2023年度の司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
2023年11月8日、2023年度司法試験の最終合格発表が行われる。
司法試験の合格者数については、政府の法曹養成制度改革推進会議が、2015年6月30日に、司法試験の合格者数を年間「1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進める」との決定をしている。
ところで、司法試験の出願者数及び受験者数は、2022年度までの間、年々減少してきた。2017年度から2022年度までの司法試験の出願者数、受験者数、合格者数、及び合格率は次のとおりである。
出願者数 受験者数 合格者数 合格率
2017年度 6,716人 5,967人 1,543人 22.97%(25.86%)
2018年度 5,811人 5,238人 1,525人 26.24%(29.11%)
2019年度 4,930人 4,899人 1,502人 30.47%(30.66%)
2020年度 4,226人 3,703人 1,450人 34.31%(39.16%)
2021年度 3,754人 3,424人 1,421人 37.85%(41.50%)
2022年度 3,367人 3,082人 1,403人 41.66%(45.52%)
*合格率は対出願者数、( )内が対受験者数である。
一方で、本年度の出願者数は4,165人であり、約24%の増加が見られる。
しかし、この出願者数の増加は、本年度より、法科大学院在学中でも、一定の要件を満たせば受験が認められるようになった措置(以下「在学中受験資格」という。)に伴うものであり、そのことは十分に留意されなければならない。すなわち、上記の出願者数の中には、「在学中受験資格に基づいて受験する者」の人数である1,114人が含まれており、昨年度までと同様の受験資格である「法科大学院課程修了の資格に基づいて受験する者」(2,693人)と「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」(358人)の合計人数は3,051人であって、在学中受験資格者を除いた出願者数は、むしろ昨年度よりも316人減少していることとなる。そして、上記「在学中受験資格に基づいて受験する者」は、法科大学院における学修の途上の者であることには留意すべきである。
それにもかかわらず、「年間1,500人程度は輩出」されるべきであるとの方針に従うのであれば、司法試験制度に本来期待される選抜機能が大きく損なわれ、合格者の質を制度的に担保できない事態も想定される。これは、過去3年間と同程度の合格者数となる場合でも同様である。
司法は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とするものであり、その司法を担う法曹の質の維持・向上は,国民にとって重大な課題・要請であるから、合格者数の確保のみが優先されるようなことがあってはならない。法曹養成制度改革推進会議の上記決定も、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものではないことに留意する必要がある」とも指摘しており、法曹の質の確保が前提となっている。
司法試験は、「裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定する」ことを目的にしているのであるから(司法試験法1条)、司法試験委員会に求められているのは、安易に一定数の合格者を輩出することではなく、司法を担う法曹に必要な学識及びその応用能力を適正かつ厳正に判定することである。
よって、当会は、2023年度の司法試験の合格判定にあたって、1,500人程度とされる合格者数の確保のみが優先されるべきではなく、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な判定がなされることを求める。
2023年(令和5年)7月20日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 野 呂 圭