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任意整理において全国統一基準に従った和解に応じることを求める意見書

2012年08月22日

任意整理において全国統一基準に従った和解に応じることを求める意見書

第1 意見の趣旨
1 貸金業者各社は、利息引き直し計算後に貸金業者に対して残債務を有する多重債務者との和解交渉において、「多重債務者に対する任意整理を処理するための全国統一基準」を遵守することを求める。
2 日本貸金業協会は、全国統一基準に従わない貸金業者に対し、同基準を遵守するよう強く指導・監督することを求める。

第2 意見の理由
1 多重債務救済方法としての任意整理の重要性
(1) 高金利、過剰与信などが主たる原因となって発生するいわゆる多重債務問題は、長年社会問題として取り上げられてきた。多重債務問題は、債務者の経済的困窮だけでなく家庭の崩壊や犯罪などを引き起こす原因ともなってしまうため、国民全体の生活を守るという観点からもその救済が必要不可欠である。
(2) 多重債務者の代表的な救済手段としては、法的手続(破産、個人再生)のほか、従来から弁護士等の法律専門家が交渉して返済金額、返済条件を交渉する任意整理がある。
任意整理は、債権者間の平等を図りながらも個々の債権者との交渉によりある程度柔軟な返済計画が立てられるため、法的手続よりも簡易迅速に経済的再出発を図ることができる。また「借りた金員は返済しなければならない。」という債務者の心情を満たすことができるという意味で心理的にも多重債務者の救済につながっている。このように任意整理は、社会的妥当性も有する手段であることなどから、今日においても多重債務者の救済のため非常に重要な手段であると位置づけられている。
2 任意整理における「全国統一基準」
(1) 任意整理は、このように重要な役割を持つものであるが、かつては、担当弁護士により処理内容が一致せず、急増する多重債務問題に必ずしも適切に対処することができなかった。
しかし、平成8年、東京三弁護士会の法律相談センターが「クレジット・サラ金処理の東京三弁護士会統一基準」を定め、弁護士が任意整理に取り組むにあたっての統一的な処理方針を示した。そしてこれを全国に広める形で、平成12年に,日本弁護士連合会における多重債務者救済事業拡大に関する協議会において採択され、その後当会を含む全国の単位弁護士会において全国的な統一基準として確認され現に運用されてきたのが「多重債務者に対する任意整理を処理するための全国統一基準(以下、「全国統一基準」という。)」である。
(2) 全国統一基準は、①取引開始時点からのすべての取引経過の開示を求めること、②利息制限法所定の制限利率によって元本充当計算を行い、最終取引日における残元本を確定すること、③弁済の提示にあたっては、それまでの遅延損害金や将来利息はつけないことを内容としている。
(3) 全国統一基準制定以降、全国の弁護士の大半が貸金業者に対して同基準に従った和解の提案をし、そしてほとんどの貸金業者との間において同基準に沿った和解が行われるようになった。
また、公益財団法人日本クレジットカウンセリング協会において行われるクレジットカウンセリングにおいても同基準に沿ってしか和解をしないこととされ、同基準に従って今日まで多数の任意整理を成功裡に終了させている。
さらには、裁判所での特定調停においても、調停において将来利息を付さない運用が確立されている。
このように、全国統一基準は、任意整理の手続及び和解の基準として確立した実務慣行となっている。
3 全国統一基準の妥当性
(1) 債務者は、多額の利息が支払いきれないため多重債務になり整理を余儀なくされているのであるから、任意整理をしても従前の契約内容と変わらない金額の返済を求められるようでは任意整理が有効に機能する場面は非常に限られてしまう。任意整理にメリットが無ければ、債務者は法的整理を選択せざるを得ない。
一方、債務者が法的整理をした場合、債権者は貸付金を全く回収できないか、ごくわずかな配当しか受け取れない。債務者が法的整理をすることは、債権者にとって必ずしも利益にならないのである。
従って、任意整理について債務者の経済的更生を可能とする明確な基準を設けることは、債務者、債権者の双方にとってメリットがある。
(2) 全国統一基準は、利息、遅延損害金を免除し元金のみを返済させるというものである。これは返済ができなくなった債務者の負担を減らして返済をしやすくし債務者の経済的更生の可能性を広げる一方、債権者側にとっては投下資本である元金は回収でき、利益こそ出ないものの損失は限りなく少なくなる、というバランスがとれた社会的妥当性を有する基準である。
全国統一基準は、このようにバランスの取れた社会的妥当性を有する基準であったからこそ、今日まで広く全国に受け入れられていたのである。
4 一部業者が全国統一基準を遵守していないことについて
(1) 近時、一部の貸金業者ないしみなし貸金業者が、全国統一基準を遵守せず、返済ができなくなった債務者に対し、利息及び遅延損害金を全額請求するという対応を行っている。
(2) 破産、民事再生等の法的整理では、制度上債権者間の平等が重要視されており、任意整理においても、債権者を平等に取り扱うことが求められている。そのような中、一部といえども全国統一基準に従わない貸金業者が現れると、債務者の任意整理による解決が困難になる。
また、かかる状況を放置すると、全国統一基準に従っている他の貸金業者との間で不平等が生じる。これまで全国統一基準を遵守してきた貸金業者がその意を翻すことになれば、任意整理という手法そのものが崩壊しかねない。
(3) 全国統一基準が広く浸透し、ほとんどの貸金業者が同基準を守っている現在の状況下において、債務整理を行っている債務者に対し、形式的根拠のみに基づいて利息、遅延損害金を請求することはいわば抜け駆けであり、それだけで倫理的に非難されてしかるべきである。
また前述したように債務者を法的整理に追い込むことは、結局債権者にとっても投下資本回収の可能性を大きく減じるものであるから、当該業者自体はもちろん、貸金業界全体にとっても、経済的合理性を有する行動とはいえない。
そして、任意整理そのものの存続が危うくなれば、家庭の崩壊、犯罪の増加などの社会問題が増加するおそれもある。
(4)  以上のことから、貸金業者が任意整理において全国統一基準に従わないことは適正な業務運営とはいえない。
5 各貸金業者に対して
貸金業者、特に同基準を遵守していない一部業者は、確立した実務慣行である全国統一基準を遵守する利益を改めて確認し、同基準を遵守すべきである。
6 日本貸金業協会の指導・監督義務について
日本貸金業協会は、「貸金業者の業務の適正な運営を確保し、もって貸金業の健全な発展と資金需要者等の利益の保護を図るとともに、国民経済の適切な運営に資すること」を目的としている。
前述のとおり、貸金業者が任意整理にあたり全国統一基準を遵守しないことは、適正な業務運営とはいえない。また,任意整理が維持できなくなることは貸金業界だけでなく一般国民ひいては社会全体にとっても大きな損失である。
日本貸金業協会は、全国統一基準に沿った和解しかしない公益財団法人日本クレジットカウンセリング協会に賛助会員として参加しており、すでに全国統一基準の妥当性を認めている。
以上のことからすれば、日本貸金業協会は、全国統一基準を遵守しない貸金業者に対しては、強い態度で指導、監督すべきである。
7 まとめ
以上のとおり、任意整理は、債務者の経済的更生に資する重要な方法であり、全国統一基準は任意整理の要である。各貸金業者は、全国統一基準に従って任意整理に協力すべきであり、貸金業協会も各貸金業者に全国統一基準に従うよう強く指導・監督をすべきである。
貸金業界が、国民からの信頼を失わないよう誠実な対応を求める。

2012 (平成24)年8月22日
仙台弁護士会 会長 髙 橋 春 男

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