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「災害ケースマネジメント実施の手引き」を踏まえた法令等改正に係る意見書

2023年06月30日

「災害ケースマネジメント実施の手引き」を踏まえた法令等改正に係る意見書

2023年(令和5年)6月29日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  野 呂  圭

第1 意見の趣旨
1 「災害ケースマネジメント実施の手引き」(以下、「手引書」という。)が作成されたことは高く評価される。
 2 同手引書につき、以下のとおり意見を提示する。
 ⑴ 国に対し、災害ケースマネジメントに係る条項を追加すべく災害対策基本法の改正を求め、また、宮城県及び宮城県内の市町村に対し、災害ケースマネジメントを明記すべく、地域防災計画の改訂と、災害ケースマネジメントに係る職員の研修及び中間支援団体の育成を求める。
 ⑵ 国、宮城県及び宮城県内の市町村に対し、災害ケースマネジメントに係る財源の整備・確保を求める。
 ⑶ 国(内閣府)に対し、在宅被災者を対象とする災害ケースマネジメントの開始時期をボランティアセンター開設時とするよう、手引書の改訂を求める。
 ⑷ 国(内閣府)に対し、弁護士等専門家が、災害ケースマネジメントケース会議及び災害ケースマネジメント情報連携会議の設置後、速やかに参加者とされるよう、手引書の改訂を求める。
 ⑸ 国(内閣府)に対し、災害ケースマネジメントの受託者である弁護士会等中間支援団体に速やかに被災者情報が提供されるよう、手引書の改訂を求める。
 ⑹ 国に対し、災害ケースマネジメント対象被災者向けの支援施策の充実を求める。
 ⑺ 国(内閣府)に対し、被災自治体の災害ケースマネジメントを担当する職員につき、コーディネーターの役割に専念すべく、その職務の負担軽減を図られるよう、手引書の改訂を求める。
 ⑻ 国に対し、災害ケースマネジメントの目的が、被災者の人権保障にあることを明記すべく、災害対策基本法第1条(目的)、同法第2条の2(基本理念)等関係法令の改正と、手引書の改訂を求める。

第2 意見の理由
 1 はじめに - 意見の趣旨第1項について 
 ⑴ 手引書公表に至る経緯
 内閣府(防災担当)は2023年3月に「災害ケースマネジメント実施の手引き」(以下、「手引書」という。)を公表した。
 内閣府(防災担当)は、2022年3月に「災害ケースマネジメント取り組み事例集」を公にし、これを踏まえて、手引書の作成に取り掛かった。
当会としても、東日本大震災以後、災害ケースマネジメントの手法で被災者支援を重ね、同手法の被災者支援がわが国の被災地で励行されることを勧めてきた立場からして、同手引書の公表を待ち望んでいたところである。
 とりまとめに当たった関係各位の労を多とするものである。
 ⑵ 手引書の特徴について - 手引書の評価
 手引書の特徴は数々あるが、何よりも、国として災害ケースマネジメントの目的、定義、有益性・必要性を明記したところに、その特徴を求められる(2頁、5頁、8頁等)。
 また、手引書は、発災後の時系列に従って災害ケースマネジメントの実施の流れをとりまとめ(9頁)、災害ケースマネジメントを地域防災計画(災害対策基本法40条、42条)に取り入れることを求め(28頁)、さらには、士業団体等との連携体制(委託方式)を採用し(21頁)、アウトリーチ型の手法を明記しているところに(34頁等)、その特徴がある。
 さらに、手引書は、被災者情報の利用に際して、被災者からの同意の取り付けを明記している(141頁)ところにもその特徴がある。
 他方、手引書(9頁等)は、発災直後の災害ケースマネジメントについて、避難所避難者や在宅避難者を対象として、応急的な対応が必要な被災者の発見及び状況の把握、生活再建に向けた支援情報の適切な周知(罹災証明書の発行等)を目的とするアウトリーチ等を採用する等、災害対策基本法を踏まえた制度設計となっている点にその特徴が見いだせる。
 加えて、仙台市が実施した生活再建と日常生活の自律性を軸とするいわゆる4分類方式等、各地自治体の取組事例が広く紹介されていることにその特徴が見いだせる。
 以上指摘した各特徴は、いずれも、当会が東日本大震災の被災地(石巻市等)や令和元年台風19号の被災地(丸森町等)での在宅被災者戸別訪問活動を介して発した会長声明・提言書(特に、2018年2月8日付け提言書)の方向と共通するものであり、その点で、同手引書は高く評価されるところである。
 ⑶ 手引書公表後の経緯 - 防災基本計画の修正等
 中央防災会議は、2023年5月30日、防災基本計画を修正し、災害ケースマネジメントの項目を加えるに至った。
 同修正を踏まえ、また、当会のこれまでの活動の経験・知見、会長声明・提言書を踏まえるならば、同手引書につき、以下のとおり、さらなる創意・工夫を求めたい。

 2 意見の趣旨第2項について
 ⑴ 地域防災計画の改定等 - 意見の趣旨第2項⑴について
 第1に、災害ケースマネジメントについては、その手法を採用する自治体とそうでない自治体があることは周知の事実である(地域間格差)。
 手引書が指摘のとおり、被災者の自立・生活再建(2頁、86頁等)に当たっては、災害ケースマネジメントは有益なものであるからこそ、地域 間格差はあってはならないものである。
 同格差を回避するためには、被災自治体の積極的な対応が必要とされるところ、発災後速やかに被災自治体が災害ケースマネジメントを進めるべく、平時から地域防災計画に基づいて職員(特に被災経験のない自治体の職員)の研修を進める必要がある。手引書にはこの点の記述が希薄なところを指摘したい。
 防災基本計画に災害ケースマネジメントの項目が加わったことを踏まえるならば、今後、災害対策基本法及び地域防災計画に「災害ケースマネジメント」を明記し、これに基づく平時の訓練・準備が必要とされるところである。
 防災基本計画の修正に伴い、現在、宮城県による県内の市町村の職員向けの研修会等が進められていると仄聞している。災害ケースマネジメントの内容を理解するため、東日本大震災や令和元年台風19号等の被災地での経験・知見を活用すべく、当弁護士会等の士業を講師等として、職員向け研修を進めるのが適当である。
 ⑵ 財源問題 - 意見の趣旨第2項⑵について
 第2に、第1とも関連するが、被災自治体が発災後速やかに災害ケースマネジメントを進めるためには、平時からその財源の措置を整えておく必要がある(財源問題)。
 財源問題は、当会はじめ民間団体が災害ケースマネジメントを進めるにあたって直面した大きな課題となった。すなわち、災害ケースマネジメントが意識的に展開されたのは東日本大震災以降であり、従来の災害関連の制度・予算は、災害ケースマネジメントを前提としていなかった。そのために、発災後に実際に活動をするにあたり、自治体はもちろん、支援団体においても、必要な費用(旅費・日当・事務管理費)の捻出方法から検討しなければならない事態となっていた。
 この財源問題は平時から解決しなければならないものであるが、手引書には正面からこの課題の対処について取りまとめられていない。地域防災計画に基づく各種措置等と同次元で予算措置を講じられるべきであり、さらには、首都直下地震や南海トラフ地震を想定した場合、いわゆる激甚法の適用対象事業とする必要を指摘する必要がある。
 他方、手引書は、弁護士による支援活動について、総合法律支援法が紹介されているが、同法に基づく各種制度は、被災地での支援活動の手法としては機動性に欠けるところがあることに留意する必要がある。むしろ、弁護士会が災害ケースマネジメントに当たるに際しては、自治体が予算措置を講じるのがふさわしいと思料されるところである 。
 ⑶ 在宅被災者の支援時期の問題 - 意見の趣旨第2項⑶について
 第3に、在宅被災者の支援開始時期の問題である。
 現行の災害救助法令によると、一旦応急修理制度・公費解体制度を利用すると建設型仮設住宅(いわゆる応急仮設住宅)に入居できず、また、被災者生活再建支援法によると、修繕や新築のための加算支援金を利用した場合、費用不足等の理由で災害公営住宅の入居を希望しても、入居できない(欠格事由とされる)法体系となっている。
 この点、令和元年台風19号の被災地等では、避難所の閉鎖が検討される前の段階で、すでに、罹災判定、応急修理制度、公費解体の申請期限が締め切られる事態がまま見受けられる(手引書135頁)。
 これは、現行法が、「応急仮設住宅→災害公営住宅型」の制度と、「在宅被災者→応急修理制度→居宅の修繕・建築型」の制度の相互乗入がないことを意識しないで自治体の対応が進められたことによるが、この点についての問題意識がないと、特に在宅被災者の生活再建・住宅再建は支障を生ずることとなる。手引書にはこの旨の記載がないため、この点の改訂がぜひとも望まれる。
 他方、在宅被災者が再建に向けて、万が一にも誤った選択を回避するためには、避難所閉鎖前、特に、ボランティアセンター開設時点でNPО等に加え弁護士や建築士といった専門家団体が被災地に入って災害ケースマネジメントに当たる必要を指摘できる。
 そのためには、罹災申請受付→罹災判定→判定結果の通知に前後して、全壊・大規模損壊・半壊等の罹災判定を受けた被災者に向けてアウトリーチをして被災状況を確認し、災害ケースマネジメント情報連携会議に諮り、ケース会議に諮る等して、被災者の生活再建・住宅再建に向けての支援活動をする必要がある。
 この点、手引書では、調査票のポスティング→「問題ない」旨と回答した世帯で特段の事情がない場合には除外、との手法が記載されているが(60頁)、この手法はアウトリーチの意義を減殺するものであり、この部分は改訂される必要がある。なお、東日本大震災の被災地である石巻市では、調査結果の利用の方法はともかく、発災直後から相当数にわたる被災世帯のアウトリーチの手法による調査自体はなされていたことを指摘したい。
 ⑷ 弁護士等専門家団体の役割について - 意見の趣旨第2項⑷について
 第4に、第3と関連するが、弁護士等専門家団体の役割についてである。
 手引書には、発災直後から復興完了までの全期間にわたって、弁護士等の士業団体は災害ケースマネジメントケース会議の参加者として明記されず、「支援へのつなぎ等」として位置づけられていることである(9頁)。
 弁護士等専門家団体の支援活動が、同会議のいう「アウトリーチ、アセスメントの結果等を踏まえ個々の課題に応じた支援方策を検討する」ことを内包するものであり、単に「支援先へのつなぎ等」ではないことからすると、災害ケースマネジメント情報連携会議と同様に、災害ケースマネジメント開始当初から災害ケースマネジメントケース会議の参加者とされるのが相当である。
 ⑸ 被災者情報の取扱いについて - 意見の趣旨第2項⑸について
 第5に、被災者情報の取扱いについてである。
 災害ケースマネジメントを進めるにあたっては、被災者の所在地や被災内容等、いわゆる被災者の「個人情報」の利用は不可欠であるが、弁護士会等が災害ケースマネジメントに必要な個人情報の開示を自治体に求めた場合、いわゆる「個人情報だから」との理由で開示を拒否される例が頻発している。
 手引書(140頁以下)を踏まえるならば、現行法令上(特に情報の入手時に被災者の同意をとりさえすれば)、弁護士会等は必要な情報の開示を受けて災害ケースマネジメントを滞りなく進めることができるように読めるが、実際は拒否事例が頻発していることを踏まえ、特に自治体職員向けには、「個人情報」を盾に被災者情報の開示を拒否することのないように、注記する必要があろう。
 被災地の自治体は、例えば、被災判定申込時に、申込用紙に「被災者に対する支援活動に利用します」と記載し、チェック欄を設けて、同意を受け、罹災判定区分が判明後、速やかに弁護士会等士業団体に情報提供をし、災害ケースマネジメントを開始できるように、その旨を手引書に記載する等、体制を整える必要がある。
 ⑹ 被災者向けの支援の充実の必要について - 意見の趣旨第2項⑹について
 第6に、被災者向けの支援の充実の必要についてである。
 手引書に紹介されているとおり、仙台市は、応急仮設住宅の入居者を対象としていわゆる4分類方式を採用し、円滑適切に、公営住宅への入居等による住宅再建及び日常生活の自律性の実現に向けて、所定の計画を推進された。この手法は課題整理と計画の指針に当たっては有用であり、今後この手法は広く採用されるべきものである。
 しかし、特に在宅被災者の住宅再建についてみると、現行の支援制度上、被災者生活再建支援法上の加算支援金の不足等の事情により、4分類方式では解決できない課題(特に、高齢者が高い割合を占める在宅被災者向けの住宅再建制度自体が抱える課題〔応急修理制度の利用資格要件、災害救助法の政令指定要件、被災者生活再建支援金の増額問題等〕)が残ったままであることに留意する必要がある。
 ⑺ 被災自治体の負担軽減について - 意見の趣旨第2項⑺について
 手引書によると被災自治体は発災直後から災害ケースマネジメントをはじめとする災害対策の施策が終了するまでの間、多岐にわたる職務が課せられている(ちなみに、手引書だけでも300頁を超える分量があり、発災前はもちろん、発災直後に読みこなし、業務を進めるだけでも大変な労力を要する)。
 しかしながら、被災自治体の職員は平時から多忙な職務に追われているのに加え、一旦発災した場合には、これに加えて通常業務ではない災害対策業務に追われ、被災者の復興に向けての施策が滞る事態が想定されることになる。
 これを災害ケースマネジメントに限ってみると、自治体職員は出来るだけ速やかにコーディネートの役に徹し、被災者との面談の調整や被災状況等確認した事柄の整理、課題に対応した対策、被災者の生活状況の変遷の確認等は、災害の知見・経験を有する弁護士会等専門家団体に委ねるべく、被災自治体の職員の負担軽減を図るのが、適当である(なお、手引書の要約版の作成が望まれるところである)。同手引書にはその旨が明記されていないため、いたずらに自治体職員の負担感を増すきらいがあることを指摘したい。
 ⑻ 災害ケースマネジメントの目的について 意見の趣旨第2項⑻について
 最後に、災害ケースマネジメントの目的について検討する。
 当会が東日本大震災の被災地において、過酷な被災者の状況に接した災害ケースマネジメントの経験を踏まえると、被災者支援活動の目的は、何よりも、被災者の個人の尊厳の回復にあり(憲法13条)、身体、自由、財産という基本的人権の回復にあり(憲法13条、29条)、平等原則の保障(憲法14条)、生存権の保障の実現にある(憲法25条)ことが痛切に感じられるところである。
 この点、手引書では「自立・生活再建」(2頁)との文言が表記されているが、それにとどまらず、災害対策基本法第1条(目的)及び第2条の2(基本理念)の改正と、被災地において、「自助・共助・公助」の連携により(災害対策基本法2条の2第2号)、被災者の基本的人権が保障されることの表記がなされるべく、手引書の改訂が望まれるところである。

 以上のとおり、当会は、東日本大震災及び令和元年台風19号の被災地等での災害ケースマネジメントの知見・経験を踏まえ、意見の趣旨記載の各事項について意見を提示するものである。

以上

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