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平成17年8月24日意見書

2005年08月24日

宮城県「消費生活の保護に関する条例の在り方について」−中間とりまとめ−に対する意見書

仙 台 弁 護 士 会会 長  松 坂  英 明

第1 はじめに

 1 宮城県の「消費生活の保護に関する条例」(以下「県条例」という)の改正作業が、宮城県消費生活審議会条例検討部会において進められている。当会は、2004年(平成16年)9月、県に対し、「県条例及び消費者行政の拡充に関する要請書」(以下「要請書」という)を提出し、あるべき県条例の改正に向けて意見を述べてきた。この度、上記条例検討部会より、「消費生活の保護に関する条例の在り方について−中間とりまとめ−」と題する検討経過が公表されたことから、これまでの当会の意見をもとに、改めて県に対して「中間とりまとめ」に対する当会の見解を表明するものである。

 2 今回の県条例の改正は、昨年6月の国の消費者基本法(以下「基本法」という)の改正に伴うものである。したがって、県条例の改正は、上記の基本法の要請に合致し、かつ、現在発生している多様かつ深刻な消費者被害に対応できることが必要である。

 3 前者の観点からすると、条例の目的について、消費者と事業者との情報の質・量及び交渉力の格差があることを明記した上で、消費者の権利の擁護と自立支援を掲げたことは評価できるが、県・市町村の相互協力に関する規定が必ずしも明確にされていないこと、消費者政策の基本計画の策定について消極的な見解が述べられていることなど不十分な点が見受けられる。消費者基本計画について、基本法では「消費者政策の計画的な推進を図るため、消費者政策の推進に関する基本的な計画を定めなければならない」と規定されており(同法第9条)、県条例の中でもそれに対応すべき規定を置くべきと考えられる。

4 後者について、現在高齢者のリフォーム被害など、高齢化社会の進行の中で高齢者の被害が多発していることから、このような被害実態をふまえた規定が検討されるべきである。この点、「中間とりまとめ」の中には、「年齢」を意識した規定(例えば、第4条、第5条など)が設けられているが、総則(第1章)においても高齢者の消費者被害予防・救済に対する姿勢を強く打ち出すべきであり、さらには、高齢者被害対策として「不招請勧誘」(業者が一方的に電話や訪問をしてきたりFAX、電子メールを送りつけてくるなどの、取引を希望していない消費者に対する勧誘)に関する規定を明記するなど、積極的な対応がなされるべきである。

 5 以下、「中間とりまとめ」の「Ⅲ 主な検討事項と内容」に沿って、具体的に意見を述べる。

 

第2 具体的な検討事項と内容についての検討

 1 総則関係

(1)条例の目的

 条例の目的について、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差が拡大している」という実態を踏まえ、「消費者の権利の尊重及び自立の支援」を目的として掲げること、そして、基本理念として、消費者の権利を具体的に明記すること、消費者の自立支援にあたっては、消費者の年齢その他の特性に配慮する旨規定することについては、賛成である。ただし、消費者の権利については、「中間とりまとめ」に記載されている6つの権利に加え、当会の要請書に掲げた次の権利も盛り込むことをご検討いただきたい。

①公正な取引条件及び取引方法を提供される権利

公正な取引条件と取引方法が提供されなければ、いかに情報が提供されても適切な選択は実現できない。例えば、利率表示さえあれば高金利貸付が許されるとすれば、多重債務被害やヤミ金融被害は拡大してしまうであろう。そのため、「中間とりまとめ」が掲げる6つの権利のうちの、情報の提供と選択の機会の実質的保障のためには、前提として消費者に提供される取引条件及び取引方法の内容が公正であることが不可欠といえる。したがって、条例の基本理念の中に、消費者の権利として「公正な取引条件及び取引方法を提供される権利」が明記されるべきである。

②消費者団体を組織し行動する権利

消費者が事業者に比べ情報力や交渉力において圧倒的劣位にあるという実態から、消費者の地位の向上・改善を図るためには、消費者に団体を組織し行動する権利を保障する必要がある。また、「中間とりまとめ」によると、消費者団体の役割に関する規定が置かれる方針とのことであるから、消費者団体が一定の役割を果たす前提として、その存在が消費者の権利として保障されることが明記されるべきである。

(2)県・市町村の位置付け

   基本的には、「中間とりまとめ」の方向性に賛成であるが、県内市町村との情報交換や協力に関する規定や、県内の事業者が県外で起こした違反行為について必要な情報収集や対策を他県等に要請する規定が置かれていないので、これらを盛り込むべきである。

(3)事業者・消費者などの位置づけ

 事業者の責務について具体的に規定すること及び事業者団体の責務を規定することについて賛成である。ただし、事業者の具体的責務について、「法令を遵守する行動基準と組織体制を整備すること」についても盛り込むことを検討していただきたい。消費者被害は、事業者の従業員が独自に違法な行為を行ったことによるものばかりではなく、事業者が組織的に行ったことにより生じる場合も多いという実態をふまえ、事業者が意識的に体質改善に取り組むことを責務として定める必要があるからである。

   消費者、消費者団体の役割の定めについては、賛成である。

(4)環境保全への配慮

   特に意見はない。 

 

 2 施策関係

(1)危害の防止

当会の要請書に掲げたとおり、緊急を要する場合に商品や事業者名を公表できる旨の規定や、事業者名の公表に当たって原則として必要とされる意見陳述の機会の付与も緊急の場合は不要との規定を盛り込むべきである。

(2)規格・表示等の適正化

   特にに意見はない。

(3)取引行為の適正化について

 条例において「不適正な取引行為の禁止」「不適正な取引に係る調査及び情報提供等」に関する規定を設けること、禁止される不適正な取引行為について、類型化して規定し、具体的な内容は規則等で明確化するとの、「中間とりまとめ」の方針に賛成である。なお、禁止される不適正な取引行為の類型化については、以下の点にご留意願いたい。

 不適正な取引方法の類型化に当たっては、当会は、要請書において、以下のような意見を述べている。

①近年の消費者契約法制定、特定商取引法改正、電子商取引その他現代型消費者被害の実情を踏まえて、具体的な規定を整備すること(電子商取引に関する規定として、例えば、仙台市条例18条1項1号、規則6条(3)参照)

②対象類型としては、不当勧誘行為だけでなく、不当な取引条項及び過剰与信の類型も加えること

③取引勧誘に当たって消費者の特性に配慮すべきことを明示し、年齢その他により判断能力が十分でないことに乗じた取引勧誘を禁止すること

④商品サービスの契約を伴う与信契約等(クレジット契約等)についても、不当勧誘、過剰与信の禁止、不当な抗弁対抗の拒否の禁止等を明確化すること

 このうち、③については、必ずしも「中間とりまとめ」で類型化された不適正行為の中に明記されてはいない。近時の高齢者をねらったリフォーム被害や次々販売の被害からも明らかなように、年齢その他により判断能力が十分でないことに乗じた取引被害は著しく増加の傾向が見られ、このような被害を未然に防止できるような条項を設けることは是非とも必要である。

 また、②についても、類型化された不適正行為の中に明記されていない。さらに、④については、「不当な与信行為」という形で採用されているものの内容が必ずしも具体的ではない。金融業者の過剰与信は多重債務問題を引き起こす大きな要因の一つであり、上記のリフォーム被害や次々販売の被害においてはクレジット会社の過剰な与信行為が問題となっていることからも明らかなように、金融業者の不当な与信行為及びその後の履行請求行為は近時の消費者被害の中で大きなウエートを占めている。したがって、これらの点についても、当会の要請書をふまえて具体的な内容の条項を設けるべきである。

また、「中間とりまとめ」には、不招請勧誘に関する条項が明確な形で置かれてはいない(2(3)②中の括弧内の記載に止まっている)。不招請勧誘は、不当な取引勧誘の端緒となる場合が多いという問題や、個人の私生活の平穏を害するという問題が指摘されているが、それに止まらず、多くの消費者取引の分野で深刻な被害を発生させている。そのため、東北弁護士会連合会(以下)「東北弁連」という)では、本年7月8日の総会で、「不招請勧誘(迷惑勧誘)禁止について実効性のある法規制を求める決議」を採択し、国及び各地方公共団体に対して、消費者取引における被害の実情等に応じ、下記のような法規制を早急に実現するよう求めている。

 ① 金融投資取引のうち、元本保証のないものにつき、消費者からの事前の同意がない場合には、電話、訪問、FAX、電子メールによる勧誘を禁止する法(条例を含む。以下同じ。)を制定すること。

 ② 特定商取引法が規制する取引形態についても、前項と同様、消費者からの事前の同意がない場合、電話、訪問、FAX、電子メールによる勧誘を禁止する法を制定すること。

 ③ それ以外の消費者取引については、苦情相談や被害の実情に応じて、必要かつ実効性のある法規制を実施すること。 

 ④ 上記の禁止規定に違反した場合に対応できるように、契約取消、損害の推定、クーリング・オフのような民事的効果に関する規定、営業停止や営業許可の取消のような行政処分規定、両罰規定のような刑事罰則などの法規制を設けること。

また、不招請勧誘を禁止する条項は、秋田県をはじめ近時多くの地方自治体の条例においても明文化が図られている。以上のような東北弁連決議の趣旨や各地で改正されている条例の内容等をふまえて、この度の県の条例改正に当たっては、不招請勧誘を禁止する条項を設けるべきである。

(4)消費者への啓発・教育等

 「中間とりまとめ」に賛成であるが、学校教育及び高齢者への啓発を充実させ ることを明記すべきである。

(5)苦情処理及び紛争解決

   消費者被害救済委員会について、調停だけではなくあっせんも行えるようにするとの立場に賛成であるが、それにとどまらず、当会が要請書に掲げた、消費者の苦情に対する適切かつ迅速な助言・あっせんその他の措置の実施、専門的知見に基づく必要な施策の実施、利用しやすい裁判外紛争処理機関の整備等が明記されるべきである。

(6)生活必需品に関する施策

   特に意見はない。 

 3 消費生活審議会及び被害救済委員会関係

   上記委員会について、積極的な活用がはかられるように制度の見直しを行うとの点に賛成であるが、さらに、消費者に一定の場合申立権を認めることが検討されるべきである。 

  

 4 雑則関係

(1)立ち入り調査等

(2)勧告及び公表の事前手続き

   立入調査の拡大には賛成である。勧告、公表の事前手続きについては、当会は、要請書で、「安全・表示・広告・不適正取引などに関する条例違反の調査について、立証責任の転換規定を設けること」を求めている。立証責任の転換規定については、危害防止(中間とりまとめ6条)の中で、立証要求の規定を盛り込むとされたが、さらに進めて、立証責任の転換規定を、安全・表示・広告・不適正取引などに関する条例違反についても設けるべきである。

(3)県民からの申出、国への意見表明等

   賛成である。

 5 その他

(1)条例の名称等

   基本的な方向性については賛成である。

(2)基本計画の策定について

   この点は、条例の中で明記すべきである。現行条例2条において、「消費生活の保護に関する総合的な施策を策定すること」が定められており、基本法第9条においても、国は「消費者施策の推進に関する基本的な計画を定めなければならない」とされている。また、当会の要請書の中でも、その必要性を述べていたものであり、仙台市においても消費者基本計画が策定されていることをふまえれば、改正に当たっては、条例の中に基本計画の策定を明記すべきである。

(3)その他、中間報告で不足な部分

   当会の要請書において県に実施を求めた、「条例違反等の情報提供」(条例違反の事業活動により消費者に被害が生じ又はそのおそれがあるときは、被害の概要その他必要な情報を、必要な場合は事業者名も含めて情報提供することができる旨の規定)についても、条例策定に当たって検討されるべきである。

 

第3 まとめ

 以上の通り、「中間とりまとめ」は、当会の要請書の内容の多くを盛り込み、現行条例よりもかなり充実した内容にはなってはいるものの、上に指摘したような不十分もしくは不明確な点も存在している。

条例検討部会においては、当会の要請書及び本意見書や、近時改正された他の地方自治体の先進的な消費者保護条例の趣旨・内容を十分に検討し、さらに充実した内容の条例案を策定するよう、改めて要請するものである。

以 上

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