日本国憲法は1947年5月3日に施行され、今年で76年目となります。
日本国憲法は、国家の暴走による人権蹂躙、そしてアジア・太平洋諸国に2000万人以上(日本人約310万人)もの犠牲者をもたらした第二次世界大戦の惨禍への深い反省を踏まえて制定されました。そのため、日本国憲法では、個人の尊重を最も大切な理念とし、国家の運営を担う人々(内閣総理大臣をはじめとする大臣や国会議員、裁判官等)に私たちの基本的人権を擁護する義務を課し、権力の濫用を防止することによって私たちの権利・自由を守ることにしました(立憲主義)。人権擁護や立憲主義の理念は、人権侵害を受けやすい少数者にとっては特に重要なものとなります。
また、日本国憲法は、戦争は最大の人権侵害であるとの見地から、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを表明し、国際平和を誠実に希求して、戦争の放棄、武力による威嚇及び武力の行使を永久に放棄し、戦力不保持を宣言しました(前文、9条)。そして、特筆すべきは、日本国憲法が、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」(前文)と宣言し、平和と人権保障が不可分の関係にあることを確認したことです。
主権者である私たちは、自由や権利が保障された平和な社会を持続していくために、「不断の努力」(12条)をしていく必要があります。
グローバルな時代となっている今こそ、日本国憲法が前文において、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」し、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」(前文)と国際的な平和主義や協調主義を述べているように、それぞれが相手の立場を尊重しながら、世界の人々との交流や政府間の交流による信頼関係を醸成する努力が大切であると考えます。
憲法施行後76年が経過した我が国の状況を見ると、集団的自衛権行使の容認や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有などといった憲法9条に反する立法や施策が進められていますが、中止すべきです。
また、12年前の福島第一原子力発電所事故で生じた放射能拡散のために、住み慣れた地域に居続けることによる生命・健康被害の恐怖と欠乏から免れることができず、今も避難生活を余儀なくされている方々が多数いることを忘れてはなりません。
さらに、旧憲法時代の人権蹂躙の反省を踏まえて、日本国憲法では31条以下で適正手続保障や刑事手続上の人権保障を定めましたが、いまだに「人質司法」と言われる被疑者・被告人に対する長期勾留、えん罪被害の早期回復を阻む証拠開示制度の不備や再審開始決定に対する検察官抗告の許容等の問題が解決されていません。
加えて、日本国憲法施行後の1948年に制定された旧優生保護法に基づく優生手術や差別・偏見により多くの被害者の尊厳が奪われるという人権侵害に対する被害回復措置も不十分なままであり、障害者に対する差別や偏見も解消されていません。
ほかにも、各個人の生き方の多様性が進む中、性暴力や性的少数者に対する差別などの深刻な問題や、同性婚、選択的夫婦別姓の法制度の不備といった問題が顕在化しているほか、デジタル社会の進展に伴い、個人の膨大な行動履歴が収集・分析・利用されることによるプライバシーの危機も避けて通れない問題となっています。
このように私たちの社会は困難な課題が山積しています。しかし、解決への希望の糸口は日本国憲法が示しています。「個人の尊重」という憲法13条の理念です。それぞれの個人の違いを認めて、互いに個人として尊重し合う理念を共有し、個人の尊厳を中核にした法の支配が社会に浸透すれば、国家権力や多数者による抑圧を防止し、一人ひとりが自由で自分らしく平穏な日常生活を送ることのできる社会に近づくでしょう。
私たちは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、各種の法的支援の提供や意見表明等を通じて、日本国憲法の理念を実現するよう尽力していきます。
2023年(令和5年)5月3日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 野 呂 圭