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政府方針である「日本学術会議の在り方についての方針」及び「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」に基づく日本学術会議法の改正法案の提出に反対する会長声明

2023年03月09日

政府方針である「日本学術会議の在り方についての方針」及び「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」に基づく日本学術会議法の改正法案の提出に反対する会長声明

1.内閣府は、2022年12月6日に日本学術会議の組織形態の見直しに関する「日本学術会議の在り方についての方針」(以下、「本方針」という。)を示し、内閣府総合政策推進室は、同月21日に「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」(以下、「本検討案」という。)を示した。内閣は、本方針及び本検討案に基づき日本学術会議法改正法案を提出しようとしている。
しかし、本方針及び本検討案は、以下に指摘するとおり、憲法23条により保障される日本学術会議の自律性・独立性を侵害するおそれがあり、問題がある。
2.本方針及び本検討案は、日本学術会議の会員の選考及び任命に関しては、第三者委員会が関与する仕組みの導入を提起し、日本学術会議の組織編制に関しては、「中長期的・俯瞰的分野横断的な課題に適時適切に対応できるような組織編制への取組の促進を図る」ことや、「新たな分野・融合分野への対応態勢の強化を進める」ことを提起している。また、日本学術会議の在り方に関しては、政府等と「問題意識や時間軸等を共有」して協働することを求め、「日本学術会議においても、新たな組織に生まれかわる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要である」と迫っている。
 しかし、日本学術会議に期待される役割は、本指針及び本検討案が求めるような「協働」とは異なり、政府の利害から学術的に独立して、自主的に政府への科学的助言を行うことにある。その自律性・独立性を保障することこそ、科学が人類社会の福祉に貢献するために必要である。にもかかわらず、本方針及び本検討案は、必要性や立法事実を示さぬまま、第三者委員会が会員選考に関与することを求めたり、組織編制への取組を促したりしており、それらの内容もいまだ明らかでない。それらの内容と運用次第では、会員選考や組織の在り方が政府の意思によって左右されることになり、日本学術会議の自律性・独立性を損なうことが危惧される。
3.そもそも、日本国憲法が思想良心の自由(19条)や表現の自由(21条)とは別に23条で学問の自由を保障した条項を設けたのは、学問研究の成果が社会の既成の価値観や時の政府の政策と対立することがあり、そのために社会や政治権力から攻撃されがちであることに鑑み、個人の学問の自由を保障することに加え、その存立基盤である学術団体の自律性・独立性をも保障するためである。日本学術会議は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させること」を目的とし(日本学術会議法2条)、幅広い科学的知見を結集して、科学の向上発達を図ることを基本的任務とする専門的な研究組織である。その目的を達成するため、日本学術会議の自律性・独立性は憲法23条により、制度として保障されてきたものである(同法3条、7条2項等)。
4.今般本方針及び本検討案が提起した会員の選考・任命方法、組織編制等を含めた日本学術会議の在り方に基づいて法改正がなされた場合、政府による委員選考・任命過程への介入を招きかねず、政府の判断による組織編制により活動が妨げられるおそれもある。日本学術会議の自律性・独立性を侵害する危険性や憲法23条違反の可能性を指摘せざるを得ない。
5.上記危険性は、これまでの経緯からも看過することはできない。即ち、2020年10月、当時の菅義偉内閣総理大臣(以下「菅前首相」という)は、日本学術会議が推薦した新会員候補者105名のうち6名の任命を突然拒否した(以下、「本件任命拒否」という。)。これに対しては人事への政治介入であるとの多くの批判が起こり、本件任命拒否が学問の自由(憲法23条)を侵害すること等から、当会も菅前首相に対して、本件任命拒否を撤回し、上記6名の候補者を会員に任命するよう求めた 。しかし、菅前首相はこれらに応じず、本件任命拒否の理由について合理的説明をしない。そして今般、政府は、日本学術会議が公表している本方針及び本検討案に対する懸念 を払しょくすることもなく 、本方針及び本件検討案に基づき改正法案を提出しようとしている。
6.よって当会は、本方針及び本検討案の記載内容並びに上記経緯も踏まえ、学問の自由(憲法23条)によって保障される日本学術会議の自律性・独立性を尊重する立場から、本方針及び本検討案に基づく改正法案の提出に反対する。

2023年(令和5年)3月9日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  伊 東 満 彦

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