有害物質が大量に存在している。そのため,既に有害物質が粉じんとなって舞っている地域がある。また,今後,がれきやヘドロの撤去ないし除去作業が進められると,有害物質を含んだがれきやヘドロなどが微粒子となって飛散し,被災地の衛生環境をさらに悪化させる可能性があるため,そこを生活圏とする被災者にとって看過できない問題となっている。
これまで,国,県,被災市町村は,がれき撤去作業に従事する事業者,ボランティア及び一般の被災者に対し,防じんマスクの装着等を呼びかけ,有害物質による健康被害の防止策の周知を試みている。しかし,被災地には,前記のとおり,いまだ多数の被災者が避難所生活を強いられており,ライフラインや公共交通機関が復旧しないために物資の入手が困難な被災者や,当面の生活資金に苦心する被災者が少なくないのが現状であるため,国や県などがいかに防じんマスク等の装着等を呼びかけて周知徹底を図ったとしても,様々な理由でマスクを入手できず,健康被害を防止できない事態が生ずることが強く懸念される。
がれきやヘドロの山積する地域には,そこを生活の本拠とし,現に生活している被災者がいる。地域によっては,既に,衛生環境ががれきやヘドロの粉じんによって著しく悪化し,日常生活を送る上で防じんマスクが必要であり,いわば生活必需品となっている。そうであれば,防じんマスクの入手や購入ができない被災者に対し,災害救助法第23条1項3号の「生活必需品」として防じんマスクの支給をすることも,いまだ救助段階を遠く脱していない被災地での重要な災害救助活動の一つというべきである。
(2)小括
よって,被災地の自治体は,災害救助法第23条1項3号を積極的に活用すべく,特別基準について厚生労働大臣と協議し,がれきやヘドロの粉じんによる健康被害の危険がある被災地の被災者に対し,同号の「生活必需品」として,防じんマスクを支給するべきである。
 
4 漁業従事者,農業従事者及び中小零細事業者に対する資金の給与
(1)漁業従事者,農業従事者及び中小零細事業者の救助の必要性
東日本大震災で被災した地域には,多数の漁業従事者,農業従事者,中小零細事業者が存在し,その多くが震災により甚大な被害を受けている。これらの事業者の多くは,生業のために必要な器具などの財産を喪失し,積極的な経済的支援なくして自主的に再建を図ることが極めて困難な状況にある。
災害救助法は第23条1項7号は「生業に必要な資金,器具又は資料の給与又は貸与」を救助の種類として規定している。この規定に基づき,被災した事業者に対し事業の再建に必要な資金を給与することができるが,1947年(昭和22年)の同法制定以来,この資金の給与が行われたことはなく,この度の大震災でも行われていない。
被災した事業者の再建については,各種の融資制度が整備されてはいるが,被災地の壊滅的な被災状況に鑑みれば,融資制度だけでは再建は到底困難である。そして,何より,被災地での雇用や暮らしを支えてきた漁業従事者,農業従事者,中小零細事業者の再建無くして被災地の復旧・復興は不可能である。
(2)小括
よって,被災地の自治体は,災害救助法第23条1項7号を積極的に活用すべく,特別基準について厚生労働大臣と協議し,救助を必要とする漁業従事者,農業従事者及び中小零細事業者に対し,生業に必要な資金などを給与すべきである。
 
5 災害救助法の積極的活用に必要な国の支援
(1)国による支援の必要性
被災地の自治体が災害救助法を積極的に活用し,前記各救助を実施するためには,厚生労働大臣との協議に基づく特別基準の積極的運用が不可欠である。そして,特別基準の積極的運用を可能ならしめるためには,これを支える財政的支援も不可欠である。被災地の自治体だけでは,災害救助法の積極的活用は為し得ない。
(2)小括
よって,国は,被災地の自治体が上記各措置を実施することができるよう,特別基準の運用や財政的支援を含めた全面的な支援策を講ずるべきである。

以 上

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