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平成20年4月24日意見書

2008年04月24日

宮城県消費生活センターの民間委託検討に対する意見書

仙台弁護士会           

会 長  荒    中

 

第一点 意見の趣旨

 

     当会は、宮城県消費生活センター業務の民間委託は反対である。宮城県は、現在の消費者行政の拡充を図るべきである。

 

第二点 意見の理由

 

第1 検討の契機と概要

 

     宮城県知事は、2007(平成19)年3月9日、江陽グランドホテルにて開催された「2006年度村井嘉浩宮城県知事懇談会」において、宮城県生活協同組合連合会(以下「県生協連」という)に対し、「県生協連が呼びかけて新しいNPO法人を設立し、そこに宮城県消費生活センターの業務を委託できないか、検討してもらいたい」との要請を行い、これを受けて、県生協連は、「『宮城県消費生活センター』受託に関する検討会」を発足させ、2007(平成19)年10月13日に第1回検討会、同年12月18日に第2回検討会、2008(平成20)年1月29日に第3回検討会、同年2月29日に第4回検討会、同年3月24日に第5回検討会が開催され、本年5月11日の検討会において最終意見の取りまとめを行う予定とされている。

 

第2 当会における検討

 

1 当会の検討・調査状況

 

    (1)上記経過の中、当会においては、2007(平成19)年12月12日付け宮城県消費生活センターの民間委託に対する要望書を提出し慎重な検討を求めた上、青森県及び佐賀県での現地調査、学識経験者・現場相談員からの聞き取り調査、全国各地で開催されている関連シンポジウムの参加と関係資料の収集・分析等をもとに、担当委員会を中心に多数回にわたる討議・検討を行ってきた。

 

    (2)その結果、当会としては、

 

    ① 消費者被害救済への取り組みは行政の責務であり、地方消費者行政の拡充は地方自治体の責務であること

 

    ② 宮城県における消費者行政の現状と課題

 

    ③ 他県調査などからみる民間委託の問題点

 

      から、宮城県消費生活センター業務の民間委託は反対であり、現在の消費者行政の拡充を図るべきであるとの結論に至ったものである。

 

       以下、上記3点について述べる。

 

2 消費者被害救済への取り組みは行政の責務であり、地方消費者行政の拡充は地方自治体の責務であること

 

    (1)日本弁護士連合会は、1989(平成元)年9月16日の人権擁護大会(松江市にて開催)において、「消費者被害の予防と救済に対する国の施策を求める決議」を採択したところ、かかる決議は、まさに国民・住民の安全・安心を確保するための消費者被害救済の取り組みが、行政の責務であることを前提としたものである。また、2007(平成19)年10月、福田康夫総理大臣は、就任直後の所信表明において「生産第一という思考から国民の安全・安心を重視し、真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し消費者保護のための行政機能の強化に取り組む」と述べ、2008年1月18日の第169回国会での施政方針演説では「各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限を持つ新組織を発足させ、併せて消費者行政担当大臣を常設する。新組織は国民の意見や苦情の窓口となり、政策に直結させ、消費者を主役とする政府の舵取り役になるものとする」旨表明するところ、かかる所信表明・施政方針演説に示される消費者被害救済への対応の必要性は、まさに国民・住民の安全・安心を確保するための消費者被害救済の取り組みが、行政の責務であることを前提としたものである。

 

    (2)消費者行政の拡充の現実化・具体化の段階である

 

     上記行政の責務を前提に、これまでの消費者行政のあり方及び多数の消費者被害の発生の現実をみるに、行政がその責務を十分に果たしてきたとは言い難い。

     係る現実を受け、上記福田総理大臣の所信表明・施策方針演説、自由民主党の「消費者行政を一元的に担う『消費者庁』を創設」「各省庁がその専門的所管行政を行ううえで消費者保護の施策を講じるための『司令塔』となる」「自治体における消費者行政の拡充」等の提言、民主党の消費者保護官(通称:消費者オンブズパーソン)制度の創設についての素案発表、さらには、2008年2月8日、「各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための、強い権限を持つ新組織の在り方を検討し、その組織を消費者を主役とする政府の舵取り役とする」ため消費者行政推進会議の設置が閣議決定され、「(1)消費者行政を統一的・一元的に推進するために必要な権限、(2)所掌事務及び組織形態(消費者行政を担当する大臣の常設化を含む)、(3)消費者にとってわかりやすい窓口」を検討課題とし、その具体化・現実化に向け議論・検討が重ねられるなど、消費者行政の拡充のための新組織の創設、地方行政の拡充の必要性は共通の認識となっている。

     そして、消費者行政推進会議座長の論点整理(平成20年4月20日付け)では「今こそ、消費者の権利を尊重し、「消費者利益の確立」を中核に据えた、21世紀に相応しい行政体制に転換することが必要」と示され、地方消費者行政についても「国と地方双方の消費者行政の一元化〜地方における消費者行政の取組強化〜」「消費者行政の充実のためには、消費者に身近で、日常的に接する地方自治体の役割・機能・能力を一層強化すべきである。」と述べられ、現在は、地方消費者行政の拡充のための具体的・制度的方策が実現化される段階に至っているのである。

 

    (3)地方消費者行政の責務

 

     そして、地方消費者行政は、被害救済の最前線にたつものとして、極めて重要な責務を担う。すなわち、上述の行政の責務、憲法上地方公共団体に「行政を執行する権能」が認められ(同94条)、地方自治法上「地方公共団体は、・・・地域における行政を自主的かつ総合的に実施する」(同法1条の2第1項)ものとされていることはもとより、2004(平成16)年に施行された消費者基本法が「国及び都道府県は、商品及び役務に関し事業者と消費者との間に生じた苦情が専門的知見に基づいて適切かつ迅速に処理されるようにするために、人材の確保及び資質の向上その他の必要な施策(…)を講ずるよう努めなければならない」と規定していること(同法19条2項)に鑑みれば、地方消費者行政の拡充は、地方公共団体の極めて重要な責務であることは明かである。なお、宮城県消費生活条例第3条の「県は、経済社会の発展に即応して、前条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、消費生活センターにおける相談業務その他の業務を通じて消費者施策を推進するものとする。」との規定は、上記責務を確認するものである。

 

    (4)宮城県消費生活センターの法的位置付け

 

     宮城県消費生活センターは、宮城県の行政組織規則第3章の「地方機関」として、「消費生活に関する相談及び苦情を処理するとともに、地方振興事務所(略)の行う消費生活相談業務の連絡調整を及び指導を行い、消費生活相談業務を総合的に遂行するため」(同規則39条1項)、「1 消費生活に係る相談及び苦情処理に関すること。2 消費生活に係る情報の管理及び提供に関すること。3 消費生活相談業務に係る地方振興事務所との連絡調整に関すること。4 消費者教育に関すること。5 商品テストに関すること」を所掌事務として(同条2項)、知事が設置したものである。そして、事務委任規則は、消費生活条例に基づく知事の権限に属する事務のうち、危害を及ぼすおそれがある商品等の調査及び危害を及ぼすものでないことの立証の要求(同条例9条)、不適正な取引行為の疑いがある取引の実態等に関する調査(同条例15条)、消費者苦情の申出の受理、調査及び処理並びに事業者に対する意見の聴取等(同条例21条)を、消費生活センターの所長に委任している。

     上記の条例・規則の定めに鑑みると、宮城県消費生活センターと同所長は、宮城県の消費者行政において極めて重要な役割を担うことが期待されていることが明らかであり、法的に重要な位置付けを与えられているものである。

 

3 他県調査等からみる民間委託の問題点

 

    (1)当会は、本年2月、民間委託の成功例として紹介される青森県と佐賀県にそれぞれ委員を派遣して現地聞き取り調査を行った。これをふまえた結論は以下のとおりである。

 

    (2)

 

     ① 青森県について

 

     青森県の消費生活センターはNPO法人青森県消費者協会が運営しており、相談員体制の充実・強化、休日相談など相談業務体制の充実、業務の効率化、あっせん業務の充実、行政との連携強化等民間委託前に比較し大きな成果を上げている。このような大きな成果を上げられた同NPO法人関係者のご努力には深甚の敬意を表する。しかし、青森県においてこのように消費生活センターが機能するようになったのは、行政改革で待ったなしの状況にあって、しかも行政が消費者保護について十分理解しておらず消費者行政が後退する危険があった状況のもとで、消費者問題に積極的に取り組んでいた消費者協会が立ち上がり、行政に対して、真に消費者のためのセンターについての提言を積極的に行ってきたからである。つまり、青森県において消費生活センターが機能しているのは、民間委託したからではなく、立ち上げ時にあるべきセンター像をデザインし、それを実現しているからに他ならない。また、民間委託後の消費生活センター運営には様々な問題がある。すなわち、青森県の消費生活センターにかける予算は年々削減されており、委託契約の不明確さ、相談員の賃金の低さ等大きな問題は残されたままである。青森県において県センターが機能しているのは、上記NPO法人が献身的・犠牲的努力でやりくりをしているからであり、このような重い責任を一民間組織に背負わせるのは、行政の任務放棄に他ならない。以上のとおり、青森県の例を手放しで成功例として取り上げることはできない。

 

     ② 佐賀県について

 

    佐賀県の消費生活センターでは、相談業務をNPO法人消費生活相談員の会さがに委託しており、相談員体制の充実・強化、県内すべての市町村に消費生活相談窓口の設置、相談員の雇い止めの廃止、行政との連携強化、あっせん率の飛躍的上昇(90%以上で推移)、職員の啓発、市町村相談窓口と県センターとの連携強化・役割分担ができた等民間委託前に比較し大きな成果を上げている。このような大きな成果を上げられた同NPO法人関係者のご努力には深甚の敬意を表する。しかしこれらの成果は、民間委託したから実現したというよりも、行政と県センターの一元化が最大の要因と思われる。また、委託料は減少しており、県から本来業務である相談業務以外の事業を受託する等して委託料を増やし、何とかNPO法人の運営をしているというのが現状である。また、県からの委託についても1年更新が原則となっており、他に委託先ができた場合(地理的に近い福岡県のNPO法人が委託先になる可能性も否定できない)に契約が更新される保証はない。専門職であるにも関わらず低賃金であることについても青森県と同様である。委託前にはなかった人事管理的業務(相談員の配置・調整等)の負担もかなり大きいものがある。青森県と同様、佐賀県においても県センターが機能しているのは、上記NPO法人が献身的・犠牲的努力でやりくりをしているからであり、このような重い責任を一民間組織に背負わせるのは行政の任務放棄に他ならない。以上のとおり、佐賀県の例もやはりこれを手放しで成功例として取り上げることはできない。

 

    (3)上記青森県及び佐賀県はじめ他県の民間委託の現状は、本来行政が担うべき責務が全うされていない事実・問題を、行政が民間に委託する形式によって一時的な責任回避或いは放棄しているだけであり、住民及び消費者被害救済の観点から見ると、かえって消費者行政を後退させる制度的危険性を孕むものである。

 

4 宮城県における消費者行政の現状と課題

 

    (1)宮城県の消費者行政の概要

 

     宮城県消費生活センターは、所長以下専任職員22人体制で、うち相談員は12名である。対応する県の本課は、県環境生活部生活文化課の中の消費生活班であり、消費生活班は班長以下4人体制である(兼任職員を加えれば5人)。同センターは、県内6地方振興事務所(大河原、大崎、栗原、登米、石巻、気仙沼)にも相談員を配置し(計14名)相談業務を行っている。同センター及び6地方振興事務所の受付相談件数は、平成17年度が13、845件、平成18年度が12、989件、県センター受付が全体の約7割、6地方振興事務所受付が約3割となっている。平成18年度の相談内容(重複集計)は、契約・解約に関するものが11、002件と圧倒的に多く、次いで販売方法に関するものが4、482件となっている。相談処理状況については、助言(自主交渉)が84.8%、あっせん解決が2.3%、他機関紹介が6・2%となっている。

 

    (2)問題点

 

    ① 行政処分の少なさ

 

     宮城県が過去に業者に対し行政処分を行ったのは、平成13年度の1件(指示)だけである。他都道府県では近年行政処分(特商法関係)が増加しており、平成10年度以後19年度までの全国都道府県の行政処分件数が合計281件(うち業務停止命令75件、指示206件)であるのに比べると、宮城県がいかに行政処分に消極的であるかが分かる。このことは、消費者相談が行政処分に連動してないことの現れであり、後述のあっせん率の低さにも示されている。

 

    ② あっせん解決率の低さ

 

     県センターのあっせん解決率は平成18年度で2.3%であり、他の年度も同程度の水準である(平成16年度1.4%、同17年度2.6%。ただし、件数としては300件前後でほぼ一定している)。もちろん、数値の取り方(分母・分子の設定)もあるので一概に数値のみで判断することはできないが、低い水準であることは否めないであろう。本来、消費生活相談の解決としては、架空請求等助言のみで解決できるものは別として、あっせん解決が原則であるべきであり(消費者は自分で解決できないからこそ相談に来るのである)、上記宮城県の現状は問題であると言わざるをえない。

 

    ③ 県センターと市町の相談窓口の連携が十分でない

 

     宮城県においては、県センターの相談業務と各市町の相談業務はそれぞれ別個に行われていて、相互に何の連携が不十分というのが現状である。県の相談員と市町の相談員が一緒に研修・経験交流する機会も少ない。そのため、市町の相談員が相談を受けて助言・解決方法が分からず途方にくれるという事態が生じている。PIO-NETが配置されていればまだしも、現時点で市町にPIO-NETが配置されているのは仙台市、大崎市、名取市だけである。

 

    ④ 市町・県センター・県本課との情報共有も十分でない

 

     県センターと市町の相談窓口の連携がないことから、必然的に市町の相談情報は県センターに集約されず、県の本課にも集約されていない。上記のとおり、 PIO-NETが設置されている市町はごく一部である。既に述べてきたとおり、このことが行政処分率の低さにつながっている。

 

    ⑤ 宮城県内において、相談員が配置されていない市町村は11市町村に及んでいる。本来市町村の相談窓口は住民にとって最も身近な相談窓口であるはずであり、かかる実態は問題である。また、相談員が配置されているとしても、1人だけという市町村が圧倒的に多い。相談員が相談する相手もいず、情報もない(PIO- NETもない)中で1人で孤軍奮闘しているというのが多くの市町村の相談員の実態である。

 

    ⑥ これら問題の背景には、県本課職員体制、県センター相談員の地位の不安定(非常勤嘱託扱い、雇い止め等)、県センターと本課との連携、県から市町村の消費者行政への支援予算等の問題があると考えられる。

 

    (3)

    ① 上記2記載の責務を前提に、上記の問題点の現状をみるに、残念ながら、宮城県における消費者行政は、十分にその責務を果たしているとは言い難い。

 

    ②  とりわけ、地方消費者行政、より具体的には国民・住民から第1次的に被害相談を受ける各地の消費生活相談員等の活性化なくしては、消費者行政の拡充は図れないことも当然であり、被害の最前線で的確に情報を集めて分析・対応できる相談員なくしては、国・地方の消費者行政システムの実効的運用はあり得ない。「錆びたアンテナからは新鮮な情報は期待できない」と言われるとおりである。しかしながら、現実は、予算や人員削減、研修・情報の共有化不足、相談員の地位不安定などから地方消費者行政が物的・人的に疲弊している現状にあることから、かかる弊害・問題を除去・改善する方策こそが地方消費者行政に求められ、かつ、その実施は責務である。

 

    ③ また、地方自治体が行う相談苦情処理業務には少なくとも(ⅰ)相談を通じて消費者が持っている具体的トラブルを解決するという行政サービス的側面(ADR的側面)と、(ⅱ)相談を通じて行政機関が情報を収集するという側面(センサー機能的インフラ機能的側面)の2つの側面があると指摘されるところ、かかる機能は、地方消費者行政の機能強化・拡充により実現されるものである。

 

    ④ さらに、消費者被害にあった住民からは、「どこに相談すればよいか分からなかった」「相談員が忙しいようで十分に話を聞いてもらえなかった」などとの意見が出されている。

 

    (4)したがって、詳細な課題及びその具体的方策は、今後の議論・検討に委ねられるべき事柄であるが、上記(2)記載の問題点に鑑み、宮城県においては、消費者被害にあった県民が迅速に相談できる相談窓口の整備、相談を受ける相談員数の増員とスキルの有効活用のための雇用関係の確立、相談機関相互の情報共有システムの確立、相談機関の研修・スキルアップ制度の拡充、相談から解決までのシステムの整備・拡充、あっせん・業者交渉を十分になしうる人的・物的設備の整備、消費者相談を行政処分に連動させるシステムの確立、国の消費者行政との連携・情報共有化・一元的システムの確立、及びこれらを実現するための予算措置等を講じることが求められ、かかる課題及びその実現は、宮城県(行政)の責務として実施されるべきものである。

 

第3 結論

 

     よって、当会は、宮城県消費生活センター業務の民間委託は反対するとともに、真の消費者被害救済に資する地方消費者行政の実現を求め、上記意見の趣旨記載の意見を述べる次第である。

 

    以上

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