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男女共同参画を推進する宣言

2023年02月25日

男女共同参画を推進する宣言

 すべての人は、個人として尊重される。
個人の尊重と法の下の平等をうたう日本国憲法の下では、すべての国民に、性別によって差別されることなく、その個性と能力を十分に発揮できる自己実現の権利が保障されなければならない。
1999年に制定された男女共同参画社会基本法は、憲法の理念をふまえ、男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置づけ、社会のあらゆる分野において、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要であるとしている。
 しかし、同法の制定から20年以上が経過した現在においても、我が国社会における男女間格差は依然として大きく、固定的な役割分担意識に基づく制約や差別が根強く残っているのが現実である。近年、司法で扱われる問題には、夫婦別姓や同性婚、親権を巡る紛争、非正規労働者やシングルマザーの貧困、伝統的あるいは閉鎖的な業界に根強く残るハラスメントや性暴力などがあるところ、その根底には、ジェンダーに関する固定的な観念や偏見が潜んでいることも少なくない。
 したがって、性別を問わず誰もが自分らしく個性と能力を発揮できる社会を実現する上で、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士が果たすべき役割は大きく、その実現に向けて社会の中で説得力ある発信をしてゆくためにも、弁護士会は、まず自らの組織、会運営における男女共同参画推進の取り組みを加速させてゆく必要がある。
 よって、当会は、誰もが自分らしく活躍しながら無理なく会の運営や会務活動に参画できる弁護士会となるべく、会長を本部長とする男女共同参画推進本部を設置し、下記の内容を含む「男女共同参画推進基本計画」を策定することを宣言する。

1 女性弁護士割合の拡大に向けた取り組みを推進する。
2 当会の政策・方針決定過程への女性会員の参画を拡充する取り組みを推進する。
3 性別を問わず、業務や会務活動と家事・育児・介護等とを両立できるような支援策を講じる。
4 性別による差別的取り扱いやセクシュアル・ハラスメントを防止するため、既存の制度の充実及び新たな制度の創設を図る。
5 会員間で男女共同参画推進の意識を高め、ジェンダー・バイアスの問題について認識を深めるため、研修・啓発活動を充実させる。
6 男女共同参画社会の実現に向け、対外的に様々な発信や取り組みを行う。

以上

2023年(令和5年)2月25日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  伊 東 満 彦

提 案 理 由

1 我が国における男女共同参画の現状
(1)男女共同参画社会基本法は、男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、社会の対等な構成員として、性別にかかわりなくあらゆる分野でその個性と能力を十分に発揮し、もって、男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受できる社会の実現を 目指し、1999年に制定された。
2003年には、政府の男女共同参画推進本部によって「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」との目標が設定され(第二次男女共同参画推進基本計画)、5か年ごとに男女共同参画推進基本計画を策定して、その実現に向けた取り組みが行われてきた。2015年には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が、2018年には「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」がそれぞれ公布・施行された。
(2)このように、法制定時に比べれば、国民の意識は徐々に改善されてきたといえるものの、世界経済フォーラム(WEF)が公表した日本のジェンダーギャップ指数が、2022年時点でも世界146か国中116位という低い順位に留まっていることをふまえれば、男女格差の解消に向けた我が国の取り組みは、諸外国に比べ極めて遅れていると言わざるを得ない。
 2022年7月に、元陸上自衛官の女性が実名で性被害を告発した事件は記憶に新しいが、それ以前にも、東京医科大学や順天堂大学医学部での女性受験生に対する差別的取り扱いや、美術業界における女性差別、性被害が話題になったり、映画や演劇の世界において性被害の告発が報道されたりするなどしており、未だに根強い女性差別や深刻なセクシュアル・ハラスメントが、各所で発生している。
我が国において、男女共同参画は、少子高齢化が進む中で労働人口を確保し、国際的な社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現するための最重要課題と位置付けられているが、男女共同参画の趣旨としては、男女の個人としての尊厳を重んじ、一人一人に、性別による制約を受けない自己実現の機会を保障するという人権尊重の理念を核心に置くものである。したがって、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士が果たすべき役割は大きく、高い意識をもって、社会内の男女格差を解消するための取り組みを加速していくことが求められる。

2 日本弁護士連合会及び当会のこれまでの取り組みと現状
(1)日弁連は、2002年の第53回定期総会で「ジェンダーの視点を盛り込んだ司法改革の実現を目指す決議」を採択したことをもって男女共同参画推進に向けた第一歩を踏み出し、2007年に男女共同参画推進本部を設置し、翌2008年には、その後5年間に日弁連が取り組むべき具体的施策等を掲げた「日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」(以下「第一次基本計画」という)を策定した。
その後、5年経過ごとに第二次基本計画、第三次基本計画が策定され、現在、第四次基本計画の策定に向けて検討が行われている状況である。性別による差別的取扱い等の苦情相談窓口、育児期間中の会費免除制度、女性副会長クオータ制などは、第一次基本計画策定時にはなかったものであり、日弁連の男女共同参画は着実に歩を進めている。
さらに、第三次基本計画では、具体的施策の一つとして「弁護士会・弁護士連合会等に対し、その自主性を尊重しながらも、各地の実情に応じた『男女共同参画推進本部』機能を有する組織の速やかな創設を要請」するとしているところ、2022年3月15日時点の資料によれば、8つの弁護士会がすでに男女共同参画推進本部を設置している。また、推進本部を設置していない場合であっても、複数の弁護士会・弁護士連合会が、男女共同参画推進基本計画を策定したり、男女共同参画を推進する宣言を決議したり、申し合わせによって常議員等の女性割合の下限を取り決めたりといった具体的な取り組みを進めている。
(2)当会でも、2010年にセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する会規及び指針を定め、2015年には、育児期間中の会費免除の手続に関する会規を制定した。
また、女性会員の座談会を実施して意見交換を行ったり、主に性の平等と多様性に関する委員会が中心となって、ハラスメントに関するアンケートや会員向けのハラスメント研修を実施するなどして、会内の啓発活動や制度改善に向けた取り組みを行ってきた。具体的な会務活動においても、会議や委員会の開始時刻を早めたり、2010年以降は定期総会の際に託児室を設けるなどして、育児期間中の会員が会務に参加しやすくなるような措置を講じてきた。
(3)しかしながら、日弁連の第三次基本計画(2018年1月19日)でも指摘されているように、今後の弁護士業界における男女共同参画の実現については、女性弁護士の増加ペースの鈍化もあり、未だ、楽観的な見通しを持つことはできない。
 弁護士に占める女性割合は、2011年で16.8%であったものが、2021年では19.3%となっており、10年間で2.5%増加しただけである。当会について見れば、会員に占める女性割合は、2011年で13.3%、2021年で15.4%であり、過去10年間でわずか2.1%増加したにとどまっている。同じ期間の、裁判官と検察官の女性割合がいずれも6%以上増加していることと比べれば、法曹界において、女性弁護士の増加ペースが大きく出遅れていることは明白である。特に、最近の裁判官・検察官の女性割合増加に向けた動きは顕著であり、直近の第75期について見ると、裁判官任官者数75名のうち28名が女性で、その割合は37%、検察官に至っては任官者数71名のうち35名が女性で、その割合はほぼ50%となっている。
実際、司法試験合格者に占める女性の割合は、未だ30%に満たないほどに少ないが、その中でも、女性合格者は男性合格者に比べて、裁判官・検察官の道に進む者の比率が高い傾向にある。
世界経済フォーラム(WEF)が公表した日本のジェンダーギャップ指数の低さは、国会議員や閣僚、管理職などの指導的地位にある女性割合が極めて低い我が国の現状を問題視するものであるが、その改善を求める弁護士会自身、所属会員の8~9割を男性弁護士が占めている状況が続くのであれば、男女共同参画社会の実現に向けた対外的な発信も、ほとんど説得力のないものとなってしまう。
(4)組織論的には、マイノリティの割合が3割を超えたときに、集団の中でその存在を無視できないグループとなり、組織全体の文化に変化がもたらされると言われている(クリティカル・マス理論)。その観点からすれば、我が国の第二次男女共同参画推進基本計画で定められている女性割合の数値目標と同様に、弁護士会の男女共同参画においても、会の政策・方針決定過程に参画する女性割合が30%を超えることが望ましいと言えるが、そもそも組織全体の女性割合、女性の絶対数が低い状態では、その実現は困難である。特に女性の場合、妊娠・出産といった事情によって相当期間にわたり実働が制限される会員が一定数存在することを考えれば、なおさらである。   
このような状況を変えるには、弁護士会の女性割合を増加させることが不可欠であり、職業として弁護士を選択する女性が増えるよう、弁護士の社会を女性にとってより魅力あるものとしていく必要がある。

3 今後の課題及び目標
(1)女性弁護士割合の拡大に向けた取り組み
 前述のとおり、弁護士全体に占める女性会員割合の拡大は喫緊の課題である。一単位会として、女性弁護士の増加に直接的に結びつくような活動を行うことは難しいが、教育現場における職業講話などの機会に積極的に女性弁護士を派遣し、女性が弁護士として働く魅力を発信してロールモデルを示したり、女子中高生向けのシンポジウムを企画するなどして、女性に対する進路選択支援を積極的に行ってゆくことが望まれる。
 また、司法試験合格者が進路として弁護士を選択しやすくなるような取り組みや、出産や育児等の事情で女性弁護士が離職するのを防ぐとともに、離職者が再登録して業務に復帰しやすくなるような支援を検討することも考えられる。
(2)政策・方針決定過程への女性会員の参画を拡充する取り組み
 女性会員の割合が15%前後という当会の現状では、執行部や、当会の意思決定機関である常議員会における女性割合の数値目標の設定などは、女性会員の負担にも配慮しながら、導入の可否やそのタイミングを慎重に検討する必要があると思われる。
他方で、数値目標の設定など以外でも、役員や常議員の負担軽減ないし業務の合理化、会務等の開催時間の配慮、IT技術の活用による会務の合理化等の施策を行うことで、すべての弁護士が、政策・方針決定過程へ平等に参画しやすい環境を整備することは可能であり、現実的に、女性弁護士の参画の障壁となっている具体的事情を調査・分析しながら、可能な範囲でその除去に努めていく取り組みが必要である。
(3)弁護士業務や会務と家庭生活の両立支援の取り組み
 我が国では、今もなお性別による固定的な役割分担意識が根強く、女性が家事や育児、介護等の多くを担わなければならない状況にある。このことは、反面で、男性もまた柔軟な生き方(働き方)を選択し辛い社会であることを意味しており、男性が積極的に家事や育児を担おうとしても、主たる稼ぎ手として期待される立場のプレッシャーから、活躍している同僚や同業者に後れを取ることに対して大きな不安を抱いたり、職場の中で理解や協力を得られないために断念せざるを得ないという現状もある。
 男女問わず、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を保つことは、会員の精神的・経済的安定に資するものであるが、業務や会務のありようは個人の努力や工夫のみで変えられるものではないため、当会全体で取り組むべき課題である。
 よって、すべての会員が業務や会務と家庭生活を健康的に両立できるよう、育児期間中の会費免除等の既存の支援制度について継続的に検討・改善を重ね、家事等を担う会員への支援策を講じてゆく必要がある。
(4)性別による差別的取り扱いやセクシュアル・ハラスメントの防止
 性別による差別的取り扱いやセクシュアル・ハラスメントは、重大な人権侵害行為である。
当会は、2020年に「セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する会規」及び「セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する指針」を定めた。しかし、これらの規則に基づく相談制度等は、十分に周知・利用されているとは言い難く、当会として、会員や事務職員のセクシュアル・ハラスメント被害の有無や実態を適切に把握できているか否かは不明である。
 今後は、既存の制度の周知を徹底し、利用の障壁となっている事情がないか調査し改善を図るとともに、継続的に研修を行うなどして、セクシュアル・ハラスメント等の防止、根絶に向けた活動に取り組んでゆく必要がある。
(5)会員間の意識向上とジェンダー・バイアスの除去
 司法界において、ジェンダーに関する固定的な観念や偏見に根差した様々な問題が取り上げられ議論されている昨今、弁護士一人一人が男女共同参画の意義を理解し、普段からジェンダーの視点を持つことは、会内の男女共同参画推進に必須であるだけでなく、日常業務の中で依頼者等に適切な助言を行い、性被害等において二次被害を防止するというような観点からも極めて重要である。
 ジェンダー・バイアスは、当人にとって無意識の偏見(いわゆるアンコンシャス・バイアス)であることも多く、何気ない言動に表れて周囲に影響を与える一方で、本人が自覚して修正することが難しい。そのため、男女問わず一人一人が謙虚に内省し、ジェンダー・バイアスの問題について認識を深める努力を怠るべきではなく、会としても、継続的に効果的な研修を企画・実施するなどして、会員に対する啓発に取り組んでゆく必要がある。
(6)対外的な発信
 当会は、2015年4月に「夫婦同姓強制及び再婚禁止期間等の民法の差別的規定の早期改正を求める会長声明」、2018年9月に「医学部医学科入試における女性差別の徹底解明と再発防止を求める会長声明」、2021年2月には「東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長の女性蔑視発言に抗議する会長声明」をそれぞれ発出しており、2022年2月には、定期総会において「民法750条を改正し選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」を採択した。
男女共同参画社会を実現するためには、弁護士会は、会内だけではなく、社会に向けた対外的な発信や啓発活動に積極的に取り組んでゆくことが重要である。
 弁護士業務は、依頼者となる企業や市民と協議を重ねたり、相手方という立場で応酬を交わす場面が多いため、社会の中で、企業や市民の側に根強い性差別意識やジェンダー・バイアスがあると、業務の過程で女性弁護士が性差別的言動を受けたり、男性弁護士に比べて困難な交渉を強いられたり、女性であるがゆえに受任する業務の分野や範囲が制限されてしまうことがあり得る。女性弁護士が働きやすい環境を作り、男女問わず、一人一人の弁護士がその能力と個性を発揮して自分らしく活躍できる社会を作るためにも、当会として、社会全体の性差別や偏見を解消する取り組みを積極的に行い、我が国における男女共同参画社会の実現を図る必要がある。

4 まとめ
 以上のとおり、当会は、女性会員、ひいては会員一人一人が、それぞれ多様な個性と能力を活かし、自分らしく活躍しながら無理なく会の運営に参画できるような弁護士会を作り、もって、我が国の男女共同参画社会の実現を推し進めてゆくため、本宣言案を提案するものである。

以上

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