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各種人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に合致した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

2011年07月27日

各種人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に合致した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

 当会は,日本における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,次のことを政府及び国会に対して強く求める。

1 国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などにおける個人通報制度を速やかに導入すること

2 国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した,真に政府から独立した国内人権機関を設置すること

以上の通り,決議する。

2011(平成23)年7月22日             

仙台弁護士会 会長  森 山  博

提 案 理 由

1 個人通報制度について
個人通報制度とは,人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害され,国内で手段を尽くしても救済されない場合,被害者個人などがその人権条約上の委員会に通報しその委員会の意見を得て,締約国政府や国会がこれを受けて国内での立法,行政措置などを実施することにより,個人の権利の救済を図ろうとする制度である。
日本の裁判所は,これまで人権保障条項の適用について積極的とはいえず,人権水準の低下をもたらしていた。また,民事訴訟法の定める上告の理由には国際条約違反が含まれず,国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている現状がある。
個人通報制度が導入された場合,国内の裁判で救済されなかったケースについて個別の救済が可能となる。さらに,裁判所は国内での裁判の後に条約機関での意見があり得ることを前提として判決を下すこととなるため,条約機関の見解を念頭において裁判せざるを得ないこととなり,結果的に日本の人権水準を国際標準に近づけることが可能である。
この個人通報制度を実現するためには,各条約の人権保障条項について個人通報制度を定めている選択議定書等を批准するなどの手続が必要である。
しかし,日本は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約等の人権条約を批准しているものの,これらが有する個人通報制度をこれまで導入してこなかった。世界では既に多くの国が個人通報制度を採用しており,OECD加盟30カ国やG8の8カ国など先進国とされる諸国の中で何らの個人通報制度も有していないのはわが国のみである。こうした状況をふまえ,当会は,2010年2月27日開催の定期総会において,個人通報制度を定める国際人権(自由権)規約に付属する第一選択議定書を早急に批准し,もって個人通報制度を速やかに実現するよう求める決議をあげた。
また,民主党は,2009年の衆議院総選挙において個人通報制度の導入をマニフェストに掲げ,政権与党となり,その後,法務大臣は幾度となくその実現に意欲を示す発言を繰り返しているが,現時点においても実現に至っていない。
そこで,当会は,政府及び国会に対し,改めて個人通報制度を速やかに導入するよう強く求めるとともにその実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
 
2 国内人権機関の設置について
国連決議及び人権諸条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合には,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求めており,多数の国が既にこれを設けている。
国内人権機関を設置する場合,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に合致したものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことが必要とされている。
日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約機関の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,また,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。
現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,独立性等の点からも極めて不十分な制度である。このような状況の中で,日本弁護士連合会は,2008年11月18日,パリ原則に則った「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に適合する国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど,国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。
 
3 結 語
当会は,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く採用し,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるべく,本決議に及ぶものである。

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