宮城県立精神医療センターの富谷市への移転方針に関し、
その是非を含めて患者等の意見を尊重した決定を求める会長声明
宮城県は、仙台赤十字病院(仙台市太白区)と県立がんセンター(名取市)を統合して名取市に新病院を建設し、県立精神医療センター(名取市)と東北労災病院(仙台市青葉区)を合築して富谷市に建設する方針を示している。
宮城県は、当初、東北労災病院、仙台赤十字病院(仙台市太白区)及び県立がんセンター(名取市)の3病院の連携・統合・移転の方針を示していたが、2021年9月9日に公表した「政策医療の課題解決に向けた県立病院等の今後の方向性について」において、県立精神医療センターを加えた4病院の再編・統合・移転の方針に変更した。
宮城県は、2021年9月に県立精神医療センターの富谷市への移転方針を示す以前も、示した以降も、同センターを利用する患者やその家族、同センター周辺の地域精神医療と福祉に携わっている方々及び障害者を代表する団体等との協議を行っていない。これらの患者らからは県の方針に反対し、あるいは懸念を示す声が数多く挙がっている。2023年2月8日に開催された宮城県精神保健福祉審議会においても、県の方針への反対や懸念を示す意見が大勢を占めた。
障害者の権利に関する条約(日本は2014年1月20日に批准)第4条第3項は、「締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施において、並びに障害者に関する問題についての他の意思決定過程において、障害者(障害のある児童を含む。以下この3において同じ。)を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させる。」と定めている。これは、「Nothing About Us Without Us(私たちのことを私たち抜きに決めないで)」という同条約の基盤となる考えを表している。
また、障害者基本法第10条第2項も、「国及び地方公共団体は、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を講ずるに当たっては、障害者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めなければならない。」として条約と同趣旨の内容を定めている。
しかるに、宮城県は、県立精神医療センターの富谷市への移転方針について、現在のところ、障害者を代表する団体を通じて障害者と緊密に協議することも、障害者を関与させることもしていない。
宮城県の村井嘉浩知事は、定例記者会見において、「いろいろな団体であったり、あるいは患者さんのほうにこちらから足を運んでお話を聞くような機会を設けていくということをしていきたい」(2023年3月20日)、「できれば6月議会の前に一度二度やれればやりたい」(同年4月10日)と述べる一方で、「1つの病院を動かすためだけに住民意見をということも重要ですけれども、まずは全体をどうすればいいのかという全体を見た上で判断をしていかなければならない。」(同年3月20日)と述べており、県立精神医療センターの富谷市への移転方針自体を変更する意思のないことを示している。
このような宮城県の姿勢は、県立精神医療センターの移転という重大な政策決定過程において、障害者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めているとはいえず、障害者の権利に関する条約及び障害者基本法に反するものと言わざるを得ない。
また、障害者の権利に関する条約第19条は、「締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適切な措置をとる。」と定めている。しかるに、安易に同センターの富谷市移転を行えば、患者らが、長年にわたり構築されてきた周辺の地域の作業所やグループホーム等の生活基盤から断ち切られる事態に陥りかねず、そうなれば障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を奪うことになり、同条約に反するものと言わざるを得ない。
よって、当会は、宮城県に対し、宮城県が提示している県立精神医療センターの富谷市への移転方針に関する意思決定過程において、移転方針の是非を含めて、同センターを利用する患者や家族、同センター周辺の地域精神医療と福祉に携わっている方々及び障害者を代表する団体等の意見を十分に聴取し、その意見を尊重した施策を立案するよう求める。
2023年(令和5年)4月27日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 野 呂 圭