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平成20年10月7日意見書

2008年10月07日

平成20年10月7日 意見書

裁判員制度の課題に関する意見書~裁判員制度の実施を迎えるにあたって~

仙 台 弁 護 士 会

会長 荒   中

 

第1 意見の趣旨

   裁判員制度は2009(平成21)年5月21日から実施される。

   当会は、裁判員法の制定と関連法規の改正が行われた後の公判前整理手続の運用や裁判員裁判の模擬裁判の実践を踏まえて、裁判員制度が実施後当面するであろう課題を指摘し、その克服を志向しながら、裁判員制度の運用にあたることが、制度の趣旨に則し、また冤罪防止のための刑事手続全体の改革のために必要であると考え、以下の諸点について意見を述べる。

 

1 公判前整理手続および公判手続は、弁護権・被告人の防御権が十分に保障されたものでなければならず,拙速な審理は許されない。

2 評議においては、裁判員が十分に主体性を確保して意見交換をなし得るために、裁判官から適切な手続の説明、的確に証拠の説示がなされる必要があると同時に、その整理進行の枠組みも、密室化を避けるために、一部準則化することが検討されるべきである。

3 量刑については、裁判員が量刑の本質を踏まえた適切な量刑判断をなしうるために、量刑資料の提供、評議のあり方などが工夫されるべきである。

4 いわゆる部分判決制度については、限定的に運用すべきである。

5 裁判員裁判・公判前整理手続と事後審である控訴審との関係は未だ検討されてはいないところであり、速やかに検討すべきである。

6 少年逆送事件における裁判員裁判のあり方についての検討が必要である。

7 国選弁護人の複数選任、取調べの全面可視化、保釈の積極的運用など、裁判員裁判に密接に関連する分野の刑事訴訟法の運用が適正になされるべきである。

 

 

第2 意見の理由

 1 はじめに

 2009年5月21日から実施予定の裁判員制度は、さまざまな社会的経験を積んだ市民の健全な社会常識を刑事裁判の内容に反映させることによって、司法に対する国民の理解の増進と信頼の向上に資することをその目的とする。 そのような制度理念は、従来、官僚制の下で硬直化してきた職業裁判官の判断を是正し、手続的にも、実体的にも適正な刑事裁判手続の実現を志向するものというべきであり、ひいて、被疑者・被告人の権利の適正な保障をも、その内実とするものと理解されるべきである。

裁判員裁判の実施が近付くにつれ、直接主義・口頭主義に基づく審理方針が定着することによる調書裁判からの脱却、事前証拠開示の改善、警察・検察庁における取調べの録音・録画の試み、裁判所における保釈基準の見直し傾向など、刑事司法の運用について変革の兆しが生じてきたことも、裁判員裁判の実施に向けた当然の改革と理解される。

しかし、最近においても、いわゆる志布志事件、氷見事件のような違法な取調べにより虚偽自白調書が作成された事件が、現に存在し、取調べの録音・録画の実験もなお一部の段階にとどまっており、証拠の事前全面開示は実現されていないなど、改革の流れが滞る懸念は拭いきれない。

また、裁判員裁判に伴う公判前整理手続の実施によって、被告人の防御権の行使に新たな脅威が生じる懸念も憂慮される。裁判員の負担軽減という名目による連続開廷、審理時間の短縮が、弁護人の負担を加重にするとともに、証拠調べの制限などをもたらし、実体的真実と乖離した、拙速・粗雑な審理につながるのではないかという危惧がある。

さらに、職業裁判官と裁判員の協同の場である評議についても、裁判官側の整理のあり方によって、裁判員の主体的な意見が反映されないおそれが否定できないし、裁判員が、素朴な応報感情や治安維持意識に基づく感情的な量刑の域を脱却して、適切な量刑評議ができるのかということも懸念される。

裁判員制度は、さまざまな期待と不安をかかえながら、実施の時を迎えようとしているというべきである。

裁判員裁判を制度本来の趣旨にそって実現することを目指すためにも、実施を控えた現実の中の課題を指摘し、その改善の手がかりを追求する手段を確認しておくことが是非に必要であると考え、本意見書をまとめ,公表する次第である。

 

2 公判前整理手続と公判手続

(1) 連日的開廷と公判前整理手続

裁判員裁判対象事件は、公判前整理手続に付されるが,仙台地裁では,平成18年11月から,裁判員裁判対象事件を公判前整理手続に付している。刑事裁判に参加した市民が、直接主義、口頭主義のもとで心証を形成するためには連日的な開廷が必要となり、そのためには第1回公判前に審理の計画を策定するための公判準備の手続が必要となるというのがこの制度が設けられた理由である。しかしながら、公判前整理手続(2004年改正刑事訴訟法316条の2~32)には、無罪推定の原則や黙秘権との関係で重大な問題が含まれており、適切な運用が求められる。

(2) 訴訟構造上の変化と、無罪推定原則、黙秘権との関係

弁護人は、公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張(予定主張)を予め明示すること、及び証拠請求を行うことが義務とされ(316条の17第1項、2項)、公判前整理手続終了後は原則として証拠調請求が制限されている(316条の32)。すなわち、弁護人には、事後の証拠請求の制限という不利益を前提とする予定主張明示義務が課せられているのである。その結果、検察官は、第1回公判前整理手続の中で、弁護側の主張・反証の全体像を把握したうえで、検察官の立証計画の弱点を予め補修する機会を得ることになる。刑事裁判は、無罪推定の原則のもとで検察官が挙証責任を負い、弁護人は、検察官の主張・立証の綻びに焦点を合わせて主張・反証を行うという訴訟構造がとられてきた。しかしながら、弁護人は、公判前整理手続において、検察官の主張・立証が尽くされていない段階で予定主張義務を課され、補修された検察官の主張・立証に対応しなければならなくなっている。すなわち、無罪推定の原則を基礎とする検察官の挙証責任という訴訟構造が、検察官に有利な方向に変容されているという側面を否定できない。

また、公判前整理手続における予定主張義務は、被告人が終始沈黙したり、いかなる時期に自己に不利益な供述を行うかを選択する自由という黙秘権の保障に対する侵害のおそれもある。

公判前整理手続の運用は、かかる無罪推定の原則、検察官挙証責任、黙秘権保障といった重要な刑事裁判の原則との緊張関係に配慮したものでなければならないのは当然であり,証拠調べ請求権の制限規定(法316条の32)の「やむを得ない事由」の解釈にあたっても,上記の点に配慮した運用がなされるべきである。

 

(3) 公判前整理手続には十分な準備活動を保障する時間が確保されるべきである

検察官から積極的な証拠開示がなされた場合であっても、弁護人が類型証拠開示請求や主張関連証拠開示請求によって開示された証拠の検討や、証人予定者からの事情聴取、鑑定書作成のための準備、その他の調査等に時間を要することは当然予想されることである。

仮に被告人が自白しているような事件であっても、かかる検討が弁護人の不可欠の準備活動であることは、過去の冤罪事件が如実に物語っているところである。

このような弁護人の準備期間が保障された公判前整理手続がなされなければ、連続的に開廷される公判が、弁護権、防御権の保障された充実したものとなることは望むべくもない。

このように、弁護人に公判前整理手続についての十分な準備期間を保障することは極めて重要であり、裁判所が、予め公判前整理手続の終期を定めるなどといった運用を行うことは許されない。

(4) 公判を中心とした適正な裁判を実現すべきである

 公判前整理手続きの目的は、争点及び証拠の整理と審理計画の策定にあるが、弁護権、防御権が十全に保障された公正な裁判を受ける権利が保障される運用がなされることは当然の前提とされなければならない。

裁判所が「わかりやすい裁判」、「裁判員の負担軽減」のみを一面的に強調し、弁護権、防御権を制約する形で、弁護人に検察官の証明予定事実に対して詳細な認否や予定主張を要求する一方で、当事者の主張を不当に制限して争点を必要以上に絞り込んだり、必要な証拠調べを制限したりするようなことがあれば、適正な裁判を受ける権利の侵害となり、かかる訴訟指揮は許されない。

   さらに、公判審理における証拠調べの経過によっては、公判前整理手続による争点整理の範囲を超えて新たな争点が生じることも裁判の性質上当然に予想されることである。そのような場合には、期日間整理手続を活用して、新たな証拠調を含む審理計画が策定されるべきことも当然のことである。予め立てた審理計画に拘泥して公判審理によって発見された争点をないがしろにするようなことがあれば、公判の形骸化、ひいては公正な裁判を受ける権利の侵害の誹りを免れない。

(5) 証拠の事前全面開示の必要性

   弁護人が連日的開廷による公判中心の審理のもとで充実した弁護活動を行うには、検察官から証拠の事前全面開示を受けて、それらを検討して検察官の主張・立証に対する弾劾と反証の準備をすることが不可欠である。そのような準備を通じてこそ、充実した防御活動が可能となり、公判審理が充実し、裁判員による公正・適切な判断も可能となる。

   現行公判前整理手続では、全面証拠開示制度はとられてはいないが、全面証拠開示に近い証拠開示が実現されるよう、弁護人は弁護実践に取り組むことが必要である。

(6) 拙速に陥らずに充実した審理を目指すべきである

 仙台地方裁判所では、現在行われている実際の事件でも、公判前整理手続きを極めて短期間のうちに実施しようとしており、更に、報道によれば、裁判所はひろく裁判員裁判の審理期間については、裁判員の負担を考慮し、原則3日程度とする方針を表明している。公判前整理手続において十分な準備活動を保証する時間が確保されるべきであることはすでに述べたとおりであるが、公判でも、裁判員の負担を考慮するあまり、いたずらに迅速性を求めることは被告人の防御権の侵害につながる危険がある。

 また、模擬裁判の裁判員からは、「証人などに質問しようとしていたら手続きが終わってしまっていた」、「評議の時間が短かく消化不良だった」、というような感想も寄せられている。

 拙速な審理は、市民の社会的感覚を十分に裁判に反映させることが出来ないという意味でも、厳に避けるべきである。

 

3 評議について

(1) はじめに

  裁判員裁判において、裁判官と裁判員との協働が十分に行われ、かつ被告人の防御をも配慮した裁判がなされるためには、裁判官によって的確な手続の説明と証拠に対する説示がなされるとともに、当事者の争点に適切に対応する評議が行われることが不可欠であり、制度及び運用において、いっそうの工夫がなされるべきである。

(2) 裁判員制度の意義を具体化するためには、適切な評議が不可欠である

   裁判員制度は、冒頭に述べたとおり,市民の健全な社会常識を刑事裁判の内容に反映させることにより,官僚化した職業裁判官の硬直的な判断を是正し、実質的にも適正な刑事裁判手続を実現することを志向するものであり、ひいては、被疑者・被告人の権利保障をも全うすることをも、当然にその内容としている。

したがって、裁判員裁判においては、市民の健全な社会常識を十分に反映させることを目的とした準備が、周到に行われる必要がある。その準備によって、裁判員は、はじめて「無罪の推定」「合理的な疑いを容れない」厳格な証明などの刑事裁判の主要な原則や刑罰の目的を正しく理解し、自ら主体的に意見を形成し、議論に実質的に参加できるようになるといえるからである。一回限りで参加する市民が、他人の基本的人権に関わる刑事裁判の重要な責務を理解し、しかも経験豊かな職業裁判官に気後れせずに対等な立場で議論できる条件を作るために、裁判員制度の中で、説明や説示、評議整理のあり方はきわめて重要な位置を占める。

(3) 裁判員の主体性を保障する評議が必要である

 前項の目的を実現するためには、まず、審理に先立って、裁判員が、自らの権限と役割を的確に理解するとともに、主体的に議論に参加できるための条件を準備する手続が必要になる。法39条、規則34条のいわゆる事前説明(以下、「説示」という。)は、この目的に基づいて、裁判長が裁判員に刑事裁判のルールを説明することを定めているが、そこでは、無罪推定の原則を含めた刑事裁判の基本原則が、明確に説示され、その後の評議で十分活かされるまでに、裁判員に理解される必要がある。したがって、説示の文案はきわめて重要であり、いわゆるモデル案に拘泥せず、繰り返し法曹3者で協議して、法および規則の趣旨をより生かしたものとするような努力が必要である。そのためにも、法39条の説示は,当事者がその内容などを検証できるように,当事者の面前で行うべきである。

 さらに裁判員裁判の審理においては、事件の構造全体と個別の争点との関連を分かりやすく設定し、裁判員の集中力と判断力を確保できるような分かりやすい証拠調べを実施し、結審の段階では、当事者の主張にかかる争点とそれに対応する証拠関係をも明確にするなど、裁判員が、評議において、自らの意見を形成し、合議に意見を反映できることを目指した審理がなされる必要がある。また、それと同時に、前記規則34条の説示のほかに、裁判官から自白と補強法則の関係などの証拠評価に関する諸原則に関して適切な証拠説示がなされることと、裁判員の意見を的確に引き出し、評議を充実させるための整理等がなされることが重要な課題となるといえる。

(4) 模擬裁判は、評議において、裁判員の主体性が十分に保障されない危険を示 唆している

 しかし、これまで全国的に行われてきた模擬裁判の事例を観察すると、裁判所においても評議の運営に工夫を重ねてきていることは理解できるが、なお、裁判長がともすれば裁判員を指導する雰囲気の評議や、自白調書を簡単に信用してしまいがちな証拠の説示なども散見され、裁判長の説示のあり方や裁判官が加わる議論の整理の如何によって、評議の進行や内容、場合によっては最終的な結論のあり方が左右され、市民の良識が反映されないのではないかという懸念を否定することはできない。評議中の裁判長あるいは裁判官の発言や行動によって、評議に参加した裁判員が、自らの意見を十分に反映できなかったという不全感を抱くケースが生じることも懸念される。

 仙台で行われた模擬裁判でも,裁判長が中心となって評議をリードし,裁判員の意見を制止するなどの場面があった。

裁判長の意見・リードが裁判員の意見に大きな影響を与える可能性は十分にあり,上記危惧が現実のものになり得ることが懸念される。

(5) 適切な評議の運用は、被告人の防御権の見地からも重要である

 密室において行われる評議は、裁判員側にも、裁判官と対等な立場で協働できる状況が確保されるかどうかという点に不安を感じさせると同様に、被告人側に対しても、評議に市民が入ることにより、的確な議論がなされ得るのかどうかについて、これまでになかった新たな不安を与えることになる。そのために、評議のあり方については、被告人側の防御を尽くす観点からも重大な関心を寄せざるを得ない。さしあたって、このような不安を解消するために、評議の進行の枠組みを事前に理解でき、また事後においても、的確な評議進行が検証できる手段について、対策を工夫する必要がある。

 これまでの裁判員の参加する刑事裁判に関する法律及び規則の諸規定は訓示的なものにとどまっており、その運用如何では、密室の中で、不十分な評議が行われるまま結論が出されるのではないかという懸念を残すものとなっているからである。

(6) 規則の改正若しくは評議の適切な運用を準則化することが必要である

①公判廷において評議の枠組みを明確にすること

 考えられる対策の1つとして、結審後、裁判長が、当事者の論告・弁論に基づいて、評議で取り上げる争点の構造及び証拠との関連(評議メモ)を公判廷において当事者に説明し、その意見を聴いた上で評議に移行する運用が考えられる。そのことによって、裁判員に対しては、争点とその後の議論の枠組みを法廷から付託されたという責任感と評議に臨む意欲を与える効果が期待できるし、当事者なかんずく被告人に対しても、その後の評議の進行の枠組みと検討される内容に対する理解を可能にし、無用な不信感から解放される効果を期待できるといえるからである。(なお、当事者において評議メモの構成に不服がある場合は、公判調書に異議ある旨を記載し、後の控訴理由の資料とすることが考えられよう。)

②評議の経過と内容を裁判書に明示すること

さらに、判決理由は、争点に対する評議の経過とその内容が理解できる程度に説示される必要がある。裁判員にとっても、自らの意見が正当に判決に取り入れられた充足感を与えることになるし、当事者にとっても、判決に対する不服申立ての権利を適切に行使することの手がかりを与えることになるからである。この点から、少数意見が存在した場合、その存在と排斥された経過を、裁判書の理由中で明示することが考慮されるべきである。

③運用の準則化

 以上の点は、当事者に対して不利益を与えることにならないから、制度の運用を重ね、準則として確立することも可能であると思われるが、なお明確にするために、規則の改正をも視野に入れ、その他の工夫を含めて、論議される必要がある。

 

4 量刑について

(1) はじめに

量刑とは、法定刑ないし処断刑の範囲内において、有罪と認定された被告人に対して具体的に言渡す刑を決定することである。

裁判員裁判においては、裁判員を含む裁判体において合議がなされ、多数決によって決定される。裁判員も量刑の合議に参加させる理由としては、量刑においても「一般市民の健全な社会常識」を反映させることがあげられている。

(2) 量刑判断の本質 ~専門的知識経験の蓄積に基づく価値的・政策的判断~

刑罰には、犯罪に対する応報的側面があることは否定できないが、それは単純な応報ではない。刑罰は、犯罪に対する行為者の責任を問うものであり、刑罰と犯罪との間には均衡が保たれなければならない。この「均衡」の程度については、その社会における「一般市民の健全な社会常識」が反映するであろう。

しかし、刑罰には、有罪とされた者を教育し、社会に復帰させる側面があることも否定できない。この側面は、人間関係諸科学に関する様々な専門的知識や行刑に関する知識に基づく政策判断的要素が含まれよう。

また、公平性・平等性も要請される。

量刑は、単純な応報では割り切れない専門的知識や経験の蓄積、これらに基づく価値的判断・政策的判断の要素、さらには公平性・平等性の要請を満足させるといった複雑なものである。したがって、過度の応報感情がストレートに量刑に反映されるべきではない。

(3) 量刑判断は、一回的に関与する裁判員に適するものであるか

裁判員は、刑事事件に関しては一回的関与にとどまる。一回的関与にとどまる裁判員の量刑判断は、それ自体では経験的蓄積に乏しく、一時的応報感情に流される可能性を否定できない。さらに構成された裁判員の特性による偶然的要素が大きく反映することも考えられる。

一回的関与にとどまる裁判員に量刑判断をゆだねることは、量刑に求められている前述のような様々な要請を満たせなくなる危険性がある。

(4) 裁判員の量刑判断を適切になしうるための条件

しかし、裁判員裁判においては、裁判員も量刑に関与することが予定されている。裁判員は、社会の構成員として「一般市民の健全な社会常識」の一端を担っている。これを適切に反映させながら、一時的応報感情に走らないようにすることが必要である。

そのためには、刑罰の目的、刑罰の機能について多角的に説明することが必要となる。

同時に、刑罰の目的・機能からみて、量刑判断の資料となる事実が、どのような意味づけを持つのかについての検討が十分になされる必要がある。

そのうえで、公平性・平等性を確保するために、それまでに築きあげられてきた量刑資料を、適切に提示する必要がある。しかし、量刑判断が当事者のいない「密室」でなされる以上、この量刑資料が妥当なものであることの担保がなければならない。

 

5 部分判決制度

(1) 直接主義との関係

部分判決制度が直接主義との関係で問題の多い制度であることは否定できない。

しかしながら,裁判員の選任が困難となるような長期間を要する併合事件について,何らかの仕組みを用意しておく必要性は否定できないところ,部分判決に替わる有効な制度は,少なくともこれまでのところ示されていない。

極めて悩ましい問題であるが,部分判決制度を限定的に運用すべきである。

(2) 情報格差の問題

部分判決制度では,裁判員は,A,B,C事件でそれぞれ選任されるのに対し,裁判官は替わらないので,裁判官と裁判員の間に情報格差をもたらし,対等なコミュニケーションに影響するおそれがあるので,この点からも,部分判決制度は限定的に運用されるべきである。

 

6 控訴審

  刑訴法の上訴に関わる部分は全く改正の対象にならず、依然として検察官も控訴できるし事実誤認も控訴理由となる。

控訴審では、原則として原審における証拠を精査して原判決の当否を判断するのであり、しかもそれは職業裁判官3人のみでなされる。控訴審の運用次第では、「一般国民の健全な社会常識」を反映させるために裁判員を事実上否定することにもなりかねない。

 控訴審に関する刑事訴訟の改正について、早急な検討をおこなうことが必要である。

 

7 少年逆送事件と裁判員制度

   少年の原則逆送対象事件(少年法20条2項本文)は裁判員裁判対象事件でもあるが、少年事件は、少年の情操保護・更生への配慮が必要とされており(少年法1条、50条、刑訴規則277条)、保護主義の観点から逆送事件について裁判員裁判の問題点を検討する必要がある。特に14歳、15歳の年少少年が、9名の裁判官・裁判員に囲まれて萎縮してしまう可能性、社会記録が公判で朗読されることによる種々の弊害の可能性に照らせば、少年逆送事件では、成人の場合とは別の運用等を検討する必要がある。

 

8 その他の課題

(1) 国選弁護人の複数選任

 仙台では模擬裁判を複数弁護人で担当しているが、それでも、他の業務をこなしながらの対応は負担感が大きい。実際の裁判員裁判では、1人の弁護人が連日的開廷で短期間に集中的な審理が行われる裁判員裁判に対応することは極めて困難である。我々弁護士が全員で担っていくべき裁判員裁判は、原則として国選弁護人を複数選任するという運用が行われるべきである。

(2) 取り調べの全面可視化の実現

  裁判員裁判においては、公判中心の審理が行われることになるが、取調べの可視化によって捜査を透明化し、虚偽自白調書が作成されることを阻止することが必要である。

また、自白の任意性や信用性が争われる場合、法廷での審理は、直接の証拠がないままに、捜査官の証言・供述が続き、いわゆる「水掛け論」になってしまうが、それに裁判員を延々と付き合わせることは適切ではない。それゆえ、裁判員裁判となればなおのこと、取調べの全過程を録画録音することが強く求められることになる。

現在、警察や検察庁では自白調書作成場面だけに限定した取調の一部録画が試行的に実施されている。しかし、任意性判断において最も重要なことは自白に至った経緯であり、それが客観的に明らかにならない一部録画は、かえって自白の証拠能力・証拠評価を誤らせ、誤判・えん罪を生む危険性があるというべきである。

(3) 保釈制度の積極的運用

   公判前整理手続および連日的に改訂される公判審理において、被告人・弁護人には綿密な打ち合わせ等の十分な準備を整える必要がある。従って現行の保釈の運用を根本的に見直し、刑事訴訟法の原則に立ち返り、積極的運用が図られるべきである。

 

9 むすび

    裁判員制度については,この他にも、裁判員の選定手続にかかわる問題,裁判員に科せられた刑罰を伴う守秘義務の問題など、少なからぬ課題が残されている。

   裁判員制度が、冒頭に述べたとおり、市民が刑事司法に参加することにより,公正な刑事裁判に対する信頼が回復され、冤罪防止のための刑事手続全体の改革に資する契機を持つ限りにおいて、私たち弁護士は、その意義が真に実現されるように、制度の適正な運用に向けて努力を惜しむものではない。

しかし、これまで見てきたように、公判前整理及び公判手続の課題や裁判員制度の核とも言える評議のルール作りなど,実施に向けて議論すべき課題は多く、しかも重要である。

刑事裁判において、無辜の救済,被告人の防御権の保障の職責を担う弁護人としての使命を自覚するにつけても、裁判員制度が、制度本来の趣旨にそった運用がなされるために、我々は、今後も引き続き、裁判員制度に関する課題を検討していく所存である。

                                                   

以 上

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