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個人保証の原則的な廃止等を求める決議

2013年02月23日

個人保証の原則的な廃止等を求める決議

 

法制審議会の民法(債権関係)部会(以下,「部会」という)は,2009年11月から,民法(債権関係,以下,「債権法」という)の改正に関する検討を始め,2013年3月には,中間試案が取り纏められ,同年4月からパブリックコメントの募集が開始される見込みである。債権法は,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約関係を規律する法律であるが,その改正論点の中でも,保証被害の深刻さを考えたとき,保証制度の抜本的な改革は喫緊の課題であり,とりわけ個人(自然人)による保証(以下,「個人保証」という)は,大幅な見直しが必要な分野である。

 

すなわち,個人保証は,保証人の自己破産や個人再生の申立ての主要な原因の一つになっており,保証人だけでなく,その親族等の人生にも深刻な影響を及ぼしている。また,年間3万人前後にのぼる自殺者(自死者)のうちには,自殺(自死)の原因として経済的理由と思われるものが相当数おり,その中には自らの保証人としての責任を苦にした人や,保証人に迷惑をかけることを苦にした人も含まれている。したがって,このような深刻な被害と社会的損失を発生させている個人保証は,原則として廃止すべきである。

 

この点,最近の部会における資料によれば,経済界や学者の中からも反対論がある中で,個人保証の制限が論点として掲げられ,個人保証については,「貸金等根保証契約」及び「債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるもの」に関する保証契約について,いわゆる経営者保証を除いて無効とする考え方が提示された。さらに,貸金等根保証契約に関する規律(民法第465条の2ないし第465条の5)を,保証人が個人である根保証契約一般に適用を拡大し,又は拡大するかどうか引き続き検討するとされたほか,保証人保護の方策として,契約締結時の説明義務,情報提供義務,主たる債務の履行状況に関する情報提供義務,及び保証人が個人である場合の責任制限の方策(裁判所による減額,比例原則)の考え方が示され,これらについて引き続き検討するとされている。上記のような深刻な社会問題を引き起こす個人保証について,部会がこれを大きく制限する方向で検討しはじめたことは大いに評価することができる。

他方で,この部会における資料の内容では,債務者が消費者である場合や貸金等債務以外の債務を主たる債務とする場合には依然として個人保証が許容されるところ,このような場合にも深刻な保証被害は発生しており,まだまだ不十分な面があると言わざるを得ない。

 

上記の通り,深刻な被害と社会的損失を発生させている個人保証については,原則としてこれを廃止すべきである。個人保証の原則廃止については,貸し渋りへの懸念が指摘されているが,金融実務では,経営者以外の第三者の連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められており,個人保証に頼らない実務慣行が作られつつある。このように,社会の動向も個人保証を原則として廃止する方向に進もうとしているのであり,個人保証を一定の範囲で認めるとしても,その場面は,法人代表者による経営者保証など,ごく限られた範囲に限定されるべきである。

 

また,個人保証制度が例外的に許容される場面においても,保証人が保証の趣旨を十分理解しないまま予期せぬ債務を負担したり,過大な保証債務の履行を求められたりすることにより,保証人やその親族らの生活が破壊されることなどのないよう,十分な配慮が図られるべきである。

 

そこで,当会は,部会における中間試案の策定に当たり,個人保証制度に関して,下記のような改正提案を明記し,今次の債権法の改正で,その実現を図ることを求める。

 

1 個人保証を原則として廃止すること。

2 保証が信用を補う手段として現在の実務において重要な機能を有しており,かつ,直ちに廃止することによる社会的な弊害が大きい場合に限ってのみ,例外的に個人保証を許容すること。

3 例外的に個人保証を許容する場合においても,貸金等根保証契約における規律(民法第465条の2ないし第465条の5)を個人が保証人である場合のすべての根保証契約に及ぼすこと,保証人の支払能力を超える保証の禁止,保証契約の要式行為化の徹底,さらに,保証契約締結の際の債権者による重要事項説明義務や債務者の支払能力等に関する情報提供義務,保証契約締結後の債権者による履行状況報告義務,保証後の保証人の責任制限等の,保証人保護の制度を設けること。

以上のとおり決議する。

 

2013年(平成25年)2月23日

 

               仙 台 弁 護 士 会

                  会 長  髙橋春男

 

提案理由

 

1 債権法の改正と個人保証

2009年11月に始まった債権法の改正に関する検討は,2011年4月に「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」が取り纏められて,パブリックコメントが募集され,2013年3月には中間試案が取り纏められ,同年4月からパブリックコメントの募集が開始される見込みである。

民法は民事基本法典であり,その中の債権法に関する多岐にわたる改正論点の中でも,保証被害の深刻さを考えたとき,保証制度の抜本的な改革は喫緊の課題である。

2 個人保証を原則として廃止すべきであること

個人保証については,保証の危険を認識していなかった保証人が,突然あるいは忘れた頃に,多額の想定していなかった保証債務の履行を求められ,親族らを巻き込んだ生活破壊,人間関係崩壊に追い込まれる深刻な事例が後を絶たたない。

そして,保証債務や第三者の債務の肩代わりは,自己破産や個人再生の申立ての主要な原因の一つとなっており,保証人とその家族の生活基盤を破壊している。

さらに,昨年は,ようやく自殺者(自死者)が年間3万人を下回ったとはいえ,これまで10年以上の長期にわたって,自殺者(自死者)が年間3万人を超えており,その主要な原因・動機の一つは経済・生活問題である。経営者が倒産するにあたって最も心配したことの一つは保証人への影響であり,生活破綻に陥った保証人が自殺(自死)する事例や,主債務者が他の保証人に迷惑をかけることを苦に自殺(自死)する事例も含まれている。このような保証被害は,個々人の問題ではなく,もはや社会問題である。

東日本大震災後に運用が開始された「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」でも,保証債務については,「主たる債務者が通常想定される範囲を超えた災害の影響により主たる債務を弁済できないことを踏まえ」,原則として個人の保証人に対する保証履行を求めないとしているが,これは,未曾有の大震災を原因とする主たる債務者の支払不能という事態にもかかわらず金融機関が個人の保証人に対し保証責任を追及することへの社会的非難を考慮したものと推察される。このような考慮も,予期せぬ債務の履行を迫られることによる保証人の負担の深刻さが背景にあるものと考えられる。

したがって,個人保証は,原則として廃止すべきである。

3 当会,日本弁護士連合会及び東北弁護士会連合会における意見表明

当会は,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対する意見書において,このような深刻な被害と社会的損失を発生させている個人保証を原則として廃止するとともに,保証人の保護の充実強化を求めた。日本弁護士連合会は,2012年1月20日付の「保証制度の抜本的改正を求める意見書」において,また,東北弁護士会連合会は,2012年7月6日の定期大会で,「個人保証の原則的な廃止等を求める決議」を採択し,同様の意見を表明している。

4 個人保証の原則廃止で貸し渋りが生じるおそれがないこと

個人保証の原則廃止など,保証人の保護の強化について,貸し渋りを懸念する意見もある。しかし,以下のような金融実務の動向を踏まえると,貸し渋りの懸念は失当である。

個人保証の弊害なども考慮して,中小企業庁では,信用保証協会が行う保証制度について,2006年度に入ってから保証協会に対して保証申込を行った案件については,経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを,原則禁止とした。

さらに,金融庁は,2012年12月作成の「主要行等向けの総合的な監督指針」及び同年11月作成の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の中で,「事業からのキャッシュフローを重視し,担保・保証に過度に依存しない融資の促進を図る」,「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立する」ことを求めた。

中小企業庁は,不動産担保に依らない保証・融資を推し進め,信用保証協会は,在庫や売掛債権を担保とした融資を推進するべく「流動資産担保融資(ABL)保証制度」を実施している。東日本大震災の被災地の金融機関の間でも,津波被害等で土地評価額が下がる中,新たな融資手法で企業の資金需要にこたえるべく,設備や在庫などを担保に資金を貸す流動資産担保融資の活用が広がっている。

また,不動産担保や個人保証に過度に依存した資金調達手法を見直すべく,動産の譲渡と債務者不特定の将来債権の譲渡についても,登記による対抗要件具備を可能とする法整備が行われている。

なお,部会において,2011年にまとめられた「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対するパブリックコメントでも,個人保証については原則廃止すべきであるとの多くの意見が寄せられているが,全国銀行協会がパブリックコメントに提出した意見では,経営者保証の必要性を強調しつつも,「・・・企業金融の保証の際には,経営者やオーナー等の内部関係者以外の第三者の個人保証を取ることは銀行としても原則抑制して対応している。」と述べており,経営者保証以外の個人保証を原則禁止しても銀行の融資業務に重大な支障を来すことはない。

以上のとおり,金融実務においては,2011年7月以降は,民間の金融機関においても,第三者保証人を徴求することが原則として禁じられるとともに,人的保証に頼らない実務慣行が確立されつつある。

5 個人保証を例外的に許容する範囲

市民社会の基本法である債権法の改正に当たっては,保証制度は,自己の信用を補う手段として,現在の実務において重要な機能を現に有し,かつ,直ちに廃止することによる社会的弊害が大きい場合に限って許容されるべきである。

例えば,法人代表者等の経営者保証については,中小零細企業のディスクロージャーの脆弱さ,企業と経営者の資産の分離の不十分さ,債務者のモラル維持などの観点から,現時点においては,保証が信用を補う手段として現在の実務において重要な機能を有しており,かつ,直ちに廃止することによる社会的な弊害が大きいと言えるので,個人保証が例外的に許容され得る。

経営者保証以外に,例外的に個人保証を認める範囲として,居住用賃貸借の保証,入院診療契約,高齢者施設利用契約,奨学金給付契約,営業とは無関係の個人間の消費貸借の保証等を指摘する意見もあるが,これらの契約においても,保証被害の予防と根絶の要請はあり,本当に個人保証がないと住む家が借りられないのか,個人保証を廃止しても,住まいの確保に支障がない仕組みが構築できないかなど,例外的取扱が要請されているといわれる取引分野においても,保証被害の深刻さを踏まえ,個人保証に依存しない実務慣行の確立に向けた努力を行う必要があり,また,その確立は可能でもある。例外の範囲を決定するにあたっては,個人保証を認める範囲を限定する趣旨を踏まえ,例外が過度に広がらないよう配慮する必要がある。

6 例外的に許容される場合における個人保証の保護の方策

経営者保証などの個人保証を例外的に許容する場面においても,前述のような保証に起因する被害を防止するためには,保証人の保護を図るための方策を整える必要がある。保証人が被る不利益や被害として予想されるのは,契約時に保証人自身の収入や資力を超えた債務を負担したり,保証の趣旨や内容を十分理解しないまま予期しない債務を負担したり,契約後に主債務が増加したことにより過大な保証債務の履行を突然求められたりするというものである。

そこで,このような事態により,保証人自身やその親族らが,予期せぬ不利益を被ったり生活基盤を破壊されたりすることのないような保証人の保護制度(保証人の支払能力を超える保証の禁止,保証契約の要式行為化の徹底など)を設けるべきである。

7 部会における検討状況

この点,最近の部会における資料によれば,経済界や学者の中からも反対論がある中で,個人保証の制限が論点として掲げられ,個人保証については,「貸金等根保証契約」及び「債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるもの」に関する保証契約について,いわゆる経営者保証を除いて無効とする考え方が提示された。さらに,貸金等根保証契約に関する規律(民法第456条の2ないし第465条の5)を,保証人が個人である根保証契約一般に適用を拡大し,又は拡大するかどうか引き続き検討するとされたほか,保証人保護の方策として,契約締結時の説明義務,情報提供義務,主たる債務の履行状況に関する情報提供義務,及び保証人が個人である場合の責任制限の方策(裁判所による減額,比例原則)の考え方が示され,これらについて引き続き検討するとされている。上記のような深刻な社会問題を引き起こす個人保証について,部会がこれを大きく制限する方向で検討しはじめたことは大いに評価することができる。

他方で,この部会における資料の内容では,債務者が消費者である場合や貸金等債務以外の債務を主たる債務とする場合には依然として個人保証が許容されるところ,このような場合にも深刻な保証被害は発生しており,まだまだ不十分な面があると言わざるを得ない。

また,例外的に個人保証を許容する場合における保証人保護の方策についても,部会の資料には考え方が示され,「引き続き検討する」とされているものの,反対論もある中で,中間試案の取り纏めに明記されるか否か,改正が実現するか否かについては懸念もある。

8 当会が求める内容

よって,当会は,中間論点整理に対するパブリックコメントで意見を表明したところであるが,中間試案が取り纏められる重要な局面にあることを踏まえ,保証被害の廃絶のために,中間試案に,下記の論点を明記し,今次の債権法改正において,個人保証の原則的廃止と保証人保護の充実強化を実現することを求める。

(1)個人保証を原則として廃止すること。

(2)保証が信用を補う手段として現在の実務において重要な機能を有しており,かつ,直ちに廃止することによる社会的な弊害が大きい場合に限ってのみ,例外的に個人保証を許容すること(居住用建物の賃貸借,入院診療契約,高齢者施設利用契約,奨学金契約等においても,個人保証の存続が不可欠かどうか,十分な検討を行うこと)。

(3)例外的に個人保証を許容する場合においても,貸金等根保証契約における規律(民法第465条の2ないし第465条の5)を個人が保証人である場合のすべての根保証契約に及ぼすこと,保証人の支払能力を超える保証の禁止,保証契約の要式行為化の徹底,さらに,保証契約締結の際の債権者による重要事項説明義務や債務者の支払能力等に関する情報提供義務,保証契約締結後の債権者による履行状況報告義務,保証後の保証人の責任制限等の,保証人保護の制度を設けること。

9 むすび

保証は,市民生活に身近で重要な問題であり,上記のような保証被害の深刻さを考えると,その根絶は急務である。これを踏まえ,債権法の改正の検討においても,保証制度の見直しが議論されている。金融実務も,保証人の保護への理解を進めている。今こそ,保証被害の不安のない社会を実現するための保証制度を確立すべき時期である。当会は,個人保証を原則的に廃止し,例外的に許容される場合の保証人の保護を充実強化することを求め,本件決議に及ぶ。

                                  以上

 

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