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「秘密保全法」制定に反対する決議

2013年02月23日

1 2011年8月8日に秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議がとりまとめた報告書(以下「有識者会議報告書」という。)に基づき作成されている「秘密保全法」法案は,2012年3月にはほぼ完成している状況にある。

 

2 国民主権(憲法前文,1条)の下においては,国政に関する情報は,本来,主権者である国民が共有すべきものであり,国民の知る権利の保障は,国民主権の前提条件である。

しかし,有識者会議報告書が想定している「秘密保全法」は,以下に述べるとおり,これまで以上に,国政に関する多くの重要情報を国民から隠すことを容易にする危険があり,国民主権の理念に反し,知る権利や取材・報道の自由,さらにはプライバシー権等の国民の基本的人権を侵害する危険が極めて高いものである。

 

(1)第一に,「特別秘密」の範囲がはなはだ不明確である。

有識者会議報告書は,保護される「特別秘密」の範囲を,「国の安全」,「外交」,「公共の安全及び秩序の維持」の3分野のうち国の存立にとって特に重要な情報としている。しかし,有識者会議報告書の考え方では,その範囲の特定方法が極めて曖昧である。特に,「公共の安全及び秩序の維持」にかかわるものを「特別秘密」に含めることは,「特別秘密」を指定するのが当該行政機関とされていることからすると,重要な国家情報に関して,恣意的な情報統制・情報隠しが,これまでよりも容易にできるようになるおそれがある。

 

(2)第二に,処罰範囲が広範で刑罰が重罰化している。

「特別秘密」を取り扱っている者が外部に情報漏えいをすると,有識者会議報告書によれば,懲役5年以下もしくは懲役10年以下の刑を受けることになる。しかし,「特別秘密」の範囲が極めて広範囲に及ぶことや行政機関の恣意的な秘密指定のおそれを前提にすると,実質秘とはいえないものまで「特別秘密」とされる危険がある。そのため,例えば国家の違憲違法な行為に関する情報を内部告発しようとしても,それが「特別秘密」と指定されていれば,公益通報制度で保護されるはずの内部告発者が,漏えい罪により犯罪者として処罰されるおそれすらある。また,「特別秘密」にアクセスしようとする記者や市民などが,それが「特別秘密」と指定されていることを知ることができないにもかかわらず,特定取得行為,独立教唆,共謀又は煽動により処罰されるおそれもある。

 

(3)第三に,適性評価制度はプライバシーを著しく侵害する危険がある。

適性評価制度は,特別秘密取扱候補者本人のプライバシー情報はもとより,当該人物の行動に影響を与え得る者のプライバシー情報までをも調査の対象としている。

そして,適性評価制度では,「国家に不利益となる行動をしないこと」が評価の観点とされるが,前述の通り,「特別秘密」の範囲が恣意的に定められる危険がある中では,適性評価制度も,その特別秘密取扱候補者の考え方が,時の政権にそぐわないかどうかを判断するために利用される危険性が否定できない。

 

3 以上のように,「秘密保全法」には看過できない重大な憲法上の問題が存する。他方,我が国では現在においても,国家公務員法や自衛隊法等で国家秘密の保護が図られており,「秘密保全法」を制定する立法事実はない。

 

4 情報公開請求により得られた資料によれば,既に秘密保全法案はほぼ完成している状況にある。しかしながら,法案がほぼ完成している現時点においてもなお,法案の内容は国民の前に明らかにされていないばかりか,国会議員にさえほとんど知らされていない。国民の権利・自由に重大な影響を及ぼす法案が秘密裏に作成されている事態は極めて問題である。

 

5 よって,当会は,「秘密保全法」の制定に反対し,広く市民に同法の危険性を周知するなどして,同法の国会提出を断念させるよう全力で取り組む。

 

以上のとおり決議する。

 

2013年(平成25年)2月23日

                                                                                          仙 台 弁 護 士 会

会 長 髙  橋  春  男

 

 
提  案  理  由

 

第1 はじめに

「政府における情報保全に関する検討委員会」(以下「検討委員会」という。)から我が国における秘密保全のための法制の在り方についての意見を示すことの要請を受けた「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(座長:縣公一郎)は,2011年8月8日,「秘密保全のための法制の在り方について(報告書))」(以下「有識者会議報告書」という。)を公表した。

これを受けて,検討委員会は同年10月7日,次期通常国会(当時)への提出に向けて,秘密保全に関する法制(以下「本法制」という。)の整備のための法案化作業を進めることを決定した。

本法制については,民主党政権以前の戦後自民党政権時代から法制化に向けた検討が続けられてきている。そのため,2012年12月26日に自民党及び公明党に政権が交代した今日においても,法制化の方針に変更はないと考えられる。

しかし,検討委員会が,法案化作業に当たって十分に尊重すべきとした有識者会議報告書をみる限り,本法制は情報公開制度・国民主権の理念に反し,国民の知る権利等を侵害するおそれが極めて大きいと言わざるを得ない。

以下,有識者会議報告書の問題点を指摘する。

 

第2 秘密保全法制と情報公開制度・国民主権の理念

有識者会議報告書は,「我が国では,外国情報機関等の情報収集活動により,情報が漏えいし,又はそのおそれが生じた事案が従来から発生している。」との認識を示した上で,「我が国の利益を守り,国民の安全を確保するためには,政府が保有する重要な情報の漏えいを防止する制度を整備する必要がある」と述べる(2頁以下)。

そのような必要性があることは否定しない。しかし,例えば,古くは沖縄返還密約に係る外務省秘密漏洩事件,記憶に新しいところでは尖閣諸島沖での漁船衝突に係る映像流出事件など,国家機密とされるべきものかどうか疑問があるものまで,広く国家機密とされるならば,それは,国民主権を支える国民の知る権利を侵害するおそれがあることは有識者会議報告書も認めているところであるが(23頁),以下の通り,本法制は,国民の人権を侵害する危険が極めて高いものといわざるを得ない。

情報公開法・条例が制定された今日においても,沖縄返還密約に関する情報やイラクに派遣された航空自衛隊による米兵輸送といった違憲違法の疑いが持たれている事実に関する情報が不開示情報として扱われており(但し,航空自衛隊による米兵輸送については航空自衛隊がイラク復興支援派遣輸送航空隊として活動を始めてから5年半を経過した2009年9月になってようやく開示された),国民が行政をチェックし判断するための情報共有の仕組みが十分に整っているとはいえない。このような中でまず行うべきは国や自治体による恣意的な情報隠しを阻止する情報公開制度の充実である。

 

第3 秘密とすべき範囲が広範かつ不明確であること

1 秘密とすべき事項の範囲(有識者会議報告書3頁)について

有識者会議報告書は,「国の存立にとって重要なもののみを厳格な保全措置の対象とすることが適当である」としながら,特別秘密として取り扱うべき事項を,①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序の維持の3分野とし,その理由としては,「防衛秘密の制度を参考としつつ,関係省庁の意見を基に検討」したと述べるのみである。

1985(昭和60)年に議員立法として提案されたものの結局世論の強い反対で廃案になった「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案(スパイ防止法案)」では,国家秘密の定義は「防衛及び外交に関する別表に掲げる事項並びにこれらの事項にかかる文書,図画又は物件で,我が国の防衛上秘匿することを要し,かつ公になっていないものをいう。」とされていた。ここでは,対象事項を防衛及び外交に関する事項としながらも,秘密にすべき必要性の判断基準を「我が国の防衛上の秘匿の必要性」として,防衛を中心とすることを鮮明にしていた。

これに対して,有識者会議報告書では「特別秘密」の対象事項を,防衛ではなく「国の安全」とし,外交はこれと並ぶものと位置づけ,さらに「公共の安全及び秩序の維持」を加えることで,スパイ防止法案と比べても対象情報の範囲を著しく拡大し,国民の知る権利を大きく制限するものになっている。

秘密とすべき事項の範囲をどのように定めるかは,国民の知る権利等に重大な影響を及ぼすものであるから,上記の3分野を対象とする場合,とりわけ③について,立法事実を含めてその理由が明らかにされるべきであるが,有識者会議報告書ではそれが明らかにされているとはいえない。

2 事項の限定列挙・秘匿の必要性による絞り込み(有識者会議報告書3頁以下)について

有識者会議報告書は,「特別秘密として厳格な保全措置の対象とする情報は特に秘匿の必要性が高いものに限られるべきであるから,これらの分野のいずれかに属する事項の中から特別秘密に該当し得る事項を更に限定する必要がある」としている。

しかし,報告書はその具体的な方法として,「本法制を整備する際には,自衛隊法の防衛秘密の仕組みと同様に,特別秘密に該当し得る事項を別表等であらかじめ具体的に列挙した上で,高度の秘匿の必要性が認められる情報に限定する趣旨が法律上読み取れるように規定しておくことが適当であり,例えば『我が国の防衛上,外交上又は公共の安全及び秩序の維持上特に秘匿することが必要である場合』(自衛隊法第96条の2第1項参照),『その漏えいにより国の重大な利益を害するおそれがある場合』などを要件とすることが考えられる」と述べているが,これらは限定として全く不十分である。

すなわち,自衛隊法の防衛秘密に関して同法が掲げる別表第4は,「自衛隊の運用」,「防衛に関し収集した電波情報,画像情報その他の重要な情報」などというように極めて広範な事項にわたる網羅的なもので,秘密を限定する意義に乏しいことは明らかである。また,有識者会議報告書が例示する上記の文言は曖昧であり,自衛隊法等に倣ってよしとされるとすれば,「特別秘密」の指定が行政機関に委ねられていることを併せ考慮すると,前述した沖縄密約やイラクにおける米兵輸送といった情報はもとより,自衛隊情報保全隊による国民監視に関する情報などまでもが「特別秘密」として指定される危険性は十分にある。

次に「公共の安全及び秩序の維持」という文言は,警察法1条で警察の所掌事務として規定されている文言と同じであり,有識者会議に警察庁,公安調査庁,海上保安庁の官僚が同席していたことからすると,警察の所掌する事務全般にわたって秘密の網が掛けられることを予定していると考えられる。しかも,「公共の安全及び秩序の維持」は極めて曖昧な概念であるから,治安に関する情報を超えて,秘密対象が無限に広がる危険がある。情報公開の現状からすれば,「公共の安全及び秩序の維持」をもって「特別秘密」の範囲を画すべきものとした場合には,警察に関わる情報についてはその限定を期待できない。

3 秘密の作成又は取得の主体(有識者会議報告書4頁以下)について

有識者会議報告書は,国の行政機関に加え,独立行政法人等及び地方公共団体についても本法制の適用対象にすることが適当であるとし,民間事業者・大学についても,行政機関等から事業委託を受ける場合には,本法制の適用対象とすることが適当であるとする。

しかし,本法制の立法事実に関して有識者会議報告書33頁の「主要な情報漏えい事件等の概要」に挙げられた事案は,国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案を除き,自衛官など国の行政機関(元公務員も含む)が関わるものである。また,警察職員が取り扱った蓋然性が高い情報が含まれていたとされる国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案は,捜査中とのことで,未だ警察職員が関与していたとの判断は示されていない。

有識者会議報告書自体が挙げる上記事例からも,国の行政機関以外に適用対象を広げるべき理由は見出せない。国の行政機関のほか地方公共団体等まで適用対象とされ,しかも秘密の範囲に公共の安全及び秩序の維持まで含まれるとすれば,「特別秘密」とされ得る事項は膨大なものとなる。

また,民間事業者や大学といったいわば私人をも本法制の適用対象とすることは,学問・研究活動の自由等を侵害するおそれが大きく,行き過ぎた規制と言わざるを得ない。

4 秘密の指定の恣意性の危険

有識者会議報告書は,秘密指定の権限は,原則として,「特別秘密」の作成・取得の主体である各行政機関に付与することとするのが適当であるとするのみで,当該秘密指定が法の趣旨に則った適法なものであるかどうかについて検証する仕組み等については全く触れていない。

このように,各行政機関に秘密指定の権限があり,その指定の適否を監視する仕組みがない制度では,「特別秘密」の対象が広範かつ曖昧であることなどと相まって,行政機関がときの政府や自らに都合の悪い情報を隠すため,恣意的な秘密指定がなされるおそれが極めて大きい。

本法制では「特別秘密」と刑罰とが直結されており,秘密の指定は,知る権利等の行使に対して重大な萎縮的効果を及ぼす。秘密の指定が行政機関の恣意によってなされないよう,第三者がその適否を監視する仕組みは不可欠というべきである。

 

第4 刑罰(有識者会議報告書14頁以下)について

1 罰則に関する基本的な考え方について

有識者会議報告書は,「防衛の分野では,自衛隊法上の防衛秘密や,日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法…上の特別防衛秘密に関する保全制度があるが,必ずしも包括的なものではない上,防衛以外の分野ではそのような法律上の制度がない」(2頁乃至3頁)とする。

しかし,刑罰法規の補充性(刑罰は他の保護手段では法益保護にとって足りないときのみに用いられるべき)・断片性(刑法による保護の領域すなわち犯罪化される領域は包括的ではなく必然的に断片的なものであるべき)に鑑みれば,違反が必然的に罰則に結びつけられている自衛隊法上の防衛秘密等について,対象等が包括的でないからといって,制度が不十分であるとはいえない。

さらに,有識者会議報告書は,「罰則を設けることにより,特別秘密を取り扱う者に緊張感を与え,その保全意識をより高める効果が期待できる」(14頁)とも述べるが,他方で,独立教唆等のように取扱業務者以外の第三者をも罰則の対象としており,上記目的を超えている。第三者をも罰則の対象とする報告書の考え方は,「特別秘密」の範囲が恣意的になされるおそれがあり,しかも外部からは知ることができない以上,刑罰が国民の知る権利等の行使に及ぼす萎縮効果は非常に大きいといわざるを得ない。

2 禁止行為(有識者会議報告書14頁以下)について

(1)有識者会議報告書は,自衛隊法と同様に,特別秘密の漏えい,過失の漏えい,漏えいの未遂,共謀,独立教唆及び煽動の各行為を刑事処罰すべきものとしている。

しかし,そもそも「特別秘密」という構成要件自体が過度に広範かつ不明確であるところに加えて,実行行為を待たずに共謀行為や教唆行為を罰するとすれば,その処罰範囲は大きく広がり,かつそれらの構成要件に該当するか否かについての予見可能性は極めて低くなる。

そのため,例えば,特別機密の取扱者とされていない公務員が,国家の違憲違法な行為に関する情報を内部告発しようとしても,それが「特別秘密」と指定されてしまっていると,公益通報制度で保護されるべき内部告発者が漏えい罪により重罰に処せられてしまうおそれがある。

(2)また,報告書は,一般人をも対象にする特定取得行為(管理侵害行為又は詐欺等行為による特別秘密の取得)を処罰対象に加えている。この点につき,報告書は,「特定取得行為は,犯罪行為や犯罪に至らないまでも社会通念上是認できない行為を手段とするもので,適法な行為との区別は明確であるから,特定取得行為を処罰対象に加えても,正当な取材活動など本来許容されるべき行為が捜査や処罰の対象とされるおそれはないと考えられる。」(17頁)としている。

しかし,「社会通念上是認できない行為」の範囲ははなはだ不明確である。また,報告書は,外務省機密漏えい事件最高裁判決(最高裁昭和53年5月31日第一小法廷判決)が「社会通念上是認することができない」行為について「取材対象者個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会通念上是認することができない態様のものである場合」と限定を付している部分を省略しているため,処罰範囲は最高裁判決が認めるよりも広範に及び,かつ不明確になっている。

そのため,「特別秘密」にアクセスしようとする記者や市民が,それが「特別秘密」と指定されていることを知ることができないにもかかわらず,特定取得行為や独立教唆,共謀又は煽動によって重罰に処せられてしまうおそれがある。

実際にも,米海軍横須賀基地の米軍艦乗組員相手にクリーニング店を営業していた支配人が,営業の必要上,知人の同基地勤務の米海軍上等兵曹をキャバレーや料理店でもてなしたり,クリーニングの無料奉仕をしたりして,同人から海軍の機密である基地出入りの米海軍艦船名,入港予定日時等を記載した文書を入手し,また米潜水艦の入港予定日を聞き出し,これを従業員に漏らした行為が,「不当な方法で,探知し,又は収集した」,「不当な方法によらなければ探知し,又は収集することができないようなものを他人に漏らした」として刑事特別法違反で起訴され懲役8月(執行猶予2年)の有罪判決を受けた裁判例がある(横浜地裁1957年2月11日判決)。

(3)このように,有識者会議報告書が挙げている犯罪類型は,何が犯罪となるのかが不明確で予測が極めて困難となる恐れがあり,罪刑法定主義(憲法31条)に反するとともに,取材の自由や知る権利を侵害する可能性が高い。

3 法定刑(有識者会議報告書19頁以下)について

有識者会議報告書は,「国家公務員法等において一般的な守秘義務が定められているが,秘密の漏えいを防止するための管理に関する規定がない上,守秘義務規定に係る罰則の懲役刑が1年以下とされており,その抑止力も十分とはいえない」(3頁)とし,十分な抑止力の確保と罪責に応じた十分な刑罰を科す必要性から,本法制における刑の上限を懲役5年又は同10年とし,罰金刑を任意的併科とすることが適当であるとしている(19頁以下)。

しかし,重罰の「抑止力」は取材の自由に対して大きな萎縮効果を与え,国民の知る権利の実現を危うくするおそれがある。そもそも,有識者会議報告書33頁で紹介されている「主要な情報漏えい事件等の概要」においても,刑事処分は法定刑の中でも軽い量刑にとどまっており,また起訴猶予処分の例もある。したがって,現行法の法定刑が抑止力として不十分とは評価できず,重罰化する立法事実は認められないというべきである。

秘密保全を考えるのであれば,まず情報公開の原則を徹底させた上で,何が秘密として保護されるべきなのかを明確にしつつ秘密情報の物理的管理を充実させるべきであることは,上記の事例からも明らかである。

 

第5 適性評価制度(有識者会議報告書7頁以下)について

1 適性評価制度

有識者会議報告書は,「特別秘密を保全するためには,特別秘密を取り扱う者自体の管理を徹底することが重要である」とし,適性評価制度を本法制の中で明確に位置づけるべきとする。適性評価制度とは,秘密情報を取り扱わせようとする者(以下「対象者」という。)について,日ごろの行いや取り巻く環境を調査し,対象者自身が秘密を漏えいするリスクや,対象者が外部からの漏えいの働きかけに応ずるリスクの程度を評価することにより,秘密情報を取り扱う適性を有するか否かを判断する制度である。

適性評価における調査事項の例として,①人定事項(氏名,生年月日,住所歴,国籍(帰化情報を含む。),本籍,親族等),②学歴・職歴,③我が国の利益を害する活動(暴力的な政府転覆活動,外国情報機関による情報収集活動,テロリズム等)への関与,④外国への渡航歴,⑤犯罪歴,⑥懲戒処分歴,⑦信用状態,⑧薬物・アルコールの影響,⑨精神の問題に係る通院歴,⑩秘密情報の取扱いに係る非違歴などを挙げる。そして,これらの調査について,有識者会議報告書は,「対象者のプライバシーに深く関わる調査となることから,調査については,対象者の同意を得て,調査票の任意の提出を待って手続を開始,進めることが肝要である」とする。

2 プライバシー侵害・差別のおそれ

(1)上記の調査事項は,まさにプライバシーの核心に関わる事項であり,思想・信条や出身による差別につながるおそれも大きい。

特に,③の「我が国の利益を害する活動」の範囲が不明確であるため,およそあらゆる活動がそれに該当するかどうかを判断するために調査対象になる危険があり,個人の思想・信条を含めたプライバシー情報が広く調査・把握され,かつ集積されてしまう危険性がある。

また,調査について対象者の同意を要件としても,雇用されている立場の対象者にとって,これらの調査に同意しないことは困難である。すなわち,組織内で働く者にとって「同意しない」という選択は組織内における自己の地位を失う可能性を含むものである以上,真に自由な意思で同意・不同意を選択することは期待できない。

(2)また,有識者会議報告書は,「特別秘密」を取り扱う者のほか,その者の配偶者等,対象者の身近にあって対象者の行動に影響を与え得る者についても,一定の調査をすることを想定しており(11頁),それらの者に対するプライバシー侵害の危険もある。

(3)なお,2012年11月27日付朝日新聞の報道によると,共産党の塩川鉄也衆議院議員(当時)が,2009年に政府が取り決めた「秘密取扱者適格性確認制度」について政府に出した質問主意書に対する,政府側の11月6,16日の答弁書では,適格性についての調査や第三者に対する照会について,「職員の任用に関して任命権者の権限の範囲内で実施しているものであり,必ずしも本人の同意を得て行っているものではない」と述べ,また,秘密取扱者の配偶者に対する調査については「政府の情報保全に支障を及ぼすおそれがあることから,お答えを差し控えたい」と回答し,否定しなかったということである。また,この答弁書では,外交機密や暗号,情報収集衛星など特別に秘匿すべき情報の「特別管理秘密」を扱う調査対象の職員は,防衛省(自衛隊を含む)6万480人,外務省2014人,警察庁543人,内閣官房505人,海上保安庁300人,公安調査庁155人,経産省146人など,22府省で計6万4361人(昨年6月末現在)で,5万3162人だった一昨年末から半年間で,防衛省を中心に1万1199人増えたということである。

3 恣意的な選別の危険

有識者会議報告書は,適性評価制度における評価の観点の一つとして,「我が国の不利益となる行動をしないこと」を挙げている。

しかし,そもそも「我が国の不利益」とは何を意味するのかは明確ではなく,結局,対象者の考え方が,時の政府にとって都合が良いか悪いかで,「適性」が恣意的に判断されてしまうおそれがある。

 

第6 秘密裏に法案化されていること

以上のように多くの看過しがたい問題点を有する「秘密保全法」は,情報公開請求により得られた資料によれば,既に法案がほぼ完成している状況にあると考えられる。しかしながら,その法案はいまだに国民の前に明らかにされていないばかりか,国会議員にさえほとんど知らされていない。有識者会議も非公開で行われ,議事録は作成されず,発言者名が伏された議事要旨が作成されているのみである。このように,秘密保全法はその作成段階から秘密裏になされているのである。

 

第7 結語

以上のとおり,本法制には国民主権,基本的人権の尊重,罪刑法定主義という憲法原理に反する問題点がある一方,国家公務員法や自衛隊法等で国家秘密の保護が図られており,過去の事例を見ても,処罰範囲の拡大や重罰化を求める本法制を基礎付ける立法事実も存しない。

当会は,「秘密保全法」についてこの間,2011年12月14日付け「秘密保全の法制の在り方について(報告書)」に対する意見書で本法制の法案化に反対の意思表明をしたほか,2012年2月18日にシンポジウム「秘密保全法制を考える~国民の知る権利は守れるのか~」を開催し,また同年11月14日及び同年12月3日には街頭宣伝活動により市民へ本法制の危険性を訴えてきたが,憲法の基本原理を損なう危険性に鑑み,より一層本法制の危険性を訴えていく必要がある。

よって,「秘密保全法」の制定に反対し,広く市民に同法の危険性を周知するなどして,同法の国会提出を断念させるよう全力で取り組む決意を込め,本決議案を提案する。

以 上

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