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平成20年9月30日会長声明

2008年09月30日

労働者派遣法の抜本的改正を求める会長声明

1    派遣業界大手の株式会社グッドウィルが二重派遣行為により刑事処分を受け、本年7月廃業に追い込まれたことに象徴されるように、派遣業界においては労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)や職業安定法に違反する偽装請負や二重三重の派遣、給料からの違法天引等が横行し、社会問題化している。

 

  1985年の労働者派遣法制定以来、労働者全体に占める労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託等の割合は、同年の4.2パーセントから2007年には11.3パーセントとなっており、また、実際に派遣された派遣労働者は321万人を超え、そのうち73パーセントを超える労働者が日雇い派遣などの登録型派遣である。派遣労働者は、常に期間満了による雇い止めの不安に晒され、いわゆる正規労働者に比して低賃金・劣悪な労働環境など差別的取り扱いを受けていること及びワーキングプア・ネットカフェ難民などと呼ばれる者たちの多くが派遣労働者であることは、もはや社会の共通認識である。

 

 そもそも、「労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させる」(職業安定法4条6項)雇用形態は、中間搾取、使用者責任の不明確化などの弊害を伴う危険性が極めて高いゆえ、戦後において、労働者供給事業として禁止され(職業安定法44条)、「直接雇用」の原則が貫かれてきた。他方、労働者派遣事業はもともと「直接雇用」ではなく、労働者供給事業として禁止されてきたところ、業務の専門性、労働者側の労働条件に関する交渉能力の高さ、雇用管理の特殊性から、極めて例外的に、専門的業務のみについて、臨時的、一時的な労働力の需給調整に関する対策として、1985年から許容されたものに過ぎない。

 

 しかるに、現実には、1999年の労働者派遣事業の原則自由化、2004年の労働者派遣事業の製造業への解禁といった相次ぐ規制緩和の動きの中で、正規雇用から派遣労働への代替化の進行、派遣労働者の急激な増加、劣悪な労働条件の横行、ひいては上記のような派遣業界での恒常的・組織的・大規模な違法行為の実態が明らかとなっている。この点、厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会が本年9月24日にとりまとめた労働者派遣法の見直しに関する建議は、日雇い派遣(日々または30日以内の期間を定めて雇用される形態)の原則禁止、特定企業だけに労働者を派遣するいわゆる「専ら派遣」の規制強化等を打ち出す報告案が提示された。上記建議が従前の規制緩和路線を初めて規制強化に転換した点は評価できる。しかしながら、原則禁止の日雇い派遣について政令により18業務をポジティブリスト化して例外を認め、しかも今後「適宜リストの見直しを行う」としていることから法改正なくして簡単に例外を拡大することができる内容になっている。また、31日以上の派遣についての言及はないので登録型派遣に対する規制は検討の対象になっていない。さらに、偽装請負等違法行為に関与した派遣先の責任については雇用契約を申込むよう行政が勧告することにとどめており労働者の救済として不十分である。その他、常用型派遣について雇用契約申込義務の適用対象から除外していること、常用型派遣について事前面接等派遣労働者の「特定を目的とする行為」を可能にしていること、派遣会社に派遣手数料の上限規制を課すことなく開示義務を課すにとどまっていること等多くの問題点がある。このように上記建議は、抜本改正の骨抜きどころか現行法の改悪とさえ言いうるものである。

 

 よって当会は、全ての労働者が健康で文化的な最低限度の生活が確保され、人たるに値する生活が営むことができるよう(憲法25条、労働基準法1条)、常用型派遣の規制緩和に反対することはもちろん、さらに、労働者派遣は「臨時的・一時的なものであり、常用雇用代替にしてはならない」との原則を明記すること、日雇い派遣を全面的に禁止すること、登録型派遣を原則として禁止し例外業務は政令ではなく法律によりポジティブリスト化すること、派遣先に違法行為があれば派遣先と労働者の間に雇用契約が成立しているとみなす「みなし雇用」を導入すること、派遣手数料の上限規制を課すこと等労働者派遣法の抜本的改正を求める。

 

2008(平成20)年9月30日

 

 仙台弁護士会          

 会 長  荒    中

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