「袴田事件」の再審開始を受けて一日も早く再審公判が開かれること、「日野町事件」について速やかな特別抗告棄却決定がなされることを求めるとともに、再審法の速やかな改正を求める会長声明
2023年3月13日、東京高等裁判所(大善文男裁判長)は、いわゆる袴田事件(1980年12月に強盗殺人罪・放火罪で死刑確定)の第2次再審請求について、2014年3月27日に静岡地方裁判所がなした再審開始の決定を維持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をした。検察官はこの決定に対する特別抗告を断念し、再審公判が開かれることが確定した。しかし、報道によれば、検察官は、本年4月10日に開かれた三者協議の場において、再審公判における立証方針を決定するために3か月を要するとして明確な方針を表明していないとのことであり、再審公判期日は指定されていない。
また、2023年2月27日、大阪高等裁判所(石川恭司裁判長)は、いわゆる日野町事件(2000年10月に強盗殺人罪で無期懲役確定)の第2次再審請求について、大津地方裁判所の再審開始決定(2018年7月11日)を維持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をした。しかし、検察官はこの決定に対して特別抗告をしたため、再審公判が開かれるか否かは未確定である。
再審開始を維持した上記いずれの高裁決定も、再審請求手続の中で提出された新証拠と、確定審で取り調べられた旧証拠とを総合評価し、「疑わしいときは被告人の利益に」の原則を再審手続にも適用した白鳥決定(最高裁1975年5月20日決定)及び財田川決定(最高裁1976年10月12日決定)に沿う適切な判断手法をとったものとして評価できる。
しかし、両事件の審理を巡って、現行刑事訴訟法における再審に関する定め(再審法)の不備及びその弊害も改めて浮き彫りとなった。
まず、いずれの事件においても、再審請求審(抗告審も含む)の審理に長期間を要している点である。
袴田事件の被告人とされた袴田巌氏は、2008年4月に申し立てた第2次再審請求に対し、2014年3月27日静岡地方裁判所による再審開始決定がなされるまで約6年、これに対する検察官の即時抗告棄却決定までにさらに9年もの歳月を要した。第1次再審請求(1981年4月)の審理期間も含めれば、えん罪を主張し再審による救済を求めながらも42年以上にわたり死刑囚として生きることを強いられているのであり、その苦痛は計り知れない。
日野町事件の被告人とされた故阪原弘氏は、2001年11月に申し立てた第1次再審請求の棄却決定に対する即時抗告審係属中であった2011年3月に死去し、再審開始決定を目の当たりにすることすらできなかった。その上、2012年3月に遺族が申立てた第2次再審請求に対する再審開始決定まで6年4ヶ月、今般の即時抗告棄却決定までにはさらに4年7ヶ月もの期間が経過している。
かかる長期化の重大な原因として、刑事訴訟法が再審開始決定に対する検察官による即時抗告及び特別抗告を認めていること(450条、433条)が挙げられる。そのため、長い年月をかけて再審開始決定を得たとしても、これに対する検察官の不服申し立てによりさらに審理が長期化することが繰り返されてきた。
えん罪被害者の救済という再審制度の目的からすれば、再審開始決定が出た以上は速やかに再審公判を開始すべきであり、検察官の不服申立権を認める必要はない。
そして、再審請求手続における証拠開示制度の不備も明らかである。現行刑事訴訟法には再審請求手続における証拠開示の規定がなく、裁判所の広汎な裁量に委ねられている。
両事件とも、再審請求手続の中で裁判所の勧告等により検察官の手持ち証拠が多数開示され、その中には再審開始の判断を導く重要な証拠が含まれていた。このことは証拠開示の重要性を示しているが、証拠の開示が裁判所の裁量に委ねられている以上、他の再審請求事件において、再審開始を導く重要な手持ち証拠があったとしても、それが再審請求人に開示される保証はない。また、証拠が開示される場合でも、開示までに相当な時間を要することが多い。
これらは証拠開示制度の不備により生ずる問題であり、えん罪被害者の速やかな救済を著しく困難なものとしている。
以上のほかにも、現行刑事訴訟法には再審請求審の審理手続に関する規定がなく、進行協議期日を開くのか、事実の取調べを行うのか、手続を公開とするのかも含め、全て各裁判所の裁量に委ねられており、このことも審理の長期化の一因となっていると同時に、適正手続の観点からも問題がある。
よって、当会は、袴田事件及び日野町事件の各高裁決定を踏まえて、裁判所並びに政府及び国会に対して、以下のとおり求める。
1 静岡地方裁判所に対し、袴田事件の再審開始に関する決定を受けて一日も早く再審公判を開くこと。
2 最高裁判所に対し、日野町事件について速やかな特別抗告棄却決定をなすこと。
3 政府及び国会に対し、再審請求事件における手続規定の整備、証拠開示の法制化及び検察官の抗告禁止をはじめとする再審法の適切かつ速やかな改正をすること。
2023年(令和5年)4月27日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 野 呂 圭